2016/12/14 12:00

童謡・唱歌を、2010年代でしか生まれ得ない音楽に変身させる──キヲク座、初作品ハイレゾ配信開始!

日本の童謡や唱歌を、斬新にポストロックやプログレ、アフロポリでアレンジして演奏する音楽集団、キヲク座。彼らのファースト・アルバム『色あはせ』がOTOTOYでハイレゾ配信! 収録曲は「ほたるこい」や「かごめかごめ」など日本人なら親しみ深い楽曲から富山民謡「こきりこ節」、北アイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」も選曲。何故いま彼らは「童謡」や「唱歌」を取り上げるのか。世界の民族音楽や民謡、祭りを専門に活躍する音楽ライターの大石始に彼らをインタヴューしてもらいました。

キヲク座 / 色あはせ
【Track List】
01. ほたるこい
02. 待ちぼうけ
03. さとうきび畑〜うみ
04. かごめかごめ
05. たきび
06. シャボン玉
07. あの町この町
08. こきりこ節
09. 椰子の実
10. ロンドンデリーの歌

【配信形態 / 価格】
24bit/96kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
単曲 301円(税込) アルバム 2,500円(税込)

INTERVIEW : キヲク座

ジョン・マッケンタイアやノルウェイのジョージ・タンデロがミキシング・エンジニアを手がけたファースト・アルバム『色あはせ』(2015年)が菊地成孔や堤幸彦監督らから絶賛され、一躍注目を集めたキヲク座。石山ゑり(ヴォーカル、プログラミング)と五味俊也 (ピアノ、ドラムスほか)を中心とし、勝尾祐介(ベース)らがサポートとして加わる彼らがレパートリーとしているのは、童謡や唱歌、わらべうたや民謡など少々レトロな日本の歌の数々。ただし、ポストロックやアンビエントを経由したサウンド・プロダクションによって、それらスタンダードの新たな側面を引き出すのがキヲク座のスタイルだ。

古き良きニッポンの再現でもなければ、単なる企画モノでもない。童謡や唱歌、わらべうたといった日本のスタンダードに対してフューチャリスティックかつプログレッシヴなアプローチを試みるキヲク座は、聴くものの記憶の奥底に潜むものをくすぐりながら、2010年代の東京でしか生まれ得ない音を作り出す。現在新作準備中という彼らの世界観に迫るべくインタヴューを試みた。

インタヴュー&文 : 大石始
写真 : 坂脇卓也

童謡はそのメロディーを聴けばほとんどの人が知ってる。それでいて、形があるようでない

──結成は2012年ですよね。どのような経緯で結成されたんでしょうか。

五味俊也(以下、五味) : (東京)丸の内のブリックスクエアで行われた〈街角に音楽を〉というイヴェントから「ソロで何かできませんか?」と声をかけてもらったんですね。しかもみんなが知ってる曲をやってほしいということだったんです。自分自身、それ以前から童謡に関心があったし、(石山)ゑりさんは一切英語詞を入れず日本語だけで歌ってたんで、これはゑりさんに頼もうと。

──五味さんは童謡のどういう部分に関心を持ってたんですか?

五味 : すごくシンプルな言葉の繰り返しで歌が成立しているところですね。大正以降に作られた曲であっても日本人に馴染みやすいヨナ抜き音階で作られていて、そこに違った伴奏がつくことによって音楽が違って聴こえる。そういうリハーモナイズやアレンジの作業に関心があったんです。あと、僕は大学のころはジャズ研究会にいたんですけど、当時からウェイン・ショーターが好きだったんですね。あの人は前の奥さんが日本人ということもあって、東洋系のメロディーを採り入れた曲を作ってるんです。そういうことを日本人が追求したらおもしろいんじゃないかと当時から考えてました。

五味俊也

──石山さんはどうですか?

石山ゑり(以下、石山) : 私は高校を出たあとアメリカに留学していたんですけど、そのとき日本人としてのアイデンティティーみたいなものを意識するようになったんですね。そのころ歌を歌うようになって、日本に帰ってきてからも東京でシンガー・ソングライターとして活動するようになるんですけど、ピアノの弾き語りで演歌を歌ったりしてました。森進一の「襟裳岬」をめっちゃしっとりしたピアノで歌ったり(笑)。

──キヲク座以前から童謡も歌ってたんですか?

