2017/10/25 11:50

もはや“壮絶”とさえ言いたくなる演奏──青葉市子+三宅純+山本達久+渡辺等、ライヴ音源をハイレゾ配信

17歳でクラシック・ギターを弾き始め、19歳のときにアルバム『剃刀乙女』でデビューした青葉市子。1970年代からアメリカでジャズ・トランペッターとして活躍し、1981年の帰国後はCM音楽や映画音楽など多岐にわたっての作編曲活動を行ってきた三宅純。そんな2人が2016年11月、ドラムに山本達久を、そして2017年2月、渡辺等を加え、代官山のライヴハウス“晴れたら空に豆まいて”で初のライヴ・セッションを実施。もはや“壮絶”とさえ言いたくなるような演奏で満員の来場者を熱狂の渦に巻き込んだ。そんな会場の空気感まで再現するような録音&ミックスをエンジニアのzAkが行い、極上のハイレゾ音源として完成。冒頭、青葉がギターに取り付けられた小さなマイクに息をふきかける。あたかも曲を奏でる精霊たちを呼び覚ますようなその音から不思議の世界の幕は開いていく…。本作のリリースを記念し、青葉市子と三宅純へのインタヴューを掲載する。ぜひ、音源とともにお楽しみください。

4人の息遣いまでとらえた珠玉のライヴ音源をハイレゾ・リリース

青葉市子+三宅純+山本達久+渡辺等 / プネウマ

【配信形態 / 価格】
[左]32bit/96kHz(WAV) : アルバム2,160円(税込)
[中]24bit/96kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC : アルバム2,160円(税込)
[右]24bit/48kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC : アルバム2,160円(税込)
>>ハイレゾとは?

【Track List】
1. IMPERIAL SMOKE TOWN (詞曲・青葉市子)
2. Mars 2027 (詞曲・青葉市子)
3. ともしびの白百合 (詞・青葉市子 曲・三宅純)
4. 不和リン (詞曲・青葉市子)
5. Frozen Tidal (曲・三宅純)
6. 重たい睫毛 (詞曲・青葉市子)
7. 日時計 (詞曲・青葉市子)
8. 神様のたくらみ (詞曲・青葉市子)
9. ゆさぎ~マホロボシヤ (詞曲・青葉市子)
10. Lilies Of The Valley (曲・三宅純)

青葉市子 / Vocal, Guitar
三宅純 / Electric Piano, Flugelhorn
山本達久 / Drums
渡辺等 / Bass, Cello
zAk / Recording & Mixing

青葉市子+三宅純+山本達久+渡辺等『プネウマ』
青葉市子+三宅純+山本達久+渡辺等『プネウマ』

INTERVIEW : 青葉市子+三宅純

左から、青葉市子、三宅純

孤高のシンガー・ソングライター青葉市子と、リオ五輪閉会式の「君が代」で世界を驚かせた作編曲家・トランペット奏者の三宅純。2人が中心となって昨年11月と今年2月に代官山のライヴハウス“晴れたら空に豆まいて”で行われたライヴ・セッションが、エンジニアzAkの手により珠玉のハイレゾ音源として仕上げられた。11月はドラムに山本達久を、2月はさらに渡辺等も加えて繰り広げられた演奏は、いつもの凜とした青葉市子の宇宙とも、そして絢爛な三宅純の世界とも異なるもの。青葉の歌とギターに、三宅のエレクトリック・ピアノとフリューゲルホルンがエモーショナルに絡み、山本の不可思議なドラミング、そして渡辺のベースやチェロが歌心たっぷりに煽っていくさまは実にスリリング! 早速、青葉と三宅に、2人の出会いからライヴのことまでを振り返ってもらうことにした。

インタヴュー&構成 : サウンド&レコーディング・マガジン編集部
写真(ライヴ写真除く) : 八島崇

とにかく新しいチャレンジが楽しみでした(青葉)

──お二人が初めてコラボレーションされたのは、2014年に赤坂ACTシアターで上演された舞台〈9daysQueen~九日間の女王~〉のときでしたよね?

