2013/01/21 00:00

20代後半にバンドを結成し、泥臭くも生々しい歌を、真っ直ぐに、本気で届けるスリー・ピース・バンド、忘れらんねえよ。自らを「クソバンド」と称し、2011年のデビュー以来、あちこちにブツかりながらも、ひたすらに真っ直ぐ走り続ける彼らの渾身のニュー・シングル『この高鳴りをなんと呼ぶ』が、1/30にリリースされる。OTOTOYは、いちバンドといちメディアという関係性を超えて、本気で彼らを応援していく。まずは、リリースに先駆けて、フロントマンの柴田隆浩への単独インタビューを行なった。彼らは、売れるべきだ。

INTERVIEW : 柴田隆浩(忘れらんねえよ)

忘れらんねえよが変わった。これまでの彼ら、グッド・メロディを奏でてはいたが、そこからはアラサー童貞男の汗と涙の感情が炸裂していて、負けることが勝ちであり価値であるのだと叫んでいた。だけどニュー・シングル「この高鳴りをなんと呼ぶ」は、グッド・メロディはスケール感が増し、シンプルに磨きぬかれた歌詞は広い世界を正面から見定め立ち向かっているのである。タイトル・チューンを筆頭に熱く伸びやかな本作は、三十路男の共感に留まらず多くの人がスッと口ずさめるであろう曲なのだが、同時に彼らの決意と覚悟に満ちた作品である。アルバム『忘れらんねえよ』から約一年。アイゴンこと會田茂一をプロデューサーに迎えた「この高鳴りをなんと呼ぶ」の、この鮮やかな変化について、柴田に訊く。

インタビュー & 文 : 遠藤妙子
photo by 石橋雅人

ようやく「覚えとけよ」って感情から解き放たれた

――今作、今までと変化しましたよね。タイトル・チューンの「この高鳴りをなんと呼ぶ」なんか凄く晴れやかで力強い曲で。

ジャケット写真

柴田隆浩(以下、柴田) : ありがとうございます。自分でも変わったと思います。

――それなのに、このジャケット(笑)。

柴田 : ねぇ(笑)。むしろ今までの俺らのイメージですよね。

――それが素晴らしいですよ。まずこのジャケットにしたのは?

柴田 : ずっと忘れらんねえよのデザインをやってくれている方の絵で。去年の5月3日ゴミの日に俺らの企画で「集え! ゴミ人間フェスティバル」というのをやって、その時のフライヤーに描いてくれた絵なんです。スゲェいいって思って、今回のジャケットを作る時に直感的にコレを使いたいと思ったんです。もうコレは忘れらんねえよのマスコット・キャラというかシンボル・キャラだなって。

――ちょっと安部公房チックな絵ですよね。

柴田 : そうそう。何かを感じさせる絵ですよね。なんか空っぽな感じもあって、それが味わい深くて。ただ曲タイトルとの距離感が凄いですよね。「この高鳴りをなんと呼ぶ」って曲なのに、この絵の人、全然高鳴ってないっていう(笑)。

――このギャップがむしろ素晴らしい。こういう、一人ぼっちで暗い人だって高鳴りは絶対にあるっていう。

柴田 : うんうん。こういう人に聴いてほしいって思ってるんです。ま、後付けなんですけど(笑)。この絵がいいと思ったのはまず直感で。その時は曲の内容との兼ね合いは意識してなくて。そしたら結果、おっしゃって頂いたように、この絵だからこその意味合いも出てきて。俺らは元々この絵のような人間かもしれないし、聴いてくれる人たちも心の中にもこういう暗さは持っていると思う。いろんな意見があったんですよ、ギャップがあり過ぎるんじゃないかとか。でもこのギャップがリアルなんじゃないかって。

――今作なら晴れ渡る青空のほうがジャケットの絵としてはハマるだろうけど、でもそれじゃ…

柴田 : 当たり前過ぎてリアルじゃないですよね。実際、「この高鳴りをなんと呼ぶ」はデカイ世界に行くぞという曲で、作った時は透明で素直な気持ちで作ったんです。でもこうしてプロモーションとかやらせてもらって、まぁ、舐められることもあるんですよ。音楽を作ってる時は透明な気持ちなんですけど、舐められた瞬間は「クッソ~、覚えてろよ」って気持ちが湧き上がってくる。透明で素直な気持ちとクッソ~って気持ちの繰り返しで、だから青空だけじゃないんですよね。これから先、何度もクッソ~って思うだろうし。だからこのジャケットを直感的に使いたいって思ったんじゃないかなって、自分で思って。

――晴れやかな気持ちで曲は作ったけど、でもこの絵を改めて見た時に自分の中にある何かに気付いたんでしょうね。

柴田 : うん。直感的に立ち返った感じがあったんでしょうね。

柴田隆浩(ボーカル、ギター)

