2016/04/27 11:47

ラジオ番組『AVALON』、渋谷慶一郎によるテーマ曲をOTOTOY限定のハイレゾ特別パッケージで配信開始

月曜から木曜の夜22時〜23時30分にJ-WAVEではじまったリスナー参加型の新たなラジオ・プログラム『AVALON』。さまざまな現代社会のトピックスを、架空の近未来都市「AVALON」の政治マニュフェストとして討論、リスナー参加型の投票で採決していくという番組。渋谷慶一郎はこの番組のオープニング、エンディングのテーマ曲はじめ、サウンドロゴやジングルまで、サウンドに関する全てをプロデュースしている。今回OTOTOTYでは、テーマ曲のフル・バージョン、そして“フラグメンツ”と名付けられたサウンド・ロゴなど6曲が収録されたパッケージを配信(テーマ曲の単曲配信も)。そして渋谷自らマスタリングを行ったという24bit/96kHzのハイレゾ版となっている。ここ最近は、どちらかといえばピアノを中心にした作品やライヴの多かった渋谷だが、ここでは彼のもうひとつの顔とも言えるエレクトロニック・サウンドを響かせている。

Keiichiro Shibuya / AVALON(24bit/96kHz)

【Track List】
01. AVALON
02. AVALON Fragment 1
03. AVALON Fragment 2
04. AVALON Fragment 3
05. AVALON Fragment 4
06. AVALON Fragment 5
07. AVALON Fragment 6 (Beat Only)

【配信形態 / 価格】
24bit/96kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
「Avalon」単曲 300円(税込)
「Avalon」+「AVALON Fragment 1-6」まとめ購入 700円(税込)


INTERVIEW : 渋谷慶一郎

東京とパリを行き来しながら、国内外で常に刺激的な作品とプロジェクトに取り組み続けている渋谷慶一郎の新作は、4月4日からスタートしているJ-WAVE春の新番組『AVALON』のテーマソング「AVALON」だ。

番組は、社会を覆う鬱屈した空気を嫌った若者たちである“NEW GENERATION”が集まった近未来の理想都市AVALONが舞台となっている。そこにはそれぞれ異なったマニフェストを掲げた“4大政党”が存在しており、各政党の代表(ナビゲーター)が街の統治者であるプレジデントからの出題について、住民であるリスナーと討論しながら解決策を導き出すことで街を成長させるという内容となっている。

渋谷はテーマソングだけでなく、このラジオ番組全体のサウンド・プロデュースを手がけており、これは彼にとっても初めての試みだ。また、ジャケットと〈ATAK〉のロゴ・デザインは渋谷とは10年以上タッグを組んでいるSemitransparent Designの田中良治という点も注目すべきだろう。

この度OTOTOYで配信されることになったのはテーマ曲+フラグメンツ6個の合計7個のファイルで、全て24bit/96kHzの高音質配信だ。テーマ曲である「AVALON」は、『Live in Paris』や『Playing Piano with Speakers for Reverbs Only』といったピアノ・メインのリリースが続いた彼にとって久々のデジタル・ミュージックとなっている。ほぼ同じ瞬間を持たないと言えるほど圧倒的な情報密度と隅々まで磨き抜かれたディティールが中毒性満載のメロディーを支えながら、息つく間もなく突き進む様子はさながらジェットコースターのようにリスナーの鼓膜を刺激する。ソフトシンセとデジタルノイズが作り出す音色と構造が織り成す新規性に満ちたサウンドデザインは、EDM的な快楽性とも矛盾せずキャッチーであるという「渋谷慶一郎カラ―」が全面に行きわたった最良の按配で仕上げられている。今回、ミックスとマスタリングも渋谷自身が手がけており、テーマ曲からアグレッシヴなタッチを存分に感じられるのはそういったところに理由があるのだろう。『AVALON』というチャレンジングなラジオ番組と呼応するような鋭さを持ったこのテーマソングについて渋谷慶一郎にメール・インタヴューを敢行した。

インタヴュー・文 : 八木皓平

「飽きない」のと「覚えやすい」を両立しようと

──『AVALON』のサウンド・プロデュースの依頼が来たとき、最初はどのように感じましたか?

