僕は、ドン・マツオのファースト・ソロ・アルバム『オレハシナイヨ』のプロデューサーだった。うだるような暑い夏にドンさんから1本の電話。 「ソロ・アルバム作るからプロデュースよろしくね! 」

数日後、一本のMDと一枚の手紙が。「後はよろしく。俺は、何もしないからっ! 」って...おい! プロデュースなんてやったことないのに、全フリですか。しかも展開早すぎ... 。

京都のたくさんのミュージシャンと二階堂和美モールスに急遽お願いして、がむしゃらに作り上げた。当日2曲追加され、逆に練習していた曲をやらなかったりと色々あったけれど、それはそれは楽しかったし、文化が凝縮された京都らしい作品になったと思う。「オレハシナイヨ」と歌い、ほんとに何もしなかったけれど、ドン・マツオがいるだけで空気が締まる存在のでかさに驚いたものだ。あの時のことは今でもよく思い出すし、そのアルバムをマイi-podから削除出来ずにいる。

その後どんどん関係は深まっていくのだが、どうも気になることがある。彼のローリング・ストーンズ好きは既に知られたところ。来日全公演制覇とかザラだし、セカンド・ソロ・アルバム『NEW STONE AGE』では、ビル・ワイマンのストーンズ復帰を淡々と願う楽曲まである。それと共に、彼にはもう一つ愛して止まないものがあるようだ。ドーナツだ! ライブ前に、ドーナツ屋に行くのを見なかったためしがない(しかもミスド)。始めての会場では、「この辺にミスドない?」って聞くしまつ。ファーストでは、「ドーナッツ&コーヒー」なんて曲もあった。

どうも好きなものには異様に執着するようだ。彼の音楽を紐解く鍵は、そのあたりに存在しているなんて仮説を立てた。そして、取材と称し3年以上溜まっていた質問を遂に投げた。

『ドンさん! ぶっちゃけドーナツとローリング・ストーンズ、どっちが好きなの? 』
『オーケー! それは、渋谷のちょっと高価なミスドで話そう』

...これは、ドーナツに軍配があがりそうだ。ってか、高価なミスドって...ドーナツ代、経費で落ちるかな...(泣)

インタビュー&文 : JJ(Limited Express(has gone?)) / 構成 : 井上沙織

神様を味方につけなきゃならないんだ

―なんでそんなにドーナツが好きなんですか?

ドン・マツオ(以下D): ドーナツっていうよりも、ドーナツとコーヒー、っていうのが好きなんだよね。30歳くらいの頃、スターバックスが出てきたりして、全般的にコーヒーが美味しくなってきた。で、和菓子とお茶のように、コーヒーにはドーナツだった。

―ライブ前にドーナツ屋に行くのはどうしてですか?

D : もう習慣化しているから、言わなくてもメンバーはドーナツ屋に向かうんだ。コーヒーを味わうというよりも、話したりするのにいいんだよね。そこでは、どうやって今日の演奏を上手くやるかっていうことを考えるんだ。俺達セット・リストとかも決めないしさ。ステージで何をどうするかっていう探りあいの時間なんだよ。2000年頃はそういう習慣はなかったね。始まったのは、ポッキーの頃からかな。

―ドーナツ習慣の前後でサウンドは変わったんですか?

D : やってることは、だいぶ違うね。決まった曲を決まったセットで、っていうことをやらなくなった。その日、その時、その場所で出来ることを重んじているし、さらにそういう方法でやらないと、ライブ感は突き抜けてこないと思うんだよね。自分達の設計図なんていうのはたかが知れてる。変な言い方だけどさ、神様を味方につけなきゃならないんだよ。降ってきた、沸いてきたものをしっかり受けとめて、きちんとした形でステージ上に出せなきゃなんない。そのためにはドーナツの輪っかが必要なわけよ。

―強引に結び付けましたね(笑)

D : ジャムったりするのが楽しくて、今の形になってるわけじゃないんだ。もっとエネルギーに関係した話なんだよね。ライブを、ひとつの体験に持っていきたくてプレイしている。ジョン・コルトレーン等のジャズ・プレイヤーがやってることに近いんじゃないかな。自分から何かを引き出すっていうのは最後。バンドのメンバーや、その時ステージに立ってる人からどうやって力を引き出すか。さらに、お客さんからっていうのが一番タフで、最もやらなきゃなんないこと。

