2017/01/20 17:03

その瞬間に出す音がすべてだと思っているーーアジア進出を果たしたTHE ANDS、2年ぶりの新作を語る

2015年春、台湾で開催されたロック・フェス〈Spring Scream〉への出演を皮切りに、香港・広州・北京など12箇所に及ぶ中華大陸ツアー、中国最大級のロックフェス〈MIDI FESTIVAL 2016〉への出演など、国内外と海外でも多くのライヴを行ってきたオルタナティヴ・ロック・バンド、THE ANDSが、約2年ぶりに新作『FROTHY』を完成させた。OTOTOYでは本作をCDに先駆けて先行ハイレゾ配信、そのなかから1曲フリー配信、そしてメンバー3人へのインタヴューを敢行した。音源作品としてアイデアを詰め込んだクリエイティヴに満ちた意欲作。その奥底までのぞいてみてはいかがだろう?

2年ぶりの新作をハイレゾ配信

THE ANDS / FROTHY
【配信形態】
WAV、ALAC、FLAC(24bit/96kHz) / AAC

【配信価格】
単曲 216円 まとめ価格 1,200円

【収録曲】
1. Ohm
2. Weed
3. Day By Day
4. Womb
5. Mute
6. Psalm
アルバムから1曲フリー配信

THE ANDS / FROTHY
【配信形態】
mp3

【配信価格】
0円

INTERVIEW : THE ANDS

THE ANDSが現体制ではじめて作ったアルバム『euphorium』のリリースから、早いものでもう2年が経った。あれ以降の彼らといえば、相変わらず都内を拠点に各地のライヴハウスを飛び回りながらも、それと並行して中華圏でのツアーを立て続けに敢行するなど、その活動のスケールを少しずつ海外へと拡大させてきている。そんな彼らから、ニュー・アルバム『FROTHY』がついに到着した。果たしてその内容は、このバンドらしいタイトなギター・ロックから、多重録音を駆使したディープ・サイケデリアにいたるまで、収録されている6曲それぞれに異なるアイデアを詰め込んだ、とにかく多彩で濃密な一枚。ということで、この『FROTHY』の中身については勿論、ツアーをまわった東アジア諸地域での手応えも伺うべく、THE ANDSの3人に話を訊いてきた。

インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 大橋祐希

THE ANDS / Ohm
THE ANDS / Ohm

ツアーを続けていると、バンドのグルーヴ感は増していく

ーーここ数年のあいだに、皆さんは東アジア圏を何度かツアーされていて。すごく興味深い動きだなと思っていたのですが、なにかきっかけはあったんですか。

磯谷直史

磯谷直史(ヴォーカル、ギター)(以下、磯谷) : 海外での活動に関しては、以前からずっと興味があったんですよ。そうしたら、東アジアでライヴ制作をやっている方が僕らのことを気に入ってくれて。それで、去年(2015年)の春に〈SPRING SCREAM2015〉っていう台湾のロックフェスに参加させてもらったんです。で、そこで良いレスポンスがもらえて、イベンターさんも「中華圏、イケるんじゃない?」と。その流れで、香港から中国大陸を12日間で11ヶ所まわることに。

ーー過密なスケジュールですね。その手応えはいかがでしたか。

磯谷 : あっちは口コミ文化なんですよね。日本と比べると、情報統制がとれてないところもあって、自由にインターネットにアクセスできるわけでもないから、そのぶん若者たちが一生懸命に情報収集しているんです。で、どうやらそういう人たちの中で、「この街に日本のバンドが来るらしいぞ。行ってみようぜ」みたいな動きがあるみたいで。それこそtoeやLITEなんかは、あっちでもすごく人気があるみたいですよ。

祢津隼(ドラム)(以下、祢津) : ライヴハウスにポスターもいろいろ貼ってありましたよね。GOOD4NOTHINGとか。

磯谷 : とはいえ、僕らの場合は前情報もなにもないし、中国では音源すらリリースされてない状況なんですけどね。中国の動画サイトにMVが幾つかアップされてる程度。それでも、けっこう熱狂的な反応がもらえて。

祢津 : 来てくれる人がみんな、すごくあったかいんですよ。

磯谷 : ただ、基本すべてワンマンでやらせてもらえるから、肉体的にはハードなんですよ。それに、とにかく大陸はでかいから、東京-大阪間くらいの距離を毎日移動しなきゃいけない。そうなると、電車で移動するしかなくて。場所によっては夜のライヴを終えたらすぐ寝台列車に乗り込んで、13時間かけて次の街に移動、みたいなこともフツーにありましたね。観光する時間なんて、まったくとれなかった(笑)。

祢津 : でも、フツーにご飯とかは旨いんですよ。そこらへんの安い定食屋さんみたいなところに入っても、だいたいのところは美味しかった。

ーー2016年の9月には、はやくも2度目の中国ツアーを敢行されていて。こちらはいかがでしたか?