去年の12月にJ-WAVEで僕の特番があったんです。で、そのときに未発表の曲を番組のメインテーマみたいな感じで貸したら、ディレクターがすごく感激してて。彼が今度作る番組で凄く力を入れてるものがあるから、そのテーマ曲を作ってほしいと言われたんです。僕の音楽が実際に好きだったり気に入ってる人に頼まれるのはうれしいものなので「じゃあやりましょうか」となったという経緯で。だから頼まれたときはうれしかったです。

──『AVALON』の番組内容についてはどのような感想を抱きましたか?

チャレンジングだと思いました。この番組は月〜木の22:00~23:30毎日放送するわけで、いわばJ-WAVEの看板番組のひとつですよね。それがある種、複雑な設定をもった近未来的なもので。

──サウンド・プロデュースを担当する際に、特に意識したことがあれば教えてください。

平日のほぼ毎日流れる曲なんで「飽きない」のと「覚えやすい」を両立しようとしたんだけど、よく考えたらこれは難しいことですよね、真逆なことだから(笑)。

──ミックスやマスタリングも渋谷さんが手掛けていますが、今回なぜこのような形を取ったのでしょうか?

ZAKさんとミックスダウンしてるときに「コンピュータのなかで作ったものをスタジオで卓に立ち上げてミックスするのは難しい」っていう話になったんですよね。自分でコンピュータのなかでリミッターだけかけて書き出した2ミックス・データとスタジオでミキサーに立ち上げて作ったものと、自分でミックスしたものを超えるのがなかなか難しいって話してて、確かにそれはそうなんですよね。作ってるときの仮ミックスはそのときの必然があるし熱量もある。そういう部分を失わないで作り切るのをやりたいなと思ったんです。あとSophieのライヴを見に行ったら、ほぼハードウェア1台でやってて、コンピュータのライヴにありがちな滑らかなトータルコンプ感がなくて、個々の音がもっと立っていて凶暴ですごく良かった。この2つから刺激と影響を受けたからですかね。

──ジャケットとロゴのデザインは、渋谷さんと長年タッグを組んでいるSemitransparent Designの田中良治さんですよね。渋谷さんは、デザイナーとしての彼のどういった点を優れていると感じますか?

反射神経が高いところ。なにをやっても清潔感とキメの細かさがあるところ。デザインを情報整理だと認識しているところ。すごく一緒に仕事がしやすい人です。

──渋谷さんはこれまでボーカロイド・オペラ『THE END』(注1)やVERVALとのコラボレーション曲「DETOXxX」(注2)をはじめとした、様々なヴォーカル / ヴォイスのスタイルを利用して楽曲を作ってきました。そして、そのヴォーカル / ヴォイスの使用法は音楽のコンセプトと不可分であったように思います。『AVALON』のテーマソングにおけるヴォイスは、どのようなことを意識して今回のスタイルになったのでしょうか?

そういえばそうですね、という程度なんだけど(笑)。特に意識してなかったけど、言われてみれば近年かつてなく声に興味があるかもしれないです。『THE END』の経験は大きかったけど、シンセでメロディの音色作るのに飽きたというか、リピッチしたヴォーカルでシンセとは別の抽象度を描きたくなってきた気はしています。

注1 : 初音ミク主演による世界初のボーカロイド・オペラ『THE END』
注2 : 渋谷慶一郎とVERBAL(m-flow)のコラボ曲。
この楽曲は、音楽素材の受け渡しからマスタリングデータの納品までをすべてDropbox上で行うことで作成された。
>>「DETOXxX」 Keiichiro Shibuya+VERBAL on Soundcloud

「古典的な複雑さ」に興味がない

──最近のリリースは『Live in Paris』『Playing Piano with Speakers for Reverbs Only』といったピアノがメインに用いられた作品でしたが、今回はピアノを一切使っていません。その理由があれば教えてください。

これも本当に気分なんだけど、番組のテーマ設定的にピアノではないなと思ったからかな。あと仕事の順番でコンピュータでガッツリ作りたかったというのもあります。

──『AVALON』のテーマソングに限らず、渋谷さんの楽曲はメロディー以外のループがほとんどなく、情報密度が極めて高いです。それにも関わらずトゥーマッチな印象は全くなく、ある種の透明感が漂う瞬間すらあります。渋谷さんは普段、どのような意識を持って楽曲の情報コントロールをしているのでしょうか?

