J-Jazzシーンの超新星ーー新世代ポップ・ロック・トリオ、Piano Shiftがkilk recordsよりデビュー
fox capture planを筆頭に盛り上がりを見せるJ-Jazzシーン。そこに突如現れた新星にして台風の目とも言える3人組、Piano Shift。ダンサブルなピアノ・インスト曲を基軸とした新世代ポップ・ロック・トリオである彼らのデビュー・アルバム『Rings』がkilk recordsよりリリース。ジャズ・ロック、ジャム、ポストロック・ファンに加え、ゲーム音楽、ファンク、プログレ、クラウト・ロック好きにも突き刺さる全方位的ポップ・アルバムをOTOTOYで配信開始。ライヴ・バンドとしても定評のあるPiano Shiftの魅力を詰め込んだ充実作について、初インタヴューを敢行した。
注目のデビュー・アルバムを配信スタート
Piano Shift / Rings
【配信形態】
WAV / ALAC / FLAC / AAC
【価格】
単曲 216円(税込) アルバム 1,944円(税込)
【収録曲】
1. butterfly
2. Cosmos Wall
3. mentalism
4. Mortal
5. Tsuemon
6. kagero
7. Sinkai
8. sutoratera
9. Memory of path
INTERVIEW : Piano Shift
なんだこれは?! 全曲、ピアノを主体としたインスト曲なのに、飽きることなく最後まで聴き通してしまう。全体を貫く疾走感はロック色に溢れているが、要所要所にジャズやポスト・ロック、クラウト・ロックを感じるフレーズやリズムが織り込まれており、聴くもののツボをついて離さない。本作の前にリリースされたEP『PIANO SHIFT IS B?』はアーティスト性が高く、どこかポスト・ロック的なアプローチだった。それに対し、デビュー作となる『Rings』は聴く人のことを意識した「ポップス」をテーマにしたという。一度再生したら通して聴かずにはいられない。そんな本作について、Piano Shiftから、ベースの斎藤庸介とドラムの山口さとしを迎え、初インタヴューを行った。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
ちょっと頭がいかれている人なんですよ(笑)
ーーPiano Shiftは、どのようにして結成されたバンドなんでしょう。
斎藤庸介(bass 以下、斎藤) : もともと、ピアノのTONTENTENさんと初代ベースの人が、エレクトロニカやアンビエント、北欧ジャズみたいな音楽をやっていたんですけど、山口さんが入ってからバンド形態になっていったんです。
山口さとし(Drums 以下、山口) : 最初は打ち込みでやっていくつもりだったらしいんですけど、TONTENTENさんがドラムを入れたいと思って僕に連絡が来て、それからずっと叩かせていただいてますね。
ーーもともと2人ともジャズ畑出身なんですか?
山口 : 僕は違います。師匠はT-SQUAREの則竹裕之さんですけど、歌ものやロック、ポップスをやっていて。今も仕事で叩いてるのは、ほとんどがロックやポップスですね。よくフュージョンっぽいって言われたりするんですけど、ジャズも叩くことがあるので中間にいるドラマーというか。基本的にはロック・ドラムです。
斎藤 : 俺は学生時代に千葉県の柏に住んでいて、よくジャズのジャム・セッションやライヴをしていたんです。そのときTONTENTENさんと知り合ったんですけど、当時はあまり絡みがなくて。エレクトロニック系の音楽にはまった時があって、それをTwitterかなんかで見たのか一緒にやろうよって誘われました。当時エイフィックス・ツインとかスクエアプッシャーも全然知らなかったんですけど、俺が入る前のベースの人から教えてもらって聴いたら、どハマリしちゃって(笑)。
ーーそれじゃあ、バンドのキャリア自体は結構長いんですね。
山口 : そうですね。バンド自体はTONTENTENさんの意思でマイペースにやっていたんですけど、斎藤さんの加入だったり、kilk recordsさんから声をかけてもらったりっていうのがあって、一気にリリースに向かって進んでいったところはあります。
斎藤 : 自主制作でEPを作ろうかと思っていた時期にヒソミネでライヴをしたんですよ。そのとき、森さん(森大地 / kilk records代表)に声をかけてもらったんだよね。ちょっと前までバンド=仕事みたいな感じだったけど、サラリーマンや飲食店のスタッフをやりながらとか、俺みたいに講師や作曲をしながらバンドをやるって形態が広がっていったじゃないですか? うちもそんな感じで別の仕事もしつつ、音楽的なものを追求するためにバンドをやっていたから、いざライヴが決まってか練習に入るみたいな流れで活動していました。
ーーTONTENTENさんは、よりアーティスティックに音楽だけに集中しているような方なんですか?
