2016/09/15 12:33

大貫妙子を彷彿とさせる真っすぐな歌声。風景が目の前に広がる〈東京のポップス〉

路地 左から鈴木雄三、久保田敦、飯島梢

男性3名、女性1名。東京のバンド〈路地〉。はっぴいえんど「風をあつめて」の冒頭一節に登場する単語であり、ceroにも「Roji」という楽曲がある。ポスト大貫妙子とも称される飯島梢(Vo,Syn)の歌声も含めてシティ・ポップ系譜のサウンドと想像していた。聴いてみると確かにその要素は多分にあるが、突如入るノスタルジックでリバーヴの効いた音の波、ハードなギターソロなど幅広いアプローチが垣間見える。そんなサウンドもやさしさで1つに包み込んでしまう飯島の歌声。地に足のついたリベラルな思考を持つ音楽集団だ。また日常と地続きのサウンドは全員普段フルタイムで仕事をしており、そんな生活の軸の置き方が音楽に反映されていることも大きいだろう。

初めての取材だという今回。結成のいきさつから、本作を含めた路地の音楽への想い、インタヴュワーである筆者も普段は会社員とあって、バンドと同じく大切だという仕事にまで話が及んだ。少し遅めの平日20時半、全員仕事が終わり集合次第でインタヴューが始まった。(ベースの飯田直規は仕事のため欠席)

インタヴュー&文 : 峯大貴
写真 : 関口史彦

普段の生活になじむような、風景を想像させる音楽

路地 / 窓におきてがみ
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz(ALAC / FLAC / WAV / AAC)
価格 まとめ購入 1,000円(税込)/ 単曲 200円(税込)

【トラック・リスト】
1. 天気雨
2. 砂場
3. ハイウェイ
4. 渚にて
5. あざやか
6. せいかつ
7. ゆめ

路地『窓におきてがみ』 ダイジェスト
路地『窓におきてがみ』 ダイジェスト

街・風景を想像できて奇をてらいすぎない〈路地〉になった(鈴木)

――ファースト・アルバム『窓におきてがみ』発売ということで、今回は本作の話はもちろん、そこに至る経緯をお伺いできればと思っております。まずは2014年1月に結成されたということですがそのきっかけをお話いただけますでしょうか。

鈴木雄三(G,Syn) : 自分と飯田さん(Ba)は大学時代のスーパーのアルバイト仲間です。大学時代はそれぞれ別のバンドをしていてそのまま卒業したのですが、2年半ほど前に久しぶりに再会してからもう一人と始めたバンドが原型となります。それはあまり上手くいかなくて解散したのですが、飯田さんとは音楽の趣味が合ったので今度は女性ヴォーカルのいるバンドをやりたいと言っていて、解散したもう一人のメンバーの紹介で出会ったのが梢さんです。あってます?

飯島梢(Vo,Syn) : あってます。以前私はコブクロ女ヴァージョンみたいなアコースティックのユニットをやっていたのですが、当時は音楽も辞めている状態が2年くらい続いていて。もう一度やりたいなとぼんやり思っていた時に飯田さんに誘われました。

鈴木 : 飯田さんから「めちゃ歌うまい女の子と出会った! 女の子としてじゃなくバンドのヴォーカリストとしてアプローチする」と言われて(笑)。歌っている動画を見せてもらったらすごくうまくて引き入れました。

――鈴木さんと飯田さんのうまくいかなかった前身バンドは今とは違う音楽をやっていたと。

鈴木 : 全然違います。ビーチ・フォッシルズとかダイヴ(DIIV)を意識したサウンドで。

――梢さんが加入して、その後に久保田さんがジョインすると。

久保田敦(G) : ライヴ見に行ったら下北沢THREEで会ったんですよね…?

鈴木 : そんな浅い関係じゃねぇわ!お前びっくりするわ!