―確かに初めてズボンズを見たときは「お客はどうでもいいよ」 みたいなノリでしたが、ドーナツ以降、お客さんも巻き込んで新たなエネルギーを生み出す方向へシフト・チェンジしましたね。

D : そう思う。20代、30代、今で変化があると思うんだけど、満足の行く終わり方みたいなものを常に目指してる。何かしらのハッキリした手ごたえを得たいと思ってるんだ。「自分の音楽はどうだから聴け!」 っていう感じじゃないんだよね。だから曲は何でもよくて、それこそ全部ストーンズでもズボンズでも変わらない。曲ではなく、何かを越えた先にあるものを追求しているんだよね。

歴史だから

―では、ドンさんにとってストーンズとは?

D:すごい簡単に言うと師匠みたいなもの。俺達ロック・ミュージシャンには、伝統芸能のような師匠がいない。誰も尊敬していないし、ついていこうみたいな人もいない。先輩のミュージシャンと繋がりがあるわけじゃないからね。結局ストーンズっていうものが俺の信仰であって、師匠であるってことなんだ。音楽を聴き始めてから、そこだけはブレてないんだ。

―ドンって名乗っている時点で、師匠を掲げる気なんてさらさらないと思ってました(笑)

D:リスペクトする相手がいたほうがいい。そういう意味で、自分のオリジナリティは高く持たない。ステージ上で、フリー・フォームで演奏し始めたっていうのと無関係じゃないと思うんだ。自分より大きな力が働いているのは確かだなって。

―そういう考えにいきついたきっかけはあったのですか?

D:わかんないなあ。人生は、様々な物事がいろんな具合に絡み合っているから。子供が生まれたのも一つの要因かもしれないし。バンドで15年以上やっているけどさ、ドラマーは何回も変わってる。でもバンドとしての形は、固持してるわけだよね。その変化を繰り返して、乗り越えて、何年も経った後でそれがエネルギーになってるってことに気づくんだ。だから、いつも理想の道程の途中に居るんだよなって思う。

―未来には何が見えているんでしょうか?

D:それも、わかんない。ただ何かしっかりした存在になりたいという気持ちはあるんだよ。それこそ石みたいに動じないような。

―ストーンズはそういう存在なのですか?

D:そうだね。ストーンズはひとつの歴史だからね。一番怖いのは、ストーンズがなくなったときだよね。それは相当恐ろしいよ。世界の危機だと思う。

―ビートルズがなくなったときよりも?

D:ビートルズは早かったからね。皆がいろいろ気付く前になくなっちゃったから、世界的な影響はそんなになかったと思うんだ。

―なくなるっていうのは解散ってこと?

D:うん、それかキースが死ぬとかさ。ストーンズがあるから、ロックっていう音楽の座標軸が形成されている。あらゆる意味でロックって何かっていうと、ストーンズを軸に考えるしかない。アンチだ、ポスト何とかだっていっても、ストーンズだけが昔からの伝統を引き継いで今もやってる。だから、彼らが存在するっていうのは皆の安心材料になっているし、いなくなるとどうなるかっていうのはわかんないんだよ。

―いつかいなくなる可能性が高いですよね。そうなったらドンさんはどうするのですか?

D:もっと深く自分のことを、そして自分がストーンズなしでもやっていけるかをよく考えないと危ない。何の為に音楽をやるかっていうとさ、一歩でもストーンズに近づく為にやってるんだから。何も考えないと、キリストをなくした12人の使徒達みたいな状態になるね。

―ドーナツとストーンズの比較どころじゃないですね。

D:ドーナツはなくならないからね。俺達10年、更に10年たった時に、まだドーナツを食べているのかなって思うよ。あらゆることは同じようには続かないんだよね。やっぱり変化せざるを得ないときがきちゃう。どれだけ自分達の存在が不確かかってことなんだ。だから、もっと強い存在になる必要がある。評価としてではなく、自分の心とか魂とかが、揺ぎないものになってないといけない。

―今回ソロ名義で『NEW STONE AGE』をだしたのは、揺るぎないものになるため?

D:もちろんそうだけど、ソロであることはたまたまなんだ。別にソロ・アルバムを作る必要は全くなかったし、8ottoのセイエイ以外、ほとんどメンバーはズボンズだから、どっちの名義で出しても構わなかった。その後のツアーがソロ名義だからってだけなんだ。

―楽曲は、ズボンズのライブでならしていったのですか?

