ゆっくり、しかし着実に船を漕ぎ出す──あらゆる周りの環境にビビットに感化された、竹上久美子

このインタヴューのなかで「幼少より音楽に囲まれた環境で育ち、職業としての“音楽家"を意識する前に、呼吸や排泄と同じように作曲を開始した」と語ってくれた竹上久美子。自然と音楽をつくり続けていた彼女が6年ぶりとなるフル・アルバムを完成させた。京都の片隅で粛々と制作された今作『Slow boat』は、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの垣根を自由に飛び越え、ルーツ・ミュージックを主軸に、USインディ / オルタナ / プログレ / チルウェイヴなどの絶妙なフレイヴァーを散りばめた渾身のアルバム。今回はOTOTOYでの配信とともに、竹上久美子へのインタヴューを掲載する。

様々なジャンルのフレーヴァーを散りばめたアルバム


竹上久美子 / slow boat

【配信形態】
WAV、ALAC、FLAC(16bit/44.1kHz) / AAC
単曲 230円(税込) / まとめ 2,300円(税込)

【収録曲】
1. Good bye, girl
2. many many many
3. roundabout
4. FESTIVAL feat.浜田淳
5. とにもかくにも
6. しまうま
7. 月は
8. 海辺の旋律
9. Yesterday's Curry
10. Lifework Song



INTERVIEW : 竹上久美子

直近の彼女のステージを筆者が見たのは今年3月、渋谷7th Floorで行われた同郷・京都の大所帯バンドRibet Townsとの企画ライヴだった。ラストに登場した彼女はライヴ途中でワッと泣いていた。なぜかは本人もうまく言えず、ただ様々な感情が混沌として溢れてきていることが伝わってきた。シンガー・ソングライター竹上久美子。百花繚乱に花開く京都の音楽シーンで筆者の中では、ラジオ・パーソナリティーやCM・キャラクターのテーマ・ソング、音楽教室の講師もやっているポップなピアノ弾き語りシンガーという印象があった。しかし出産、育児による休止を経た今回のフル・アルバム『Slow boat』を聴いて驚くのは、ポップ・ミュージックのフィールドであるのは間違いないが、曲ごとにまるで質感が様変わりするビート・アレンジ。彼女自身の歌だけが全10曲に1つ筋を通している。また本作が京都インディ・シーンの中心地といえるほどに、最前線のミュージシャンたちがこぞって、参加している点にも目を引く。育児、京都という土地柄、周りにいるミュージシャンたちなど、あらゆる周りの環境に彼女はビビットに感化され、今も歌い続けている。6年ぶりのアルバム。ゆっくりだが着実にアルバム完成まで船を動かした彼女に話を聞いた。

文 : 峯大貴
写真 : 大橋祐希

引き出しがからっぽになる限界までやりました

竹上久美子

──前作『助走とロンド』(2011年)から6年ぶりのフル・アルバムになりますが、その間の2013年には出産・育児で1度活動休止されているということで、まずそこから音楽活動に復帰するモチベーションはなんだったのでしょうか。

竹上久美子(以下、竹上) : 音楽をつくることで言えば、ライフ・ワーク的に行っているので出産してからもご飯を食べたり、トイレに行くのと同じような感覚で宅録だけしていました。でもライヴをするとなると子供を預けたりする必要があるのでなかなか腰が重くなっていまして。

そこでザ・シックスブリッツの西島(衛)さんとか、Live House nanoのモグラさんたちがやっている、京都の〈いつまでも世界は…〉というサーキット・フェスにオファーをいただいたんですね。そのイベントはもともとすごく好きだったんですが、出番がお昼間だったんです。また、出してもらった新京極ステージのすぐ近くに誓願寺というお寺があって、そのフェスでは託児スペースになっていたんですね。だから子供がぐずったらそこでお昼寝とかも出来る環境やったから、それはやりやすいなと。それが2014年5月で出産から7ヶ月ぐらいの復帰でしたね。モグラさんも子供いてるし気持ちわかっていて、早く復帰しないとこいつどんどん離れてしまうって考えてくれていたのかなと思います。

──曲作りの方法は前作から変わりましたか?

