2015/06/06 12:44

最新作『 ! [雨だれ]』解体新書! 裸のKidori Kidoriはここにある! ——初ハイレゾ配信スタート&インタヴュー

Kidori Kidoriの真骨頂がここに、というフル・アルバム『 ! [雨だれ]』が完成。2014年にメンバーの脱退を経て、現在はベーシストの藤原寛(ex.andymori)をサポート・メンバーに迎えて活動するKidori Kidori。「NUKE?」を代表してこれまでエッジィな英語詞ロックのイメージが強かった彼らが、大きな変貌を遂げた。わかりやすいところで言えば楽曲はすべて日本語詞へ。サウンドは非常にナチュラルなものへ… というだけではまさかわかりえぬのでライター田中亮太の前文、そしてマッシュ(Vo, Gt)とともにつくりあげた「解体新書」をぜひとも。さらにはKidori Kidori初のハイレゾ配信にて、より音の深みを感じてもらえることだろう。まずは、という方はリード曲「なんだかもう」のハイレゾ音源の期間限定無料配信へ。その鮮やかな進化に、目を輝かせてほしい。

リード曲「なんだかもう」のフリー・ダウンロードはこちらから
(〜2015年6月12日(金)まで)

Kidori Kidori / !
【Track List】
01. ホームパーティ / 02. テキーラと熱帯夜 / 03. あなぼこ / 04. コラソン / 05. Tristeza / 06. なんだかもう / 07. 住めば都 / 08. ! / 09. 傘を閉じれば / 10. アフターパーティ

【配信形態 / 価格】
【左】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 324円 アルバム 2592円
>>ハイレゾとは?
【右】
mp3 : 単曲 200円 アルバム 2,000円
「なんだかもう」MV
「なんだかもう」MV

INTERVIEW : マッシュ(Kidori Kidori)

Kidori Kidoriが今おもしろい! 英語詞から日本語詞へ。ハードなレベル・ロックンロールから、オーセンティックなグルーヴィ・アンサンブルへ。『El Blanco』『El Blanco 2』『El Urbano』のミニ・アルバム3作での発展を推し進めるように、3枚目のフル・アルバムとなる『 ! [雨だれ]』は、柔らかなリズム感覚を通奏低音に、人懐っこいユーモアを随所にまぶした、実に間口の広いソング・アルバムとなった。フロントマンであるマッシュは、かねてから細野晴臣やManu Chaoといった、非欧米圏の音楽へと意欲的にアプローチしてきた先達ミュージシャンへの傾倒を公言してきたが、彼のそうした志向がもっとも開けた形で音源化された作品と言えるだろう。

今作のテーマはサウダージ(郷愁)。大阪から東京へと活動拠点を移してからの1年で、彼らが故郷へと向けている眼差し、現在の街での暮らしから発している匂いや温度がないまぜとなり、居心地が良いような妙にソワソワとしているような、不思議なエキゾ感も魅力となっている。

なにやら上京後メンバー2人は古いアパートに同居し、そこをホーム・スタジオともしているらしい。今作に染み付いている生活のリズムを紐解くには、そこでの暮らしを垣間見ることがヒントとなるのではないか。そこで、このインタヴューは、彼らの住居、通称キドリ荘へとお邪魔し、制作中にインスピレーションとなった音源などを実際に聴かせてもらいながら、話を伺うことにした。バンド渾身の変化作である『 ! 』にとって、解体新書となるテキストに仕上げることができたと思っている。記事内に貼ってある音源を流しながら、楽しんで読んでいただければ幸いだ。

インタヴュー&文 : 田中亮太

「弾き語りで名曲を作ってみたらいいんじゃない?」って言ってもらって

——マッシュさんは東京でミュージシャン以外の仕事もされてるんですか?

