2016/08/26 11:51

〈WARP〉屈指の奇才、ゴンジャスフィ、ローファイ・サイケが炸裂の3rdアルバムをリリース!

UKの名門レーベル〈WARP〉でも指折りの奇才、そしてオカルト的な支持を得ているゴンジャスフィ。ここ数年は、Ras Gとのスプリット7インチのリリースやOld Englishへの客演など、他流試合的な活動を展開させていたが、ついに4年ぶりとなる『Callus』と名付けられた3rdアルバムをリリース。大きく変化を見せたサウンド、そして『CALLUS』(=皮膚にできる"たこ")と名付けられたその理由とは。

OTOTOYでは『Callus』のハイレゾ版をCDと同様のライナノーツPDF付きで配信開始(CDと同様のロスレス / 圧縮音源も配信中)するとともにレヴューにて紹介。

Gonjasufi / Callus
【Track List】
01. Your Maker
02. Maniac Deppressant
03. Afrikan Spaceship
04. Carolyn Shadows
05. Ole Man Sufferah
06. Greasemonkey
07. The Kill
08. Prints Of Sin
09. Krishna Punk
10. Elephant Man
11. The Conspiracy
12. Poltergeist
13. Vinaigrette
14. Devils
15. Surfinfinity
16. When I Die
17. The Jinx
18. Shakin Parasites
19. Last Nightmare
20. Get Outta Your Head

【配信形態 / 価格】
左 : ハイレゾ版
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 2,829円(税込) / 288円(税込)
アルバムまとめ購入にて、CDと同内容の日本盤ライナーノーツPDFデータが付属

右 : 通常ロスレス ・圧縮版
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC
単曲 2,057円(税込) / 257円(税込)

AAC / MP3
単曲 1,543円(税込) / 205円(税込)

見て見ぬふりをしてきた痛み――"たこ"を潰す時がきた。

ゴンジャスフィといえば、フライング・ロータスの「Testament」(2ndアルバム『Los Angels』収録)でフィーチャーされたことで一躍、その名前を知らしめた。また2010年に1stアルバム『A Sufi & A Killer』をリリース。フライング・ロータスやガスランプ・キラーをプロデューサーに迎え、彼のルーツでもあるヒップホップを中心にロックやエレクトロニカ、そしてイスラームやヒンドゥーの流れをくむ中東、インド的な雰囲気を感じさせるサイケ・サウンドをも取り込んだ作品を作り上げた。2012年には、セルフ・プロデュースとなる2ndアルバム『MU.ZZ.LE』をリリース。前作に比べ、ロックやブルースの要素がかなり強い作風になったが、Jay-Zからサンプリングされるなど、ヒップホップ界からのリスペクトも変わらず獲得した。

『CALLUS』(="たこ")と名付けられた本作はカリフォルニアの砂漠にあるというゴンジャスフィの自宅で録音された。そのサウンドは、まさに砂埃をまとっているかのようにダーティで、現代社会に対する怒りと痛みを強く反映している。彼いわく、本作は痛みの克服の結晶などではない。我々は、痛みを感じないためにそれに慣れようとする――まるで"たこ"の存在を忘れているように。しかし彼は、その枠組から脱し、怒りと痛みを直視し、その忌々しさをそのままアルバムに収めたのだ。

また、本作には元キュアーのポール・トンプソンがギターで3曲に参加している。その影響もあってか、全体的にノイジーなギターと歪んだヴォーカルが目立つ。その一方で、ビートの存在感は以前よりも薄まったように思える。もちろんビートが展開されれば、その金属的でレイドバックしたサウンドが曲の重心をグッと低く保ち、不穏な音像の演出に一役買っているのだが、ヒップホップ的要素はほとんどなくなったと言ってもいいだろう。本作の多くは、彼が向き合ってきたリアルな生活での苦悩が昇華され、神秘的でトリップするかのようなものばかり。ヒップホップをルーツに上げながら、あえて煙に巻くようなプロデュースをしているのが興味深い。

“アメリカ”、そして痛みからの解放

調子のズレた上モノと忌々しいヴォーカルが特徴の「Elephant Man」は、まさに痛みの最深部を想起させる。2014年にミズーリ州で起きた白人警官による黒人青年の射殺事件以降、同様の事件が後を絶たない。今年の7月には、ルイジアナ州でコンビニの前でCDを売っていた黒人男性が無抵抗のままに白人警官に射殺された。射殺の瞬間を収めた動画はネット上で拡散され、その惨劇を目にした人も多いだろう。ここ数年のシーンの中心にあったディアンジェロ&ザ・ヴァンガードの『Black Messiah』や、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』でも、人種問題が作品における大きなテーマになっており、本作もその潮流に位置するものだと言えるだろう。それに加えて、ゴンジャスフィ自身のこれまでのキャリアで得てきた名声に対する羨望や嫉妬といったパーソナルな痛みも含め、多くの苦悩に向き合った本作の制作は、彼の人生でもっとも厳しい経験だったという。一方でそれは、痛みからの解放と自由な生活――誰かの定義からの脱却――に対する強い願いでもある。「Vinaigrette」や「Devils」での推進力のあるビートと分厚いシンセサイザーによる演出は、痛みから脱却するためのトンネルのよう。ゴンジャスフィもきっと、彼を取り巻く苦悩から脱却するという意味で、ロックやブルースの方向にサウンドの舵を切ったのではないだろうか。

実に4年に及ぶ沈黙を破り、『CALLUS』を完成させたゴンジャスフィ。リスナーはきっと、より深化した彼のサウンドスケープに驚くだろう。しかしそれは、我々に"たこ"を潰すときが来たこと、痛みから脱却する時が来たことを告げているのだ。

文 : 寺島 和貴

PROFILE

Gonjasufi

メキシコ人の母とエチオピア人の父の間に生まれる。20代の頃は、マスターズ・オブ・ユニヴァースのクルーとしてラッパー、ビートメイカーとして活動する。サンディエゴ大在学中にイスラームを学び、スーフィーに傾倒。それをきっかけに活動名を本名のスマックからゴンジャスフィ(ガンジャ+スーフィー)に改名。また、ヨガにも精通しており一時はトレーナーとしても活動していた。馴染みのレコードショップの店員でもあったガスランプ・キラーを通じてフライング・ロータスと知り合い、「Testament」(フライング・ロータス『Los Angels』収録)でフューチャーされる。その神秘的でソウルフルな歌声で高い評価を獲得。1stアルバム『A Sufi & A Killer』で2010年にデビュー。フライング・ロータスやガスランプキラーをプロデューサーに迎え、西海岸のヒップホップやサイケデリック・ミュージック、エレクトロニカなど幅広い音楽をバックグラウンドに作り上げた作品はカルト的人気を獲得、UKの名門レーベル〈WARP〉と契約するに至る。これまでに2枚のオリジナル・アルバムと1枚のリミックス・アルバム、1枚のEPをリリースしている。

>>Gonjasufi アーティスト・ページ

この記事の筆者

[レヴュー] Gonjasufi

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