久保田 : あ、大学の後輩です(笑)。卒業してからTHREEで再会した時に「路地ってバンドをやるんだ」とデモ音源を聴かされて。誘われたと思ったら1か月後に初ライヴだから7曲覚えてと。

鈴木 : 結成当時が一番急ピッチで曲を作っていった気がしますね。とにかくライヴがしたかったので。

――久保田さんが入る時にはすでに〈路地〉だったんですね。

久保田 : 正直最初バンド名を聞いた時は微妙じゃね? って思いました(笑)。でも聴いてくれた人の中に懐かしいとかノスタルジックと思ってくれる人がかなりいて、その音楽性にすごく合っている名前と今は思いますね。

左から鈴木雄三、飯島梢

――確かに素朴な感じがバンド名だけで伝わってきますよね。

鈴木 : あ、流石です。ギラギラした感じではなく普段の生活になじむような、でもJ-POP過ぎない捻くれた要素のあるバンドというのはコンセプトにありましたね。街・風景を想像できて奇をてらいすぎないという観点で付けたんだと思います。

久保田 : 1回変えようという話になりませんでしたっけ?

飯島 :  確か保留だったんだよ。とりあえず〈路地〉でいっか、また変えればって感じだったけど浸透してしまって変えられなくなったの。

鈴木 : また変えるかもしれません(笑)。

――サウンドとしてはどのようなものを目指したのでしょうか?

鈴木 : 僕も飯田さんもインディー・ミュージックが好きで。でも多くの人が聴くには難しいなとも感じていて。だからキャッチーでポップなものとインディーの間を取れるものがやりたいなとは思っていました。今回入っている曲であればゆらゆら帝国を歌声がきれいな女性が歌うとどうなるんだろうと作ったのが「ゆめ」だったり。

フレッシュ感を抑えた落ち着いた魅力が伝わるように意識しました(久保田)

鈴木雄三

――一方で主に梢さんの声の印象から〈ポスト大貫妙子〉と評されることが多い路地ですが、そのように言われることについてはどのように考えられていますか?

飯島 :  私(大貫妙子を)全く存じ上げてなくて…。本当に最近、雄三君に聴かせてもらって初めて知りました。

鈴木 : 自分は大貫妙子、山下達郎、シュガー・ベイブとか大学の時にコピーするくらい大好きで、そういう風に言ってもらえるのは個人的には嬉しいです。でも梢さんとの共通点としては押しつけがましくない歌声というところかなと。主張の激しい主役のようなヴォーカリストではないかもしれないけど、透き通っていて凛とした存在感はあるとずっと思っています。

飯島 :  えーありがと!

久保田 : 曲は自分・鈴木・飯田の男3人がそれぞれ作っているのでデモでは自分で歌っているんですよ。それがヒドいんですよね(笑)。でもそれを梢ちゃんが歌うとちゃんとすごいものになっているんです。

飯島 :  一般的なJ-POPみたいに「聞いてくれ私の歌を!」という感じで、私も昔はユニットでデビュー目指して一所懸命そんな感じでやっていたんですけど「私こんなんじゃない」って途中で疲れちゃって、やめてしまったんです。でも路地で歌わせてもらう曲はずっと歌っていても疲れないんですよ。ヴォーカルも楽器の一つというような立ち位置ですごく歌いやすい。

――となるとメンバーの共通項となるような音楽ってあるんですか? 3人のソングライターがいながらも同じ方向を向いているのかバラバラな印象は全くないですね。

鈴木 : 根本は違いますねみんな。曲作りにおいてもいろんなサウンドがやりたいからごった煮なんですよ。カントリー、オルタナ、ニューウェイヴ…。でも最後梢さんが歌うことで全てをまとめて落ち着かせてくれるんでしょうね。今回入っている「渚にて」という曲は以前も録音したことがあって。今回録り直すにあたってはマック・デマルコの雰囲気で、ここのシンセはビーチ・ハウスみたいな幻想的な音でとかそんな話はしましたね。

久保田 : タイトルもニール・ヤング(が1974年にリリースしたアルバム『渚にて 原題:On the Beach』)から来ています。

路地「渚にて」MV
路地「渚にて」MV

――すでにライヴやSoundCloudで発表してきた曲も今回収められていますが、改めて今回作品として出すにあたってどのようにものにしたかったのでしょうか?