三宅純(以下、三宅) : はい。僕が音楽を担当した舞台だったんですけど、語り部というか重要な役割をする歌手が必要ということだったので、演出の白井晃さんに「どんなキャラクターの歌い手さんなんでしょうか?」と相談をしていたとき、ふと、市子ちゃんの音楽を耳にしたんです。「ああ、この人は特別…… その語り部にぴったりだな」と思い、それまでお会いしたこともなかったんですが、お願いしてみたんです。

──オファーがあったとき、青葉さんは三宅さんのことはご存じでしたか?

青葉市子(以下、青葉) : 実は知らなかったんです。でも、ピナ・バウシュのドキュメンタリー映画『PINA / ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』は知っていたんですよ。その後、三宅さんとSkypeでやり取りしているうちに、「あ、あの映画の音楽をやっていた方なんだ」というのが分かりました。

三宅 : でも、『9daysQueen~九日間の女王~』以降、市子ちゃんはぐっと舞台づいてますよね。

青葉 : ええ、あれがご縁となって。『9daysQueen~九日間の女王~』のオファーをいただいたときは、舞台を観るという経験も少なかったので、自分が出演するということをあまり想像できない中での判断でした。でも、何も不安はなくて、とにかく新しいチャレンジが楽しみでした。

三宅 : けいこ場で市子ちゃんの様子を拝見していて、歌の部分じゃないところで、ほかの役者さんの台詞や振りも全部覚えていて、「何だ、舞台好きなんじゃん~」って思っていました(笑)。

三宅純

青葉 : 小学生の学習発表会くらいしか経験は無かったんですけどね(笑)。ただ、2013年にマームとジプシー『cocoon』の初演を観ているんですよ。そこで演劇というのに触れていたので、「やってみます」って言いやすかったのかもしれないですね。

──『9daysQueen~九日間の女王~』の舞台で歌われた歌の作曲は三宅さんでしたが、歌詞は台本に書かれていた言葉なのですか?

三宅 : いや、台本はかなり遅れていたので、歌詞はこちらで先行してやりました。白井さんとシーンごとのイメージは共有してね。

青葉 : メモ書きみたいなものはいただきましたね。

三宅 : それで、僕がメロディを市子ちゃんに渡して、歌詞を書いてね」とお願いしつつSkypeで何度かやり取りしていたんですけど、急に僕のパリの家の住所を聞いてきたんだよね?

青葉 : ええ(笑)。

三宅 : 「…… 住所は知らなくても念は送れるぜ」って返したんだけど、そうしたら「ばれました?」って(笑)。

青葉 : はい、その後すぐにパリへ行ってしまいました。『9daysQueen~九日間の女王~』はヨーロッパが舞台のお話だったので、冬の日本でこたつに入ってみかんがあって…… という環境だとなかなかイメージが(笑)。

三宅 : Skypeでやりとりしてたときにもみかんが見えていたよね…… それでおみやげにみかんを持ってパリ来てくれた。

青葉 : はい(笑)。たまたま時間もあったので、こたつの前でうーんって考えるよりも、実際に近い場所に行った方が分かることがあるんじゃないかと直感的に思って。

──歌詞を書くためだけにパリに行ったのですか?

青葉 : はい、そうです。パリでは日中はずっとホテルにこもって詞を書いて、夜、純さんのお宅におじゃましてお食事を一緒にして、そのあと、いつも散歩に行かれる習慣があるということでしたので、一緒にセーヌ川の周りとか、大聖堂の前まで行ったりとか。パリは観光地なんですけど、夜になると人がいなくて、そんな時間に歩いたというのが重要だった気がしますね。

無駄な音を出してはいかんと思ったんです(三宅)

──今回のライヴはどのような経緯で実現したのですか?

