パブリック娘。インタビュー――モラトリアムな日常をそのままラップで伝える

パブリック娘。左から、清水大輔、斎藤辰也、文園太郎

パブリック・エネミーとモーニング娘。を組み合わせて作ったという、人を喰ったような名前のヒップホップ・ユニット、パブリック娘。(娘と付いているが男3人組)。アルバム『初恋とはなんぞや』は、2008年に大学の同級生で結成、2012年にはSoundCloudで公開した楽曲がバズを起こした… そんな過去を持つユニットにとって、あまりにも遅すぎるデビュー作となった。

本作に収められている楽曲のほとんどは、彼らが大学時代に作ったもの。メンバー全員が自身の初恋話をリレーで告白していく「初恋とはなんぞや」、くすぶった学生の夏休みの一日を描いた「おつかれサマー」、パーティーで女子に近寄ろうと悩む「そんなことより早く、このパーティーを抜け出さない?」など、〈普通の男子のなんてことない日常〉が詰め込まれている。

なにか特別な出来事が起きることを期待しているんだけどなにも起こらない。そんな暮らしぶりをラップする彼らの曲は、やんちゃで調子に乗っていて、なんだか大学生同士の馬鹿話のようにも見えるが実はヒップホップ・マナーを踏襲した、ある種のスタイルが確率された曲が並んでいるのだ。

今回のインタビューでは、初めてのアルバムをリリースすることになった経緯から、ラップに対する姿勢、独特のファッションについてまで、プロデューサーの林(パーシー)を交えた4人に話を伺ってきた。

インタヴュー&文 : 原田星

〈ゆとり世代の最終兵器〉パブリック娘。の初アルバムをハイレゾで

パブリック娘。 / 初恋とはなんぞや(24bit/96kHz)

【配信形態 / 価格】
【左パッケージ(ハイレゾ)】ALAC / ALAC / FLAC / WAV / AAC
価格 まとめ購入のみ 2,300円(税込)

【右パッケージ】ALAC / ALAC / FLAC / WAV / AAC / MP3
価格 まとめ購入のみ 1,543円(税込)

【トラック・リスト】
1. 初恋とはなんぞや
2. 25mプール
3. Summer City
4. おつかれサマー
5. このままこの電車に乗って
6. DATE
7. YOU DON'T STOP
8. おちんぎんちょうだい
9. そんなことより早く、このパーティを抜け出さない? feat.森心言
10. 寄せては返す俺のアティチュード
11. 俺の誕生日
12. そんなことより早く、このパーティから連れ出して。 feat.あまえん


このアルバムで大学の卒業証書を自分に与えたような気持ち(斎藤)

――2011年くらいからSoundcloudの音源が一部の音楽好きに話題になるなど、キャリアは長いと思うのですが今回の作品が初アルバムとなります。リリースまで、どうしてこんなに時間がかかったのでしょうか。

清水 : 元々大学のサークルで結成したユニットなんです。ゆるい環境のなかでやってきて、お互いの関係性も変わらないままで就職して仕事をするようになったら大学時代よりも忙しくなってしまった。

斎藤 : アルバムを出すとして、誰に声をかけたらいいのかとか、誰と繋がりを持ったらいいのかとか、そういうことがわかっていなかったんです。アルバムを出して欲しいという需要がないと思ってたから(笑)、「もっと早く出してもよかったんじゃないか」と言われるのは驚きでもあるしありがたくもある。

文園 : プロデュースをしてくれた林(パーシー)君と出会ったり、ミキサーの方と出会ったり、そういう人たちとの関係を深めるのにも結構時間がかかりましたね。

林 : でもレコーディングをやり始めたら、すぐアルバムができたよね(笑)。

斎藤 : あと、Soundcloudなんかにいろいろと曲をアップしていたので、それを改めてCDにして意味あるの? という気持ちもありました。全部新曲じゃないとアルバムの価値がないんじゃないかって。

清水 : そこはパーシーが説得してくれたよね。「そんなに多くの人がパブリック娘。の曲を聴いてるわけじゃないから大丈夫だ」って(笑)。


パブリック娘。「おちんぎんちょうだい」MV

――資料に書いてある「tofubeats、夢眠ねむ、田中宗一郎がDJでプレイ」って情報もちょっと古いんですよね(笑)。アルバムに入っている曲は2013年までに作られたものがほとんどなわけですが、曲を作った大学時代と働きはじめた今とでは気持ちの変化があるのではないでしょうか。

