2012/08/11 00:00

武川雅寛、岡田徹の15年以上振りとなる新作がリリース

ムーンライダーズの武川雅寛、岡田徹が、それぞれソロ名義のアルバムをリリース。日本のロック/ポップス界を代表するヴァイオリニストでもある武川の約16年ぶりとなる新作は、自身の作詞/作曲によるヴォーカル曲を中心に収録した、実質上の1stソロ・アルバムといっても過言ではない作品。そして、プロデューサーとしても活躍する岡田徹の19年ぶりとなる新作は、彼の初ソロ作であり名盤と誉れの高い『架空映画音楽集』の続編。どちらの作品も、いまだから鳴らすことのできる楽曲が収録されています。また、岡田プロデュースの2組のアーティストが同時デビュー。1組は、80年代半ばにサブカル界隈で一世を風靡した“チロリン”の21世紀版、新・チロリン。そしてもう1組は、ビートルズの遺伝子を受け継いだサウンドが結成当時から注目を集めていたRecto Berso。どちらも、折り紙つきのフレッシュなサウンドで、音楽好きなあなたを唸らすこと必至です。この4作品のリリースを記念して、OTOTOYでは武川と岡田の対談を実施。ムーンライダーズ活動休止以降の心境から新作への思いまで、じっくり語っていただきました。

約16年ぶりとなる新作をHQD(24bit/48kHzのWAV)で

武川雅寛 / dregs of dreams
配信形式 : HQD(24bit/48kHzのWAV)、mp3
価格 : HQD、mp3共に2,000円

1. a tough life / 2. 鎌倉大船小唄 / 3. my sunny day / 4. 月夜のドライヴ / 5. 僕が熱いのは君のせいだ / 6. Violette of Sophia / 7. 哀しみのダンス~Dance me to the end of love~ / 8. cloth / 9. 雲間~behind the clouds~ / 10. 眠り~sleeping~ / 11. para Cao / 12. Post
※1、5、 7、8、12は、CDとは違うミックスを収録!!
『架空映画音楽集』の続編となる19年ぶりのアルバム

岡田徹 / 架空映画音楽集II - erehwonの麓で
配信形式 : WAV、mp3
価格 : WAV、mp3共に2,000円
※『架空映画音楽集II - erehwonの麓で』はWAVとmp3の配信になります。

1. エレホンの麓で with エレホン楽団 / 2. 幸せの場所 with 5MBS + little moa / 3. ニットキャップマン with LGOアコーディオン隊 / 4. いいパパ、いいママ、悪いパパ ポルカ with Half LGO / 5. 月面讃歌 with Wonder 3 + tenorierie / 6. 雨の日のJanne with 渚 十吾 / 7. 週末の恋人 with ピノキオP / 8. Time of EVE / 9. Kiss your tears away with yotto / 10. PIOの調律 with CTO LAB. / 11. Days of OPUS with OPUS BOYS + 夏秋文尚 / 12. 空の名前 with 山本精一 + 采原史明 / 13. そして船は行くだろう with あがた森魚

岡田徹プロデュースの伝説のガールズ・ユニットが遂に復活
新・チロリン / CHIT CHAT CIROLINE
配信形式 : WAV、mp3
価格 : WAV、mp3共に2,000円

1. こんなじゃダメ神様 / 2. 途中にしてね / 3. チョコレイト戦争 / 4. MIRAとお散歩 / 5. (チロリンの)星に願いを / 6. B-612に恋をして / 7. 涙は少女の武器 / 8. Post ! Post ! Post ! / 9. Please / 10. うわのそらみつけた / 11. 走る
岡田徹プロデュースの脅威の2人組ユニット
Recto Berso / Nice To Love You!
配信形式 : WAV、mp3
価格 : WAV、mp3共に800円

1. Maria / 2. My Bird Has Flown Away / 3. Vision / 4. For The Day,All Day

>>Recto Berso official HP

対談 : 武川雅寛×岡田徹

ムーンライダーズが昨年いっぱいで活動休止してから約半年、二人の月光騎士たちがまずソロ・アルバムを発表した。武川雅寛の『dregs of dreams』と、岡田徹の『架空映画音楽集Ⅱ~エレホンの麓で~』。武川の方には鈴木慶一以下、ムーンライダーズの盟友の他、夏秋文尚、梅津和時、近藤研二、伊藤隆博、かわいしのぶ、鈴木しょうこ、マイカ・ルブテ、そして南こうせつらが、岡田の方には渚十吾、あがた森魚、OPUS BOYS(白井良明+武川雅寛)、ピエール・バルー、山本精一、LIFE GOES ON、CTO LAB.らが参加するなど、それぞれ交流の深いアーティストが多数関わったこの2作品は、二人がいかに周囲の仲間に愛され慕われているかが伝わってくる、二人の現在までの活動の集大成的なアルバムと言っていいだろう。

