2011/10/11 00:00

笹倉慎介インタビュー

目を閉じると、田園風景がすっと頭に浮かぶ。背の高い草に囲まれて一人寝そべりながら空を見上げる。何の変哲もない時間、しかしこれを平和と呼ぶのだろう。笹倉慎介によるセッション・アルバム『Country Made』を聴きながらそんなことを思った。彼の作り出すサウンドはニール・ヤングやジェイムス・テイラー、日本でははっぴいえんどの影響を感じさせる、穏やかな音色に包まれたフォーク・ロックだ。2009年に録られたリハーサル・テイクをリメイクして作られた今作は、録音時の空気感がそのまま1枚のアルバムに封じ込められている。聴く誰もに「古き良き時代」を彷彿させる、暖かさと渋みをもつ音楽。この60、70年代の雰囲気を、09年の録音時の空気を、どのようにしてここに閉じ込めたのだろうか? 彼に直接話を伺った。

インタビュー&文 : 碇 真李江

笹倉慎介 / Country Made
いつものように集まったミュージシャン達は静かに演奏を始めた。「うん、いい感じだね。」何気なく立てていたマイクには、そんなある日の空気が録音されていた。リハーサル・テイクのリメイクにより完成した本作は、近年の録音機材の進歩により可能となったミュージシャンズ・メイドな音で溢れている。現在制作中のフル・アルバムに先駆けてリリースされた、暖かみのあるサウンドを追求したセッション・ミニ・アルバム。

【トラック・リスト】
01. Country Made / 02. 春の声 / 03. Rocking Chair Girl’09 / 04. since1972 / 05. 今夜あの町へ


曲自体がどういう音を求めているかを突き詰めていければいい

――現在埼玉県入間市の米軍ハウスに住んでいるとのことですが、なぜそこに住もうと思ったんですか?

笹倉慎介(以下、笹倉) : 僕は日本の音楽でははっぴいえんどが好きなんですけど、細野晴臣さんや大瀧詠一さんが米軍ハウスに住み、そこで音源を録っていたというのを聞いていたので、前々から住みたいとは思っていたんです。

――その前はどちらに住んでいたのですか?

笹倉 : 実家は静岡県の富士宮市です。大学時代は千葉の方で、卒業後2、3年はサラリーマンやアルバイトをしていたのですが、一度実家に戻り、そこで米軍ハウスがまだ残ってるのを知って住み始めました。宅録を始めたのもその頃ですね。

――宅録を始めた頃から、今のような作風の音楽でしたか?

笹倉 : そうですね。一番初めに宅録で作った曲は、ファースト・アルバムに入っている「Rocking Chair Girl」です。

――今作にも「Rocking Chair Girl‘09」という曲が収録されていますが、この言葉に何か思い入れはあるんですか?

笹倉 : 「60~70年代アメリカの平和の象徴」ですね。ロッキング・チェアーに揺られながら眠っている女の子。その情景が平和のイメージに繋がっている気がするんですよね。それをモチーフに作ったのが「Rocking Chair Girl」で、「Rocking Chair Girl‘09」はその続きの歌です。

――その時代の音楽がお好きなんですか?

笹倉 : 好きですね。でも今の音楽でもいいと思ったものは何でも聴きます。昔の音楽は技術的に複雑なんですよね。テクニシャン揃いで、実際にコピーをしてみるとものすごく巧妙なことをしている人がたくさんいることに気付くんです。生楽器しかなかったから、上手い人じゃないとイメージ通りの音を出せなかったんでしょうね。今はもっと手軽に音楽を作れるようになっているので、間口が広くなったなと思います。イメージさえあれば比較的音楽を作りやすくなったのかな。

――リアル・タイムで聴いている世代ではないのに、その時代の音楽のどこに惹かれたんでしょう。

笹倉 : パッと聴いた瞬間の印象が良かったんです。好きになる音楽って、イントロの時点でわかりませんか? あとリアル・タイムではないにしろ、多感な時期に二―ル・ヤングを聴いて感動していたので、そのせいもあると思います。もしその頃に80年代の音楽を聴いていたら、それはそれで好きになっていたんじゃないかな。ファースト・アルバムや今作は、質感的には70年代に近いものになっていると思います。現時点ではそこまでそこにこだわってはいないのですが。

――そのこだわりが無くなったのはなぜでしょう?

笹倉 : 無理に自分の好きなものに近付ける必要はないし、僕はシンガー・ソングライターなので、曲を作って、曲自体がどういう音を求めているかを突き詰めていければいいなと思います。

仕事も音楽も一本の太い線で繋がっている

――笹倉さんは今年、会社(PUFFIN RECORDS)を立ち上げたり、コーヒー・ショップの経営もされていますが、音楽活動とのバランスはどのように考えていますか?

笹倉 : 自分がやりたい時にやれるスタンスですね。多分、ミュージシャンとしてやっていくのは一生変わらない。もう次の作品にも取り掛かり始めているし、会社を立ち上げたことは音楽にも直結していることなので、別で動いている感覚ではないですね。コーヒー・ショップは他が色々と忙し過ぎて今年はクローズ状態なんですが、レコーディングもスタジオも会社も全て含めて音楽と関わっている時間が長いので、仕事も音楽も一本の太い線で繋がっている感じはありますね。両方楽しいし、楽しみです。

笹倉が運営するレコーディング・スタジオ「guzuri recording house」

――サラリーマンをやっていた時期は、仕事と音楽は切り離されていましたか?

笹倉 : 22、3の頃で、その頃は全く別ものだと考えていましたね。仕事と音楽活動のギャップがすごい嫌でした。今はそんなことはない。

――どのように変化しましたか?

