音をひたすら弄って楽しむ

——ベースの重心の低さとパキッとしたドラムで、アルバム全体にグルーヴ感と安定感がありました。

ヤマダ : それは完全に中村くんの功績ですね。自分でやるとどうしてもキックが色んな音に混ざってしまうというか、抜けてこないんですよね。それをすごい頑張ってくれて、抜けとか分離の調整で重心をしっかり作ってくれました。特にキックが小さいか大きいかだけで曲の内容がすごく変わっていっちゃうんですけど、そこを上手く作っていくのは難しいんですよね。
中村 : 音数がすごい少ないバンドだったら、キックはいくらでも抜けると思うんですけど、今回はウワ音が多すぎるので、いかにキックの上の方が他と被らないようにするのかパズルのような作業でした。
ヤマダ : アルバムを一聴するとすんなり聞けると思います。「音数そんなに多いかな?」と思うかもしれないですけど、実際は同時に鳴っている音がかなり多いんです。最初のラフ・ミックスを聴いた時はサラっとしすぎちゃってて「もうちょっと色々な音が聞こえるようにしようよ」って簡単な気持ちで提案したら、そのまま徹夜で作業みたいな(笑)。
中村 : 最初はもっとバンドっぽい感じに作っていたんですけど、彼のほうからちょっとヒップホップっぽい重心を出したいという要望があったりして、2人で少しずつ詰めて変わっていったんです。
ヤマダ : MASに関しては、色んな編集をして手を加えるから面白いと思っている部分があって、それをしないと自分の曲にならないとも思っているので、今回のミックスでもなるべくそのようにしてもらいました。もともと自分でミックスまでやっていたということもあって、エディットやミックスの遊びみたいなことは曲作りの一環として普通にあるんです。音をひたすら弄って楽しむという部分は制作の中で大きいので、別の人が関わってもなるべくやれるだけやってもらおうと思ってました。

MAS

——音を楽しむという意味では、『えんけい / En Kei』の24bit/48kHzの高音質音源をリリースするわけですが、高音質ということについては、どう考えていますか?

ヤマダ : 正直、もっと単純な気持ち良さで聞いているかな。もちろん音が良ければ気持ち良いんですけど、聞いている人それぞれの環境で楽しんでくれたら良いと思っています。色んな選択肢がある中の1つというか。ざらっとしたアナログや古いラジオの音質も好きなので小難しくは考えていません。

——なるほど。中村さんはエンジニアとしてどう思いますか?

中村 : ドラムとかベースとか、楽曲の軸になっている部分はレートを落としても気持ちよく聞けるようにミックスしているつもりなので、環境に関わらず楽しんでもらえると思います。でも、その軸の部分の間に挟まっている素材、単体では聞きとれるかどうか分からない小さな音だけど、空間に肉付けしてトータルの雰囲気を作ってるみたいな音が沢山入っているんですね。ビットレートが高ければ、ダイナミック・レンジが広くて小さいものでもちゃんと再生されるので、色々な音が聞こえて来てより楽しめると思います。
ヤマダ : 聞き所を変えることによって新たな発見があるという部分は意識して作っているので、ドラム、ベースまたはサックスやバイオリンの音から意識を他の音に向けた時に「あ、こんなグルーヴも入ってるんだ」と、気づくかもしれません。そういう意味ではビットレートは高い方が良いかな。

——制作にはかなり時間がかかったんじゃないですか?

ヤマダ : そもそも相当デモを作り込んでいるので、その時点でかなり時間はかかってますね。ボツ曲もいくつかあります。レコーディング自体は6月末からはじめて... なんだかんだ延べ3ヶ月ぐらいですかね。2人とも忙しい時もあって合間合間を縫ってという感じでしたけど。とにかく編集に時間がかかりました。
中村 : 1日の作業が20何時間とかありましたよ。40時間連続作業みたいな状態の時もありましたね(笑)。
ヤマダ : マスタリングのために彼のスタジオに行って細かい部分を修正してたら、マスタリングできずにミックスだけで終わっちゃったこともありましたね(笑)。最終調整的に細かい部分を詰めるくらいの感じだったんですけど、「こんなに変えちゃう? 」みたいな感じですごいことになっちゃって。
中村 : あれはもうマスタリングではないです(笑)。例えばドラムだけとかベースだけとか楽器ごとにバラしたものを持って行って、それを1週間ぐらいかけてマスタリングするということもありますけど、そんなこと普通は出来ないじゃないですか? でも今回はそういうイメージで2日間押さえていたんですけど、ミックスだけで終わったっていうね(笑)。
ヤマダ : いままで自分のやり方でしかミックスしたことが無かったんです。中村くんのミックスが普通に良い出来だったとしても、僕の頭の中で鳴っているイメージとはちょっと違っている部分もあったりしたので、そのイメージにエンジニアがアジャストしていくという作業が大変だったと思います。
中村 : 基本的に打ち込みのサウンド・プロダクションと生楽器のそれって違うじゃないですか? 打ち込みだと、こういう音にしたいって後から思いついた場合、違う音色に差し替えればいいけど、生楽器だと差し替えることができないみたいなことが当然あるんです。その出来ないところを無理矢理もっていくっていう作業でしたね。
ヤマダ : でも最終的にはもっていってくれましたからね(笑)。バンドだから絶対バンドっぽくしなきゃいけないとも思っていないですし、自分でやるともっと音を動かしたりとか色々やりたくなっちゃうんです。そういう部分ではいつもと違うので納得するまでに時間はかかったんですけど、結果的にそれをやらない方がいいんだっていうところに落ち着きました。