青葉 : 代官山のライヴハウス「晴れたら空に豆まいて」の宮本端さんから「いいライヴの夜を作りたいんですけど、一緒にやりたい方はいますか?」という相談を受けたときに、純さんの名前を挙げました。

三宅 : そうだったんだ! ここのところセッションはあまりやっていなかったので、オファーがあったときはちょっと驚いて…… でも、市子ちゃんの場合は自身の世界が真ん中にズドンとあるので、一緒にやってもいいかなと。僕はピアノが本職でもないし、トランペッターとしてはセミリタイアだし(笑)、自分だけでグルーブを出して一緒にやるという訓練も受けていない。いつも何かに乗っかってやるタイプなので。

青葉 : うふふ。でも、最初にリハをやったとき、空気感がストイックで楽しかったですよ。

三宅 : それ、ほめられているのかなぁ(笑)。

青葉 : 音楽は全部が全部リラックスしたときも良くなるんですけど、あるひとつの緊張感を保っていないと出せない音もある。私は結構そういうところから逃げがちなので。

三宅 : そう? 逆に僕は市子ちゃんがとてもストイックなのかと思っていた。

青葉 : 確かに1人でやるときはストイックかもしれないですけど、人とセッションするときは、割と楽しくそればっかりでやってしまうことが多い。でも、純さんと一緒にやると、すごく集中して…… たくさんの水を集中して一滴にする作業をやっていた気がします。

青葉市子

──晴れたら空に豆まいてでは、2016年の11月と2017年の2月、計2回のライヴが行われました。11月のライヴではお二人に加え、ドラムの山本達久さんが参加されています。

三宅 : 2人だけだとちょっとどうかな、と懸念しましたので。少なくとももう1人だれかいないと、音のバランス、もしくは通底するリズムが崩れちゃうかなと。

青葉 : それで私が達久さんを推薦したんです。達久さんとはマームとジプシーの藤田(貴大)さんが演出された舞台『小指の思い出』の中でバンドとして一緒にやったことがあるというのが大きかったですね。

三宅 : 山本さんを交えて最初にリハをやったんですが、僕はちょっと緊張して…… っていうか、無駄な音を出してはいかんと思ったんです。ちょうど自分のユニットのライヴをブルーノート東京でやった直後で、そのときはメンバーが16人もいて、音であふれているし、曲にもよりますけど隙間は自分でも埋めちゃうやり方だったから、同じことをやっちゃダメだなと思って、いかに最小限で少しだけ違う角度をつけられるかを意識しました。

──ライヴでは先の『9daysQueen~九日間の女王~』の曲をはじめ、市子さんの持ち歌、そして三宅さんの曲も取り上げられましたが、選曲はどのように決めていったのですか?

三宅 : ほぼ市子ちゃんですよ。

青葉 : そうだったかも。ばーっと書き出したものを送って、その後、純さんのスタジオにお邪魔して一緒に音源を聴いて、ギターを弾いてアレンジも考えながら…… この曲だったらこういうアプローチができるとか相談しつつ。でも、あまりにも難しい曲は断念して(笑)。ブルガリアン・ボイスがフィーチャーされた「White Rose」がすごく好きでやりたかったんですけど、ちょっと声の成分を量産できなくて(笑)。

三宅 : 3人でやるには難しい曲だったかもしれないね。

──青葉さんにとって、三宅さんの曲は歌いやすかったですか?

青葉 : ええ。歌詞がついていて、しかも外国の言葉がほとんどだったんですが、純さんから“あまり歌詞にとらわれてやらなくてもいいよ”ってアドバイスをいただいて、のびのびできました。自作語というか好きな言葉で歌っています。

三宅 : 僕はいつも歌詞についてはそのスタンスなんです。歌詞に意味を求めていなくて。もちろん、意味があってもいいんですけど、あるメロディと合わさったときの言霊のノリというか響きが大切だと思っていて、歌う方が一番しっくりくるのがいい。

──11月に行われた初回のライヴはどんな手応えだったのでしょう?