(ドラムの)川元はライヴハウスで働いてるんですけど、僕はどうにか物販からやりくりしてますね。ありがたいことに制作に集中できてます。

——それはすごく良いことですね。上京後の活動スタンスとして、理想的なように思います。じゃあ、最初のジャブ的な質問として、マッシュさんがこの1年でもっともフレッシュ! だと感じた曲を聴かせてください。

東京に来てもう僕は慢性的な金欠なんですよ(笑)。ゆえに新譜を追いかけれてなくて。さらに、この家インターネットも通ってないくらいなんで。だから、過去作、中古になるんですけど、The Sundaysの「Can't Be Sure」。

僕ネオアコってずっと興味がなかったんですよ。でも、これを聴いて、すごい良いなあと思って。久しぶりに音楽を聴いて感動したのでフレッシュ! だったのかなって。なんてことない曲なんですけど。それが良いんですよねぇ。

——いやー最高です。最近チャーベさん(松田chabe岳二)もDJでかけてたような。でも、マッシュさんはこの曲のどういうところにフレッシュさを感じたのでしょう?

最近の洋楽事情は疎いんですけど、なんか音像がしんどいところがあって。みんなTaylor Swiftみたいな感じじゃないですか? そう、The Strypesに違和感をすごい覚えたんですね。ロックンロールってローファイなものなのにアルバムを聴くとすごいハイファイで。だから本格派ロックンロール・バンドなのかMcFly的なバンドなのかわからなかった。そのあとThe 1975も聴いたんですけど、それにも同じようなことを思って。Backstreet Boysみたいやなって。ロックンロールぽくない音像というかね。だから、あんまりそうワクワクするようなものが近頃なくて。

ーー今のロックってタイム感がめちゃくちゃジャストじゃないですか。それもマッシュさん的に違和感あるのかなって。

そうそう。みんな編集ソフト使ってね。例えば僕ドラム下手だけど、それでも叩けば名演してるふうには作れちゃうんですよね。でも、それってやっぱり違うんですよね。やっぱ違和感っていうか綺麗すぎるんですよね。それがどうも、僕は音楽的には70年代の録音が好きなんですけど、70年代の感じと今って違うじゃないですか。Yesだって超絶技巧の集団ってされてましたけど、実際リズムが揺れたりする部分もある。拍子の頭があってなかったりするのが、また良いなあって思うポイントで。まあ懐古主義って言っても、僕も産まれた時からプロトゥールズの人間やから、言ってることがおかしい自覚もあるんですけど、なんか今のものに対してすごい違和感というか。Alabama Shakesの新譜とかは、良かったなぁと思う。生感が入ってるからなおかな。だから生感ですね。

——「テキーラと熱帯夜」のイントロのギターとかネオアコ感ある気がしました。実際、今作のKidori Kidoriは非常にオーセンティックなギター・バンドとなってますよね。だから、The Sundaysをチョイスしたのにすごく合点がいきました。そもそもバンドからハードなロックンロール色が薄まっていった理由は?

今回のアルバムに関してなんですけど、僕としては歌とメロディを聴かせたいと思ったんです。で、そういう曲を作っていくうちに僕、うるさいギターはどうしても邪魔というか曲に合ってなかったんです。僕はギター・ヴォーカルなんですけど、なんかギター・ヴォーカルってヴォーカル・カテゴリじゃないですか? それが嫌で両方100でいくでってスタンスだったんですけど、ちょっと大人になって曲のために引き算ができた。ゆえにハードな部分てのは必然的に減っていったし、もっと曲が立つようにしようって。

——曲を立たせるって方向性ができたのは、なにか外的要因もあったんですか?

2曲目の「テキーラと熱帯夜」を作るきっかけなんですけど、それが以前サポート・ベースをしてくれてた藤原寛さんに、『El Blanco 2』を作るときに、どうしても最後の1曲ができなくて、藤原さんに相談したら、「弾き語りで名曲を作ってみたらいいんじゃない?」って言ってもらって。なるほどなーって思って。そこで「テキーラと熱帯夜」ができたら自分のなかでも自信がついたというか。作れるんやなって思って。そういうところからメロディと歌詞に重点を置いた作品を作ろうって決めていきました。

——今回のアルバムの曲はアコースティック編成でもできますよね。

そうなんですよ。だからほんとに歌とメロディというか。

詞とサウンドに必然性のあるものを目指した

——英語詞と日本語詞の印象の違いもあるとは思うんですけど、以前に比べて、人懐っこさやユーモアが先立ってますよね。そのあたりのものを言葉に落とし込もうってのは、「テキーラと熱帯夜」の頃からあったんでしょうか?