山口 : ちょっと頭がいかれている人なんですよ(笑)。これは百聞は一見にしかずなんですけど。
斎藤 : 一つのことに集中すると、他に目がいかなるタイプなんですよ。
山口 : 人生であそこまでの人は会ったことないですね。
「俺とジャコを目指さないで、自分らしいものを目指してください」って
ーーあははは。『Rings』に収録されている曲は、アルバム制作が決まってから作った曲なんでしょうか。
斎藤 : タイトル曲にもなっている「Butterfly」は前のEPにも入っていて、今回ミックスをし直して使いました。「深海」も前のEPでインタールード的に使っていたけど、今回はちゃんとした曲にしようってことで作り直しました。後はアルバムを作ることになってから、何曲にしたらいんだろう、どういう流れにしよう、あまり曲が被らないようにしようって、そういうことは結構考えて作りましたね。
山口 : 同じテンポとかジャンルも被らないようにしようってね。
斎藤 : インスト曲って、タイトル曲は覚えているけど残りの曲は覚えてないっていうことが結構あって、そういうのはイヤだなと思ったんです。やるなら全曲覚えていてほしい。それもあって、4つ打ちハウスみたいな曲もあれば、ラテンのビートの曲もあったり、エイトビートのロックな曲もあったり、メタルみたいな曲も入っています。山口さんは曲をアレンジするとき、何に気をつけました?
山口 : 俺はリズム被りだね。音階がないから似て聴こえちゃうのがイヤだなと思って。聴いている人はそこまで思わないかもしれないけど、俺はダブルパラディドルをリズムに入れがちなんです。今回も2曲くらい使っちゃって、気づかれたらちょっと恥ずかしいなって(笑)。
斎藤 : 別にいいじゃん(笑)。
山口 : あと、たぶん音源を聴いてもわからないと思うんですけど、ほとんどが一発撮りなんですよ。ベースとドラムだけは8割5分、1テイクで録ってます。俺は直感で叩いちゃうタイプなんですよ。
斎藤 : それでロック感が出たと思うけどね。
ーーたしかに前作のEP『PIANO SHIFT IS B?』と比べるとだいぶ印象が違いますよね。前作はポスト・ロックっぽさを感じたんですけど、今回は疾走感があってロック感があるというか。いわゆるfox capture planとか、そういうバンドも頭に浮かんできたし、ジャンルを選ばずに聴ける作品だなと思いました。
斎藤 : 俺はポップスになるようにと思ってやりましたね。
山口 : ジャズにならないようにってね。
斎藤 : そう、ジャズにならないようにしたかったし、日本のポスト・ロックみたいな音楽も他でやっている人いるから、わざわざ俺らがやることはないなと思って。なによりインストを聴いて飽きられたらやばいって気持ちがあったから、曲を作る時にちゃんとメロディは入れようってことを考えました。ピアノのリフで1曲作って、ドラム・ソロがあって、盛り上がって終わりっていうのはちょっとね… って。
山口 : もちろんソロも録るし、しつこいくらいやる時もあるけど、基本は聴かせたいっていうテーマに変わったんです。EPのときは、作った曲を1回盤にしてみようって気持ちが強くて、曲に対する目的とか指標はそんなに定まっていなかったんですけど、今回はアルバムだから大きな統一感で「ポップス」って枠があった方がいいかなって。
斎藤 : あと、前作のレコーディングはセパレートされた空間で録っていたんですよ。ドラムはレコーディングブース、俺はエンジニアさんの後ろでベースを弾いていたんですけど、今回は対面でやりました。目の前でドラムが鳴っているとライヴをやっている気持ちになるし、やっぱり違うよね。音源を聴いて、これライヴやってるっぽいなと思ったし。
山口 : あまりパンチインとかしちゃうとグルーヴを潰すんじゃないかと思ったから、極力それもしなかったしね。
斎藤 : 要するに、人に聴いてもらうってことがどういうことなのかを考えるようになったんですよね。俺らの世代って、DTMが進化して家で打ち込みで音楽も作れるし、1ヶ月あればアルバムも1枚できるんですけど、だいたいの人は実際やらないじゃないですか。今回、俺らはそういうところから一歩外に出れたのかなと思っていて。ちゃんとやるっていったら変だけど、聴いてもらうとか、音楽を物として出すことに意識的になれた。
ーーそのために「ポップス」っていうテーマは大きな指標になったと。