石山 : (サトウハチロー作詞・中田喜直作曲の童謡)「ちいさい秋みつけた」をちょっとやってたぐらいで、キヲク座を始めてからおもしろいなと思うようになった感じです。歌詞のおもしろさもあるけど、やっぱりメロディー。シンプルだけど、すごく変わってるんですよね。音程の変化がすごく急だったり、現代からみるとすごく自由に作られてる気がする。

──キヲク座では民謡もやってますよね。

石山 : そうですね。昔からお祭りの合いの手が好きだったんですよ。〈ヨーイサッサー〉とか〈ドーシタドシタ〉とか。あと、地元(三重県の度会郡)に大宮音頭っていう曲があって、たぶんそのイメージが頭のどこかにあるんだと思う。

石山ゑり

──勝尾さんはどうですか?

勝尾祐介(以下、勝尾) : 僕は2人から(グループへの参加を)持ちかけられた立場なので少し感覚が違うと思いますけど、何よりもそのメロディーを聴けばほとんどの人が知ってる、というところがおもしろいですよね。それでいて、形があるようでない。

──決まったアレンジがあるわけでもなくて、自由にアレンジしてもいいと。

勝尾 : そうですね。

童謡は、深い歌詞のわりにコード進行は簡単。自分たちは歌詞にあった複雑で厚みのあるアレンジでもいいんじゃないか

──童謡や唱歌、わらべうたを取り上げる場合、もっと上の世代の方々はノスタルジーたっぷりにやる人が多いと思うんですよ。でも、キヲク座の場合はまったくそういうものじゃないですよね。

石山 : 確かにそうですね。ただ、話し合ってノスタルジックじゃないものにしてるわけじゃなくて……。

勝尾 : みんなヒネくれてるんですよ(笑)。まず、普通のことはしたくないという。

──ファースト・アルバム『色あはせ』のアレンジもすごくプログレッシヴというか、単純なものはひとつもないですよね。この形に着地するまでにさまざまな試行錯誤があったんじゃないかと思うんですが、いかがですか?

五味 : それはありましたね。選曲は僕とゑりさんの2人でやったんですけど、キヲク座のルールとしては「この曲、やりたい」と言い出したほうがアレンジをしようと。

石山 : たとえアレンジでモメても、最終的な責任者はどっちかはっきりさせておこうということですよね(笑)。

──勝尾さん、いかがですか? アレンジを組み立てていくのも大変な作業なんじゃないかと。

勝尾 : いやー、大変なんですよ(笑)。基本的にこの2人は普通のベースラインを弾いてもあんまり反応してくれなくて、ベースっぽくない演奏をすると「それそれ!」ってOKが出る。単音じゃなくて和音で弾くとか、チェロみたいに弾いたり、いろんな技法を駆使しながらやってます(笑)。

勝尾祐介

──キヲク座の音からはいろんな音楽の要素が聞こえてきますよね。でも、決して単純じゃないので、それが何の音楽から持ってこられたのか全然わからないという(笑)。

五味 : そう言ってもらえるのは嬉しいですね。もともと“中間的なもの”というイメージはありました。たとえば、ジョニ・ミッチェルがジャズ/フュージョン系の人たちと一緒にやった『Court and Spark』(1974年)とか。

勝尾 : スティングとかね。

五味 : そうそう。カサンドラ・ウィルソンの『New Moon Daughter』(1996年)も横断的なアプローチのアルバムで、すごくおもしろいんですよね。

Cassandra Wilson「New Moon Daughter」(1996年)
Cassandra Wilson「New Moon Daughter」(1996年)


[[YOUTUBE:oHEDdecvLpU:center<>width=600<>caption=Joni Mitchell 「Court and Spark」(1974年) ]]

石山 : “自分たちが聴きたいものをやる”という基本的な前提があるので、いろんな要素が詰め込まれてるんだと思います。

──童謡やわらべうたは元がシンプルなだけに、そうやっていろんな要素を詰め込めるんでしょうね。

石山 : うん、それはあると思いますね。アレンジを構築しやすいというか。

五味 : 童謡や唱歌って、コード進行自体すごくシンプルなんですよね。でも、歌詞はすごく深い意味にも捉えられるものも多くて。たとえば(野口雨情作詞・中山晋平作曲の童謡)「シャボン玉」は、若くして亡くなった子供たちのことがイメージされてるという話もありますよね。だから、あんまり明るく合唱するのはどうも違う気がしていて。以前から自分たちでやる場合はもっと複雑で厚みのあるアレンジでもいいんじゃないかと思ってたんです。

僕らのレコーディング風景を見ててくれたような仕上がりでびっくりしましたね

──なるほどね。で、このアルバム『色あはせ』でまず驚いたのが、ジョン・マッケンタイアとジョージ・タンデロ(トラヴィスほか)がミックス・エンジニアをやってるということで。彼らに依頼した理由は?