約16年ぶりとなる武川の新作は、彼が現在暮らす湘南や横須賀のライヴ・ハウスなどでリラックスした雰囲気の中録音。ムーンライダーズではヴァイオリンやトランペットなどでバンド・サウンドに彩りを与えてきた武川だが、ここで自作の新曲を中心に味わいのあるヴォーカルを聴かせている。ライダーズ時代から数々のプロデュースや別ユニットでの活動、CMソング制作など精力的に手がけて来た岡田の新作の方も、88年発表の『架空映画音楽集』の第二弾となる待望の1枚で実に19年ぶり。1曲ごとに組む仲間を替えつつも、一つの主題に沿った仕上がりを目指してしっかり構築された岡田ワールドといったところだ。「ニットキャップマン」や「週末の恋人」といったライダーズでお馴染みの岡田作の曲をアレンジ、アングルを変えて再度とりあげるアイデアも岡田らしい。

そんな二人に、ムーンライダーズ活動休止以降の心境から新作への思いなどをテーマに語ってもらった。今後、ソロでのライヴも積極的にこなしていくというこの二人の月光騎士の新たな船出に栄光あれ!

インタビュー & 文 : 岡村詩野
写真 : 藤森沙羅

左から、岡田徹、武川雅寛

好奇心が尽きなかったから、ずっと面白がって音楽に向き合えた

――ムーンライダーズの活動休止から約半年、まずはその実感から聞かせてもらえますか?

武川雅寛(以下、武川) : 僕は… そうだなあ… さみしい、みたいなのはなかったんだけど、(去年12月に行なわれたムーンライダーズの)最後のサンプラザ公演のDVDを見ていたら、ああ、区切りだったんだなあって思ったりはしましたね。ただ、幸せな休止の仕方だなとは思いました。恵まれてるなって。
岡田徹(以下、岡田) : ライヴ当日はもっと胸にクるかなと思ったんだけど… やっぱりライヴの演出がそういう感じじゃなかったからかな。後から映像で見てもイイ感じのライヴだったんだって思ったよね。こんなにファンの人に恵まれたバンドもいないなあって。30周年の時も、「感謝祭!」って感じだったんだけど、今回は「大感謝祭!」って感じだったね。それに、くじら君(武川)もそうだけど、僕も今年からは自分のソロと、レクト・ベルソ(岡田がプロデュースする男性新人ユニット)と新・チロリン(岡田が全面プロデュースするアイドル・グループ)の制作も控えていたから、みんなそこで一区切りという感じはあまりなかったんだよね。まあ、例年、このくらい(夏)の時期には年末のライダーズの(ライヴ・)スケジュールが出たりするんだけど、今年はそれがないのが淋しいな、やっぱり休止なんだなって、そういう時に実感するかな。

――改めて、ムーンライダーズとしてのこれまでの活動がお二人にもたらした最大のものは何だったと思いますか?

武川 : 僕は昔のことって殆ど覚えてないんだよね(笑)。(鈴木)慶一君とかよく覚えているんだけど… でも、それにしても周囲の人が言うほどには大したことを続けてきたって実感がないんだよね。ただ、自然にやっていたら長くやっていたっていうか。一応、休止ってことになっているけど、ソロを出すことになったり、岡田君の作品に参加したり、ふーちゃん(鈴木博文)のやってるメトロトロン周辺を手伝ったりって感じで、パタッと終わった実感もないしね。ただ、今までのソロってインストだったり企画モノっぽかったりだったけど、今回はオリジナルというか自分で曲も作って自分で歌って… という内容だから、そういう意味では区切りって気もするけど… だから、ライダーズでの活動で得たものとか、あまり自分じゃわからないんだよ。
岡田 : ライダーズって2枚と同じアルバムを作ってなくて、いつも新しいこと、前と違うことをやっていたからね。そういう意味では、何か一つ、二つじゃなくて常に自分たちに何かがもたらされてはいたんだよ。くじら君は特にライダーズでは「つなぎ役」みたいな立場にもいたしね。慶一君の資質とくじら君の資質とがうまいこと絡み合っていて、くじら君経由で何かが生まれたりもしていたし…。そういう意味ではその場面場面で違う形で何かがもたらされていたんだと思うよ。僕なんかも大学の頃から一緒にやったりしてるからね。家族よりも長く一緒にいたわけだよ。昨日の続きの連続で今日がある、というようなのが本当に当たり前のようにあった、まさに「時をかける少女」じゃなく「時をかけるおじさん」だったって感じかな(笑)。ライダーズって新作に取りかかるとき、前作と同じ手法はとらない、の方針のもと、コトを進めてきたからアンテナに引っかかってくる新しいモノにも多く接するチャンスも多かったりして。いま振り返れば、僕にとってライダーズは一種のコクーン(繭)のようでもあったのかな、と。その中で、プロデューサー、アレンジャー、CM作家としても一人前になっていった過程がありますね。