――じゃ、この曲は、意識的に前向きになって作ったというより、ホントに素直で透明な気持ちで作って。

柴田 : そうです、自然にそうなっていったんです。勿論、それまでは必死だったんですけど。あの、去年の3月にフル・アルバムを出して、凄くいい作品が出来たと思ったし、これで忘れらんねえよはガーンって認知されると思ったんです。だけど世の中にもロック・シーンにも自分が思ったほどには認知されなかった。それが俺、ショックだったんですよ。自分ではヒット・チャートに並ぶ作品となんの遜色もないと思ってたから。

――でも、忘れらんねえよは二十歳そこそこで結成されたわけじゃなく社会人として働いてからの結成で、世の中のことはある程度分かっていたわけじゃないですか。勿論、アルバムは良かったけど、そんな簡単にはいかないってことは承知の上だったと思うんです。

柴田 : それがね、分かってたつもりでも、やっぱり実際やってみないと分かってなかったんですよね。なんていうか、自分が本気で必死にやってることが認められないっていうのは、凄いモヤモヤして悔しくて。

――そのモヤモヤや悔しさが今作の発端でもあり。

柴田 : そうです。要は前作のアルバムがリリースされた去年の3月の時点で自己評価はメチャメチャ高くて、現実の評価とのギャップがメチャメチャ大きくて。だったらそのギャップを埋めていくしかないじゃないですか。だからアルバムをリリースしてからライヴをやりまくってツアーに行って。格上のバンドとライヴをやる機会もあって、負けたりするわけですよ。俺、ライヴって勝つか負けるかだと思ってるんで。食うか食われるか。食われることがあると、「クッソ~、何が悪かったんだ」って考えて。たぶん、自分たちを負かした人の真似をしたら絶対にダメなんですよね。勝つためには自分の持ってる武器を磨くしかない。俺らの武器ってメロディと歌詞で、それを最大限生かす音作りだったり、アレンジだったりの試行錯誤を何回も去年の春から繰り返してきて。ようやく自己評価と現実の評価が一致しつつあるなって去年の暮れに思えて。そう思えた時に「この高鳴りをなんと呼ぶ」のメロディが浮かんできたんです。荒川の河川敷を一人で歩いてて、スカイツリーが見えて、「デカイな~」って思った時にパッとメロディが浮かんで。

――なんか青春ドラマか昭和の漫画みたいなシチュエーションですね(笑)。

柴田 : そうそうそう(笑)。なんか河川敷で浮かんできたんですよね。去年の3月から12月まで、俺らは悔しい思いもして、「覚えとけよ」って気持ちでとにかく努力して戦って。ようやく「覚えとけよ」って感情から解き放たれたというか。そうやって出てきた曲なんです。で、ちょっと落ち着いて周りを見たら、凄くいい流れを感じたし仲間も増えたし背中を押してくれる人もいる。俺らがもっといい音楽を作ったら、もっと広い世界に行けるんじゃないかって。そういう確信も持てた。

――うん。曲の経緯、心情の変化は納得なんですけど、私、お話を聞いててかなりびっくりしてるんです。まずライヴは勝ち負けっておっしゃいましたが、むしろライヴは勝ち負けではないって考えてるタイプだと思っていたので。

柴田 : いや~、喧嘩ですよ。常に勝負だと思ってますから。それは昔から変わってないと思います。

――確かに初期の頃の作品でも、あいつがモテてるのになんで俺がモテないんだー、俺だって負けないぞーって感じはありましたしね。

柴田 : うん。その負けたくない対象がデカくなっていっただけで。常に思うのはいい音楽を作りたいってことで、それが目の前にいる人に伝えたいって気持ちから広い世界に伝えたいって気持ちに変わっていって。だから勝負であることは変わらないけど、結局は自分との勝負なんですよね。前よりもっといい音楽を作ろう、前の自分より良くなろうっていう勝負。

クリスマス、シブヤヒカリエで独り唄う柴田(「メリー糞リスマス! ユー糞リーム!」より)

俺らは最高な音楽を作って世の中に突っ込んでいく

――今作の「だんだんどんどん」で、“俺がだんだんどんどん進むから 君がだんだんどんどん離れてく”って歌詞の“君”は過去の自分ってことですよね? 過去の自分に別れを告げて、もっと広いとこに行くぜって。