逆に言えばメロディーやハーモニーはループしていることが多くて、そこでバランスをとってるのかもしれないです。あまり意味なくメロディーを変奏したり転調したり、リハーモナイズしたりする「古典的な複雑さ」に興味がないんです。変拍子もしかりだけど、どうしても複雑さの場所として古く聴こえてしまうというか懐かしさしか感じられないから。安易に複雑にしたくない、なるべく単純にしたいと思ってるけど、情報がスクラッチしているようなこすり合ってるような感じも欲しいからバランスはつねに気をつけてます。

──『AVALON』の他にも、最近はショッピングモール「ルクア大阪」(注3)のBGMやJR東海のテレビCM「そうだ京都、行こう。」(注4)の音楽を渋谷さんが担当していますが、全ての楽曲に実験性が宿っており、アグレッシヴなサウンドになっています。こうした外部からの依頼仕事をする際に渋谷さんが心がけていることがあれば教えてください。

条件を把握したあとは全て直感的にやっているから心がけていることはそんなにないんだけど、自分の作品だと言えないようなことはしないほうが頼んだ人もよろこぶし聴いてるほうもおもしろいというのはあります。

注3 : ショッピングモール「ルクア大阪」のBGM
>>Music for the shopping mall (short version) Music on Soundcloud
注4 : 「そうだ京都、行こう。」2016年春・京都御所編

──渋谷さんご自身もNHK-FMでラジオ番組を担当なさったり、様々な機会にご出演もされていますが、ラジオというメディアについてどのようにお考えですか?

極めてプライベートなメディアと捉えていて、出るときはあまり仕事っぽくならないほうがおもしろいですね。レギュラーで番組できたりしたら楽しそうですね。

──渋谷さんはテレビ番組『星新一ミステリーSP』のメインテーマを手がけるなど、以前にもSFの音楽を担当なさっていましたが、渋谷さんがこれまで鑑賞してきたSF映画 / 番組のサウンドデザインで印象に残っているものを、理由とともに教えてください。

なんといってもデヴィット・リンチの『イレイザーヘッド』(注5)です。初めてサントラを買った頃、多分15年くらい前にSABU監督の映画音楽を作っていて、影響受けすぎて最初のシーンをあんな感じのノイズの緻密なコンポジションしたら「ホラー映画じゃないんだから」と言われてボツにされたのを覚えてます(笑)。

注5 : デヴィッド・リンチが一人で製作・監督・脚本・編集・美術・特殊効果を務めて制作した1977年の映画。音楽はピーター・アイヴスが手がける

──今後の活動の予定を教えてください。

5月27日、28日にパリの〈Maison de la culture du Japon〉の大きいほうの劇場で「Parade for The End of The World」(注6)という公演をやります。詳細はまだ未発表なんですが、パリ・オペラ座のダンサーとフランス人のビデオ・アーティストとのコラボレーションの公演で、音楽は全て作りおろしなので、いま缶詰でやっているところです。あと5月14日に愛知の野外でDJがありますね。詳しくはオフィシャルサイトなどでチェックしてください。

(注6)パリ日本文化会館にて行われる「Parade for The End of The World」のオフィシャルサイト
>>http://www.mcjp.fr/ja/la-mcjp/actualites/parade-for-the-end-of-the-worl

RECOMMEND

渋谷慶一郎 / Playing Piano with Speakers for Reverbs Only(5.6MHz DSD+mp3)

冒頭で紹介したように、ここ最近はソロ・ピアノの作品も多いが、まさにその表現が極まった感のある1枚。ピアノの生音とサンプリングリバーブの残響音のみで構成された2015年12月26日に東京・スパイラルホールにて開催された渋谷慶一郎のソロ・コンサート「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」のレコーディング作品。



渋谷慶一郎 / THE END Piano version (2.8MHz dsd + mp3)

世界初のボーカロイド・オペラ「THE END」の楽曲なかから、選ばれた2曲を渋谷慶一郎が送るピアノ・ソロをDSD録音。選ばれた楽曲は「時空のアリア」と「死のアリア」。エンジニアにはzAk。SONYが満を持して発表したDSD対応のハンディ・レコーダーPCM-100にてオンマイク、オフマイクで録音したそれぞれの2バージョンを収録。

PROFILE

渋谷慶一郎

音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベル〈ATAK〉を設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。代表作に『ATAK000+』、『ATAK010 filmachine phonics』など。