三宅 : 隙間が好きでした…… 3人という風通しの良さがね。あと、初心というか、最初の出会い頭があって、その緊張感は好きなんですね。ただ、曲がまだ把握できていない部分、制御できていない部分はあったかなと。

青葉 : 私はすごくフレッシュな気持ちでやったので、ひたすら楽しかったです。リハーサルはすごく緊張しましたけど、本番はそこまで緊張することもなくのびのびやり過ぎて間違えたりとか(笑)。ただ、やるたびに熟成していくような感覚があったので、数を重ねていく…… 演劇として良くなっていくみたいな感覚で音が良くなるような予感がしたので、もう1回機会をもらえたことはすごくいいことでした。

三宅 : 実際、晴れたら空に豆まいてからはすぐに2回目を打診されました……。「次はいつ日本に帰ってきますか?」って(笑)。「またやるんだー」って思いましたけど、楽しかったので、それはいいなと。ただ、楽曲によってはベースが無いっていうのはどうなのかなと思っていたので、2017年2月のライヴでは(渡辺)等君に頼んだんです。しかし、本番であそこまで攻めたプレイをするとは思いませんでした(笑)。おかげで僕は、あ、観てよう~とか。

青葉 : そうでしたね(笑)。ベースが入ったことで私はすごく自由になりました。11月のときはギターでベース・パートもやっていた部分があったので、その役割分担が上手にでき、歌に専念し、ギターで遊ぶこともできたので、すごくいいバランスになりました。渡辺さんのプレイはすごく素敵でした…… 歌に近いベーシスト。譜面でいう決まりごとみたいなものもすごくこなされるのに、その中で一緒に歌ったりとか…… すごくどきっとしました。前に共演した内橋(和久)さんのギターに感じたことと同じようなものでした

三宅 : 3人のときの風通しの良さのいい部分もちょっと恋しくなりつつ、4人でやったときはより音楽としてのグルーブとかユニット感みたいなものは出たので、これくらいがいいのかなと。全曲4人でやる必要もないし…… 僕なんかずっと弾かずに観ているだけでもいいし。

青葉 : いやいやいや(笑)。4人でやったときは、私はもうライヴをやっているという感覚と、そのままアルバムのレコーディングをしているという感覚が半分ずつでした。最初のときは完全にライヴ感があったんですけど、渡辺さんが入ってくださったことによって、ちょっと引いた目で見ることができるというか、分析しながら演奏することができました。

自分の中にあまり無いと思っていたロック魂に火がついた(三宅)

──11月のライヴ、2月のライヴ、それぞれ2ステージずつあったので、都合4テイクの録音が残ったわけですが、その中から今回の配信に向けて、三宅さんはどんな基準で選曲していったのでしょうか?

三宅 : ライヴから結構時間をおいて聴き直したので、楽曲のテイクとしてどれがいいかなと、個人的な趣味で選んでいきました。例えば「日時計」は11月のテイクの出会い頭感が強く出ていたので。

青葉 : 実は「日時計」は、最近あまりソロではやっていなかったんですよ。すごく久しぶりに出してきた楽曲だったんですけど、あの曲と同じく11月のライヴから選曲された「IMPERIAL SMOKE TOWN」のような、ちょっと組曲的な楽曲は今回のセッションでより立体的なものになりました。両方とも機械的なモチーフがある曲…… 日時計は建造物というか作られたもので、「IMPERIAL SMOKE TOWN」の中にも壊れた工場の中で働き続けるロボットがいたりとか。そんな曲の中で三宅さんが弾くエフェクターを通したRHODESのエレピの音が鳴るのがすごく良かった…… 新しい面が引き出されましたよね。