そうですね。「テキーラと熱帯夜」を作って。英詞と日本語詞の違いというか、自分のなかで。日本語やと直接的にわかるじゃないですか? 何歌ってんのかってところが。というところでレベル・ミュージックみたいな歌詞を書くと、どうしても説教がましくなってしまったんですよね。今までの音源っていうのは怒りをブーストしてる面があったんですけど、今回は自分自身が素というかありのままというか、そういう状態で作ってて。怒ってる以外の感情をちゃんと歌えてるという感じがあって。ゆえにハードさみたいなものもどんどん薄くなってるって流れだと思う。

——「テキーラと熱帯夜」は二日酔いチューンです。ポップ・ミュージックの歴史においても、幾つものアルコホリック・ソングが誕生してきましたが、マッシュさんが好きなものを1曲あげるとすれば?

うーん、ぱっとでできたのがこれだったんで、これですかね。Oasisの「Cigarettes & Alcohol」

なんかねぇ、詞がいいなあって思って。結局俺が必要だったものは、タバコとアルコールだってところが、このダルい曲調ともあいまって、サウンドの必然性もちゃんとあって。で、メロディも良くて、そういう歌詞とアレンジの必然性がすごく良いなって。今回のアルバムも、詞とメロディに重きを置くってところで、アレンジひとつにしてもちゃんと必然性あるものにしようってのがすごいあったんです。だから、苦労はしたんですよ。ただ、そうやって作ってたから自分たちの音楽以外にもそういうのが見えるようになった。この曲とかも支持される理由は、そういう必然性があってこういうアレンジになってるからやって思って。そういうところで巧いなってのは思いましたね。

——「テキーラと熱帯夜」は2つ前のミニ・アルバムに収録された曲ですけど、アルバムにも入れたのは、お客さんにもちゃんと支持をされてるからなのかなって思ったんですね。

はい、そうですね。ライヴで初めて演った時、僕的にはどうなるかなって思ってたんですけど、みんな受け入れてくれたし、それも自分の自信につながった1個の要因やし。なによりテキーラ始まりで今回のフル・アルバムにつながってるってところと、そういうところでの必然性というか、その『El Blanco 2』があって、その次の『El Urbano』があって、それが今回のアルバムの伏線的な作品になって。一種の三段オチみたいな感じで、今回のものがあるから。

今回の歌は東京と大阪、その中間の位置にいてる

——すごいロジカルな発展の3作だなって思いました。「ホームパーティ」なども含めて、日本語詞のkidori kidoriはカジュアルなパーティ感というか、日常とパーティが地続きにある気がします。それがすごい良いなと思うんですけど、そこは上京してからの生活が反映されてるんでしょうか?

そうですね。やっぱり全部こっち来てから作った曲なんで影響は絶対にどっか受けてる。今回の歌は、今いる東京と、大阪、その中間にちょうどいてると思ってて。こっちに完全に馴染めてるわけでもないし、故郷が懐かしいって思いもあるって意味で。今回のテーマがサウダージで、郷愁ってことなんですけど、その意味でまだまだ間にいてるというか、そういう場所の歌たちなんです。でホームパーティをすることで、馴染めていくんじゃないかとか。そうなってくるとどうしても素である必要があって。ありのままじゃないと説得力がない。ちゃんと説得力を作品に持たせたくて今回は裸になろうってところで、そういう感じの曲ができていったんだと思います。

——すごく正直なアルバムだと思います。日本語詞に積極的に取り組み始めてからのkidori kidoriは、かつて発していたサーカスティックな攻撃性は意識的に封印している印象です。その牙はひそんでいるのでしょか? それとも形を変えたのでしょうか?

