本当の芸術作品には、説明しようとしても言葉に出来ないもどかしさがある。著名な芸術家に対して、解説本や評論文が多いのは、そのもどかしさを必死に言語化しようとする試みなのではないか。

レコミュニで独占配信が決まったツジコノリコの新曲「penguin2009」「magic(P.P.A. repair)」の2曲を聴いて、インタビューを決行した今でも、僕はこの2曲の壮大な存在感に圧倒されている。24bit/48KHzの高音質配信という技術の進歩によって、コピー作品から原画を見ることの出来る地点に我々はやってきた。これまで我々が聴いていた立ち位置は、本当の核心からだいぶ離れた場所だった。新たな立ち位置から聴く彼女のサウンドに、我々は言語化できないもどかしさなどを通り越して、ただただ驚嘆して音に飲み込まれるしかない。この2曲を新たな立ち位置で聴くことが出来るのであれば、何も言わず聴いてほしい。配信という可能性の大きさ、そしてツジコノリコが本当の芸術家であることを感じるだろう。

インタビューの中で、ツジコノリコはこう言っていた。「いつもそこにあって、カタチもない。それが音楽のきれいなところでしょ」

インタビュー & 文 : 西澤裕郎

ツジコノリコ+Tyme.

自分が作る曲とは全然違う良さがあって、いつもワクワクするんです。

—ツジコさんは今もパリに住んでらっしゃるんですよね?

ツジコノリコ(以下、TN) : そうですね。パリに住んでいるんですけど、実は今イギリスの田舎にいるんですよ。羊とかがいる長閑なところです。映画のお話を考えるために、イギリスに来てるんです。

—映画製作に取りかかっているんですか?

TN : ソロじゃないアルバムがほぼ1枚出来ていて、その作業がほとんど終わったので、次は映画を録ろうかと思って。

—映画にはツジコさんの楽曲を使用するのでしょうか?

TN : そうですね、ちょっとだけの予定ですけど。

—では、今回配信される2曲について順にお伺いしたいと思います。「penguin2009」はどのようにして作られたのでしょう?

TN : たっちゃん(Tyme.)とずっと『アルバムを一緒に作れたらいいね』って話をしていて、それがきっかけで出来た曲のひとつが「penguin2009」です。

—ギフト曲として作られた曲だとお伺いしましたが、どういうものなのでしょう?

Tyme.(以下 T) : もともとツジコさんと、もう一人イラストレーターの木村敏子さんと僕の3人で何か作りたいなと思っていたんです。でもアルバムだと長いし大変だったので、気楽に1曲プレゼントっていう形で作ってみようと思って作り始めました。そもそも、うちにツジコさんが遊びにきた時に、友達のウェディング・ソングをちょっと歌ってもらったんですね。それを勝手にエディットして、友達に配ったのが一番最初で4年くらい前のこと。その次に、ちゃんとした環境で作ったのが、『Trust』に入っている「忘れない光」。1年に1曲ペースで作っていて、あと6年くらいしてアルバムになるまでやり続けようかなって(笑)。それぐらいのペースでやろうかと思って作っています。
TN : だから、あまりすぐにまとめようと思ったりせずにマイ・ペースでやってるよね。

live@taico club2009

—Tyme.さんは日本に住んでいらっしゃいますが、ツジコさんとの曲作りはどのように行いましたか?

T : ネットでデータをやり取りしています。僕がオケを作って渡す時があったり、ツジコさん側から『こんな感じどう? 』っていって曲を送ってきてくれたり、そのパターンでやっていますね。

—「penguin 2009」も、そのようにして作られたのですか?

T : そうですね。僕が渡したオケにツジコさんの歌を入れてもらって、返ってきたものを僕がミックスしました。

—ツジコさんは、オケをもらって最初どのような印象を持ちましたか?

TN : いい曲だなって思いましたね。自分が作る曲とは全然違う良さがあって、いつもワクワクするんです。すぐに歌も出来て楽しかったです。

—パリに住んでいらっしゃっても日本語で歌詞を書くのは、日本語への思い入れがあるからなのでしょうか?

TN : 思い入れとかじゃなくて、いくら海外に住んでいても日本語が圧倒的に上手に使うことのできる言語だからですね。でも、「伝わる・伝わらない」で日本語を使っているわけじゃない。それ以前の問題で、自分が書く時一番早く出来るのが日本語なんですよ。ゆっくり歌詞を考えても、必ずしもいいものが生まれるわけでもないですしね。

—曲はスピーディーに完成するんですか?

T : お互い音を作る時に、生活の中で何を楽しんでいるかっていうのが重要なので、クリスマスに間に合わせるために頑張ろうみたいな感じはなくて、やりますかーってなった時に予定に間に合いそうなら間に合わそうって感じで作っていますね。もし締め切りが必要だったら合わすと思うんですけど、ギフト曲に関してはほんと楽しみでやっているので、急いでないですね。だからネタを渡してすぐに返ってきてもいいし、返ってこなくてもいいし、時間がどれくらいかかるかは毎回違いますね。

—今回は何を楽しみながら、曲作りをされたのでしょうか?