――ムーンライダーズの進化、成長は、まさに日本のロックの進化、成長そのものだったわけですが、そうした実感は活動する中でどの程度ありましたか?

岡田 : 正直言って、いつも好奇心と興味が尽きない状態で作業したりライヴしたりしていたから、全然そういう実感はなかったよね。若いバンドと対バンするようなことも、自分たちとしては本当に自然なことだったから。ただ、ずっと現役感があるなあとは思ってた。例えば1曲でも大ヒット曲があれば、そこで「上がり」になるでしょ? でも、ライダーズにはそれがなかったから、ずっと上がらずに現役のまま。それがかえってよかったのかもしれないね。ただ、その代わりに、高く評価されてるなあって実感もなかったけど(笑)。

――今の若い世代のアーティストから見れば大先輩のはずなのに、そこに要らぬ隔たりのようなものは感じないですからね。

岡田 : そうだよね。僕はいま20代、30代の人と一緒に仕事することが多いけど、妙な刷り込みがないからすごくフラットに接してくれるんだよね。で、「音が今(っぽい)ですよね」とかって言ってくれる。そういうのが面白いよね。

――例えば、武川さんはロック・バンドにおけるヴァイオリニストのパイオニアですが、今の若い世代にとってはバンドにヴァイオリンやチェロ奏者がいるというのにあまり抵抗がなくなっています。

武川 : それもたまたま時代に恵まれた部分が大きいと思うんだよね。日本でフォーク・ブームが起こった頃って、まだコードのアドリブで弾けるやつがまだあまりいない時代だった。それをバンドでたまたま自由に弾いていたのが僕で。ヴァイオリニストと言えば、一部カントリー系を除くと、まだまだ音大を出てクラシックを目指して譜面通りにちゃんと弾く人が多かった時代だよね。でも、僕は目指していたところが最初から全然違ったからパイオニアみたいになったけど、実際は本当に偶然だったと思う。おまけにブラスバンド部にいたからトランペットも吹けたという…。でも、それもたまたまライダーズのレコーディング中に「この曲にトランペット入ったら面白いよね」みたいな話になって、それで朝一番にヤマハにトランペットを買いに行った(笑)、というのがきっかけ。で、ライダーズはロック・バンドだったからメンバーの中でやれることをやろうっていう、そういう雰囲気が許されたし、そんな高度なものを求めようとはしていなかったのがかえって面白かったというのはあったと思うよ。
岡田 : 前に誰もいなかった、パイオニアだったということは、その分、時間がゆっくり動くわけだよね。しかも、上がりがないからずっと現役が続いた。おまけに、僕らは好奇心が尽きなかったから、ずっと面白がって音楽に向き合えたというね。あと、当時は例えば「10ccの「アイム・ノット・イン・ラヴ」みたいな音ってどうやって出すんだろう?」って感じで、自分たちで音作りを模索していたわけだよね。そうやって身につけたものというのはすごく大きいと思う。今は、ほら、そこそこのことは誰でも割と簡単にできちゃうじゃない?

――イマジネーションと探究心がないと面白い音楽が作れなかった時代をムーンライダーズはサヴァイヴしてきたわけですね。

岡田 : そう。でも、それも当時はそんなこと考えてなかった。とにかく目の前のことと格闘して、どうしたらいいか、どうやったら音が出るのか? みたいなことで一生懸命だったんだよね。それの繰り返し。もちろん、くじら君なんかは最初からスキルがあって、学生の頃から「なんでこんなちゃんと弾けるんだろう?」って見ていたけど、僕なんかはそういうスキルが後からついてきたって感じだったからね。だから、ライダーズでの活動からもたらされたものってあまりにも大き過ぎるってことなんだよ。
武川 : うん。だから、今の若い人もどんどん好きにやればいいんじゃないかと思う。若い頃は僕も自分がオリジナルなことをやっているんだって自覚なかったし、歳と共に多少なりともオリジナリティみたいなものは感じるようになったけど、やっぱり目の前のことで精一杯だったからね。

メンバーみんなそれぞれちゃんと個性があるってことなんだよね

――例えば、慶一さんは常に新しい音楽を敏感にキャッチして、それを自作曲に還元していましたが、お二人は活動中に他アーティストや作品からの影響やフィードバックなどはどういう形で受け手いたのでしょうか?