斎藤 : 昔作った曲と今作った曲の内容が違うのは当たり前だと思うんです。学生の時に書いた曲はやっぱり学生っぽい。でもそれらはライヴで散々やってきたわけで、歌詞の内容が今になって嘘になるわけでもないし、録音してみたら違和感も特になかったんです。このアルバムを出したことで、大学の卒業証書を自分で自分に与えたような気持ちがある。

文園 : あの頃は良かったとか、戻りたいと歌ってるわけでもないからいいのかな。「おつかれサマー」で〈学生時代最後の夏〉って歌ってるのは恥ずかしいけど(笑)。

斎藤 : レコーディングをしたら10年後に聴かれるかもしれないし、結局僕らの手を離れて行くものだしね。

――〈パブリック娘。〉というユニット名についてちょっと伺います。パブリック・エネミーとモーニング娘。を組み合わせて付けた名前、ということですが、例えば今の10代は「LOVEマシーン」や「恋のダンスサイト」を歌っていた、国民的アイドルとしてのモーニング娘。という視点は持っていない。でも記号として使われるモーニング娘。という名前は、彼女たちがヒットを連発していた1998年から2000年くらいまでの間。そういう状況を考えると、2016年の今〈モーニング娘。から名前を拝借〉という行為自体が変な感じがするんです。

斎藤 : 僕らのような平成元年生まれ世代がモーニング娘。と言われて思い出すのがそのくらいの時代なんです。自分も小学校5~6年の頃はビートルズとモーニング娘。が交互に流れるMDを作ってた(笑)。今もですけど、自己紹介は恥ずかしいですね。友達に「ラジオで流れてたよ、パブリック娘。」とか言われるのも反応に困る感じで。

清水 : 最近はクイーンとかアクトレスみたいな感じで、男のグループだけど女性名を名乗るバンドだって紹介するようにしてます。おしゃれでしょ? って(笑)。

斎藤 : なんにせよ、この名前がベストだと思ったことはないですね(笑)。

インディー時代のRIP SLYMEが自分にとっての一つの完成形(斎藤)


パブリック娘。『初恋とはなんぞや』アルバム・トレイラー

――アルバムには、少年時代の思い出や、クラブで女の子とすれ違った話など、甘酸っぱい記憶みたいなものが刻み込まれた歌詞が多くあるように思いました。もう一つ、夏がテーマの曲も多いですよね。「25mプール」、「Summer City」、「おつかれサマー」…。

清水 : トラックが最初に来て、文園が「こういうテーマにしよう」と決めて、それでみんなでリリックを書き始めるんですけど、ビートを聴いてると夏っぽいなって思っちゃう。「このままこの電車に乗って」にも夏って言葉を入れてたんだけど、斎藤に「夏って言葉を入れないでくれ」って言われて歌詞を変えたんです。それまでお互いのリリックに干渉しないのがいいところだったのに。

斎藤 : これ以上夏の曲が増えるとTUBEみたいになっちゃう(笑)。歌詞で夏って言っちゃうと夏のイメージしか出てこないじゃないですか。ア・トライブ・コールド・クエストの「Electric Relaxation」って曲が「これは夏の曲なのか冬の曲なのか」ということで、2ちゃんねるで論争が起こったことがあって。聴いた人がどうとでも解釈できる曲のほうが普遍性があると思ったんです。作る側でイメージを限定しすぎないほうがいい。

清水 : リリックを正されたときにもその話された(笑)。

斎藤 : 夏の曲で言うと、「Summer City」の文園のリリックの展開が面白いんですよ。

文園 : あの歌詞のメインテーマは「時をかける少女」なんです。永遠に作り直される夏。あと「夏の扉」っていうロバート A ハインラインの小説と、キョンキョンの「夏のタイムマシーン」って曲の要素も入ってる。「夏はタイムリープだ」ってことをいろんな過去の作品から抜粋して入れ込んであるんです。


パブリック娘。「Summer City」MV

――夏を表現するのに、アッパーなパーティー・チューンにする表現もあると思うんです。RIP SLYMEの「楽園ベイベー」みたいな。

斎藤 : そんなにアゲアゲな生活を送っているわけでもないし、ファンタジーを歌うようなユニットでもないので。スチャダラパーの「サマージャム '95」のほうが衝撃がありましたね。

――体験していないことをファンタジーとして描くような歌詞は基本的に書かない?