T : 彼女が普段あまり作らなそうな曲を意識してそういう曲を渡すと、意外な曲になって返ってくるので、それが楽しかったですね。

—今回は、どんな部分が意外でしたか?

T : 今回は明るめの曲を渡したら、ポジティブかつ美しさがあるものを返してくれたので、驚きと素直な良さを感じました。こう乗せてくるか、と。でもこういうのが素の彼女っぽいなって。ツジコさん自身は、まったく暗くないんですよ(笑)。でも音楽に関しては、しっとり目の曲が多いので、今回はしっとり系以外ではない曲を聴いてみたいなと思って。ただ、あまり深く考えているわけじゃないんで、いつもどんなのが返ってくるか楽しみですね。
TN : そうだね。一緒に作るのが楽しいんだよね。
T : そうだね。だからあんまり何かを表現しよう、発表しようみたいにはやってないんで、そういう気楽さは毎回出せているんじゃないかっていう気はしますね。

『magic』を作ったあとに、さっぱり感を足してもらおうと思って頼んだんだよね

—では、「magic(P.P.A. repair)」についてお伺いします。アルバム『solo』に収められている「magic」ですが、『Trust』ではP.P.A.氏のリミックス作が収録されています。どのようにして「magic(P.P.A repair)」は作られたのでしょう?

T : P.P.A.君が『magic』のremixを作って、それをtaico clubで3人でライヴ演奏したんですけど、その時にまた少し音をいじったんですね。それで今回収録するにあたって、新たにremixとライヴの中間に近い音作りを目指して作ったみたいです。
TN : 歌に関して、歌い直しはしてないです。最初に作った時のままで、その後にP.P.A.くんにremixをしてもらった。出来上がった作品が好きだったので、今回さらによい形にしてもらいました。

—P.P.A.さんは、どんな方なんですか?

TN : P.P.A.くんは、最小限の感じの人なの。音楽もさっぱりしてる。逆に、私はコッテリしてるんだけど(笑)。私の作る曲は、トラック数とか、聴いた感じ込み合っててボールみたいな感じがするんだけど、彼は割とさっぱりしていて、それがとても綺麗。『magic』を作ったあとに、さっぱり感を足してもらおうと思って頼んだんだよね。
T : さっぱり感を足すってすごい表現だよね(笑)。
TN : そこもコッテリしてるでしょ(笑)。引くんじゃなくて足すんだみたいな。

—「magic」には、<結局ぼくら何もなしとげられなかった、だなんて言うけど、ちっともそんなことない>という歌詞が繰り返し出てきますが、どういう状況で書かれた歌詞なんですか?

TN : 何であんな曲を作ったのかは分かんないんですけど、そのとき夜な夜な一人でおっきなビルにいて、すごく怖かったんです。一人だし。でも、せっかく一人でいて時間もあるので曲を作ろうと思って、慌てて歌ったんです。歌詞をノートとかに書いたりせずにね。だから繰り返してる言葉だけなんですよ。その時何で怖かったかっていうと、その日に友達のお葬式があったの。別に友達が死んだ事が怖いわけじゃないんだけど、なんとなく怖くなっちゃって。

—そういう状況で歌うことってあまりないですよね?

TN : ないない。ビルの中の一角を借りてたんだけど、それ以降そこを借りるのやめて今は自分の家でやっているから、そんな状況で歌うことは今はないですね。

live@taico club2009

もうちょっと私だってサッパリしたいなって思う(笑)

—Tyme.さんはツジコさんの魅力ってどこにあると思いますか?

T : それを僕に言わせるんですか(笑)。ツジコさんは、めちゃくちゃ健康的な人なんで、そこがとても好きですね。あとスーパー・フラットな人間というか、感情の起伏という意味ではなく、色んなものの見方がすごくフラットなので、そういうとこがいいなって思います。あと単純に作るものが好きです。

—逆に、ツジコさんはTyme.さんの魅力ってどこに感じますか?

TN : たっちゃんは色々な魅力があるけど、音楽の面でいうと、こないだ本人にもいったんだけどイケイケな感じがあるの。私からしてみればなんだけど、そのイケイケ感が好き。私の周りで音楽やっている人には、イケイケ感のある人があんまりいないんです。かわいくて、賢くて、そういう感じの人たちが多い中、たっちゃんはイケイケな感じ。
T : イケイケっていうか何だろうね(笑)。くるおしさと楽しさの同居した感情みたいな。
TN : そういうのが好きですね。うまく言葉に出来ないんですけど(笑)。

—理想の音楽像はありますか?