武川 : う~ん、僕なんかも何らかの形で色んな影響は受けていたと思うんだけど、影響のされ方が違うというか、慶一君のような形ではなかったと思うんだよね。慶一君がどれくらいCD買ったりライヴを見に行ったりしてるのかわからないけど、僕なんかは影響受けても二回、三回と屈折して一周しちゃって、結局影響がそのまま出ちゃう、みたいなこともあったと思う。いずれにしても、一つ、二つの影響じゃなく、100コくらい影響を受けてずっと引きずっているものの中からなんかしら出てきて、それが自分の曲になっていくってところは同じだと思う。結局、それがオリジナリティってことなんだろうね。
岡田 : 例えば、ライダーズでは… 割と最近までやっていたんだけど、アルバムの曲を作る時に、禁じ手みたいなものを用意していたんだよ。こういうのはやめよう、っていうようなね。で、それを忠実に守っているのは僕と(白井)良明とかで、慶一君とかはいつもの慶一節だったりする。もちろん、それはあくまで最初の段階だから、みんなで曲を合わせていく過程でアレンジはどんどん変わっていくんだけど、でも、それってどういうことかっていうと、メンバーみんなそれぞれちゃんと個性があるってことなんだよね。

――武川さんの今度のソロ作には、レナード・コーエンとザ・バンドのカヴァーが収録されていますよね。レナード・コーエンの「哀しみのダンス」の方は、武川さんがバックをつとめていらっしゃる加藤登紀子さんがとりあげている… という流れがあるとは思いますが、こうしたカヴァーのチョイスは武川さんご自身の趣味をそのまま反映させているのですか?

武川 : 基本はそうです。まあ、今回のアルバムでのカヴァー曲については紆余曲折があって、他にもクィーンとかカザルスとか候補があったんだけど… レナード・コーエンのこれは歳とってから自分で歌うのもいいんじゃないかなあと思ってとりあげてみたという。レナード・コーエン、実は会ったことがあるんだよね。

――そうなんですか!

岡田 : パリでね。
武川 : ピエール・バルーとライヴをやった時にレナード・コーエンが見に来てくれたんだよね。80年代のことだったよ。当時僕はまだ20代だったんだけど、大人に見えたよね。
岡田 : あの時、フランシス・レイとかジョルジ・ベンとかも来てくれたよね。デザイナーのピエール・カルダンもいたなあ。
武川 : 全体的には僕はちょっとトラッドっぽいものから影響を受けることが多いよね。やっぱり楽器がヴァイオリンというのもあるからかな… 原始的な感じの曲が好きなのかもしれない。
岡田 : くじら君の曲って、割と、こう、どんどん続いていくような曲が多いの。A→B→C→D… って感じでどんどん続いて、元に戻らないというね(笑)。昔のジョージ・ハリスンぽいね、という話を慶一君としていたことがあるよ。昔のジョージってサビで始まって、これどうやって終わるのかな? って感じの曲が多いでしょ?

――武川さんは曲はどのように作っているのですか?

武川 : ギターで。岡田君もそうだけど鍵盤で曲書ける人が羨ましくて仕方ないんだよね。
岡田 : こないだ、あがた(森魚)さんの40周年のライヴで「頬うつ雨」(武川作曲。アルバム『ムーンライダーズ』に収録)をやったよね?
武川 : やったね。
岡田 : あれ、ライダーズのアルバムに初めて収録されたくじら君の曲だと思うんだけど、改めて聴くとすっごいバーバンク・サウンドなんだよね。当時はそんな風には思わなかったけど。ランディ・ニューマンとかそういう感じがする。芯にあるのはトラッドかもしれないけど、層が厚いよね。
武川 : 意図的に何かを目指して曲を作っているわけじゃないんだけどね。ただ、ライダーズの曲の場合、おおもとは僕が書いたとしても、みんなの手が入るから色んな要素が絡む。そこが面白いなと思う。

――岡田さんはソングライティングにおいて職人的と言われることが多いですが、実際はどのようなスタンスで曲を書くようになさっているのですか?