D:いや、曲も例によって1週間くらいでパパっと書いた(笑) ミックスが終わるまで、どんな曲になるかは検討つかないんだよね。やっていくうちにいろんな発見があった。最初に思いついているのは簡単なコード進行とある種のフックと歌詞の1部分で、演奏するってなったときにメンバーの力が曲に注ぎ込まれるわけ。そこで無意識に存在してた曲のピースを発掘する作業が始まるんだよね。

―1番最初はコードなんですね!

D:そうだよ。展開は、レコーディング中に出来ていくんだ。だからどうなるかは事前にわからない。偶然なのか必然なのかわからないけど、なるようになるんだよね。

―なるようにならない時があると思うんですが。

D:あるよ。このアルバムに関して言えば、それで諦めないっていうのが前提だった。努力しないで創りあげちゃうと後で嫌な思いをするからね。自分の体張ってとことんやるっていうのが目標だった。

―今回一番きつかったのは?

D:リミットがあったから、2晩寝ないでミックスをやった。一人だから誰も確認しないし、孤独だったよ。

―ミックスは、永遠に追求できるので、客観的判断が必要ですもんね。

D:そうだね。だから自分の耳を頼りにして、そこをブラさないようにしたよ。2000年代も10年が過ぎようとしててさ、何て何も無かった10年だろうと。あったとしてもMyspaceでヒットとかiPodで聴きましたとかさ。バンドの次のアルバムを期待して、みたいな興奮がなかったんじゃないかな。これは相当シリアスな話なんだけど、一方で新しい考え方を前提として進まなきゃなんないって思ったわけ。現在、誰もディレクションを取れていないし、何をやっていいのかもわかっていない。となると、自分のことをやるしかないってもんだよ。自分を信じるというか、自分の生き方をどれだけ具体的に打ち出していけるか、っていうことが結局価値になるんじゃないかな。それはすごくシンプルな話で、時代に左右されないこと。タイアップとかコラボレーションとか一瞬は楽しいかもしれないけど、新製品のドーナツみたいな話なんだ。結局はなんてことないんだよね。

―だから今日食べたドーナツは、オールド・ファッションなんですね。

D:俺はね。そのままなんよね。好きなものを好きなように作って、誰に評価されようがされまいが、自分でケツをふく。作り上げようとしているものを、自分がどれだけ信じきれるかってことにいつもトライしてるんだ。

LIVE SCHEDULE

ドン・マツオ ソロツアー2009 "TOUR KING KONG"

  • 3月12日(木)@名古屋UPSET
  • 3月13日(金)@大阪ファンダンゴ
  • 3月14日(土)@岡山ペパーランド
  • 3月15日(日)@高知CHAOTIC NOISE
  • 3月19日(木)@鹿児島SRホール(ドン・マツオ with LUBIC CAVE HOUSE)
  • 3月20日(金)@熊本ジャンゴ
  • 3月21日(土)@黒崎マーカス
  • 3月22日(日)@佐賀RAG G
  • 3月23日(月)@福岡四次元
  • 3月26日(木)@神戸(Mersey BeatDON Matsuo Metamorythmic Experience(ズボンズ))
  • 3月27日(金)@京都NANO(DON Matsuo Metamorythmic Experience(ズボンズ))
  • 4月5日(日)@東京下北沢BASEMENT BAR(DON Matsuo Metamorythmic Experience(ズボンズ+ヨシムラセイエイ))

LINK

ズボンズ website http://www.thezoobombs.com/

ズボンズ MySpace http://www.myspace.com/zoobombs

ドン・マツオ blog http://dnnd.exblog.jp/

ズボンズの素敵な写真 http://www.thezoobombs.com/lucky.html

ドン・マツオ

90年代中期より日本、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど、世界を股にかけロックンロールし続け、今年結成15周年を迎えてなお無尽蔵のエネルギーを発するロック・バンド、ズボンズのフロント・マン。The Rolling Stonesとドーナツをこよなく愛する男。

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筆者について
J J (JJ)

パンク・バンドLimited Express (has gone?)のギター・ボーカル。BOROFESTAの主催者。ototoyのチーフ・プロデューサー。JUNK Lab Recordsのレーベル・オーナー。ライターやイベント・オーガナイズも多数。ototoyでは、リミエキのJJとして喋っている時は、JJ(Limited Express (has gone?))と記載しています。

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