2012/07/02 00:00

自主レーベル「SALTMODERATE」を設立し、デビュー30年を経て尚、精力的な活動を繰り広げる安全地帯。OTOTOYでは、スタッフや芸人、ミュージシャン、アイドルなど様々な立場から安全地帯を語ってもらい、その魅力を多角的に浮かび上がらせるべく、7日間連続毎日更新の特集記事「君は、安全地帯を聴いたか?」を展開。

第六回目は、音楽評論家、そして音楽ライターとして知られる今井智子。同年代として、リアル・タイムで彼らの姿を見てきた彼女は、今回の新アルバムをどのように聴くのか? そして、リレコーディングによって見えてくる楽曲、バンドの変化とは? 今回は、8/22にリリースされる安全地帯のニュー・アルバム『The Ballad House~Just Old Fashioned Love Songs~』のトラック・ダウン前の音源を聴いていただき、そのレビューをお届けする。

「君は、安全地帯を聴いたか?」とは
ミュージシャンや芸人、アイドルたちが日替わりで、自分の思う、ミュージシャン・安全地帯の魅力を語ります。ジャンルや年代、関係性は様々。それぞれの角度から安全地帯を浮かび上がらせる、7日間毎日更新の集中連載。

第一回「今、なぜ、安全地帯なのか?」 by 桜井葉子(Steezlab Music)

第二回「理想のロック・バンド 安全地帯」 by 中田裕二(ミュージシャン)

第三回「安全地帯 / 玉置浩二へのラブレター」 by 大谷ノブ彦(ダイノジ)

第四回「はじめてのあんぜんちたい」 by BiS(新生アイドル研究会)

第五回「ポップ・ミュージックのスタンダード」 by ミト(clammbon)

安全地帯

第六回「初心で歌う無償の愛 安全地帯」 by 今井智子(音楽ライター)

セルフ・カヴァーをする人が多いのは何故だろう。それは若気の至りを大人となって上書きするわけではなく、セルフ・カヴァーする事で新しいマイルストーンを記すことなのではないかと思う。若い頃の自分を肯定できるからこそ、今の自分を重ねる事ができる。安全地帯のセルフ・カヴァー集『The Ballad House~Just Old Fashioned Love Songs~』を聴きながら、そんなことを考えた。

昨年、(事実上)5度目の結婚でスキャンダラスな注目を集めた玉置浩二が、気持ちも新たに安全地帯のラブ・バラードを歌う、と書いたら身も蓋もない感じになってしまうが、類い稀な歌唱力を持つ玉置だからこそ、時を経て歌い直す事で生まれる味わいというものを、この作品は示していると思う。

書き下ろしの曲をレコーディングする時の緊張感や新鮮さは、言うまでもなくその時にしか生まれないものだ。新作の魅力はそこにあったりもする。けれどもライヴを重ねて歌い続けて行くうちに、歌との距離が変わってくる。歌詞の解釈や歌い回しに変化が生じて、当初と違うニュアンスを生み出すこともある。バンドならメンバー個々の演奏に同様の事が起きて行くから尚更だ。

初録音では初夜を迎えるような手探り感や過剰なムードメイキングもあった玉置の歌が、本作では手慣れた大胆さや飾り気の無い繊細さで、開放感のある表情に変わっている。またバンドの演奏も、当初は時代背景もあって過剰な味付けをされていたものが、今は必要なものだけで成立している。結果、基本的なアレンジを変えてはいないのにスッキリと歌を聴かせることになっている。

2010年にセルフ・カヴァー集『安全地帯 HITS』を出した際の発言を見ると、若い頃に歌っていた歌が今は背伸びせずに歌える、と玉置は言っている。本作も同様だろう。見事なまでに”私”と”貴方”だけを描く歌の大半は松井五郎の作詞によるものだが、抽象的でありながらリアリティのある歌詞は、5度目の結婚を経て歌う説得力もある。また、新曲の「君がいないから」「SOS」は玉置自身の詞・曲で、数多の恋愛経験があればこその純愛観といったものが現われているように思う。蛇足ながら純愛の最大の敵は経済力だったりするものだ。

30年前のデビュー時に井上陽水のバックを務めていた安全地帯で、玉置浩二は所在なさそうにタンバリンを振りながらコーラスしていた。ヴォーカリストとして堪え難い状況だった事だろう。人気絶頂のアーティストの背中を見ながら学んだ事が彼とバンドの原動力になり、その後の成功に結びついたことは想像に難くない。もちろん玉置の傑出したヴォーカル力と作曲の才能が開花し、バンドは経験を積み度量を増していくことで掴んだ成功であり栄光だ。断続的ながら30年にわたり活動を続けてきた実力派と言うに十分な存在だが、案外それを声高に語られることは少ない。

聞くところによると本作のテーマは原点回帰であり、それを象徴するようにジャケットのアートワークには彼等が故郷・旭川で活動拠点としていたプライベート・スタジオ「ミュージカル・ファーマーズ・プロダクション」をモチーフにしているとか。成功の足跡でもある80年代の曲を、無償の愛を綴るように音楽への純粋な思いを込めて、今の彼等ならではの円熟味を持って虚心坦懐に歌い演奏する姿が伝わる作品である。(text by 今井智子)

