『risu作品のエンジニアリング行程を通して自身のエンジニアリング哲学を肯定するハンサムは私だ。』
こんにちは、テクマ! です。今回はこちらに文章を書く機会をいただきましたので、私がトラック作成やミックスを手掛け、ototoyからリリースされるrisuさんの音源の製作についての解説を、Twitterにおける「〜ハンサムは私だ。」の文体とは違う、サンレコの機材レビュー調の文体にて、やんわりかつ一方的かつ各方面に配慮しつつ書かせていただきます。
まず今回の音源でトピックになるのはいまみちともたかさんの参加だと思います。ご存知、バービーボーイズのギタリストでありソングライターであり、ししゃもを食べまくったおかげで顔が長くなったという逸話も持つ、自称:ギターも得意なホラ吹き、です。近年では、椎名林檎さんの『ありあまる富』への参加で彼を知っている方も多いのではないのでしょうか。実はいまみちさんの参加については私がキッカケになっています。私の友人であるmusic from the marsの藤井友信君がいまみちさんと接点を持つようになり、ツイッターを薦め、そのツイッター上で私といまみちさんがだんだん交流するようになり、私が前作のミックスを手掛けたrisuさんにも興味を持つようになり、彼女主催で私も出演したイベント『ホンモノのニューウェーヴ』(他にはYorz In The Sky、ロマンポルシェ。、DJとして花形ハヤシさんも出演。)に来場してくれたのが、昨年の9月25日のこと。
その翌日、いまみちさんから私とrisuさんに「おとなげないことをします」というメールがあり、突然いまみちさん作詞・作曲のデモ曲が送られて来たのでした。「これはスゴイ!曲もメチャクチャカッコイイ!」ということで、メールでやりとりし、私がベーシックトラックを作成し、いまみちさんのギターをダビング、risuさんの歌もダビングして私がミックスする、という製作の段取りを決めました。
最初に私が行った作業は、BPMを測定して、送られたデモを愛用のLogic Expressに張ってリズムを組む、というものでした。ちなみにいまみちさんのデモはギター数本とオートチューン(ヴォコーダー?)がかけられた歌数本、というものでしたので、リズムは組みやすかったです。デモで使用されていたメトロノームの音が良かったので、これだけのデータをもらい、それと噛み合うようにリズムを組み、ベースライン、シンセパートなどを打ち込んで、risuさんにmp3を送ったところ「ベースがハネててやだ。こういうのがいい。」というお言葉と共にTelexのYouTubeのURLが送られてきましたので、それを参考にハネていたベースラインを8分音符のみの世界で再構築し、また、元のデモのデータともども構成をエディットして全体の長さを伸ばし(この時点で最終版とサイズは同じになっています。)、risuさんの確認の後いまみちさんに送付しました。
キーを変更することがメールのやりとりで決定され、昨年の某月某日、risuさんといまみちさんがテクノポップ研究所(私の自宅スタジオです)に来て、いまみちさんのギターのダビングが行われました。それからはrisuさん自身によるシンセのダビングと歌のレコーディング、いまみちさん自身によるギターのダビング、最終版の歌のダビング、をメールとファイル交換でやりとりし、私がミックス、いまみちさんがマスタリングして出来上がったのが、いま皆様の前にある『Cover Me』となります。
最近私が得意とするノーEQ、ではさすがに全てのミックス作業をやりきることはできませんでしたが、ギターの各種トラックはノーEQノーオートメーションで一曲を通して成立するバランスをギリギリまで追い込み、それでも演出としてどうしても強調したい場所だけリージョンを切る、という手法でミックスしたため、いまみちさんのプレイを活かした、整えられすぎていない音像になっているのではないか、と自負しています。また、作業途中でキーが変わったため、新しいキーで綺麗に鳴るシンセベースにするために、ネース用シンセのフィルターとエンベロープのエディットを行ったのも、興味深い思い出ですね。そうだ、私アナログモノシンセのSH-101も所有していますが、今回はLogic Express付属のソフト音源しか使用していないことも報告しておきます。
一方、『Space X』は元々risuさんがライヴでやっていた曲でして、これについてはファイル交換でrisuさんのマルチデータ(risuさんもLogicユーザーですのでプロジェクトファイルごともらいました。)といまみちさんがダビングしたギターのデータを送ってもらい、私がミックスしました。8ビートの曲というのは、全体の重心をどこに置くかでスピード感がガラっと変わってしまうものです。『Cover Me』はかなりズシっとした重心になっていましたが、こちらは重心を上げないとスピード感が削がれるけれどかといって軽い音場になってしまってもなぁ、、、といった方針決めでかなり悩みました。また、ノーアクセントで16分音譜で鳴るハイハットといまみちさんのリズムギターがどのぐらいの割合で耳に聞こえるといちばん機械的かつ人間的で、言うならばrisuさんの世界観に合うのか、という部分の方針決めにもかなり神経を使いましたね。『Cover Me』で得たノウハウでかけたトータルコンプレッサーがこちらには合わず、結局トータルコンプは無しにして、いまみちさんによるマスタリングに音圧出しはぜんぶ任せたことも報告しておきます。
といった具合で製作しましたこの2曲、末永く皆様にお楽しみ頂けますと幸いです。とはいえ、今度は、モア・ベターよ!テクマ! でした。