柴田 : それもあります。でも文字通りのとこもあって。あの、バンドやってる人ってそうだと思うんですが、いろんなものを犠牲にしなければならないなって、恋愛とか家庭とか。俺ら、本気で必死にバンドやっているので、俺の今の表現スタイルとか音楽を作るフォームだと、そういうものを残念ながら捨てないと出来ないんです。でもそれでもいいんです。何かを犠牲にしても、その先に凄いデカイ世界が見えたから、悲しいけど捨てます、捨てて先に行きますって。そこにはおっしゃって頂いたように過去の自分との別れも含まれていて。過去の自分自身、過去の生活、過去に好きな子、その子と幸せになりたいって思った気持ち、そういうものと別れて先へ進むぞって歌なんです。

――私、またびっくりしてるんですけど、今までの忘れらんねえよは、好きな子がいたりとか彼女欲しいとか、生活があった上での歌だと思ってたんですよ。生活から生まれるものを大事にしているんだと。

柴田 : 今までの歌はおっしゃる通りです。ただなんていうか、俺らは熱血なんですよ(笑)。

――あぁ、そう言われればなんかわかる。不器用なのかもしれませんね。

柴田 : そうなんですよね。俺、本気でやるなら集中しないと出来ないんで。そうなると犠牲にしたり捨てなきゃならないものがあって。だから本気でやってるかどうかってことが一番重要なことで。あの、ロック・ミュージックって、メロディと演奏と歌詞だけじゃないですよね。それを歌う人間がどんな人間かってことも含めてロックだと思うんです。例えば怒髪天の歌って凄く伝わりますよね。それは怒髪天が本気だし覚悟があるからで。「愛してる」って歌詞を、まぁ、怒髪天も俺らもそんな歌詞は歌わないかもしれませんが、「愛してる」って増子さんが歌うのとフニャフニャした奴が歌うのでは、やっぱり全然違うと思うんです。覚悟を持ってやってる人の歌は説得力がある。俺、売れてる人って覚悟があると思うんですよ。覚悟してそこに突っ込んで向かっている。AKB48だってそうですよ。AKB48は当たり前の青春を捨ててますよね。だからあれだけ売れると思うんです。ロックって音楽のジャンルじゃなく、覚悟があるものがロックで。俺はギターが轟音で鳴ってる音楽が大好きですけど、それはあくまで俺の好みであって、それが絶対だとは思ってないんです。つまりロックって、そいつが自分の表現を本気で覚悟を持ってやっているもの。

――本気とか覚悟っていうものは表現に出ると信じてます?

柴田 : 信じてます。その人の思いは絶対に音楽に宿ると思います。だから俺らもそれを宿らせたくて、モヤモヤを一個も残さないように今作を作ろうって。レコーディングでもレコーディングに入る前も、やれること全部やった。例えばライヴ・ハウスでチラシを配ってるんですけど、それはTHEラブ人間に影響を受けて。THEラブ人間が自分たちでチラシを配っているのを見て、なんで俺らやってないんだ? って。

――あいつらには負けないぞって?

柴田 : いや、純粋にこいつらは本気だって思っただけで。なんか俺、潔癖症なんですよ。やれることがあるのにやらないと、不安になってモヤモヤするんですよ。

――あの、忘れらんねえよって実はずっと変化し続けてるバンドですよね。改めてインディーの頃からの変化を聞きたいんですが、初期の頃って、モテない男のリアルな心情ってとこで共感されてたと思うんですが。

柴田 : そうだと思います。

――その後、ちょっとこう、モテない自分を茶化すというか。情けなさを笑い飛ばすタフさを身につけたと思うんです。

柴田 : そうそうそう、おっしゃる通りです。

――そして今作は、お話してくれているように、広い世界を目指す曲に変化していった。

柴田 : うん、変化し続けていると思います。今までのやり方や表現に、ある種の限界を感じたんですよ。これをずっとやってても、あるラインは超えられないなって。要は下ネタがあるだけで聴かない人を作っちゃうんですよね。

――下ネタってインパクト強いですからね。そこだけが特化されちゃう。

柴田 : そうそう。下ネタによって俺らの歌が届かなくなるんだったら、ホントにもったいないって。勿論、下ネタでカッコイイ歌はいっぱいあるし否定してるわけじゃなく。でも俺が伝えたいのは下ネタそのものじゃなくて、下ネタの先にある、または根っこにある熱い感情であって。

――くすぶってたり燃えたぎったりしてる感情ですよね。

柴田 : そうそう。そういうことを歌いたいのに下ネタそのものの歌って扱われたりね。それで下ネタを茶化す歌に変化したんですけど、でもそれは逃げてるんじゃないかって思ったんですよ。実際、逃げてたのかもしれません。下ネタばかりが特化されるのに怖さを感じて。それはその時の精一杯の表現だったので納得はしてるんですけど。今はそういうモードじゃない、逃げたくない、ガチで勝負したい。茶化した歌なら「実は嘘ですよ~」って逃げられたけど、今はそんなことはしたくなくて、歌詞、メロディ、全てに責任をとる覚悟で。まぁ、でも今作の「中年かまってちゃん」は下ネタっていうかね、生活感丸出しですけど(笑)。

