2017/01/18 03:02

【REVIEW】ジョーン・オブ・アークのポストロック×インダストリアルな新作に驚く──ハイレゾ先行配信

シカゴに数え切れないほどのバンド・プロジェクトを立ち上げ新たな音楽の可能性を切り拓き続ける、キンセラという二人の兄弟がいる。彼らはポストロック/エモというジャンルを軸に唯一無二のサウンドを鳴らし続けてきた。そんな彼らが主軸を担うバンド、ジョーン・オブ・アークは、昨年3月に活動20周年を記念して京都・名古屋・松本・東京を巡る来日ツアーを敢行し話題を呼んだ。節目を祝い、新たなフェイズに入るや否や彼らは衝撃的な怪作を発表する。それが最新作『He's Got The Whole This Land Is Your Land in His Hands』である。OTOTOYでは、この衝撃的な問題作を、レビューを付してハイレゾ先行配信する。

ジョーン・オブ・アークの最新アルバムをハイレゾ配信!

Joan of Arc / He's Got The Whole This Land Is Your Land in His Hands
【収録曲】
1. Smooshed That Cocoon
2. This Must Be The Placenta
3. Stanged That Egg Yolk
4. Full Moon and Rainbo Repair
5. Cha Cha Cha Chakra
6. Grange Hex Stream
7. Two Toothed Troll
8. New Wave Hippies
9. Never Wintersbone You
10. F Is For Fake
11. Ta Ta Terrordome
12. The Keys to KIngdam(日本盤ボーナス・トラック)
13. Theme from Rainbo(日本盤ボーナス・トラック)

【配信形態】
24bit/48kHz(WAV / FLAC / ALAC) / AAC

【配信価格】
単曲 180円(税込) / まとめ価格 1,800円(税込)

REVIEW : ジョーン・オブ・アーク

ジョーン・オブ・アーク

ポストロックだとかエレクトロニカやノイズといった音楽は、前衛的で複雑なものが多いように感じる。難解でなかなか腑に落ちない音楽を聴いていると不安に駆られることだってあるだろう。しかし、決してコード進行がメロディアスでもなければリズム構成が単調でもないのに、耳から体にストンと落ち着く音楽もあるようだ。

ジョーン・オブ・アークの新作『He's Got The Whole This Land Is Your Land in His Hands』のことだ。鬼才キンセラ兄弟を中心にアヴァン / ポストロックの雄としてシカゴから世界にその名を馳せるジョーン・オブ・アーク。もう結成から20年を優に超えるベテラン・バンドである。この20年彼らは、直感的に情緒を刺激するエモや変態性を帯びるポスト・ロックといった音楽を鳴らし続けてきた。オリジナル・メンバーでシンセサイザーを担当していたジェレミー・ボイルが約15年ぶりに復帰した今作は、彼が最後に関わった4thアルバム『How Can Any Thing So Little Be Any More?』がフォーキーで比較的穏やかな楽曲が占めていたのに比べて、エレクトロニクス感を帯び、ビート性を重視した作品になっている。地を這いずり回るかのように深遠をうねるベース、極限まで音を歪ませて姿を眩ますギター、そして不気味にさえずり響く電子音の数々が生み出す音像はもはやロックというジャンルを超越している。

キンセラ兄弟は各々様々なプロジェクトを抱えている。もちろんポストロックやエモというジャンルを軸にしているのだが、キャップンジャズを皮切りにオウルズやメイク・ビリーヴといったポストロック的アプローチに特化したバンドで制作をしているかと思えば、弟であるマイク・キンセラはオーウェンというソロ・プロジェクトでメロディアスかつフォーキーなアコースティック作品をリリースするなど、それぞれのバンド・プロジェクトで方向性の違う創作を重ねている。そのカオスな制作状況が彼らの独自性を醸成させているが、今作はその一つの集大成と言えそうだ。

ポストロックとノイズ/インダストリアルとポピュラー性の邂逅

例えば、「Smooshed That Cocoon」は工場で響く機械音のようなドラムが楽曲の骨組みを構成しているし、「Ta Ta Terrordome」で奏でられる不協和で打撃的なギターは金槌が鳴らす打響音にも聴こえる。これらに限らず本作は、アルバム全体を通して、ポストロックやエレクトロニカよりも混沌を極めるノイズ / インダストリアルという言葉も冠することができるだろう。しかし、そのような難解なトラックに、ボーカルが紡ぐメロディも違和感なく同居しているのが本作の興味深い点である。メンバーそれぞれのプロジェクトで精錬させているポップ・センスやエモ・センスが、「ポストロックかつインダストリアルなトラック」と「ボーカルのメロディ」という同居し難いものを、リンクさせることに成功している。つまり本作は、「歌モノ」としても咀嚼することができるインダストリアル・ポストロック楽曲が揃っているため、前衛的であるにもかかわらず日常に落とし込めるほど聴きやすい不思議な作品として完成しているのだ。

鬼才キンセラ兄弟率いるポストロック・バンド、ジョーン・オブ・アーク。彼らは、彼らにとって一つの集大成であり一つの実験でもある本作『He's Got The Whole This Land Is Your Land in His Hands』でアヴァン/ポストロック界に新たな可能性を提示した。エッジな音楽を求めて歩み続けて20年を経過した今も、彼らの創作意欲はとどまることを知らない。(Text by 椿 拓真)

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PROFILE

Joan of Arc

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>>Joan of Arc official HP

この記事の筆者

[レヴュー] Joan Of Arc

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