山口 : そうですね。ポスト・ロックみたいな感じにしちゃうと差別化が図りづらいじゃないですか。僕はジュディマリとかすごい好きなんですよ。そういう音楽をやる気持ちでやりました。あと、3人みんな畑が微妙に違うっていうのは良くも悪くもあるんじゃないかな。ベースの斎藤さんは狙って変拍子を書く人で、TONTENTENさんは気づかないで、「え、これ変拍子だったの?」って言うタイプ(笑)。
斎藤 : 山口さんもよくわからない曲を持ってきたりしたけど、このアルバムはこれをやるところじゃないなと気づいたから、変えたりしたんです。好きなものはみんな別々だけど、このバンドは何をする場所なんだろうって全員わかってきたというか。TONTENTENさんの車に乗ると、ずっとアンビエントかかってたりするから。
山口 : かと思ったら、アニソンが流れてきたりするし(笑)。ベンチャーズが流れていたかと思ったらパスピエをずっと流していたり、よくわからない。ある意味統一性がないっていうか。ロックっぽかったり、スウィングしてみたり、ツイン・ペダルを踏んでみたり、ジャンルに依存していないのが逆にいいと思う。アルバム全部が好かれるって、まず奇跡的なことだと思うから。
ーー僕は普段それほどインストは聴かないんですけど、Piano Shiftの『Rings』は丸々聴いたし、リピートして聴くくらい気に入ってます。
斎藤 : お、それは大成功ですね(笑)。
ーー斎藤さんは、ポップスという点で気をつけていることはありますか?
斎藤 : ベースの面でいえば、フュージョンにならないように気をつけました。フュージョンは好きだけど、大御所がいるから俺がやることじゃないかなと思って。やっぱりそこですよね。フュージョンをやっている人も、ポスト・ロックをやっている人もいるわけで、そこに便乗すると2番煎じ感が否めなくなっちゃうから。
ーーそこを意識しないと、フュージョンっぽくなっちゃうものなんですか?
斎藤 : 俺自身、フュージョンを長く聴いてたからというところですよね。あと、ジャコ・パストリアスっぽいってよく言われるんですけど、それが嫌で。ジャコっぽくやってる人っていっぱいいるじゃないですか。以前、ビリー・コブハムのライヴを観に行ったとき、ウィル・リーにサインをもらったんですけど、「ジャコとあなたがすごい好きなんですけど、なにかアドバイスをください」って話したんですよ。そしたら「俺とジャコを目指さないで、自分らしいものを目指してください」って言われて。それが未だに残っているというか、ああそうだよなって。70年代にスタジオ・ミュージシャンをやっていた人たちで、今も名前が残っているのは、ジャコの真似をしないでいた人たちだったから。
Piano Shiftのロックっぽさそ消さずにRDMを狙っていきたい
ーーそれはすごく印象的な話ですね。レコーディングの話に戻ると、お2人で録った音の上に、TONTENTENさんが自由にピアノを乗せていったんですか?
山口 : 一応決めたフレーズではあったんですけど、あとはご自由にどうぞって感じでした。
斎藤 : 伸び伸びレコーディングしてくださいって伝えてね。プレッシャーに弱いから(笑)。
山口 : 僕らがちょっとでもせっついちゃうと、TONTENTENさんはぶっ壊れちゃう。氷の窓くらいの精神なので(笑)。
斎藤 : 俺たちがさくっと終わらせなきゃって、そういう緊張感はありましたね。実際、TONTENTENさんにのんびりレコーディングをしてもらって結果が出たので、成功だったのかなって。EPの時、俺たちが結構時間とっちゃったから、別日でピアノの録音をしたりしたので、今回はなるべくさくっとやろうって。
山口 : 僕と斎藤くんは予定より3時間くらい早く終わったからね。
斎藤 : そういうやり方がいいんだって今回わかりました。俺らがさくっとやって、さあどうぞっていうのが向いている。TONTENTENさんは黙々と作業する人だから。
ーーすごい絶妙なバランス感で成り立ってるんですね。
斎藤 : 音楽でつながってるくらいの方がいいのかもしれないですね。練習が終わって居酒屋みんなでいこうよっていうノリではないですし。
山口 : サバサバしてる(笑)。
ーーTONTENTEさんは、今作に対してどういう評価をしてるんですか。
山口 : なんか言ってましたっけ(笑)?