――本気の下ネタですよね(笑)。

柴田 : 熟練された下ネタですよ(笑)。

――熟練された下ネタも含めて、今作はメロディも歌詞もシンプルで、それは選び抜かれたものってことがわかりますもんね。

柴田 : そのつもりです。前は勢いで書いていたところもあったけど、今はメロディも歌詞も一つ一つ考えて。

――歌詞には決意や覚悟が感じられるし。自分はこれから変わっていこうっていう意識は、やっぱり凄くあります?

柴田 : えっと、覚悟はあります。でも自分が変わっていくっていうより、自分が変えてやるっていうか。俺らの音楽はまだ広い世界に組み込まれてないわけで、組み込ませていきたいんですよ。俺らは最高な音楽を作って世の中に突っ込んでいく。そしてそれが認められたら俺の世の中は絶対に変わるじゃないですか。で、それはいろんな人たちにも言えることだと思うし。自分がやってる仕事が認められたら、その人の世界は変わるじゃないですか。そうやっていろんな人に当てはめられる歌だと思う。

――で、また最初のジャケットの話に戻るけど、ジャケットに描かれてる、このしょんぼりした人だって自分の世の中を変えることは出来るわけで。

柴田 : そうそう。だからスタートの作品なんです、一緒に行こうぜっていう。ジャケットの絵のこいつは俺でもあるし聴き手でもある。そういう奴らが一緒になってデカイ世界に行こうぜって。で、その辿りついた世界は楽しいだけじゃないし甘ったるいものじゃないってことはわかってる。だから楽観は全くないし無駄に悲観もしてない。むしろ俺、現実的になってるんです。一つ夢が叶ってもしんどいことはずっと続くのはわかってますから。先へ進むのはしんどいけど進むべき先がある。そこに行くか行かないかってなったら、俺らは行きますよ、みんなも一緒に行こうよって。そういう気持ちの作品なんです。

――わかりました。あと最後に、今作はアイゴンさん(曾田茂一)のプロデュースなんですよね。

柴田 : はい。ダイナミックでふくよかで、しかも生々しいバンド・サウンドならアイゴンさんしかいないと思って。理想通りの音にして頂いて。面識なかったんでプロデュースをお願いするのに、俺、手紙を書いたんです、手書きで(笑)。音楽やバンドに対して思ってること、アイゴンさんにやってもらいたい理由、アイゴンさんの素晴らしさを長々と書いて。

――やっぱ熱血だ(笑)。

柴田 : そしたら「いいよ~」ってアッサリ引き受けてくださって(笑)。いや、俺の気持ちをわかってくれたはずです(笑)。だってこんなに素晴らしい音になったんだから。

左から、柴田、ニシキヘビ(「新春! お年玉金ユーストリーム」より)

1月30日(水) 忘れらんねえよ無観客LIVE開催決定!!

忘れらんねえよ『この高鳴りをなんと呼ぶ』発売記念 無観客LIVE

2013年1月30日(水) 14:00~15:00(予定)

場所 : 都内某所(野外)

>>>OTOTOY TV♭にてUSTREAM生中継。

>>>詳細はこちら

LIVE INFORMATION

日々ロックフェスティバルVOL.2 powered by RADIO DRAGON
2013年2月1日(金) 新宿ロフト
w/さめざめ、THE NAMPA BOYS

SANUKI ROCK COLOSSEUM ~BUSTA CUP 4th round~
2013年3月20日(水)

ボーカルギター柴田 プレミアム弾き語りインストアイベント
プレミアム弾き語りツアー新宿公演
2013年2月8日(金)
タワーレコード新宿店 7F イベントスペース

プレミアム弾き語りツアー大阪公演
2013年2月15日(金) 19:00
タワーレコード梅田NU茶屋町店

プレミアム弾き語りツアー名古屋公演
2013年2月21日(木) 19:00
タワーレコード名古屋近鉄パッセ店

プレミアム弾き語りツアー浜松特別公演
2013年2月22日(金) 18:00
イケヤ浜松メイワン店

「この高鳴りをなんと呼ぶ」リリースツアー
2013年3月3日(日)愛知県 池下CLUB UPSET
2013年3月9日(土)大阪府 梅田Shangri-La
2013年3月29日(金)東京都 代官山UNIT

PROFILE

忘れらんねえよ

柴田隆浩(ボーカル、ギター)
梅津拓也(ベース)
酒田耕慈(ドラム)

忘れらんねえよ official HP

[インタヴュー] 忘れらんねえよ

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