T : ありますね。曲ごとにアタマに描いてるイメージに近づけたいと思って作ってます。今回の「penguin 2009」に関しては、ツジコさんに何かいつもと違うことやってもらおうとか、自分自身もちょっと明るい曲作ってみようかっていうところで、大まかなイメージを持ってやりました。完成度っていう意味では、最初にミックスしたやつはまだ低かったですけど、今回この企画用にもう一回ミックスやりなおして、そういうとこでは上げられたかなって思います。基本的な部分では目標に近づけている実感はありますね。

—ツジコさんはどうですか?

TN : 色んな理想があるけど、すごく現実的なレベルでいうと、もうちょっと私もサッパリしたいなって思う(笑)。ギトギトしてなくて、かっこいい曲ができたらなって思いますね。

—最後に、今作の配信にあたってリスナーへメッセージをお願いします。

T : 曲を聴いてわかるように、明るくて心地がいい曲なので、そのまま素直に楽しく聴いてもらえたら嬉しいですね。また2人で作る曲があるんで、これからもまた楽しんでほしいと思います。
TN : 私も楽しんでもらいたいと思いますね。色んな気持ちの時に聴いてもらえば、考え方とか見方とか景色も変わってくると思うので、機会があれば何回も聴いてもらえたら楽しいんじゃないかと思います。

live@taico club2009

HQDシングル「penguin2009」&「magic(P.P.A. repair)」発売!!!

【penguin 2009 / ツジコノリコ + Tyme.】
毎年1曲、Tyme.ことヤマダタツヤ(MAS)とツジコノリコとイラストレーターの木村敏子の3人で作っているギフト曲です。今年で4曲目。今年のtaico clubでも演奏された楽曲です。

【Magic (P.P.A.Repair) / ツジコノリコ】
今までオリジナルとリミックスを発表した人気曲ですが、そのどちらとも違う、新しいヴァージョンです。

【購入者特典】
購入者特典として「penguin2009」&「magic(P.P.A. repair)」のウェブ・ジャケットが閲覧できます。下記のURLに飛んでいただき、パスワードを入力して「読む」をクリックしていただくとご覧になることができます。パスワードは、楽曲を購入した後、ダウンロードする際のページに記載されています。
URL : http://bccks.jp/dept/recommuni/#B27837,P0

PROFILE

about ツジコノリコ

2000年、1stアルバム『化粧と兵隊』をリリース。2001年にはオーストリアのMegoより『少女都市』を発表し、世界中で注目を浴びる。同じくMegoから出た3rdアルバム『ハードにさせて』は日本盤でもリリースされ、日本でも確固たる地位を築きあげた。その後ドイツのTom Labより『From Tokyo To Naiagara From Tokyo To Naiagar』を2003年にリリース。この年、バルセロナで行われる世界最大級のエレクトロ・ミュージックの祭典、Sonar Festivalにも出演する。2005年には、Riow Araiとの『J』、AOKI Takamasaとの『28』のコラボ2作と、オーストリアの実験音楽レーベルRoom40よりソロ作の『Blurred In My Mirror』を立て続けにリリース。翌年、2006年には2ndの『少女都市』の再発盤に5曲プラスした『少女都市+』をEditions Megoからリリース。2007年2月には5年ぶりに、Megoからオリジナル・アルバム『SOLO』を発表。パリを拠点に活動し、数々のコラボレート作品、前衛的なプロジェクトをこなし、天衣無縫な音楽性は多くのミュージシャンやファッション界からも高い評価を得る。

about Tyme.(MAS)

エレクトロニカ/ダブ/ジャズのエッセンスをバンド・サウンドに注入したMASのリーダー「ヤマダタツヤ」のソロ・ユニット。MASとして2枚のアルバムをリリースの他、balloons、pasadena、asanaのリミックスも手掛ける。Tyme.名義では他アーティストとのコラボレートやプロデュースを行い、ツジコノリコ、志人(降神)、なのるなもない(降神)、trico!、RATN(riow arai + tujiko noriko)、sim、WCコンピレーション等の作品に参加。ほかにも美術作家ヤノベケンジ氏の映像作品/インスタレーション/作品集に音楽を多数提供し、豊田市美術館、青森県立美術館、金沢21世紀美術館、取手アートプロジェクト2006、ICC、六本木アート・ナイトといった場所のアート・イベントでの演奏も行う。作曲家/サウンド・デザイナーとしても活躍しSONY PS3/PSP, HONDA, google, BMW, NHK, YAMAHA, Space Shower TV, 表参道ヒルズ, NTT等様々な企業の広告音楽制作を手掛ける。またLIVEユニット「Tyme.+Taps」では多様なダンス・ミュージックのフォーマットを喰らい尽くして、スリリングでリアルなビートを爆音で鳴らし様々なダンス・フロアをロックしている。現在もツジコノリコ、万波麻希とのニュー・プロジェクトやtoto(suika)、imaginionのアルバムプロデュースなどが進行中。最新作はsgt.「capital of gravity」収録の"銀河の車窓から -reprise- [remixed by Tyme.]"。

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筆者について
西澤 裕郎 (西澤 裕郎)

1982 年生まれ。ファンジン『StoryWriter』編集長。http://storywriter-magazine.com/

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