三宅 : あの2曲はRHODESが弾きやすかったですね。あと、自分の中にあまり無いと思っていたロック魂に火がついた…… こういうのできるんだって(笑)。

──「IMPERIAL SMOKE TOWN」はアルバムの最初に収録されましたが、冒頭にマイクがノイズを拾っていますよね。

三宅 : ええ、それで僕が「あのノイズをカットできませんか」ってzAkに言ったら、あれは市子ちゃんがわざとマイクを吹いている音だって聞いて……。

青葉 : 毎回じゃないですけど、特に物語が濃い楽曲だったりすると、風が吹いている環境、背景だったりを、マイクを吹くことで作っているんです。ヴォーカル・マイクを吹くと、みんなが知っているただ吹いた音になるんですけど、ギターに付けているAUDIO-TECHNICAの小さなコンデンサー・マイクは、ちょっと息を吹きかけただけで大きく音を拾う。その音がけっこう好きなんです。

三宅 : その吹いた音から、レーベルの方が『プネウマ』…… ギリシャ語で“息”っていう素敵なタイトルを発想してくれたんです。

青葉 : うふふ、いい言葉ですよね。ちょうど4文字ですし。

──11月のライヴからはもう1曲「ゆさぎ」が選ばれました。「マホロボシヤ」とメドレーで収録されていますが、「マホロボシヤ」は2月のライヴからのテイクなんですよね?

三宅 : そう。確か、つなげられるんだったらつなげてほしいとzAkにお願いしたんです。でも、違う日に録られたたものをつなげたってことは分からないんじゃないかな? その2曲をつなげてやるっていうのは市子ちゃんだけが思っていることで、僕らの譜面は別のページにあって、これは続けてやるものだというのは後で学習しているわけですから。そういう意味では、日が変わっていても音楽として流れればいいと思っている。昔のジャズなんかそういうのをよくやっていますよね、マイルス(デイヴィス)とか、テオ・マセロが勝手に切った張ったしているし。実際、僕ももう記憶が遠いし、zAkにつなげてってお願いしたことすら忘れている(笑)。だって、もともと記憶ってそういうものじゃないですか…… あ、今日は記憶についての話じゃなかったか…… 最近、ずっと自分のアルバム『Lost Memory Theatre act-3』の話ばかりしていたので(笑)。

青葉 : “記憶”の話で言うと、私は楽曲の中に入ると、時系列とか時間、空間がゆがむというか、ひとつの夢の中に戻る感覚があるんです。きっとこれから何歳になって同じ曲を弾いても、戻る場所は一緒なのかもしれない。曲ごとに時空というものがぽっぽっとあって、そこに飛び込んでいくようなことをこれからもやっていくんじゃないかと思って。そういう見方をすると、今回何カ月も空いている日のテイクががっちゃんこしているのって面白い試みだと思いました。

三宅 : 何光年も離れているわけではないしね。そのお話は僕の『Lost Memory Theatre』にかなり通じる部分があるね。

自分の底だと思っている部分のさらに下からげんこつでぐりっと刺激があるような感覚(青葉)

──青葉さんにとってご自身の曲は1曲ごとに違う宇宙みたいなものなのかもしれませんが、そうするとこれまでいろいろな方…… 内橋和久さん、小山田圭吾さん、坂本龍一さん、細野晴臣さん、そして今回の三宅純さんと、それぞれとのセッションした記憶はその宇宙に刻まれていくのでしょうか?

青葉 : もともと弾き語りで書いている曲ということもあって、いろんな人とセッションをやるごとにその曲の性格…… 特徴だったり、こういう景色が好きなんだとか。セッションをするとき「こういうふうに弾いてください」って言わなくても、同じポイントで同じ盛り上がりがあったりするので、それがこの曲の持っている性格というか一番訴えたい部分なんだっていうのが分かってきますね。「ゆさぎ」と「マホロボシヤ」で、純さんがフリューゲルホルンで入ってくださった部分は、想像を超えたエモーショナルな部分だなと聴き返して思いました。

三宅 : 何かやっちゃったっけ???

青葉 : 熱く(笑)。あの楽曲…… とくに「ゆさぎ」はすごくもろくて、繊細な女の子のことを書いた詞なんですね。そこに三宅さんの力強さが入って。

三宅 : 繊細さの無い感じで?