PROFILE

今井智子
雑誌編集者を経て70年代末からフリーの音楽ライターに。主に邦楽ロックについて、音楽雑誌、新聞などに執筆。著書『Dreams to Remember 清志郎が教えてくれたこと』(飛鳥新社)。

安全地帯
玉置浩二(たまき こうじ、1958年9月13日) - ボーカル、ギター
矢萩渉(やはぎ わたる、1957年6月27日) - ギター
武沢侑昂(たけざわ ゆたか、1958年5月16日) - ギター
六土開正(ろくど はるよし、1955年10月1日) - ベース、ピアノ、キーボード
田中裕二(たなか ゆうじ、1957年5月29日) - ドラムス

<1980年代を代表し、ヒット曲の数々で時代を席捲したロックバンド>
1982年にキティレコード(現・ユニバーサルミュージック)と契約し、『萠黄色のスナップ』でメジャー・デビュー。
1983年、サントリーから発売された「赤玉パンチ」のCMソングに起用された「ワインレッドの心」が大ヒット。一躍全国にその名が知れ渡る。その後も「恋の予感」、「熱視線」などの楽曲を立て続けにヒットさせ、1980年代を代表する人気グループの地位を不動のものにする。1985年には「悲しみにさよなら」が大ヒット。

<活動休止、その後>
1988年秋、香港コロシアムでのコンサートを最後に突然活動休止を宣言。
1990年、7thアルバム『安全地帯 VII -夢の都』のリリースを機に活動を再開。翌1991年には『安全地帯 VIII -太陽』をリリース。1992年12月、アコースティック・スタイルでのコンサート・ツアーを終了後、再び活動を休止。『ひとりぼっちのエール』は翌1993年2月10日にリリース。
活動休止を境に玉置はソロでの音楽活動はもちろん俳優業にも活動の場を広げる。自身最大のヒット曲となる「田園」をはじめ、「メロディー」「MR.LONELY」などソロでも多くの楽曲を発表する。他のメンバーも個々の活動に入る。この時、安全地帯の所属会社がキティレコードからソニー・ミュージックエンタテインメントに移籍。
2001年頃より安全地帯のレコーディングを開始する。
2002年7月10日に10年ぶりのシングル『出逢い』をリリース。同年8月7日に9thアルバム『安全地帯 IX』をリリース。
2003年10月22日には10thアルバム『安全地帯X -雨のち晴れ-』をリリース。ツアーでは5人全員が揃い、80年代の活動の場であったライヴ・ハウス「shibuya eggman」でもライヴを行う。ツアーは2003年12月で全日程を終了。
ツアー終了後の2004年以降はグループ活動を休止し、再び個々の活動に入る。
2010年、ユニバーサルミュージックへ移籍。同年3月シングル『蒼いバラ / ワインレッドの心(2010ヴァージョン)』を皮切りに5月シングル『オレンジ / 恋の予感(2010ヴァージョン)』、アルバム『安全地帯XⅠ☆Starts☆「またね…。」』、6月アルバム『安全地帯 HITS』を立て続けにリリース。7月から10月には『安全地帯“完全復活”コンサート・ツアー2010~Start&Hits~「またね…。」』を敢行。
2011年には8月シングル『結界 / 田園』、9月アルバム『安全地帯 XⅡ』、11月アルバム『安全地帯 XⅢ JUNK』をリリース、9月から12月には『安全地帯コンサートツアー2011「田園~結界」』を敢行。
そしてデビュー30周年である2012年、新たな境地を開くべく、安全地帯・玉置浩二インディーズ・レーベル「SALTMODERATE」を7月に発足し、本格始動開始。

>>SALTMODERATE HP

30th Anniversary Album

『The Ballad House~Just Old Fashioned Love Songs~』

デビュー30周年を迎え、連綿として綴られてきたバラードで、メンバーの思い入れの深い曲を中心にアレンジを一からやり直し、リレコーディングを敢行! 名曲10曲に2曲の新曲を加えた全12曲!
2012.8.22 (水) リリース

30th Anniversary Concert "The Ballad House"

2012.9.1 (土) いわみざわ公園野外音楽堂キタオン
2012.9.5 (水) 東京国際フォーラム ホールC
2012.9.6 (木) 東京国際フォーラム ホールC

>>Live Schedule

「君は、安全地帯を聴いたか?」展開スケジュール

第一回(6/27) : 「今、なぜ、安全地帯なのか?」 by 桜井葉子(Steezlab Music)
第二回(6/28) : 「理想のロック・バンド 安全地帯」 by 中田裕二(ミュージシャン)
第三回(6/29) : 「安全地帯 / 玉置浩二へのラブレター」 by 大谷ノブ彦(ダイノジ)
第四回(6/30) : 「はじめてのあんぜんちたい」 by BiS(新生アイドル研究会)
第五回(7/1) : 「ポップ・ミュージックのスタンダード」 by ミト(clammbon)
第六回(7/2) : 「初心で歌う無償の愛 安全地帯」 by 今井智子(音楽ライター)
第七回(7/3) : 「私の知っている安全地帯」 by ???

この記事の筆者
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