斎藤 : 僕がヒップホップで理想としているのはRIP SLYMEがインディー時代に出した『Talkin’Cheap』に入ってる「真昼に見た夢」なんです。トラックはヒップホップに寄っていて、自分たちの生活をそのまま歌っている。トンチっぽくないから、スチャダラパーとも違う。メジャーに行ってからもいいけど、インディー時代のRIP SLYMEは一つの完成形だと思ってる。

――そういった90年代ヒップホップ感は『初恋とはなんぞや』にも入っているように思います。ザラついた上モノの音色とボトムの太さなんかに。一方で、今ラップ作でファースト・アルバムを出すならビート・ミュージックとかトラップなんかを入れる人が多いんじゃないかと思うんですが、そういったものは取り入れようとは思わなかった?

斎藤 : ビート・ミュージックを作ってるトラック・メーカーが僕らみたいなベタベタなラップに曲を提供しようと思ってくれない(笑)。「2nd Hotel」がギリギリトラップのニュアンスがある程度で。

――世間的な風潮を見て、トラック・メーカーに「こういうトラックが欲しい」という発注をすることはない?

斎藤 : それがなかったから「2nd Hotel」みたいなのがありがたかった。トラップに近づきつつトラップではないし、そのトラックを自分たちのものにできた。

J-POPの一部としてラップをやりたいとは思っていない(斎藤)

――NXNGというサイトのインタビューで、斎藤さんがラップを始めた頃のことを振り返って「ストリート文化の人間でもなく、生活の苦労もない世間知らずの子どもの僕には、言いたいこともなければラップをする資格もないのだという気持ちになることが多々あり、その悩みを周りによくぶつけていました」と書かれていました。その気持はパブリック娘。の表現でも引きずっている?

斎藤 : 中学生の時にエミネムを知って、日本のファンサイトでいろんなことを教えてくれる人と知り合って、ヒップホップという表現のルーツがどこにあるのかを知ったことでリアルな表現とは… みたいなことを考えすぎて観念的になっていたんです。パブリック娘。に関してはそういう悩みはないです。自分がやることしかできないと思ってるから。でも、大学時代にパブリック娘。を結成することになって最初にスタジオに入ったとき、清水くんが作ってきた曲がRhymesterの「B-BOYイズム」のイントロに合わせて「俺ったっちはパブリックムッスメ」って歌ってて、「こりゃ駄目だな…」とは思った(笑)。


パブリック娘。「俺たちがパブリック娘。」2009年のライヴ映像

――今はラップをカジュアルに一つの表現方法として使う人も多いですね。

斎藤 : ラップがポップになる事に文句はないけど、J-POPの一部としてラップをやりたいとは思っていない。アイドルがラップをすることにも、あまり肯定的じゃないし。

清水 : ラップをずっとやってきた人たちは、J-POPのフィールドで作品を出しても、説得力がある。ラップを全く通ってきていない人が誰かに書いてもらった曲を歌うのは行為としてヒップホップ的じゃないから、自分は魅力を感じないです。

斎藤 : その発言は矛盾を感じるな。アルバムに入ってる「そんなことより早く、このパーティから連れだして。」は、サークルの後輩の女の子が歌ってる曲で、「そんなことより早く、このパーティーを抜け出さない?」という僕らの曲のアンサーなんです。僕は人に歌わせるために歌詞は書けないと言って、突っぱねて「~連れだして」には参加しなかった。でも清水くんは参加してるでしょ。言ったこととやってることが合ってないけど、そこについてはどう思ってるの?