——『えんけい / En Kei』を聞いていると、どうしてもLIVEに期待しちゃいます。

ヤマダ : MASの曲はどうしても楽曲の展開や構成上、変えられない部分が多くて、それを変えようとすると膨大な作業になってしまうんです。別の曲を用意したほうが良いんじゃないかぐらい大変なことになってしまうので、LIVEではそのままやってます。ちょいちょい変えている箇所はもちろんあるんですが。僕はあまりLIVE至上主義ではなくて、音源とLIVEで同じ曲なんだけど違う感じになってしまうのはなんとなく嫌なので、できればもっと近づけたいような離したいようなという... 正直色々悩んでます(笑)。LIVEはLIVEの良さがもっと出せるように... 頑張ります(笑)。

——MASはJAZZエレクトロニカという捉え方をされたり、DCPRGやROVOなどとも比較されることことも多いと思いますが、その点についてはどう思いますか?

ヤマダ : そういう意見もありますし、僕自身JAZZはもちろん好きですけど、JAZZ的なことをやろうと思ったことは全く無いですね。JAZZ的な要素をMASに持ち込んだのは大谷能生ですね。JAZZやエレクトロニカの要素はもちろんあるんですけど、そこを意識して作曲したことは実は無いですね。自分のやりたいようにやっているのでどう比較されても良いんですけど... LIVEパフォーマンスについては、今のトコロはどう考えてもDCPRGやROVOとはレベルが全然違う、と個人的には弱気です(笑)。ですが、たどり着きたい形みたいなバンドでもあるので、それに向けて精進していきたいですね。個人的にはROVOには思い入れがあって、かつてあった恵比寿みるく、新宿リキッドルームでやっていた時は良く見に行ってました。今でも大好きです。

大谷能生

——大谷さんとはどうやって出会ったんでしょうか?

ヤマダ : 2002年の時にサックスを吹いてくれていたメンバーがいたんですが、Flyrecのイベント『ReSet』の2週間前ぐらいに急遽出られなくなってしまったんです。その時たまたまJim O' Roukeのバンドで叩いていたTim Byrnesという人のセッションを原宿でやっていたのを見に行ったら、そこで大谷が吹いていたんですよ。で、僕の友達が彼を知っていたので紹介してもらって誘ったのが最初です。

——DUBミックスが入るのもMASならではだと思うのですが、石本聡さん(pasadena)との付き合いも長いんですか?

ヤマダ : 僕が名古屋から出てきた当時、石本さんが当時やってたcorkyeesというバンドが気になって連絡したんですよね。だから、それこそ10年以上前からの付き合いですよね。お互いの変遷を色々と見ています。DUB的な事をやろうというのは自発的に考えてます。結果がジャンルとしてのDUBじゃないとしても。

円径、遠景... 点と点がつながる輪や線。彼方の景色。

——『えんけい / En Kei』というタイトルについてですが、なぜこのタイトル名を?

ヤマダ : まず僕が曲作りをする時は、ぼんやりと遠い景色を思い浮かべることが多いので遠い景色という意味の「遠景」と、あとは人との繋がりで自分の活動が出来ているという部分が大きいので、サークルという意味の「円、そして縁」、点と点つなぐ線という意味の「経」と、この2つの意味が込められてます。「円経」について言えば、メンバーや中村くんはもちろん、今回のリリース元のPenguinmarket Recordsの北澤くんやsgt.の明石くんとの出会いもそうですし、ジャケットを作ってくれた軍司匡寛くんとの繋がりなんかもそうですね。今、PVも彼とTANGE FILMSというこれまた良い縁で出会ったスゴい映像制作チームが一緒に作ってくれてます。この円 / 縁が音楽だけじゃなくジャケや映像の高いクリエイティビティに繋がっていることはすごく幸せですね。

——今作からsgt.のメンバーでもある成井幹子(Villin / Vibrafone)が参加したのもそういう「円径」の繋がりからですか?