岡田 : 僕なんて昔は曲書くのがとにかく遅くてね。『火の玉ボーイ』に入ってる「ウェディング・ソング」とか「あの娘のラブレター」なんかはたぶん半年くらいかかってる。でも、徐々に慣れてきて… そういう意味ではやっぱりCMソングの制作とかの現場で鍛えられたと思う。当時はPCで簡単に修正できたりする今と違って参考曲みたいなのをまず10曲くらい用意してスポンサーに提出するようなやり方だったんだけど、ギリギリになってメロディを変更したりするようなことが頻繁にあったんだよね。それで瞬発力みたいなものは鍛えられたかな。アレンジや細かな調整がすぐにできるようになった。例えば『ヌーベル・バーグ』に入ってる「いとこ同士」は最初ラテン系のパワー・ポップみたいなアレンジで、「これでいこう」って一度決めたのに、翌日になって慶一さんが「クラフトワークっぽくしよう」って急に言い出して(笑)。まだMIDIもなかったから、譜面にして松武(秀樹)さんに一週間前に渡して… って感じのやり方だったんだけど、でも、そうやってすぐ修正していくようなことがやれるようになったというのは大きかったかな。
武川 : 岡田君の曲は、とにかくミディアムのバラードはすごくキレイなんだよね~。まあ、みんなメンバーそれぞれ個性があるよね。棲み分け… というか色分けがうまいことできてるなあって思うよね。
岡田 : ただ、僕は歌手じゃないから歌心はないけどね。でも、確かにみんなそれぞれ色分けが自然に出来てて、例えばかしぶち(哲郎)君の曲は器楽っぽかったりする。あのメロディの飛び方ってインストっぽい。

ある意味で自分の集大成的な内容になっているような気がする

――さて、今回はお二人のソロが同時発売ということなんですが…。

岡田 : 実はまだ聴いてないんだよね、くじら君のアルバム。

――えー! そうなんですか!

武川 : 僕も岡田君のアルバムは、自分が参加した曲くらいしか知らない。
岡田 : 僕も僕が参加した曲だけはなんとなくわかっているくらい。

――そういうものなんですか。

岡田 : 今までもそうだね。ソロ作品はCDとかで出来上がってきて始めてもらったりあげたりするって感じ。
武川 : ライダーズのアルバムは一緒に作ってるわけだから当然聴けるわけだけど、ソロは途中段階で聴かせても仕方ないしね(笑)。
岡田 : そういう方が面白いというのもあるしね。ただ、今回のくじら君のはまだ聴いてはいないけど、僕の作品もくじら君のも、ある意味で自分の集大成的な内容になっているような気がするな。僕の場合は自分と向き合って作った作品になっていて。1曲ごとに色んな人をゲストに呼んだりしていて… まあ、それは『架空映画音楽集』という… 今回は第二集だけど… こういうスタイルにすれば1曲ごとに色々なことができる。「今度一緒にやろうよ」って言ってた人たちと一気に共演できるしね。結果、それがすごく自然にこれまでの自分と向き合う形になったんだよね。恐らく、くじら君の作品もそうじゃないかと思う。すごくたくさんのゲストが参加してるんでしょ?
武川 : そう。まあ、僕の場合は放っておくと自分からは絶対にソロなんて作ろうなんてことにはならなくて(笑)。それは面倒臭いからなんだけど、今回はスタッフから「作ろう」って言われて。で、周囲の仲間に協力して作ったという感じなんだよね。どうしてもこのミュージシャンじゃなきゃやだ!というよりも、もっと自然といつも一緒にいる仲間とかとリラックスして録音できればなあと。ただ、ドラムの夏秋(文尚)くんにはかなりしっかりやってもらおうってことだけは決めていて。