鈴木 : どんなタイミングで聴いても耳になじむ曲が揃っているといいなと思いました。雨が降っている日でも、ハイテンションな日でもiPodに入れて外に持っていきたくなるような。

久保田 : あと7曲という曲数も全部通しでツルッと聴けるような作品にしたかったですね。

飯島 :  今オフィシャルサイトで曲ごとのセルフライナーノーツをみんなで書いているんですけど、私はそれを考えているうちに段々どんな作品なのかわかってきました。今回アルバム発売にあたって上司にOTOTOYで先行発売されることを言ったんですね。そしたらその場で買ってくれて。周りにもまだあまり話してなかったので本当に第1号だと思う。聴いてくれた上司やお母さんが、〈年配の方でも聴けるような曲がある〉って言ってくれたのがすごく嬉しかったです。その時に生活の一部として子どもからお年寄りまでが聴けるようなアルバムなんだなと思いました。

――今回の7曲も生活の一部となるような耳馴染みのよいという基準で選ばれたということでしょうか。またそのような作品にするために意識したことはありますか?

鈴木 : 路地ってもっとアップテンポでノリのいい曲もあって、どれがアルバムに入ってもよかったので、メンバーの投票で決めたんですけど、結果今回は落ち着いた曲が多くて。その時の気分がメロウだったのと、仰る通り生活になじむようなものにしたいというのがみんなの中にあったんだと思います。またミックスは最初ヴォーカルを中心に据えるような仕上がりにしていただいたんですけど、ちょっとJ-POP過ぎて違うなと思って。厚化粧にはしたくなくて、音を削いでいく作業は意識しました。すっぴんで美人って言うのが一番いいじゃないですか。

久保田敦

久保田 : 耳に痛くない音にするのも意識しましたね。ギター弾く方としては歪んでいたりギラギラしていた方が気持ちいけど、聴く側に立って柔らかい音にする。あとファースト・アルバムってどうしてもフレッシュ感が出てしまうじゃないですか。自分達はもうそんな年齢でもないですしフレッシュ感を抑えた落ち着いた魅力が伝わるように意識しました。最初にキャッチーな1曲を入れておけば多くの人に届くだろというのは自分達には合わないなと。

鈴木 : 確かにそうだね。それ深い!

ギラギラ上を目指すよりも、マイペースにできるのが一番(久保田)

飯島梢

――ではこの作品はどのように広がっていってほしいなどはありますか?

鈴木 : J-POPしか今まで聴かなかったけど、路地を聴いてシュガー・ベイブも聴くようになりましたとか…。

飯島 :  それ私だねぇ。

鈴木 : 路地を聴いて空気公団を…。

飯島 :  それ私だねぇ。

鈴木 : あなた自身ね(笑)。もちろん売れてほしいですけど、ガーッと売れるよりも10年後にそういえば今聴いても路地っていいよねと思ってもらえるような広がり方が一番理想ですね。

久保田 : ニルヴァーナよりもソニック・ユースの方ですね。バーッと売れて燃え尽きるよりも積み上げていくみたいな。

鈴木 : オアシスかブラーかでいうとブラーみたいな? 俺ブラー派なんだけどね。

――こんなやりとりを日々見ていて梢さんはまた新しい音楽を知っていくんですね(笑)。お話を聴いているとソングライターである男性陣にとって梢さんは路地の音楽を届けたい対象のモデルのような気がします。ヴォーカリストとしてはもちろんプロですけどリスナーとしては極めてフラットで。

飯島 :  スタジオ終わりにメンバーで飲んだ時でも、みんなはインディー・ミュージックの話ですごく盛り上がっているんですけど、私は全くわからなくて。みんなが持ってくる曲も最初は「なんだこの曲? 歌えるのかな?」と思うんだけど、段々馴染んでいく心地がして歌えば歌うほど「いい曲じゃん!」てわかってくるんですよね。歌いやすいようにメロディも歌詞も「ごめんね」って言いながら私なりに変えているところもあるんですけど。

鈴木 : でも結果それでよくなっているし。それがバンドでやることの意味だからね。

――またお話から非常にマイペースを崩さない印象を受けます。先ほどから生活の一部としての音楽という話が出ていますが、普段はお仕事をされているということで、みなさん自身にとっても音楽はあくまで生活の一部なのかなと。

久保田 : みんな結構年も年なので、ギラギラ上を目指すよりも、マイペースにできるのが一番で。週末にバンドがあるという今の生活がめちゃめちゃ楽しいんです。土日に曲作りで煮詰まってどうにもならんとなと帰って月曜から仕事するんですけど、水曜日頃にはまたスタジオ入りたくなる。ようやく週末またスタジオ入るといいものがポンと出てくるといういい循環が生まれています。逆に平日とかいつでもスタジオに入れる状態の方がよくないかも。