笹倉 : 仕事出来るだけありがたいじゃんって。もちろん個人差はありますが、日本で普通に生活をしている限り命を脅かされることってそうそうないじゃないですか。もっとも、自分のストレスを音楽にすると僕は続かないんです。十代の頃は思春期的な欲求を歌にしていて、記録として残す分にはいいんだけど、同じ気持ちで歌い続けることは難しい。

――では今は、どういう歌詞を書きたい?

笹倉 : 聴く人の気分を想像しながら書いていますね。曲によって様々な気分のきっかけを作れたら。

――タイトルに「Country」という単語が入っていたり、音楽も田舎の風景を思い起こさせるのどかさを持っていますよね。田舎の方がお好きなんですか?

笹倉 : 田舎、好きですよ。でも都会も同じぐらい好きです。それぞれに良さがありますよね。

――はっぴいえんどの影響を受けているのもあるかもしれませんが、シティ・ポップの要素も強いですよね。都会のどういうところが好きですか? たとえば、東京だと。

笹倉 : ほとんどの人が田舎から出てきている人なので、何かを求めて一歩踏み出してきた人が集まっているというところですね。だからエネルギッシュ。逆に地方には、その土地の風土とコミュニケーションの中で過ごす心地よさがある。ライヴで色々なところを回るとその土地ごとにアンテナを張っている人はいるし。

――日本語で歌うことにこだわりはありますか?

笹倉 : 日本語で歌うことというよりも、英語独特の空気感を日本語で出すことにはこだわっています。将来的には英語で歌いたいんですけどね。世界に通用するシンガー・ソングライターというのは、僕が一生をかけてでもなりたいものですから。

――世界に通用するシンガーというと、具体的には?

笹倉 : ジェイムス・テイラーや二―ル・ヤングとか、ロックの殿堂入りしているような圧倒的な人ですね。ちょっと前までは憧れを追いかける感覚だったんですが、今は自分の立ち位置を見極めて出来ることを発信していかなければと思っています。

2009年のバンドと2011年の僕がセッションしている

――では、今作の話を聴かせてください。2009年に録音されたものということで、2年近くのタイム・ラグがあると思うのですが、違和感はありませんか?

笹倉 : 歌と自分のギターは差し替えましたが、バンド・メンバーのリハーサル・テイクはそのままです。

――リハーサルのものを録り直そうとは思わなかったんですか?

笹倉 : アルバムを作る上で曲をきちんと形にしたいけれど、新しく録り直してこれ以上に良い雰囲気のものは作れないだろうと思ったので。2009年のバンドと2011年の僕がセッションしているのもいいかなと。

――雰囲気を大事にされているんですね。

笹倉 : そうですね。今作はレコードの原盤を作って、それを再生した音をCDに焼いたんです。セッションの風景を閉じ込めたものにしたかったので、そのためにはアナログ・レコードだなと思いました。

――聴き手のことを意識するとのことでしたが、今作をどういう人に聴いてもらいたいですか?

笹倉 : どんな人にでも! ライヴでよくカヴァーをやっているのですが、例えば僕がカヴァーした曲を聴いて気になって調べて、そのまま音楽のルーツをさかのぼっていく人がいたり、何かのきっかけを作り出せたらなと思います。出来ればたくさんの人に聴いてもらって、好きだなと思った人には聴き続けてほしい。流行りで聴いて一回きりになるのではなくて。奥底に眠ってても、たまに思い出した時に引っぱり出して聴いてもらえたらなと思います。

街の匂いと草道の情景を内包するポップス

曽我部恵一 / PINK

制作には木暮晋也、グレートマエカワなど旧知のミュージシャンが参加、そしてマスタリングはNYの名匠Greg Calbiが担当し、これまでの音楽活動の中でも最も贅沢で芳醇な傑作となりました。この春、メロウでソウルフルな曽我部恵一の音楽に心を震わせて下さい。

ostooandell / オストアンデル

彼らの奏でるメロディは淡白で都市的な印象を与えつつも、どこかに田舎らしい郷愁の影も隠し持っている。うるさくなく物足りなくもなく、適量の音を正確に並べて進む曲。そこに乗るyukaDの飄々としていながら時に感情的に揺れる声は渇いた中にまだ湿り気を残していて、その無気力さを更に切なく感じさせる。その才能に魅せられた曽我部恵一が自らプロデュースを買って出てリリースに至ったというのが今作。さらりと横を通り過ぎるも耳に確実に中毒性のあるメロディを残し去る彼らの音楽は、鼻歌となってあなたの日常に潜り込むだろう。

bonobos / オリハルコン日和

未来音楽はダイヤモンドをも砕くロック界の昼行灯、bonobos。自らのレーベル「ORANGE LINE TRAXXX」を設立し、一国一城の主となった彼らの、2年11ヶ月ぶりに放つオリジナル・アルバムは、至高のスーパー・ハイブリッド・ミュージック!

LIVE SCHEDULE

2011年10月23日(日) @下北沢 lete
Open 18:30 / Start 19:30

笹倉慎介 PROFILE

2008年に発表したファースト・アルバム『Rocking Chair Gir』が高い評価を受け、暖かみのある歌声や楽曲で日本には少ないタイプのシンガー・ソングライターとして注目されている。ライヴでは空間の持つ響きに寄り添う演奏スタイルをベーシックに、繊細なタッチでつま弾かれるアコースティック・ギターからフラット・ピッキングまでバリエーション豊かな音色と歌声が、心地よい臨場感でオーディエンスを包み込んでゆく。レコーディング・スタジオや珈琲店を営み、生活の中で生まれる音楽と暮らしている。

笹倉慎介 Official website

この記事の筆者

[インタヴュー] 笹倉慎介

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