岡田 : 夏秋君が共同プロデュースなんだよね。
武川 : うん。で、どういう風に作っていくのがいいのか、誰を呼ぼうかとかを一緒に相談しながら進めていったの。で、ライヴで弾き語りでやったことがあったんだけど、ザ・バンドの「眠り~sleeping~」をやりたいとか、斉藤哲夫くんに「月夜のドライヴ」を歌ってもらいたいとか、そういう具体的なアイデアはなんとなくあったんだけど、やっていくうちに当初考えていたイメージとはだいぶ変わったんだよね。最初、海っぽい感じ、とかって言ってたんだけど…。
岡田 : ジャケットは全然イメージ違うね(笑)。
武川 : そう、海というより洞窟…(笑)。僕が住んでいるのが海が近いというのもあるし、「くじら」だし… ってその程度だったんだと思うんだけど、1曲ずつ色々考えていくうちに結局自然とこういうアルバムになったね。録音場所も結構色々で、これもスタッフのアイデアで横須賀の『Younger Than Yesterday』というライヴ・ハウス… 映画館だったところをライヴ・ハウスにした場所があって、そこが休みの日に貸してくれるっていうんで、夏秋くんに機材を全部運んでもらってレコーディングしたんだよね。この時一緒にやったのが、夏秋くんがこまっちゃクレズマを一緒にやっているという縁もある梅津和時さんと、昔、加藤登紀子さんと一緒にやってたことがあるピアニストの大口純一郎さん。で、僕と3人であまりダビングとかをしないような曲を作ろうってことで、夏秋くんにはエンジニアに徹してもらってライヴ・レコーディングみたいな感じで録音したの。そのライヴ・ハウスのステージを使わせてもらってね。あと、葉山でも最初6曲くらいオケを録った。そこでは、かわいしのぶちゃんと、近藤研二くんとかと一緒に。あと、夏秋くんのプライベート・スタジオでも録音したし、南こうせつ(注:武川さんは南こうせつ率いるかぐや姫の代表曲「神田川」のイントロのあのヴァイオリンを弾いている)がバック・コーラスをしてくれるっていうから普通のスタジオにも入って… でも、結局最後はリード・ヴォーカルで全部歌ってもらったけど(笑)。まあ、スケジュールの都合がつく人全てに声をかけたという感じですね。
岡田 : ライダーズのメンバーも全員参加しているもんね。

――確かに武川さんとその仲間たち、といった気の置けない雰囲気のアルバムに仕上がっています。

武川 : 昔の知り合いから最近の仲間まで、確かに総括したような感じの人脈だよね。曲順とか結構悩んだんだけど、そういう時もみんなにアイデアを聞いたりして作っていきました。結局、例えば曲を作ったのは自分でも演奏される時にはそれはもうプレイヤーに委ねられるわけで、その時点で僕だけの曲じゃなくてプレイヤーの曲でもあるわけでね。今回は特に自分から細かいところまで指示することはなかったかな。ざっくりとしたアイデアは出しても、あとはメンバーを信じて任せる方が面白いかなって思って。例えば、「眠り~sleeping~」はオルガンを入れたいという希望があって、それで伊藤(隆博)くんにお願いしたんだけど。あ、その伊藤くんだけタイミングが悪くて、データのやりとりで仕上げた。彼だけ一回も顔を合わせなかったんだよね。夏秋くんのアイデアで「月夜のドライヴ」にテルミンを入れたりね。本当にみんなの意見やアイデアが生かされてると思う。

――参加されているメンバーそれぞれ蓄積がおありになるから。

武川 : そう。そういうことなんだと思うし、僕もそういうアルバムにしたいと思っていた。誰かのアルバムみたいにしようとか、この曲はこんな感じでいきたい、といような参考資料みたいなのは必要なかったんだよね。夏秋くんのスタジオにたまたまメロトロンがあって、使おうってことになったんだけど、あまりにも重くて置いてある玄関から動かせないから、そのまま玄関で、(鈴木)しょうこちゃんに弾いてもらったり。そういうのが面白かったね。

「終わった」のではなく、やっぱり「休止」ってことなんじゃないかな

――一方で、岡田さんのソロの場合は、『架空映画音楽集』の第二弾ということで、予めちゃんとストーリーやプロットのようなものを用意してあるような仕上がりですね。いつ頃から作業を立ち上げたのですか?

岡田 : 渚十吾と前々から「やろう」って話していたから、かなり前から話だけはあったんだよね。で、彼が「エレホンの麓で」というストーリーをまず作って。何しろ第一集から24年ぶりでしょ。どういう角度で作っていこうか? というのがなかなか決まらなかったんだけど、1曲ごとに違う形でやろうって決めた時に見えてきたんだよね。エレホン=「erehwon」って「nowhere」をひっくり返したスペルでしょ? で、サミュエル・バトラーの小説のタイトルでもある。様々な音楽が吹き寄せる平原だったり、打ち寄せる渚だったり… って感じで未来に聴くだろう音、過去に聴いた音、今聴いている音がnowhereなところで色々と鳴る、というイメージを想定してアルバムを作っていくことにしたの。しかも、「架空映画音楽」だから何でもアリ。一緒にやりたい人を集めても形になっちゃう。

――でも、期せずして岡田ファミリーと言うべき仲間がこちらも揃いましたね。ただ、1曲ごとにアイデアがいっぱいで、知っている曲なのに新しい発見がたくさんありますね。「ニットキャップマン」のLGO(ライフ・ゴーズ・オン)のアコーディオン・アレンジは新鮮でした。