磯谷 : 当初は7月の予定だったんですよ。というのも、僕らは中国の〈MIDI FESTIVAL2016〉からオファーをもらってて、それをベースとした日程を組んでたんですけど、その開催地が大洪水に遭ってしまって、フェス自体が延期になったんです。で、一旦ツアーが仕切り直しになったんですけど、幸いすぐにリスケできて。現地では洪水のあと感染症も出回ってたっていうから、不安はあったんですけど、無事決行出来ました。

ーーそれは大変でしたね。それにしても、これだけ短いスパンに3回も中華圏に足を運んでいるというのは、やはり現在のTHE ANDSは、あちらのマーケットに可能性を見出しているということなんですか?

磯谷 : あると思います。可能性はアジアに限らず、いろんな地域にあるはずですよ。

祢津 : だから、やっぱりこういう旅は続けていくってことが大事ですよね。海外ツアーをやってきたバンドはみんな言うことだし、僕らも今それをなんとなく実感しているところなので、もちろん今後もこういうツアーは続けていきたいです。

松尾貴教

松尾貴教(ベース)(以下、松尾) : 大変なのは、曲作りですよね。実際、ツアー中も曲作りは進めていこうと思ってたんですけど、さすがにちょっと無理で。

祢津 : ツアー中にも曲を作ってるバンドって、ホントすごいなと思いましたね(笑)。

磯谷 : でも、こうしてツアーを続けていると、バンドのグルーヴ感は増していくよね。今回、リリースのスパンはちょっと空いちゃったけど、バンドのことを考えている時間は、以前よりも増えた気がします。

今の僕らなりの意思表示ができた

ーーそして、今作はアルバムとしては2年ぶりのリリースとなるわけですが、その前に皆さんは「Day By Day」というシングルをライヴ会場限定で販売していて。しかも、これがホーム・レコーディング主体の非常にユニークな曲なんですよね。

祢津 : 確かにあの曲はすごく実験的というか。ドラムもぶつ切りにしたフレーズをつなげたりして、けっこう新しいアプローチを試した曲ですね。

磯谷 : ちょっとした遊び心もあったんです。前作(euphorium)を聴いてくれた人にとって、いい意味で違和感だらけの作品を作ってみたいなと思っていたので。

ーーそれを踏まえたからか、今回のアルバムはポスト・プロダクションによるサウンドが際立っていて、ライヴ感が強かった前作と比べると、かなりレコーディング作品然とした仕上がりだと感じました。

磯谷 : 前作をつくったことによって、僕らのなかにひとつの対象物ができた分、「違ったアプローチでいこうよ」みたいな意識はあったかな。メンバーの共作感もぐっと増してきているし。実際、曲制作の段階で僕自身は曲の種をスタジオに持っていくレベル。あとは3人で考えながらセッションして作った部分が多いですね。

祢津 : そうですね。『euphorium』はするっと出来た感じだったんですけど、今回はアレンジが二転三転することもけっこうありましたし。特に「Psalm」のアレンジには悩んだかな。

祢津隼

磯谷 : そうだね。あの曲にはメロトロンやグロッケンも入ってるんだけど、当然スタジオで3人だけで演奏するときは鳴ってない音だから、スタジオ内では全員でそれが鳴っていると想像しながらアレンジするっていうか(笑)。結果として、けっこう自分の理想に近いサウンドというか、今の僕らなりの意思表示ができた曲だと思っています。

ーーそのスタジオ内では鳴っていない音を再現していく作業は、主に磯谷くんが担っているんですか。

磯谷 : そうですね。ただ、さすがにその進捗はみんなで共有してました。というのも、そうしないとメンバーが「この曲は自分のものなんだ」と言う意識を持てなくなってしまう。僕としては、全員にちゃんとジャッジしてほしいんですよ。音楽は、演奏するときだけじゃなく、作る過程においても美しくあってほしいから。実際、2人の意見はどのアレンジにも反映されているわけで。

ーー「Weed」はヘヴィ・ワルツ。そして「Mute」のシャッフル・ビートは、ちょっとバトルスの「アトラス」を思わせるというか。どちらもリズムに特徴のある曲ですね。