青葉 : いやいや(笑)。繊細な女の子が、ひとり無重力の中に放り込まれているような感覚があったんですよ。ちょっと悲しさもあるというか。そこに大きな手が来て支えてあげるみたいな感覚がありました。フリューゲルホルンが入ることによって、その女の子が昇華できるような感じ。「あ、この曲がひとつステージアップしたな」と思いました。

三宅 : 知らず知らずに人助けを…… あ、自分で言うことじゃないか(笑)。僕は自分のアルバムにヴォーカリストを呼ぶ際の基準は、基本的にはぶち切れている人…… というか“歌わなくては生きていけない人”なんですね。もちろん声も音楽性も大事ですけど、それよりも大切なのは歌を切実に必要としていて、歌わないとどうにかなっちゃう人。今回一緒にセッションをやってみて、市子ちゃんはそういう人だと僕には見えましたね。

青葉 : 『9daysQueen~九日間の女王~』のときもそうでしたけど、純さんとセッションすると、自分の底だと思っている部分のさらに下からげんこつでぐりっと刺激があるような感覚がある…… 自分の知らなかった領域の声が出る感じなんです。

三宅 : それは…… 人助けじゃないね(笑)。

青葉 : いや、人助けですよ(笑)。すごく領域を広げてもらいました。

Sound & Recording Premium Studio Live シリーズ

レコーディング・スタジオでの一発録りをライヴとして公開し、そこでDSD収録した音源を配信

青葉市子+内橋和久 / 火のこ

“Premium Studio Live”第5弾。クラシック・ギターの弾き語りで独特な歌世界を展開する青葉市子と、アルタードステイツやソロで即興演奏を展開するギタリスト内橋和久の2人を、サウンドバレイA studioに招いて行った際の記録。内橋がエフェクトを多用したエレキギターや、“ダクソフォン”という木製の薄い板を弓やハンマーで演奏する楽器を使いさまざまな音色を鳴らす中、青葉の透明感のあるボーカルとギターがくっきりと浮かび上がる。この日のために2人で合作した「火のこ」では、観客が割るエアーキャップの破裂音で“火の粉”が飛び散る様子も演出。後半からはゲストとして小山田圭吾も参加し、ドラマティックな即興演奏やsalyu × salyu「続きを」のカバーを披露。

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INO hidefumi + jan and naomi / Crescente Shades

“Premium Studio Live”第9弾。ローズ・ピアノの名手として知られるINO hidefumi、そしてGREAT3のベーシストでもあるjanとnaomiによるフォーク・デュオが奏でたのは、きわめてメロウでドリーミー、ときにアシッドな香りすら漂わせる極上のアンサンブル。オリジナル曲はもちろん、Crosby, Stills, Nash & Youngや大瀧詠一のカヴァーなど、ヴァラエティ豊かな10曲を収録。

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AFRA+滞空時間 with KEN ISHII / sukuh-psy 祝祭

“Premium Studio Live”第8弾。ガムランをはじめ様々な楽器を操るユニット滞空時間、そして日本を代表するヒューマン・ビートボクサーのAFRA、さらにはスペシャル・ゲストとして"テクノ・ゴッド"ことKEN ISHIIが参加し、タイトル通りの祝祭空間を作り上げた。西洋と東洋、伝統と革新、アコースティックとエレクトロニックを自由に行き来する異色のトランス空間を、DSD & ハイレゾでリアルに追体験してほしい。

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大野由美子+AZUMA HITOMI+Neat's+Maika Leboutet / Hello, Wendy!