竹上 : 前作はCHAINS(1993年の結成以降、京都で活動するロック・バンド)のベーシスト、ラリー藤本さんにプロデューサーに入っていただいて、しっかりとしたプロジェクトを組んで作ったんですよ。シンガー・ソング・ライターらしい作り方、オーソドックスにルーツ・ミュージックを軸にして、歌とコードにしっかり構成を持たせて、うまいバンド・メンバーたちがアレンジを加えるという手法を、引き出しがからっぽになる限界までやりました。だから次につくる時はまとまった形のアルバムじゃなくて色んな人たちとのコラボレーションで1曲ずつ、どんどんシングルで出して行こうと思っていたんです。

今回も2曲目に入っている「many many many」(シングル盤当時の表記は「many many many!!!」)は、シングルではstudio SIMPO(以下、SIMPO)の小泉(大輔)さんがプロデュースとギターも弾いてくれはって。1年1曲ずつくらいでPVも作る。それがある程度たまったらコンピレーション・アルバムくらいデコボコでもいいからまとめて出そうかなって思っていたんですけど、いざ並べてみたらそれぞれの音像の持っていきたい方向があまりに違いすぎて。コラボレーションとしてやっているからゲストの色が出た方がいいという混ぜ方をしていて。だから小泉さんとやった曲と、その後にやった空中ループの和田(直樹)さんとの曲では、私のヴォーカルの音から違ったんですよ。それでしっかりまとめないといけないな、と思って今回LLamaの吉岡(哲志)さんが共同プロデュースに入っていただいたんです。いままで配信で出した曲もリミックスしようと決めてからはアルバム制作がぐっと進みましたね。

──では具体的にお子様が出来たことによる変化はありましたか?

竹上 : 物理的にバンド・メンバーとスタジオでセッションしてというつくり方が出来ないんですよ。だから例えば今回入っている「FESTIVAL」という曲はリズムとシンセに声だけ入れたものを浜ちゃん(浜田淳 / Lainy J Groove)にデータで送って、サンプラーで加工したものを戻してくれて、「かっこええやん! じゃあこういうコーラスもいれよ!」っていう感じのつくり方が多かったですね。井戸君(井戸健人 / スーパーノア、イツキライカ)がコーラスで入ってくれた曲(「yesterday's curry」)も、男性の声が欲しくて井戸君に歌ってもらいたかったけど、スケジュールとれなさそうやから、「データ送るからラフ録って送って!」とお願いしてもらったのがもうばっちり。「many many many」も今回アルバムに入れるにあたってドラムを全部抜いて、バイオリンや管楽器の音を足して後期ビートルズを意識した仕上がりにしてみたり。あとは歌い方もこれまで声を張って歌うことが多かったんですけど、自分の子供に向けて歌う時は普通声張らないじゃないですか。そんな生活が続いてある時「あ、結構抜けて歌えるようになったな」と気づきまして。だから前作よりも力抜けて歌えていると思います。

本当にライフ・ワークの中で書いているから

──いままでお話に出た方をはじめ、風の又サニーの柴田紘亨さんや、立命館大学の直属の後輩になると思いますがRibet Townsのあさいげんさん、イシダユウキさんなど本当に京都ミュージシャンのオールスターズが参加している豪華な作品になりましたよね。そんな中でもまとまりある作品にすることが難しかったことが伺えますが、何か本作の指針となるサウンドや、参照した音楽はありましたか?

竹上 : 直接的に音楽を参照したというのはないですけど、SIMPOの小泉さんに教えてもらったセルフや、ラリー藤本さんに教えてもらったケイク(セルフ / ケイク : どちらも90年代から活動しているアメリカのオルタナティヴ・ロック・バンド)とかの、リズムトラックを自分で打ち込んだり、バンドでビートを取り入れたりする人の音楽は聴いていましたね。マイカ・ルブテ(日本とフランスのハーフの女性シンガー・ソングライター)とか、CHARAさんとかもそうかな。3曲目の「roundabout」にはキセルも使っているRolandのアナログリズム・マシーンを使ったりして、バンド・サウンドよりはソロの人ならではのリズム・アプローチというのは意識したかもしれません。他にも泉まくらさんとかm-floとかも聴いていましたよ。

──ソロの人特有のリズム・アプローチ・トラックを意識しつつ、本作の中にはしっかりバンド編成でやっている曲もあるので、そこがおもしろい響きになっていますよね。また「Lifework Song」の抑制されたビートだったり、己に向けられたもどかしい歌詞の質感にはCHARAの「Violet Blue」を彷彿しました。

竹上 : 小学校の頃にCHARAさんとかMy Little Loverを聴いていたけど、その頃流行っていたJ-POPにはしっかりファンクとかソウルの手法が消化されていることに、つくる側になって初めて気づいたんですね。CHARAさんもブルースとかソウル、ヒップホップもめっちゃ聴いていますし。そんな日常のブルースをいま改めてやってみました。

