2015/09/09 17:04

喜悦に満ちた楽園の電子音楽、インナー・サイエンスの美しき新作『Here』を先行ハイレゾ独占配信

インナー・サイエンスの新作『Here』は、掛け値無しに2015年にリリースされた傑作テクノ・アルバムの1枚となるだろう。空間表現と電子音の輝かしい響き、そして飽くなき実験への意志は、心地よいサイケデリアを身にまとい、すばらしく刺激的な音像を生み出している。そしてなによりも、そのサウンドがポップであることがすばらしい。

実験的な電子音とコラージュがテーマとなる『Assembles』シリーズ(冬にも新作がリリース予定とか)やいくつかのリミックス、インタレーションなどへのサウンド制作、さらには先日リリースされたゴンノのアルバムにDJクリスタルとともに参加するなど、充実したリリース活動が続くなかで、本人の中心的なプロジェクトでのリリースとなる。もちろん本作は、そうした活動がダイレクトに反映された大きな実りのある作品といえるだろう。

OTOTOYでは本作を、1週間先行、しかもその作品性からこれまでリクエストも多かったハイレゾ版を独占配信。そう、きめ細やかな電子音や、その“鳴り”、空間的な表現はハイレゾ向きのサウンドと言わざるをえない。

先行ハイレゾ独占配信!!

Inner Science / Here(24bit/48kHz)
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV(24bit/48kHz) / AAC
※ファイル形式について
※ハイレゾとは?

【価格】
単曲 270円(税込) / まとめ購入 2,268円(税込)

【Track List】
01. Introduction for Here
02. Bare
03. Fantastic Distance
04. Ivy
05. Well
06. Vary
07. Winking Rabbit
08. Twin Birds
09. Not Far From Here
10. Neko
11. Silent Thing
12. Even More

INTERVIEW : 西村尚美(インナー・サイエンス)

インナー・サイエンスこと西村尚美の、その音楽的な出自を考えれば、それこそMSCの漢の自叙伝『ヒップホップ・ドリーム』にもちらりと出てくるのだが、もともとはアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンにアーティストとしての下地がある。が、現在の音楽性を聴いてもらえればわかるのだが、その才能は電子音の表現に開花しているといえるだろう。

そう、特にここ数年の彼の作品の、その電子音の表現はすさまじい。ある境地に達していると言ってもいいだろう。みずみずしい電子音は“インナー・サイエンスの音”として、はっとするほどのオリジナリティを示している。

アルバム『Here』は、明るい喜悦に満ちた穏やかなサイケデリアが全体を包んでいる。グリッジなエレクトロニカ的な表現でも、安易にメロディアスなシンセのトーンでもない。そこで鳴っている電子音の多くの部分はサウンド的にはどちらかといえばアヴァン・エレクトロニクスのそれだが、幾重にもレイヤーが積み重なり美しい風景を描き出す。が、しかし、そのサウンドはエレガントにみずみずしく響きわたり、イマジネーションを拡大していく。クラシックやポストロック、インディ・ポップの単なる電子化で終わりがちなエレクトロニカ勢とは違った、電子音楽のポップなセンスがそこにはある。

——『Here』のアルバム・コンセプトがあれば教えてください。

西村尚美(以下、西村) : 毎度そうなんだけど、自分の聴きたい音や現時点までの成長を刻む、文字通りのアルバムに仕上げるって感じでしょうか。成長した点は… 大きな部分で言ったら時間の使い方、こまかい部分を言ったらパンニングとか鳴りのコントロールとかかな。あと希望も込めてオリジナリティ。

——『Here』というタイトルにはどんな意味がありますか?

西村 : これもいつも通り、聴いてくれた人のそれぞれの意味や感覚を尊重したいんだけども。でも、ちょうど作ってる最中に『タイタンの妖女』を読んでて、なんというかすごいいろいろとフィットしたというか。断片的とも取れる展開の連なりのようだけど、最後まで読ませて、納得させてしまうあの感じ。別のレイヤーで表現を一気につつみこんでるというか。あとは『銀河鉄道の夜』の、場面が進んでいく感じとか。せんえつだけど、そういう視点というか感覚というか、そういうのからのこのタイトルかな。あくまで個人的にはね。

——今回も直接的に影響を与えたわけではないようですが、これまで小説などにインスパイアされたことはありますか? SF小説と電子音楽はやはり昔から相性がいいですが。

西村 : インストの楽曲をそういう発想から作った記憶が無いので、多分ないと思うなぁ。それもおもしろいね。SF自体が好きな理由は人間の想像力を感じたり問われるところかもしれない。それってさ、自分たちのような音楽だってそうあって然りじゃないかと思うしさ。

——ジャケットは誰が手がけているんですか?

西村 : 今回は自分。コンセプトは特に決めてたわけでは無いんだけど、素材を作って組み立てていくとか、同じ素材の切り取り方で世界観に変化を出すとか、なんとなく音楽をつくるのと似た行程だから結果的にはやっぱり音の印象が出てるんじゃないかな。

さて『Here』を取り巻くサウンドでやはり最も特徴的なのは、さきほども書いたように生き生きとした表情で鳴り響き、カット&ペーストされる電子音だ。カラフルなそのサウンドは間違いなく『Here』のサウンドを確実に象徴している。この音で思い出すのは、ある種のインナー・サイエンスの別コンセプト作品として昨年秋にリリースされた『Assemble』だ。本作は楽曲というよりも、実験的な電子音がカット&ペーストされるライヴ・エレクトロニクスのような作品だ。また、楽曲の展開の感覚など、やはり『Assembles』で変化した感覚というのは『Here』にはそこかしこに見つけることができる。

——『Assembles』以降で楽曲の基本構成の部分で“ループ”という概念が変化し、本作にもそれが影響を大きく及ぼしているのはないかと思うのですがどう思われますか?