ヤマダ : そうですね。友達の紹介で成ちゃん(成井幹子)に会って、彼女に入ってもらって横須賀美術館で演奏し、「さぁがんばるぞー」っていう時になんだか活動休止みたいになったりしましたけど(笑)。でも彼女の加入で格段に良くなったと思います。

——自然にこの形になったっていうのが面白いですね。

ヤマダ : 元々1stに入っている「turn」という曲をLIVEでやるために集まったようなメンバーと構成で、なんだかんだここまで来たって感じです。狙いは特に決まっていなくて、その時に作りたいものを作っていたら自然と今の感じになったんですよね。

——「遠景」という意味では、聞いていると本当にここではないどこかにトリップしたような景色が思い浮かびました。しかもちょっぴりダークな世界というか。

ヤマダ : 元々ダークなものが好きなんですよ。ダークなもののほうがスタイリッシュというかクールに思うことが多くて。たぶん頭の中で、ものすごい混沌とした物事を考えていて、音楽はそのアウトプットの意味もあるのかもしれません。でもバンドの場合はその混沌としたものを音にしなければいけないので、少し整理して出しています。1曲目の「We should make strange things」なんかは、もう少し明るい部分もあっても良いかなと思って作った曲だったりします。

——例えば8曲目「Factactacfah」の冒頭でギターがブレイクする瞬間とかキング・クリムゾンの世界を思い出しました。

中村 : 素でやっているとそういう方向に行っちゃうのかもしれないですね(笑)。Radioheadみたいな最近の音楽の元ネタとしてのプログレとか、クラブ・ジャズの元ネタとしてのフュージョンとか、音質に文脈が見え隠れしてる感じがあるので、僕も70年代的な音を今っぽくアップデートしてミックスするっていうのは、今回ちょっと考えてました。けど、たぶん本人には全くそういう意識はないと思います(笑)。
ヤマダ : まあ... ないですね(笑)。

——今後の活動について決まっていることがあれば教えて下さい。

ヤマダ : 今はとにかく11/23(火・祝日)に渋谷O-Nestであるリリース・パーティーに向けてリハーサルをして、良いLIVEをするということですね。バンドとしてもLIVEが平均的に良いものになるようにしなきゃいけない時期だなと思っています。12月には名古屋、大阪のツアーもあるし。あとは中村くんと作業してアルバムの内容にすごく手応えを感じていたので、この作品をどういうふうに聞いてもらえるのかっていうのが今は一番楽しみです。

——最後に一言お願いします。

ヤマダ : We should make strange things」はこのアルバムというか自分のモノ作りのテーマというか宣言みたいなもので、音楽なりアートに携わっている限り僕らは世の中にとっておかしくて奇妙なもの・ことを作っていくべきなんだ、という気持ちの表れというか、そのまんまな言葉です。誰かにとって多少でもそういう感情や機会が与えられることをやり続けていきたいなと思います。

INFORMATION

PENGUINMARKET RECORDS 5th Annivarsary PRESENTS
ーWorld Penguin' s Carnival 滋7DAYS CIRCUIT DAY:6。シ
MAS "、ィ、ア、、 / enkei" Release Party!!!

ニ: 2010年11月23日(火/祝)
会場 : 渋谷O-NEST (03-3462-4420)
出演 : MAS with TANGE FILMS+仙(VJ) / Tujiko Noriko / Joseph Nothing danyoshikawa+タカノ綾(VJ) / aus(band set)
[FOOD] ゆるマクロビ屋台 naturemian
時間 : OPEN : 18:00 / START : 18:30

PENGUINMARKET RECORDS 5th Annivarsary PRESENTS
ーWorld Penguin' s Carnival NAGOYAー
MAS "えんけい / enkei" Release TOUR

日程 : 2010年12月11日(土)
会場 : 名古屋 KD JAPON (052-251-0324)
出演 : MAS / egoistic 4 leaves / BEMBE / sgt.
時間 : OPEN : 18:00 / START : 18:30

PENGUINMARKET RECORDS 5th Annivarsary PRESENTS
ーWorld Penguin' s Carnival OSAKAー
MAS "えんけい / enkei" Release TOUR

日程 : 2010年12月12日(日)
会場 : 大阪 心斎橋SUNSUI (06-6243-3641)
出演 : MAS / middle9 / Harp On Mouth Sextet / sgt. / Clean Of Core
時間 : OPEN : 17:30 / START : 18:00

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World Penguin' s Carnival 2010 / V.A.

祝5周年! インストゥルメンタル・バンドを中心に運営する国内屈指のインディー・レーベルPENGUINMARKET RECORDSが、レーベル・コンピレーションを発売。sgt.、旅団、wooderd chiarie、Clean Of Core、oaqk、L.E.D.の現所属6バンドに加え、11月に5年振りとなる待望の新作を控えたレーベル・ニュー・カマーのMAS、更にゲスト・アーティストとして、大阪のmiddle9、名古屋からegoistic4leaves、東京からnenem、そして海外からは、ロンドンで活動する、 SCREAMING TEA PARTY、パリを拠点に活動するtujiko norikoが参加!

GAIA DANCE / L.E.D.

佐藤元彦(JacksonVibe)、加藤雄一郎(MEGALEV/NATSUMEN/Calm)、オータコージ(曽我部恵一BAND/The sun calls stars)ら、様々なバンドやフィールドで経験を重ねてきた7人で構成されたバンド。自主制作で2003年に発売された前作『LightEmittingDiode』以来、実に6年ぶりの本作は、ジャズ、アンビエント、ミニマルやエレクトロニカなどの要素を含んだサウンドと、メンバーがそれぞれ持ち寄ったフィールド・レコーディングによる音の断片がサウンド・スケープを作り出しています。

 
 

インタヴュー

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