鈴木 : 仕事・バンド・自分という生活のサイクルの一部になっていますね。バンドのことを考えない日は一日もないけど、バンドしかない状態でバンドってできない。また働いて普通の生活をしながら作っているからこそ聴いている人の生活になじんで親近感の持てる音が出せるんじゃないか、音楽だけで生きていく人の作る音楽では描けないものがあるんじゃないかとも思っています。

久保田 : 10代で始めていたらわかんなかったですよね。調子こいてバンド一本でやっていこう! ってなっていたかも。仕事がある中で始めたっていう世代的なことも大きいですよね。

鈴木 : 確かに。タモさんの横狙うか! ってなっていたかも。

飯島 :  前は音楽で食べて行こうとしていたけど諦めて、私は今仕事が生活の軸です。それでも今音楽をやらしてもらっていることに感謝しています。ほんと… ありがと。

――みなさん仕事とバンドが両輪になっている生活だと思いますが、では今後路地というバンドが目指す先はどこにあるのでしょうか?

鈴木 : 今回は落ち着いた作品になっているので、次の機会があればアップテンポなものだとか違った切り口の作品になるかと思いますね。まだまだいい作品が作れると思っていて、新曲もすでにできている状態です。

飯島 :  じゃあ私の曲を次は入れていただけると…。前に1曲試しに出してみたんだけどあまり反応がよろしくなくて(笑)。

鈴木 : でもこの前聴き直してみるとすごくよくって。またアレンジをしてライヴ会場で配れるような特典CDとかに収録したいです。

飯島 :  ありがとうございます!

久保田 : 活動としては今のペースや姿勢を崩したくなくて、じんわり広がってくれるような、息の長いバンドになりたいです。でもペースを崩さないというのは現状維持ではだめで、バンドとして成長していかないと先はないと思うので、実力をつけていろんな人に届いていければいいなと思います。

RECOMMEND

大貫妙子 『A Slice of Life(24bit/96kHz)』1987年

アレンジャーとして作品に参加していた坂本龍一と訣別し、よりシンプルに。さまざまなドラマを感じさせる楽曲がずらりと並ぶ。編曲に大村憲司や清水靖晃、佐藤博らが参加しているほか、原田知世がカヴァーした「彼と彼女のソネット」も聴きどころ。

TWILIGHT TIME

V.A.

¥ 1,528

V.A.『TWILIGHT TIME』2014年

70年代から80年代にリリースされた、日本人アーティストのアーバン感を持つ作品を、それぞれの解釈で選曲したカヴァー作。山下達郎「PAPER DOLL」、シュガー・ベイブ「パレード」のカヴァーを収録。

ビーチ・ハウス『Depression Cherry(24bit/44.1kHz)』2015年

3年ぶりの5thアルバム。前作『Bloom』の豪華なサウンド・プロダクションと比べ、それ以前の活動に戻ったような質素さを感じさせる。よしもとばなな「キッチン」の引用も。

LIVE INFORMATION

〈路地 1st album 発売企画〉
2016年9月22日(木・祝)渋谷7th Floor
出演 : 路地、South Penguin、Taiko Super Kicks、ケバブジョンソン、かたしょ(DJ)
開場 18:00 / 開演 19:00
チケット : 前売り 2,000円/当日 2,500円(どちらも+1drink)

PROFILE

【メンバー】
飯島 梢 : ヴォーカル、シンセ
飯田 直規 : ベース
久保田 敦 : ギター
鈴木 雄三 : ギター・シンセ

【経歴】
2014年1月 バンド結成
2014年9月 自主企画ライブ実施(Taiko Super Kicks出演)
2014年10月 J-WAVE(GOLD RUSH)にて「ゆめ」オンエア
2014年11月 渋谷O-GROUP“BOOKED!”出演
2015年8月 自主制作デモCD制作(ココナッツディスク、ディスクユニオン、モナレコード等で配布)
2015年9月 FMヨコハマ「YOKOHAMA MUSIC AWARD」出演、「渚にて」オンエア

現在サポートドラムで活動している路地ですが正式に加入してくれるドラマーを探しています。
年齢性別不問です。
下記のメールアドレスからお問い合わせください。


roji.roji.99@gmail.com

>>路地 オフィシャルサイト

[インタヴュー] 路地

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