西村 : そうね、『Assembles』はサウンド・コラージュというまとめ方なのでループの反復構造は重視してなかったけど、それをいわゆる楽曲構造に落とし込む / 落とし込まないみたいなバランスを考えるという視点が増えたかも。

逆にいえば『Assembles』と本作を分かつ大きな要素は、楽曲の構成、そしてドラム、ベース・ラインだ。特に前作『Self Figment』と聴きくらべると、上物の浮遊感に対する、そのベースラインの存在感がアルバム全体を引き締め、楽曲としての強度を増す効果を示していることがわかる。きらびやかな電子音の下にビート・ミュージック的な存在感を感じることができる。

——全体のアンサンブルという部分で、今回はベース・ラインがわりと重要なキーになっている印象を受けました。

西村 : いわゆるグルーヴ構造というか、ポリリズム構造とか音のアタック感から一端距離を置いて、そこから必要な分だけ近づいていってる感じが自分の中であるんだけど、その意識がベース・ラインにまで行き着いたのかな。まぁ、そもそもなんで1回距離を置くんだって話なんだけど… いろいろ構造を疑ってたからね(笑)。あとは前作の『Self Figment』では音を溶かしながら没入感を産む事ができたという事が大きいかもしれない。だから今回は少しアタック感を出す事にチャレンジできたつもり。

——楽曲を作る突端として、ビートと上ものだとどちらが多いですか?

西村 : ケース・バイ・ケースだけど、今作に関しては上ものからが多いかな。

——ビートに関して、たとえばDJミュージック(使い勝手とか)であることみたいなところを留意して作った楽曲はありますか?

西村 : それがあんまりなくて… (笑)。今回はアルバムの流れに集中したので特にないかも。

——曲順などにストーリーなどは想起しましたか?

西村 : ここ何作かは先にアナログEP用に曲を作っていって、何曲かまとめてから最終的にアルバムにまとめるという流れだったんだけど、今回『Here』は最初からアルバムの気持ちで作ってて。その中でよりタイトに、断片的なものの連鎖で全体を表現するというイメージはあったかな。

ここ最近、ゴンノの作品など日本のテクノ~ハウス系のアーティストもハイレゾ音源でのリリースを行っている。ほとんどが24bit、ものによっては32bitで稼働する現在のDAWの環境を持ち、その制作環境でアーティストがさまざまな決定(サウンドの方向性や、音色の選択、ミックスなど)を行っていることを考えれば、あらゆる表現の意図などは、やはりその音楽的な質に近い音源が相当しいというのはなんとなくわかるのだが。実際のところアーティスト側はどう考えているのか?

——最後に、前々からリクエストしていたハイレゾ、24bit音源初のリリースになるわけですが、トラック・メイカー、さらにはマスタリング・エンジニアなども行うあなたからみて、24bit音源の音楽ソフトとして優位なポイントを教えてください。

西村 : まず単純に情報量が多いからそのなかでできることがいろいろ増えるわけだけど、今回『Here』に関してはやっぱり空間の広がり方の尽きるかな。自分の作業環境と近い状態のデータなので、音の動きを楽しんでもらえたら。

文 : 河村祐介

LIVE INFORMATION

2015年9月18日(金)@八王子SHELTER

2015年9月19日(土)@渋谷WOMB

2015年9月22日(火)@渋谷AGEHA

EMAF TOKYO 2015
2015年11月7日(土)@恵比寿LIQUID ROOM

PROFILE

インナー・サイエンス

西村尚美によるソロ・ユニット。浸透するように透明できらびやかな音色とメロディー、そこに拮抗する振り幅の広いリズムを操り、色彩豊かで独特な世界観のインストゥルメンタル / エレクトロニック・ミュージックを産み出す。それら自作楽曲の音色がフロア中を満たす没入感あふれるライヴと、様々な楽曲を大胆に紡ぐスタイルのDJプレイを各地で展開中。

近年では、ゴンノの10年ぶりとなるアルバム『Remember The Life is Beautiful』収録の1曲をCrystal(TRACKS BOYS / (((さらうんど))))と共に3人で制作。また、Black Smokerからのリリースでもおなじみのオルタナティヴ・ロック・バンド、Skillkillsの「Teenage Mutant」や、See Recordingsから発表されたWhite Rainbow&Asunaによる米日コラボレーション作「A Bloody Football Clicks / Orange Classic Skinz」のリミックス制作。奈良公園で開催されているライトアップ・イヴェント「なら燈火会」内で行われた演出作品「SYSTEM of the EAST」や、開創1200年を迎える世界遺産・和歌山県 高野山の魅力に迫るインタヴュー・ムービー、全面鏡張りのコンセプト・カー・TOYOTA Mirror Harrierを用いた展示作品「Kaleidoscope with Mirror HARRIER」などにそれぞれオリジナルのサウンドを提供するなど、自身のスタイルを崩す事無く媒体や空間を問わない様々なシーンに彩りを加え続けている。

前作「Self Figment」以来となる最新オリジナル・アルバム「Here」を 2015年9月にリリース。

>>インナー・サイエンス Official HP

[インタヴュー] Inner Science

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