清水 : ビーフだ(笑)。あれはふざけて書いた歌詞だし、この曲に反応している人はヒップホップの話ができる人だとは思っていない。斎藤が作詞を断って、森心言(DALLJUB STEP CLUB/Alaska Jam)が歌詞を書いてよかったと思ってるよ。職人的で秀逸な歌詞だったし。

文園 : 「~連れだして。」を作ったのは、自分が書いた曲を使って女の子にラップしてもらって、男サイド(「~抜け出さない?」)と女サイド(「~連れだして」)の両方の気持ちを歌った曲を1枚のアルバムに入れたかったから。「~連れだして」を出すちょっと前にtofubeatsくんがlyrical schoolに歌詞を提供しているのを知って、僕らも女の子がラップしている曲を出せばいろんな人にリミックスされて名前が広まるだろうって思惑もあった。3人で作ったというより僕が勝手に作った曲という感じ。

――音楽と関係がない話になってしまうんですが、今回のアー写とジャケット写真だったり、今日の服装もそうなど、ビジュアル的にみなさんなんというか… グランジ感があるというか…。それをわざとやってるのかどうかというのが気になります。

文園 : グランジ感… 出てますかね(笑)。グループのイメージをいなたい方向に持って行こうとは全然してないんですけど、お金をかけられないからファッションに統一感がない。でも今回はちゃんとカメラマンを入れてアー写を作って、録音もし直して、きっちりパッケージを作ったつもりだったのになぁ。

清水 : もはや服装じゃなくて顔が問題なんじゃないかな(笑)。ふざけてるわけじゃないんです、一生懸命やってコレなんですよ。

斎藤 : YouTubeの動画を見てもらうとわかるんですけど、大学時代はいまよりひどい格好をしていましたから。それに比べると良くはなっているよね。俺たちがSuchmosみたいにかっこ良かったらなあと思うことはありますよ!

RECOMMEND

DALLJUB STEP CLUB 『We Love You(24bit/48kHz)』2015年

「そんなことより早く、このパーティから連れだして。」に歌詞を提供している森心言が在籍している4人組バンド。レゲエ/ダブをベースにしつつ、人力でジューク/フットワークを演奏するなど、バンド形態でビートミュージックへの接近を見せた意欲作。

JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB『QUEST』 2015年

ネットレーベル〈OMAKE CLUB〉から2015年デビューしたニュー・カマーの4MC。泉水マサチェリー(WEEKEND)、森心言(Alaska Jam)、YOSAらがゲスト参加している。

%C『PCT.PEPPER'S LONELY BEATS CLUB BAND』2013年

『初恋とはなんぞや』のプロデューサー、%C(パーシー)のプロデュース・アルバム。HOOLIGANZやHAIIRO DE ROSSIのライヴDJとしても活躍す%Cが、ラッパー・DJ問わず10人以上のゲストを招いて作り上げた豪華作。

Enjoy Music Club『FOREVER』2015年

ポップなトラックと力の抜けたラップ&リリックで、幅広いリスナーを獲得している3人組。思い出野郎Aチーム、Homecomings、中川理沙(ザ・なつやすみバンド)、森雄大(neco眠る)らがゲスト参加。

LIVE INFORMATION

2016年7月30日(土)@タワーレコード渋谷店4Fイベントスペース
スペシャル・ミニライブ&サイン会・特典お渡し会
開演 : 13:30
観覧フリー

PROFILE

ナイティンエリーナイン! 文園太郎、清水大輔、齋藤辰也の3 人による平成元年うまれが集まったラップ・ユニット。2011 年、tofubeats が「初恋とはなんぞや」を率先してリミックスしたことから熱心なヒップホップ・ファンに注目されはじめ、2012 年にはシンガー森心言(Alaska Jam/DULLJAB STEP CLUB)をゲストにむかえ多数のリミックスを生んだ「そんなことより早く、このパーティーから抜け出さない?」をリリースし、全国のクラブでDJ がかける事態となり、クラブアンセム化。

2013 年には〈DUM-DUM〉レーベルからトリプルファイアーとの同時配信リリース、ネット発の人気レーベル〈マルチネ〉や〈アノトラクス〉のコンピへの参加などを経て、2014 年にはYkiki Beat などとファッションZINE『Weary』への曲提供、2015 年には旬のインディーズバンドが集ったコンピレーション『New Action! ~ Compilation Vol.2 ~』に参加し初の全国流通を果たす。

2016 年、満を持して待望の『初恋とはなんぞや』をリリースする。

Twitter: @PublicMusume

>>パブリック娘。 オフィシャルサイト

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インタヴュー

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