石山 : 自分たちの好きな作品を手がけた方にお願いしようということですよね、まずは。

五味 : ジョン・マッケンタイアの作品はみんな好きなんですよ。アルバムにも参加してくれたギターの坂(高也)くんと2人でトータスのライヴを観に行ったこともあるし。ジョージ・タンデロはノルウェイの国民的歌手と呼ばれているスールヴァイグ・シュレッタイェルの作品を手がけた人で、そのスールヴァイグ・シュレッタイェルのCDが好きだったのでお願いしました。

──やってみて、いかがでした?

五味 : 最初のミックスから僕らのレコーディング風景を見ててくれたような仕上がりでびっくりしましたね。“歌だけがものすごく前面に出てて、あとはバックの音”みたいな感じにはしたくなかったんです。歌も音楽も全部でひとつというイメージ。おふたりのミックスともまさにそういうものになってたので、嬉しかったですね。

──マスタリングはオノセイゲンさんがやってらっしゃいますね。

五味 : そうですね。ミックスの段階である程度自分たちの音楽を作れたという感覚があったので、マスタリングで大幅に変えるんじゃなくて、それを活かしたうえでマスタリングしていただこうという話はしました。もちろん過去にセイゲンさんがやってこられたことに対する信頼があるので、それゆえにお願いした、と。

わらべうた自体が音遊びみたいなものですし、ものによって即興的な部分もある

──それぞれの曲についてもお聞きしたいんですけど、「ほたるこい」のハーモニーはひとり合唱みたいな感じでおもしろいですよね。

石山 : レコーディングはダビングできるので、合唱みたいなことをできればと思って。メロディーがシンプルなぶん、こういうことも活きるんでしょうね。この曲は最初の段階からひとり合唱のイメージがあったので、そこにグロッケン(鉄琴の一種)のリフを乗せていったんです。

五味 : 〈日本の通信史〉をイメージしたって言ってなかった?

石山 : あ、そうだ(笑)。あれは日本の通信の歴史を辿ってるんです。

──えっ、どういうことですか?

石山 : 「ほたるこい」っていう歌自体、〈こっちの水があまいぞ/あっちの水はにがいぞ〉とホタルが言い合ってるような歌詞じゃないですか。なので、1番では法螺貝を吹いたり、半鐘を鳴らしたり、馬が走って情報を伝えていく、というイメージをサンプリングで表現していて、2番では時代が進んで玄関のチャイムが鳴ったり、黒電話が鳴ったり。本当はそこに犬の鳴き声とかも入ってたんですけど、メンバーから却下されて(笑)。

──すごい発想(笑)!

石山 : だから、よく聞くといろんな音が入ってるんですよ、「ほたるこい」には。

──わらべうたとしては「かごめかごめ」が取り上げられてますけど、この曲も後半にエイサーの掛け声が入ってたり、すごく凝った作りになってますよね。

五味 : レコーディングの過程で“この曲にこういう声が入ってたらおもしろいと思うんだよね”というアイデアをゑりさんが出してきて、それでやることになりました。わらべうた自体が音遊びみたいなものですし、ものによって即興的な部分もあるんですよね。なので、こういう遊びが入ってきてもいいだろうと。ライヴでは違う曲同士を繋げてみたり、そういう遊びもやってます。

──アルバムでは「さとうきび畑」と「うみ」がメドレーとして収録されてますけど、ライヴでやってることの延長上の感覚なんですか。

石山 : 「さとうきび畑」は童謡じゃないので、歌詞がすごく長いんです。メッセージ性もかなり強いので、後半に「うみ」を持ってくることで意味の広がりを持たせられるんじゃないかと思ったんです。