──これまでの竹上さんっていわゆるポップなピアノ弾き語りのシンガー・ソングライターさんというイメージを持っていましたけど、本作をじっくり聴くと色々幅のある要素が見受けられました。そういう面でもJ-POPにおいてのCHARAとかMy Little Loverと通じるものがあるかもしれません。「Lifework Song」の歌詞はいまの竹上さんの境遇で語られるリアルな表現が染みますよね。〈“人生は自己責任”いつか後輩に言った セリフが突き刺さってく〉の部分とか。

竹上 : 最初はこんな長い歌詞じゃなかったんですよ。同世代30歳前後の女性シンガー・ソングライターとかバンドマンと喋っていて思ったのが、10代20代の時にはみんなエネルギッシュに音楽をやっていても、30代くらいになってみんな子供が出来たり、結婚以外でも仕事が1番大変な時期だったり。凄く忙しい生活の中でみんなの状況の描写とか想いを全部詰め込んだれ! って入れた歌詞になりましたね。

──同世代で一緒に音楽をやってきた仲間の中には、環境が変わることで音楽自体やめてしまう人もいますよね。竹上さんは今でも音楽をつくって歌うことを続けられているのは何故なのでしょうか。

竹上 : 1つは育った環境で。両親も音楽やっていたし、おばあちゃんもピアノの先生やったし、自分の子供は今3歳ですけどもう「曲つくったよ!」とか私に言ってくる。私にとって曲作りは遊びの延長で、苦しい中から産みだすものでも、「曲つくったるで!」って意気込む感じでもないんです。悲しい映画を見たら涙を流すのと一緒で、映画を見ると悲しい気持ちを曲にしようという気持ち。本当にライフ・ワークの中で書いているから。

ただ現実的には意気込まないと出来ない時もあるじゃないですか。でも同世代でもスーパーノアの岡村(寛子)ちゃんとかバンド続けながら子供育てているし、京都には周りにすごいミュージシャンがごろごろいるのも大きいですかね。今回コラボした井戸君もイツキライカとスーパーノアそれぞれであれだけ違う、素晴らしい音楽を作っているし。今回のアルバムにコメント寄せてくれたYeYeちゃんとか中村佳穂ちゃんとか自分よりも年下やけど音楽にアクティヴで情熱注いでいる人がいる。私、京都でラジオもやっているんですけど(FM79.7京都三条ラジオ・カフェにて「きょうとこれからラジオ」。竹上は毎月第2週目を担当)そこにゲストで来てもらって、ミュージシャンたちと話していると元気をもらってポジティヴに頑張れる。マイナスな感情ではなく一緒にやりたい! と思ったりして。

だから京都という土地柄っていうのもありますかね。京都は音楽をつくり続けることを頑張っている人は多いけど、自分の音楽をどう売るかについて意識的に考えている人はあんまりいなくて。専業ミュージシャンが少なくて、普段はサラリーマンしている人も多いし。そう考えると東京は、音楽をつくるだけではなくて、どう売っていくのかも絶対セットじゃないですか。前回ライヴを観ていただいた3月の渋谷7th Floorの時のことをいま思い出したんですけど、ちょうど〈Waikiki Record〉にレーベルが決まったときだったんです。色々やることがいっぱいあって、子供京都に置いてきて東京きているのにしんどい…… って、ライヴ中泣いてしまって醜態さらしてしまい…… (笑)、もう今回は慣れてきましたけど、私ももし最初から、売れたんねん! って意気込んで上京していたら、しんどくなってやめてしまったかも。

破壊衝動や不安なところも突っ込んで出したい

──確かに京都という土地の独特のライフ・スタイルは大きく影響している気がします。本作のレコーディングはもちろん最近のライヴ活動は前述の吉岡哲志さんや浜田淳さんら京都のミュージシャンたちとのコンセプト・チーム「竹上久美子's paper moon till dawn」として動いているじゃないですか。なぜバンドではなくコンセプト・チームとしたのでしょうか?

竹上 : 前作以降コラボ的に色んな人と制作してきましたけど、サウンド・エンジニアやディレクターは固定にしないと収拾がつかないと思っていて。元々レディオヘッドが大好きで、彼らにはサウンド・ディレクターとアートワークの方がいるんですよ。インタビューでもトム・ヨークが第6のメンバーだぜって言っていたのがかっこいいなぁというミーハーな心もありまして(笑)。一方でレディオヘッドってアルバム毎にこんなことやって大丈夫? というところまで攻めているじゃないですか。それでもまとまるのは、押えどころがブレずに固定しているからだと思いまして。