2009年、初のピアノ・ソロ・アルバム『ATAK015 for maria』を発表。2010年には『アワーミュージック 相対性理論 + 渋谷慶一郎"』を発表。以後、映画「死なない子供 荒川修作」、「セイジ 陸の魚」、「はじまりの記憶 杉本博司」、「劇場版 SPEC〜天〜」、TBSドラマ「SPEC」など数多くの映画音楽を担当。2012年には『サクリファイス 渋谷慶一郎 feat.太田莉菜』、『イニシエーション 渋谷慶一郎 + 東浩紀 feat.初音ミク』を発表、コンサート 『ジョン・ケージ生誕100年記念コンサート One(X)』をプロデュース。同年、初音ミク主演による世界初の映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」を山口情報芸術センター(YCAM)で制作、発表。初音ミク、及び渋谷慶一郎の衣装をルイ・ヴィトンが担当し、斬新なコラボレーションが話題を呼んだ。2013年5月、東京・渋谷のBunkamura・オーチャードホールにて、「THE END」東京公演を開催。同年11月には、パリ・シャトレ座にて「THE END」パリ公演を大成功させ、大きな話題となっている。また同時に『ATAK020 THE END』をソニーミュージック、およびソニーミュジック・フランスから発表。2014年4月、パリのパレ・ド・トーキョーで開催された現代美術家・杉本博司の個展に合わせて、杉本とのコラボレーション・コンサート「ETRANSIENT」公演を開催。同年10月には、昨年THE ENDパリ公演を開催したシャトレ座にて、ピアノとコンピュータによるソロ・コンサートを開催。

2015年7月にはソニークラシカルより『ATAK022 Live in Paris Keiichiro Shibuya』を発表。9月には完全アンプラグドのピアノソロ・コンサート「Playing Piano with No Speakers」を2日連続で開催。イタリアを代表するブランドであるエルメネジルド・ゼニアの「メイド・イン・ジャパン」プロジェクトのために書き下ろしの楽曲を提供、同ブランド主催のイベントでもライヴ・パフォーマンスを行うほか、キャンペーンのモデルもつとめた。10月にはTAE ASHIDAの2016年春夏コレクションのショー音楽を担当し、ライヴ出演した。11月にはパリ・テアトルサブロンにおいてダンサー、コンテンポラリーアートとのコラボレーションによる公演「Le Labyrinthe Intangible」に出演。12月、日本でのピアノソロによるコンサートツアーを敢行。年末には青山スパイラルホールにてピアノ・ソロ・コンサート「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」を行った。

2016年1月にはパリ・コレクションでPIGALLEのショー音楽を手掛け、ライヴ・パフォーマンスを行った。2月には、JR東海のテレビCM「そうだ京都、行こう。」に楽曲を提供。また、MEDIA AMBITON TOKYOのオープニングライヴ「Digitally Show」をプロデュースし、自身も出演するほか、昨年末に青山スパイラルホールで開催したピアノ・ソロ・コンサートのライヴアルバムが高音質配信で発売される。

>>ATAK Official HP

この記事の筆者
八木 皓平

REVIEWS : 075 現代音楽〜エレクトロニック・ミュージック (2024年3月)──八木皓平

REVIEWS : 075 現代音楽〜エレクトロニック・ミュージック (2024年3月)──八木皓平

REVIEWS : 070 現代音楽〜エレクトロニック・ミュージック (2023年12月)──八木皓平

REVIEWS : 070 現代音楽〜エレクトロニック・ミュージック (2023年12月)──八木皓平

REVIEWS : 065 クラシック~現代音楽、そしてその周辺 (2023年9月)──八木皓平

REVIEWS : 065 クラシック~現代音楽、そしてその周辺 (2023年9月)──八木皓平

REVIEWS : 059 クラシック~現代音楽、そしてその周辺 (2023年5月)──八木皓平

REVIEWS : 059 クラシック~現代音楽、そしてその周辺 (2023年5月)──八木皓平

REVIEWS : 004 エレクトロニック&アザーズ(2020年5・6月)──八木皓平

REVIEWS : 004 エレクトロニック&アザーズ(2020年5・6月)──八木皓平

渋谷慶一郎主宰レーベル、ATAKの過去音源配信、第7弾

渋谷慶一郎主宰レーベル、ATAKの過去音源配信、第7弾

渋谷慶一郎主宰レーベル、ATAKの過去音源配信、第6弾

渋谷慶一郎主宰レーベル、ATAKの過去音源配信、第6弾

渋谷慶一郎主宰レーベル、ATAKの過去音源配信、第5弾

渋谷慶一郎主宰レーベル、ATAKの過去音源配信、第5弾

[インタヴュー] 渋谷慶一郎

TOP