2016/04/09 12:59

シューゲイズ・テクノの雄、ザ・フィールド──3年ぶりの新作をハイレゾ独占配信

ドイツ・テクノ・シーンを牽引してきたケルンの老舗レーベル〈コンパクト〉。現在のこのレーベルを代表するほど、その広い知名度を持ったアーティストといえば彼を置いていないだろう。アクセル・ウィルナーのプロジェクト、ザ・フィールドである。その高揚感たっぷりのテクノ・サウンドは、シューゲイズ・テクノと呼ばれ、テクノ、ハウスのダンスフロアはもちろん、ロック・ファンにもその名前は浸透している。

ここにザ・フィールド、3年ぶりの新作『The Follower』がリリースされた。本作は、これまでの作品と趣向性が若干変わっている。端的に言えばシューゲイズ・テクノとときに呼ばれる、そのサイケデリックなサウンドの魅力を失わず、サウンド的にはダークとなっている。一言で言えば、さらにテクノ寄りのサウンドとなったと言えるだろう。OTOTOYでは本作を国内では独占となるハイレゾ配信を行う。

The Field / The Follower(24bit/44.1kHz)
【Track List】
01. The Follower
02. Pink Sun
03. Monte Veritá
04. Soft Streams
05. Raise the Dead
06. Reflecting Lights

【配信形態 / 価格】
24bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 300円(税込) / アルバム 1,800円(税込)

2000年代後半のバリアリック・フィーリングから

欧州テクノ・シーンの中心が、1990年代末のハード・ミニマル、2000年前後のディスコ・テクノの波から、クリック・ハウス / ディープ・ミニマルへと流れていった感のある2000年代中頃。かたやプログレッシヴ・ハウスがミニマル・テクノへと接近するような、ジェームス・ホールデン率いる〈ボーダー・コミニティ〉あたりの流れがあり、かたやハウス系のシーンでは、ニューウェイヴ・リヴァイヴァルやコズミックなどさまざまなトピックを飲み込みながらニュー・ディスコの流れがあった。この動きはさらにバリアリック・リヴァイヴァルを牽引した。プログレッシヴ・ハウスやバリアリック系のサウンドが持った多幸感は、どちらも共鳴するところがあり、あるいち部はテクノのフィールドでその着地点を見つけたと言ってもいいだろう。

ミニマル・テクノの代表的レーベルとして、2000年代のテクノ・シーンを席巻したトップ・レーベルであったドイツの老舗〈コンパクト〉。本レーベルも、2000年代中頃を過ぎる頃にはやはりそうした波を後押しするような作品を一足先に出していく。簡単に言えば、メロディックなテック・ハウスや抑制の効いたプログレッシヴ・ハウス感のあるサウンドである。いわゆるディープ・ミニマルよりも幾分ポップなサウンドは上記のバリアリックなサウンド──ソフトなトランスの高揚感をエレクトロニカやクリック・ハウス以降の電子音響で帯同したサウンドと言ってもいいかもしれない──が〈コンパクト〉からもリリースされていくようになる。

もちろんそうしたサウンドは以前からリリースしていたが、上記の他のシーンからの呼び水もあり、こうした流れは加速していった感もある。ある意味で2000年代後半の〈コンパクト〉のこうした流れのオリジネイターでもあるヒロシワタナベによるKAITO名義の作品、さらにはブラジルのギー・ボラットの作品がこうした作品を象徴すると言ってもいいだろう。そして、こうしたバリアリック・フィーリングがシーンを包んだ。その多幸感へ接続するような特大ヒットを生み出し、〈コンパクト〉レーベル、さらにはシーンを代表するアーティストになったのがザ・フィールドだ。

サイケデリックなループ・サウンドの魔術師

2005年のシングル「Things Keep Falling Down」、2006年のシングル「Sun & Ice」をリリース。これらのシングルがヒット、続く2007年の1stアルバム『From Here We Go Sublime』にて、その評価を不動のものとした。

そのサウンドの特徴は、2006年のシングル「Sun & Ice」収録のヒット、そして彼の典型的な初期のスタイルのトラックでもある「Over The Ice」を例に出して説明しよう。カットアップされたヴォイス・サンプルなどを組み上げループのレイヤーによってヒプノティックなサウンドをビルドアップしていく。スティーヴ・ライヒのアンサンブルを、サンプル・ループの組み上げでテック・ハウスと融合させたというか。こうして生み出されたサウンドは壮大にしてサイケデリック。そのサウンドはシューゲイズ・テクノとも言われ、ロックファンをも魅了することになる。明け方のダンスフロアを祝福するような、オプティミスティックなサウンドが特徴だ。上述のように、この空気感こそ、2000年代後半のダンスフロアのある部分で鳴り響いていたサウンドということだろう。現に当時のフロアで彼のシングルを朝方聞いた機会は数え切れない。

ダークなループ・グルーヴにフォーカスした最新作

新作『The Follower』はそんなフィールドの3年ぶりの新作だが、前作『Cupid's Head』で、若干後退させた、幸福な高揚感をさらに減退させている。

アルバムはダークなアシッド・ハウス・スタイルの表題曲で幕をあける。DJピエールのワイルド・ピッチ・スタイルを彷彿とさせるビルド・アップ・サウンドには、やはり彼特有のループの連なりはスパイスとして抜群の陶酔感をもたらしている。が、しかしそのサウンドはこれまで以上に圧倒的にダークでテクノだ。続く「Pink Sun」「Monte Veritá」も、過去のバリアリック・サウンドを彷彿とさせるメランコリーさやプログレッシウ・ハウス的なスケール感はあるが抑制されたダークさがつきまとう。「Soft Streams」でも同様に、そのサウンドのコアな部分はループを多用した彼らしいサウンドだが、続く「Raise the Dead」とともにダーク・ミニマル的な低空飛行をキメている。そして最後はハルモニアから高揚感を取り去ったかのような(あ、クラスターか)、エレクトロニックでのっぺりとしたクラウトロック・サウンド「Reflecting Lights」で幕を閉じる。

アルバム全体に初期を思わせるバラリックな高揚感はない。そこにはループの魔力を極めんとするようなそんな態度が全面に出ている。よりテクノへとフォーカスした感覚のある新作だ。むしろ、あの高揚感を排除することで、よりサイケデリックでヒプノティックな感覚を加えている。ある意味でドラッギーなサウンドに仕上がっているとも言える。

文 : 河村祐介

PROFILE

The Field

スウェーデン出身のアクセル・ウィルナーによるプロジェクト。現在はベルリンに活動拠点がある。ドイツの代表的テクノ・レーベル〈コンパクト〉と契約、2005年のシングル「Things Keep Falling Down」、続く2006年のシングル「Sun & Ice」などを飛ばし、2007年のアルバム『From Here We Go Sublime』などのヒットでレーベルを代表する存在に。ループの構築による、シューゲイズ・ロックとも共鳴しそうなサイケデリックなサウンドでテクノ・シーンはもちろん、ハウス、ロック・シーンでも高い人気を誇る。これまでの4枚のアルバムをリリース。日本でも人気は高く、フジロックの出演、バンド・セットでの来日も果たしている。

>>The Field アーティスト・ページ

この記事の筆者

[レヴュー] The Field

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