あとソロのサポート・メンバーって、その人に対して客観的に見てダサイわって言いにくいんですよ。また若い頃はサポートやってくれる人も年上だからアドバイス言ってくれるんですけど。だんだん年上になってきて自分より若い人とやるようになると、このアレンジとか歌詞は変やなって思っていても言ってくれなくて裸の王様になりがちなんですよね。だからバンドっていうよりはコンセプトを共有して客観的にジャッジをしてくれる人が欲しかった。あとは別に仕事している人も多い京都という土地では、メンバーを固定するのが現実的に難しいというのもありますね。ソロの名義なのにライヴごとにメンバーが変わって音が全然違うという場面をよく見てきたのでそれが嫌やったから。人が変わっても方向性の核を共有できるようにしたかったんです。

──では本作をつくるにあたって共有したいコンセプトというのはどういうものだったのでしょうか?

竹上 : 私はラジオをやっていたり、ゆるキャラのテーマ・ソングも歌っているし、そういったイメージから、しっかり安定した人と思われていることもあるんですよ。でも本当は音楽においては安定志向ではないんじゃないかと。破壊衝動や不安なところも突っ込んで出したい。このまま終わったらキレイに曲が締まるところに引っ掛かりあるフレーズやノイズが聴こえていたり。明るく楽しいだけじゃないからこそ、いざ楽しい時にその楽しさが引き立つというのをやりたかったんだと思います。そういうのを客観的に引き出して欲しかった。

──では最後に、前作以降に出してきたシングル曲も無事にまとめられて、出産・復帰を経たこの6年間に、ここでしっかり点を打った作品だと感じています。これからの方向性はどのようなものになるのでしょうか。

竹上 : 今回はすでに録っているもののリミックスした曲が多くて、今のこの「paper moon till dawn」のチームで、はじめからつくった曲は半分くらいなんですよね。だから次はゼロから全部つくるのも楽しいなぁと思って、今ちょっとずつデモ音源をつくっています。10年以上歌ってきましたが吉岡さんのディレクションで今までできなかった歌い方を今回ぽろぽろ引き出してくれたので、自分の中にはまだ引き出しがあるんじゃないかなと。

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LIVE INFORMATION

〈タワーレコード京都店インストアライヴ〉
2017年8月9日(水)@四条河原町タワーレコード京都店
時間 : Start 19:00

〈竹上久美子"slow boat"release party〜東京編〜【昼公演】〉
2017年9月3日(日)@渋谷7thFLOOR
時間 : Open 12:00 / Start 12:30

〈竹上久美子"slow boat"release party〜名古屋編〜〉
2017年9月18日(月)@吹上鑪ら場(たたらば)
時間 : Open 18:00 / Start 18:30

>>more live information

PROFILE

竹上久美子

幼少より音楽に囲まれた環境で育ち、職業としての「音楽家」を意識する前に、呼吸や排泄と同じように、作曲を開始。小学校2年の時に学芸会の劇中歌を担当したことをキッカケにデモ・テープ制作をスタートし、以後、中高では吹奏楽部、大学時代は立命館大学の軽音サークルに所属し、ルーツ・ミュージックを主軸に、パンク / テクノ / プログレ / USインディー / オルタナ / チルウェイヴなど多種多様な音楽に触れ、独自のポップスを培ってゆく。大学卒業後は、主に音楽作家として地元京都のCMソングやテーマソングなどを多数手がけ、ラジオ・パーソナリティーとしても活動。2011年に全国リリースしたアルバム「助走とロンド」は、京都のFM局にて"和製エイミーマン"とのキャッチ・コピーでプッシュされるなど一定の評価を得る。

その後、2013年に出産・育児で一時活動休止。復帰後は、自身の在り方について暗中模索の日々が続くが、その混沌とした感情を綴った楽曲「Lifework Song」がきっかけで、本格的なアルバム制作体制に入る。2017年以降は、敬愛するバンドradio headの手法に倣い、サウンド・ディレクター吉岡哲志(LLama / studio INO)、アートワーク・ディレクターおざわさよこ(my letter)を固定。トラック・メイカー&映像ディレクターとして活躍する浜田淳(Lainy J Groove / TANAKA OF THE HAMADA / YeYeバンド)もディレクション・チームに加入し、『ローファイでメロウなサウンド+人間くさいエモーショナルなリリック』という、一見ちぐはぐな組み合わせが絶妙なバランスで成立した、中毒性のあるポップスを構築。裏方チーム、バンド・メンバーも含めた、竹上久美子にまつわるこの集団を、「竹上久美子's paper moon till dawn」と名付け、エクレクティヴ(折衷的)で自由な、新しい音楽人生をスタート。

>>竹上久美子 Official site

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インタヴュー

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