“Premium Studio Live”第7弾。サウンド & レコーディング・マガジン主催「Premium Studio Live Vol.7」の模様を収録。大野由美子(Buffalo Daughter)、AZUMA HITOMI、Neat’s、Maika Leboutetの4人がシンセサイザー・カルテットを結成し、名曲のカヴァーやメンバーそれぞれのオリジナルなど全10曲を1発録り。世界で初めてコンピュータが歌った曲として知られる「Daisy Bell」、ウェンディ・カルロスによるモーグ・シンセサイザーでの演奏が有名な「ブランデンブルク協奏曲第3番」(バッハ)、言わずとしれたクラフトワークの名曲「Computer Love」など、電子音楽の歴史をなぞるような選曲にも注目だ。

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Cojok+徳澤青弦カルテット / QUANT

“Premium Studio Live”第6弾。Kcoと阿瀬さとしによる2人組ユニットCojokとチェリスト徳澤青弦が率いる弦楽四重奏を、音響ハウスSTUDIO 1に招いて行った際の記録。阿瀬がコンピューターやギターを使って繰り出すエレクトロニックなサウンドと、カルテットによる繊細かつアグレッシブな演奏とが解け合う中、Kcoのボーカルがスタジオに高らかに響き渡る。さらにはそこにゲストとして登場した屋敷豪太と根岸孝旨の2人による強力なリズム、権藤知彦のエフェクティブなフリューゲルホーンのサウンドも加わり、ダイナミックな音像が立ち現れていく様はまさに圧巻。

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マイア・バルー+アート・リンゼイ / ambia

“Premium Studio Live”第4弾。ピエール・バルーを父に持つ東京生まれパリ育ちのシンガー&マルチミュージシャンであるマイア・バルーと、アメリカ生まれブラジル育ち、DNAやアンヴィシャス・ラヴァーズでの活動で知られるアート・リンゼイを招いて行った際の記録。アートが繰り出すノイジーなギターと、マイアの声そしてフルートの息づかいが、粒子のようにきめの細かいサウンドとなって流れていく。それぞれの持ち曲を交互に演奏しつつ、そこに即興的な絡みが入ることで、元曲とは色合いを異にした魅力が生じていくさまはとてつもなくスリリングだ。

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大野由美子+zAk+飴屋法水 / scribe

“Premium Studio Live”第3弾。バッファロー・ドーターの大野由美子と、その公私にわたるパートナーであるエンジニアのzAk、そして美術や舞台芸術の分野での活躍で知られるアーティスト=飴屋法水の3人を招いて、ST-ROBOにて行われた際の記録。リハも行わない完全即興という、まさに予測不能な状況の下、大野がMinimoogやスティール・パンで繰り出す音を、zAkがリバーブ/ディレイで加工して場内をフィードバック音で満たし、飴屋は画びょうのついたギターを手の平でさすったり、バイオリン・ケースのファスナーを開け閉めしたりと、ハッとするような音を出してアクセントを付けていく。楽音が極端に少ないにもかかわらず、全体の流れに紛れもなく音楽を感じてしまう不思議に陶酔感のあるセッション。
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原田郁子+高木正勝 / TO NA RI

“Premium Studio Live”第2弾。クラムボンの原田郁子と、映像作家としても活躍する高木正勝の2人を招いて行われた際の記録。会場となったのは東京・市ヶ谷のサウンドインスタジオBstで、天井高のあるスタジオに2台のグランド・ピアノ…… STEINWAYのフルコンサート・サイズとセミコンサート・サイズを設置。良質な響きの中で、原田と高木がそれぞれ自由にピアノを弾きながら、お互いの作品を変奏し合うようなセッションが繰り広げられる。原田の力強いボーカル、高木の繊細なボーカルそれぞれの魅力を存分に味わうことができるほか、飛び入りで参加したOLAibiを交えてのリズミックなパートも聴きもの。
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大友良英+高田蓮 / BOW

“Premium Studio Live”第1弾。東京・一口坂スタジオ Studio 1に、即興演奏家として名高い大友良英と、マルチ弦楽器奏者である高田漣の2人を招いて行われた際の記録。EBOW E-Bow Plusを使って生成されたアンビエントなサステイン・サウンドや、アコースティック・ギターやスティール・ギター、さらにはパーカッションやターンテーブルを使ってのノイズ、そして電子音など、さまざまな音源によって繊細かつ濃厚なサウンド・スケープが描かれていく。一発録りだけではなく、3台のKORG MR-2000Sを同期運転させ、ピンポンによるダビングも敢行。スタジオの機能、そして居合わせた観客の力も存分に借りつつ、極上の音世界を現出させた。
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Sound & Recording Archive