岡田 : あれは、クラフトワークの「ロボット」をアコーディオンだけでやりたい、というアイデアから出たものなんだよね。結局その都度その都度、好きな人たちとやってるってだけで、それだけで楽しい。それが基準でしかないっていうか。完全にセルフ・プロデュースなんだけど、一緒にやる人と楽しむことが最初にあるからね。ただね、ただ楽しいんじゃなくて、例えば、映画『気狂いピエロ』が描くような青い空”がイメージ。アバンギャルドの森を通り抜けたら青い空がある、みたいな感じだよね。無邪気に楽しいというものではなくてもっとダークなものがあるような。つまり、僕や仲間がずっと体験して得てきた感覚だったりするんだよね。誰でもすぐ出せる感覚じゃない。滲み出るものだと思う。

――それは、岡田さんご自身が20代前半にお一人でアメリカをバス旅行したような体験に依るところが大きいのでしょうか?

岡田 : それはありますね。あの頃はインターネットも当然ないし『地球の歩き方』なんて本もない。バス乗って着いたら違う場所だったりすることなんてしょっちゅうあるような時代だよね。でも、そこで誰かに助けられたり。なんとかなる… じゃないけど腹を括ったケセラセラ、みたいな体験をあの若い時にやったことが今回のアルバムのこういうダークな部分を背負った作品に出たのかもしれないな。あのバス旅行、本当に自分がロード・ムーヴィーの主人公みたいだったよ。砂漠の夜明けとか、ものすごく美しかったからね。

――OPUS BOYS名義で、武川さん、白井良明さんと組んだ「Days of OPUS」はどのようにして作業をされたのですか?

岡田 : 最初共作にしようってことでみんなで部品(断片)を持ち寄ることにしていたんだけど、くじら君がやっぱり作業が忙しくて曲の部品が送られてこなかったから、結局僕がサビをまず作って。そのあと、良明がその前後を作ってくれた。で、レコーディングの日にいきなりくじら君が「詞を作ってきたよ」って持ってきてくれて(笑)。
武川 : 結構思いつきで言ったことを歌詞にしたんだけどね。
岡田 : これは立教大の中の風景も歌われているんだよね。具体的な場所の名前とかも出てくる。まさにOPUS BOYSの思い出の日々という感じの曲になっているんだ。

――武川さんのアルバムの中には、ムーンライダーズのメンバー全員が集結している曲が1曲ありますが、その「Post」の歌詞が象徴的ですよね。「どうせまた手紙の山/あなた達から届くだろうけど/僕に送ってくれても/全部庭に積んで/燃やしてしまうかも」… こんな歌詞の曲にライダーズのメンバーが、休止後初めて集結しているとは!

武川 : (笑)また集まりそうな雰囲気だけど、「手紙を燃やしちゃう」んだもんね。
岡田 : そういうことがいつか近い将来にあるかもしれないけど、今はまだ具体的には何もないよね。ただ、最初にも言ったように、ライダーズでやってきたことが今の僕やくじら君の作品に確実に出ているし、それがやっぱりすごく大きなものであることは間違いないから… そういう意味では「終わった」のではなく、やっぱり「休止」ってことなんじゃないかな。

1980年代のムーンライダーズのライヴ映像を独占配信!

2011年にデビュー35周年を迎え、12月には無期限の活動休止期間に入った日本のキング・オブ・オルタナティブ・ロック・バンド、ムーンライダーズ。1975年の結成以降、常に時代を切り取り、新しいサウンドとテクノロジーを導入して先鋭的な作品を発表し続けてきた彼らが1982年11月16日に渋谷公会堂で行った『青空百景』のライヴ映像を、OTOTOYで独占配信決定。あっと驚く仕掛け満載の1時間30分を越えるムーンライダーズの貴重なライヴ映像をお見逃し無く!

ムーンライダーズ / moonriders LIVE at SHIBUYA KOKAIDO 1982.11.16 青空百景 for ototoy only

1982年11月16日@渋谷公会堂 青空百景
ムーンライダーズ : 鈴木慶一、岡田徹、武川雅寛、白井良明、かしぶち哲郎、鈴木博文
ゲスト : 矢口博康、福原まり

【TRACK LIST】 01. 鬼火 / 02. とにかくここがパラダイス / 03. 遊園地 / 04. 工場と微笑 / 05. カーニバル / 6. テープパフォーマンス#1~白井良明パフォーマンス / 07. ウサギと私 / 08. テープパフォーマンス#2 / 09. バルカン特急 / 10. 潜水艦 / 11. ロシアン レゲエ / 12. オー マイ チベット / 13. ふにゃふにゃサイボーグ / 14. テープパフォーマンス#3 / 15. 僕はスーパーフライ / 16. 霧の10m2 / 17. 青空のマリー / 18. 21世紀鋼鉄の男 / 19. CUBAN PARCO / 20. 物は壊れる、人は死ぬ、三つ数えて、眼をつぶれ / 21. Ark Diamant / 22. アケガラス / 23. 真夜中の玉子 / 24. トンピクレンッ子 / 25. くれない埠頭 / 26. スカレットの誓い / 27. OK,パ・ド・ドウ