祢津 : たしかに今回のアルバムでは、ドラムでおもしろいことがやれたらなっていうのは、個人的にあったかもしれない。

磯谷 : 今回はドラムも主張性があるね。サウンドに関しては3人で同じ方向を向けているんじゃないかな。

バンドの音に関しては、変化することを恐れていない

ーー「Ohm」はメロディラインが秀逸だと思いました。あのサビで落としてくる展開がかっこよくて。

祢津 : あの曲は自分たちなりにちょっとふざけてるんですよ(笑)。

磯谷 : 明るいんだか暗いんだか、テンションが高いのか低いのかよくわからないっていうね(笑)。

祢津 : 聴いてるひとの裏をかきたいって感じでしたよね。ただ、それをライヴで表現するのって、けっこう難しいんですけど。

磯谷 : 声質なんかは、僕はあまりダイレクトにハードさを伝えられるようなタイプではないんだけど、そこはこのバンドのオリジナリティだと思っていて。「Ohm」ではそこがうまく出せたような気がしてます。自分たちのアイデンティティをしっかり提示できている曲というか。

ーー「自分たちのアイデンディティ」というのは?

磯谷 : 海外に行けば、僕らの持っているコミュニケーション・ツールは「音」だけじゃないですか。もちろんライヴ中のMCとかもパフォーマンスのひとつではあるし、言葉で心が動くことも当然あるんだけど、やっぱり僕らはその瞬間に出す音がすべてだと思っているんです。バンドの音に関しては、変化することを恐れていないし、むしろ堂々と変わっていきたいというか。前作はライヴで演奏することをどっかでイメージしてたけど、今回はそれを全く想定せずに音楽作品としてつくっていたところもあります。 

祢津 : そうですね。そうやって自分たちのやりたいことが変わっていけば、おのずとそれを表現する力も必要になってくるというか。そこは常に僕らの課題なんですよ。また次のアルバムをつくるとなったら、当然もっと深いことをやりたくなるから。まあ、深いっていうとアバウトすぎるかもしれないけど… こだわるってことですかね。

磯谷 : その通りだと思う。それに、やっぱりこうして作品を提示していかないと、バンドってなかなか次のステップに進んでいけないしね。

松尾 : 新しいものに取り掛かるといつも思うのは、それまで作ってきたものよりも作品性の高いものにしたいってことで。ただ、今の感覚が逆転することもなくはないと思います。それこそまたライヴ感を重視した作品がつくりたくなるかもしれないし。

磯谷 : ありえるよね。音源制作とライヴって、常に並行してあるものだし、どちらもバンドにとっては必要不可欠だから。

ーー「深く」ということばからは、このアートワークとの関連性も感じられますね。

磯谷 : まさに。ちなみにこの写真、僕じゃないですからね(笑)。『FROTHY』というタイトルには、「泡のように」みたいな意味合いがあるんですけど、泡ってカタチが変わっていくでしょ? さっきも話したように、僕らのアイデンティティも、そうやって変化していくことにあると思ってるから。

ーー『FROTHY』はそのステイトメントでもあると。

磯谷 : まさにそう。あんまり深く潜っちゃうと窒息しちゃうんだけど、すでに僕らは、そう簡単には浮き上がってこれないようなところまできちゃってるからね(笑)。

THE ANDSの過去作はこちら

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LIVE SCHEDULE

new album 『FROTHY』ヴィレヴァン・インストア・ライヴ
2017年1月29日(日)@ヴィレッジヴァンガード高円寺店
2017年2月5日(日)@ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川店

THE ANDS 〜FROTHY〜 TOUR 2017
2017年2月23日(木)@名古屋 CLUB ROCK'N ROLL
2017年2月24日(金)@心斎橋Live House Pangea
2017年2月25日(土)@京都MOJO
2017年3月31日(金)@秋田LIVE SPOT 2000
2017年4月1日(土)@仙台Flying son

PROFILE

THE ANDS

2011年結成。ISOGAI、MATSUO、NETSUによる3ピース・ロック・バンド。2012年ガレージ・リヴァイバルとも言えるアルバム『FAB NOISE』でデビュー。FM各局パワープッシュ・ソングに選ばれる。2014年セカンド・アルバム『euphorium』をリリース。オルタナティヴ・ロックの新しい形を提示。2015年に台湾のロック・フェス〈Spring Scream〉、2016年には中国最大級のロック・フェス〈MIDI FESTIVAL 2016〉に出演を果たす。毎年国内ツアーを行い、近年では台湾、香港、中国大陸など東アジア圏へ活動シェアを広げている。

アーティスト公式HP

[インタヴュー] THE ANDS

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