──「さとうきび畑」はもともと沖縄戦をモチーフにした歌ですもんね。それが「うみ」と接続されることで世界観が広がるというか、逆にメッセージが補強されるような感覚もありますよね。

石山 : そうなってるといいんですけどね。

──富山県南砺市に伝わる「こきりこ節」は今回唯一の民謡ですね。

石山 : この曲は小学校の音楽の教科書に載ってたんですよ。それもあって昔から知っていて、何かの形でやってみたいとは思ってたんですね。あと、日本最古の民謡と言われてる曲なので、今回やってみようと。

──1番最後には北アイルランド民謡の「ロンドンデリーの歌」が入ってますよね。ちょっと毛色が違いますけど、この曲を選んだ理由は?

石山 : 『ナビィの恋』っていう映画のなかで山里勇吉さんという沖縄の歌い手さんがこの歌を歌ってたんですね。すごい歌詞だし、いつかやってみたいと思ってたんです。

──北アイルランドの歌だけど、1回(山里勇吉の出身地である)石垣島を通ってるわけですか(笑)。

石山 : これはもともと産業革命の歌じゃないですか。だから、ロボットが近づいてくるイメージをサンプリングで表現して。

五味 : ゑりさん、結構サンプリング好きなんですよ(笑)。

沖縄戦を知らない僕らが「さとうきび畑」をすごくエモーショナルにやってしまうと…

──古い日本の歌を取り上げていても、キヲク座がやってるのはあくまでも〈今の音〉ですよね。それも〈今の東京の音〉であって、少なくとも〈昭和の東京の音〉ではない。

五味 : そうかもしれないですね。その人のコブシが入るような歌って僕自身ものすごく好きなんですけど、キヲク座の場合はやらないほうがいい気がしていて。沖縄戦のことを知らない僕らが「さとうきび畑」をすごくエモーショナルにやってしまうと、そっちのほうがインチキくさい気がしちゃうんですよね。それよりも、今の時代に生きている自分たちがこの歌をどう捉えて、どんなイメージが湧き上がってきたのか。そこを膨らませていくほうがいいんじゃないかと思ったんですよ。

石山 : 「さとうきび畑」は何度も録り直しましたね。歌をもっと薄くしよう、いかに風景的かつエアリーにできるか。そういうことは考えましたね。

──「さとうきび畑」はこのアルバムのなかでももっとも社会的な背景が色濃く出た曲ですよね。だから、元のイメージに引っ張られないようにするとはいっても、何をやってもいいわけではない。キヲク座のヴァージョンはそこが守られていると感じました。

石山 : 自由にアレンジするんですけど、元の歌に対するリスペクトは当然あって。壊すんだけど、何をやってもいいわけじゃない。

五味 : すごく感情的に表現するかどうかは別にしても、その歌の意味を理解するのは大切だと思ってます。その背景も理解したうえで自由にアレンジしようと。

──なるほどね。で、2017年に次のアルバムが出るんですよね?

石山 : そうですね。まだ構想中ですけど。

五味 : ライヴでやってる曲が何曲か入ると思います。

石山 : ライヴを重ねるなかで勝尾さんが急にルーパーを使い出したり、さらにベースらしからぬ演奏になってますし(笑)

勝尾 : ベースっぽくない演奏をするのにハマってきちゃって、キヲク座を続けるなかでどんどん開花してきちゃってます(笑)。

五味 : 唱歌、童謡、わらべうたを中心にしていくのは変わらないと思うんですけど、今回の「ロンドンデリーの歌」みたいに海外の歌を訳詞で歌うケースももちろんあると思います。『色あはせ』はだいぶ時間がかかったので、次のアルバムはできるだけ早く出せれば……。

石山 : ただ、『色あはせ』以上に自分たちが繰り返し聴きたくて、なおかつおもしろがれる作品を作りたいんで、時間はやっぱりかかると思う。

──僕も首を長くして新作の到着をお待ちしております(笑)。

全員 : ありがとうございます(笑)。

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PROFILE

キヲク座

石山ゑりと五味俊也が中心となり、​日本の童謡、唱歌を斬新にアレンジ​しつつ、現代、そして後世にその歌や言葉の素晴らしさを伝えていくプロジェクト。

>>キヲク座 オフィシャルHP

[インタヴュー] キヲク座

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