【価格】1000円
【販売期間】2012年12月31日迄
【ダウンロードに関して】
・windowsをご利用の方は、avi形式でダウンロードを推奨します。Windows Media player等の再生ソフトでご覧ください。
・Macをご利用の方は、m4v形式でのダウンロードを推奨します。Quick Time等の再生ソフトでご覧ください。

【フォルダの解凍に関して】
windowsをご利用のお客さまは、標準の解凍設定、もしくは解凍ソフトによっては正常にファイルを解凍できない可能性がございます。その場合、お手数ですが別の解凍ツールを使用し、再度解凍をお試しくださるようお願い致します。7-zip(フリー・ソフト)での解凍を推奨しています。
※7-zip http://sevenzip.sourceforge.jp/
また、ファイル名が長く操作出来ない場合や、ダウンロードしたファイルに不備や不明点がありましたら、info(at)ototoy.jpまでお問い合わせください。

解凍ソフト7-zipの詳しい使い方はこちらから
活動休止直前に発表したニュー・アルバムを高音質で

ムーンライダーズ / Ciao!
配信形式 : HQD(24bit/48kHzのWAV)、mp3
価格 : HQD、mp3共に2000円

>>渡辺裕也、山田美樹、小川ワタルの『Ciao!』論評を読む


配信限定シングル・コレクション&初音ミク作品も配信中!

(左)ムーンライダーズ / Her e go'round (右)初音ミク plays 月光下騎士団(ムーンライダーズ) / plusico Produced by Thomas O'hara ピノキオP

過去作も配信中!!

ムーンライダーズ オリジナル・アルバム 完全ディスコグラフィー

1975年の結成以降、常に時代を切り取り、新しいサウンドとテクノロジーを導入して、先鋭的な作品を発表し続けてきたムーンライダーズ。メンバー全員がソング・ライターであり、プロデュースやスタジオ・ミュージシャン業をもこなすという稀有なバンドである彼らの35年の歩みを追うべく、1976年のデビュー作『火の玉ボーイ』から2009年リリースの前作『Tokyo7』まで、オリジナル・フル・アルバム全21作品をご紹介! これを読めば、この35年間の時代の背景や音楽の歴史とともにムーンライダーズがいかに前衛的な音楽を奏で続けてきたのか、そして何故それらが普遍的なポップ・ミュージックとして受け入れられてきたのか、その理由がみえてくるはず。

>>ムーンライダーズ オリジナル・アルバム 完全ディスコグラフィーはこちら

PROFILE

武川雅寛

1959年 神奈川県生まれ。大学在学中より様々なセッションに参加した後、1972年に鈴木慶一らと、はちみつぱいを結成。世代を超えて今も広く愛される名盤『センチメンタル通り』を発表後、はちみつぱいは解散し、ムーンライダーズ結成に参加する。ムーンライ ダーズは今も先鋭的な作品を発表し続け、活動は30余年を越えた。バンドの活動と 並行し、得難いヴァイオリン・プレイヤーとしてジャンルを問わず、多数のライヴ、 レコーディングに参加している。

>>武川雅寛・オフィシャル web

岡田徹

1949年4月23日東京生まれ、はちみつぱいに加入後バンド解散後はそのままムーンライダーズの結成に参加し、以降2011年の無期限活動休止まで数多くの名曲/名演を残す。また80年代からはプロデューサーとしても活躍、PSY・S、パール兄弟、プリンセス・プリンセス、野田幹子等数多くのアーティストを手掛け、アニメ/映画音楽も「SDガンダム」をはじめ昨年話題になった「イヴの時間」の音楽監督を担当。またCM作家としても、ソニープレイステーションの起動音、ドコモダケなど数多く手掛けている。88年からはソロ活動も開始、初のソロ作「架空映画音楽集」を発表、ソロ名義以外にもバンド「ライフ・ゴーズ・オン」や「ヤートーイ(山本精一等)」、近年ではエイプリルズのイマイケンタロウ、ELEKTELのporymoogと「CTO LAB. 」を結成している。

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[インタヴュー] 岡田徹, 武川雅寛

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