渋谷慶一郎 / Playing Piano with Speakers for Reverbs Only

2015年12月26日に東京・スパイラルホールにて開催された渋谷慶一郎のソロ・コンサート「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」。同年9月に行われた完全ノンPA、アンプラグドのピアノ・ソロ・コンサート「Playing Piano with No Speakers」のバージョンとして考えられた本公演は、ピアノの生音とサンプリングリバーブの残響音のみで構成された。サウンド・エンジニアリングは渋谷のコンサートPAを数多く手がける金森祥之(Oasis Sound Design)、レコーディング・エンジニアリングに葛西敏彦、マスタリング・エンジニアリングに木村健太郎 (KIMKEN STUDIO)を迎えた。

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渋谷慶一郎 / THE END Piano version

渋谷慶一郎が2012年末より新たに取り組みはじめたのは、世界初のボーカロイド・オペラ「THE END」。今回配信するのは、そのなかから2曲。渋谷がピアノ・ソロでお送りする「時空のアリア」と「死のアリア」だ。SONYが満を持して発表したDSD対応のハンディ・レコーダーPCM-100にてオンマイク、オフマイクで録音したそれぞれの2バージョンを収録。テイクは同じのため、純粋にマイク位置の違いを聴き比べることができる。その差は歴然。PCM-100の性能や2バージョンの違いを感じつつ、異なる一面を見せる作品だ。


清水靖晃+渋谷慶一郎 / FELT

文化庁主催の東京見本市2010 インターナショナル・ショーケースの一環として、池袋・東京芸術劇場 中ホールで行われた公演の記録。ともにアコースティックと電子音楽を行き来しつつ先鋭的な音楽を作り続けるアーティストだが、このコンサートが初顔合わせ。バッハを下敷きに、演奏家同士のセッションというよりは、作曲家同士がひとつの音響空間を作り上げていくようなパフォーマンスになっている。

PROFILE

青葉市子

1990年生。京都で育つ。17歳からクラシック・ギターを弾き始め、2010年1月、19歳の時に1stアルバム『剃刀乙女』でデビュー。これまでに5枚のオリジナル・アルバムを発表したほか、小山田圭吾、坂本龍一、細野晴臣ら多くのミュージシャンと共演を重ねる。近年は“マームとジプシー”をはじめとする舞台作品への出演も多い。

>>青葉市子 Official HP


三宅純

1958年生。作編曲家・トランペット奏者。バークリー音楽大学在学中から自己のグループを率いて活動。帰国後はCMや映画音楽、そして舞台音楽にもかかわり、故ピナ・バウシュとのコラボレーションは世界的に評価が高い。2005年からはパリにも拠点を構え、ソロ・アルバム『Lost Memory Thetre』シリーズを制作。

>>三宅純 Official HP


山本達久

1982年生。ドラマー&パーカッショニスト。即興演奏を軸にソロから、カヒミ・カリィ、phew、smallBIGs(大野由美子×小山田圭吾)、蔡忠浩(bonobos)、el-maloなどさまざまなアーティストのサポートまでをこなす。近年はジム・オルーク、石橋英子と結成したバンド“カフカ鼾”での活動のほか、“マームとジプシー”の舞台音楽も手掛けている。

>>青葉市子 Official HP


渡辺等

1960年生。ベース奏者。1983年に戸田誠司が率いるSHISHONENでデビュー。同時期にREALFISHにも参加。エレクトリック・ベース、アップライト・ベース、そしてウッド・ベースは言うに及ばず、チェロやマンドリン、ウクレレ、ブズーキ、そして12弦フレットレス・ギターなど、弦楽器全般を幅広く弾きこなす。

[インタヴュー] 青葉市子+三宅純+山本達久+渡辺等

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