斎藤 : 彼は感情をあんまり出さないから(笑)。俺は最終的なミックスを2人でしたから、終わった後の達成感はあったけど、それっきりだったからなあ。
ーーお2人はアルバムを聴き直してみてどう思いました?
斎藤 : 最近送ってもらって全部聴いたんですけど、ロックだと思いました。フュージョンにしたくないっていうのが成功したと思った。
山口 : 俺はロックだけどロックでもないなと思った。精神的ロックっていうか。ロックにしてはドラム手数多すぎるしね。
斎藤 : いいじゃん(笑)。
山口 : だから、すごくいいなって気持ちはあります。
斎藤 : 次のアルバムをどういうペースで録音するのかまだわからないけど、また曲作りをするのが楽しみではありますね。EDMっぽいのやりたいけどもう遅いかな?
山口 : 今更感はあるけど、ロックなEDMだったらいいんじゃない?
斎藤 : この間、次はADMがくるって雑誌に書いてあったんだよね。アコースティック・ダンス・ミュージック。聴いてみたんだけど、アコギが入ってるEDMだった(笑)。
山口 : じゃあ俺らは、RDMですね。ロック・ダンス・ミュージック(笑)。
ーー今、ロックって少しダサいっていう見られ方もありますけど、『Rings』には新しいロック的な形というか希望を感じる部分があると僕も思いました。
斎藤 : ロックが楽しめなくなってきてポスト・ロックにいったりする人もいるだろうし、俺もジャズにいったりとかダンス・ミュージックを探しにいった感があるから、ロックが面白くなってほしいんですよね。いまのJ-ROCKって、裏打ちと4つ打ちが多いじゃないですか? そういう意味でも、俺はこのPiano Shiftのロックっぽさそ消さずにRDMを狙っていきたいですね。
山口 : まあ、置かれてるのはジャズ・コーナーですけどね(笑)。
RECOMMEND
fox capture plan / Fragile (24bit/96kHz)
今やJ-JAZZシーン最重要バンドにのし上がったといって過言ではないfox capture plan。自由度を増して更に加速していることを確信できる5thフル・アルバムとなる『FRAGILE』が完成。歪んだベース、シンセやストリングスアレンジが際立つ音世界、中空を飛行するかの如く軽やかなメロディと疾走感溢れるリズムセクションが堪らなく心地よいサウンドに酔いしれること間違いなし。
mabanuaらとともにorigami PRODUCTIONSを象徴するソロ・アーティストとして、そしてHEXへの参加や、作品 / ライヴでの多くの客演など、この国のシーンになくてはならないキーボーディストでもあるKan Sano。待望の3rdアルバム『k is s』がここに完成した。
最強に踊れるジャズ・クインテット「TRI4TH」の4thアルバムが遂に解禁。前作から約2年ぶりとなる今作は新たな試みが随所に詰まっており聴きごたえのある内容に仕上がっている。全17曲ラストまで痛快なアレンジとご機嫌なホーンが突き抜けるダンサブルなジャズ・グルーヴに心も踊ること間違いなし。
LIVE SCHEDULE
アルバムリリース記念インストア・ライヴ
2017年4月22日(土)@タワレコ渋谷店
Beat Music Jam with TPSOUND【Jam Session 齊藤(Bass)】
2017年5月31日(水)@新宿GoldenEgg
PROFILE
Piano Shift
Key.tontenten、Ba.斎藤琢磨、Drs.山口さとしによるピアノ・インスト曲を基軸とした新世代ポップ・ロック・トリオ。
ジャズ、ポストロック、ゲーム音楽、プログレなどをミックスしたようなライヴ感のあるサウンドが特徴。 2013年、Pf,BaからなるPiano Shift前身のDuoを結成。同年よりサポートDrsの山口さとしが加わる。2015年、Kilk recordsに所属。その後、Baのメンバー・チェンジを経て、tontenten、斎藤庸介、山口さとしの3人で2016年3月に1st EP『Piano shift is B』をライヴ会場限定でリリース。2016年12月には斎藤庸介が脱退、斎藤琢磨が加入し、現在の編成となる。2017年にはkilk recordsより1stアルバム『Rings』をリリース。都内近郊を中心にライヴ活動を行っている。