僕が思うのは、そこの牙というのはポンポン抜けるわけではないので、確実にあるんですけど。そこを巧みに隠す技というか、というところを少し意識してますね。なくなっちゃっても寂しいし、それは絶対に自分たちの良いところの1個ではあるし、そういうところがちらっと覗く形にしたい。だから、歌詞ですかね。わりと色んな解釈ができる曲を何曲か作ったし、思いっきり牙とかじゃなくて、実は生えているような牙って感じで残ってるとは思うんですけど。

——なるほど。その隠された牙が、今回のアルバムをひとつ東京論のようにも見せている一因かなと思いました。他のミュージシャンが東京を歌った曲ないしアルバムのなかで、その手法や観点、温度といった面で共感できると思えるものを教えてください。

もうベタですけど、これですね。はっぴぃえんどの『風街ろまん』。

これが出された時の東京はオリンピック後の開発された東京で、そういうのじゃなくて俺の東京=風街ってところが、ある種ノスタルジィを歌ってるってので、そういうところがすごい今作とリンクするというか、完璧だなって思うんですね。ユーモアもあるし、曲としても素晴らしい、湿度とか温度でも感じる作品やから、すごいそれが良いなって。匂う曲ってあるじゃないですか? 匂いがちゃんとわかる曲というか、そういうのってやっぱすごいなって思ってて。想像させるものが1個多いから、より見えるというか、聴覚から入って視覚に訴えかけるものがすごいあるし。これはほんとに影響を受けてるし、東京ソングスという意味では一等賞なんじゃないかなって。

——実際、このアルバムはマッシュさんの細野晴臣を愛してやまないって嗜好性が1番出た作品ではありますよね。

そうですね。できるだけモロな影響ってのは出したくないっていうのはあったんですけど、どうしても出た部分はあったし。

——いや、それは真似してるってより滲み出てるってものだと思います。

すごい思うのが、みんなはっぴぃえんどは神様じゃないですか? でも、それじゃあダメなんじゃないかなって思ってて。すごいこういうこと言うと生意気なクソ野郎って思われるけど、ちゃんとこれよりすごいアルバムを作ろうって気持ちは絶対なくしてはいけない。だから尊敬はありつつ越えていきたい気持ちもあって。がんばらないといけないなと思ってるんですけど。

——今回のアルバムで『風街ろまん』を越えるために自らに課したハードルは?

古臭くならないことってのは1個ありましたね。で、格好つけずに正直にあろうと。ていうところで、本気で勝つってなったら素の状態で勝てないとダメだなってのがあるので。はっぴぃえんどですやんってのはしたくなかったし。ギターとかで、はっぴぃえんどが絶対やらないようなアプローチとかをちゃんとしてるし。言葉も現代的な単語を意識的に入れてる。自分たちの素で挑戦したってところ。でも、越えてやるって目的よりはミュージシャン・シップってところですね。マスターピースに対して、敬意を払うってことは、それを越えていく作品を作っていくことだって思うので。今回のアルバムは風街もトロピカル三部作も意識してないですし。単純に良いものを作るって意識でいます。

——じゃあ、細野さんのカラフルなキャリアから今のマッシュさんが1曲選ぶとすれば?

このアルバムからですね。『フィルハーモニー』。1曲目の「ピクニック」を選びます。

このアルバムだと僕「スポーツマン」って曲が好きだったんですけど、今はこの曲かなっと。これがね、ひたすら〈ピピピピクニック〉しか言わないんですよ。でも僕の気持ち的にも今はシンプルでありたいってのが強くて。飾らないというか。ありのままでいたいし。ありのままでちゃんとかっこいい人になりたいし。ていうので多くを語りたくはないなってところで、シンプルに「ピクニック」。言葉も良いし曲も可愛いし、自分の今の楽しい感じが出てる。なんか今の細野さんのキャリアのなかで選ぶとすればこれかなあって。

——マッシュさんっていろんな音楽を聴いてますけど、Kidori Kidoriってバンド自体はギター・バンドであるってところを頑なに保ってるところはある。そこにこだわりはあるんですか?

今でこそ2ピースですけど、もともとは3人組のバンドで、たぶん3人組の奴らはこぞって意地を張るところがあって(笑)。絶対に同期とか使わへんみたいな。僕らもたぶんその流れですよね。でも3人組でも諦めてる3ピースと諦めてない3ピースがおって、なにがっていうとギターの世界なんですけど、歌100ギター0とか歌50ギター50とかじゃなくて、歌もギターも100を目指してる奴らがおるんですね。自分もそうありたくて。3ピースやからこれやってるのすごいとかってCDになっちゃったらもうわからない話なんですけど、ライヴとかやったらやっぱあるんですよね。そういうところでの3人組っていうか、少数であることへのこだわりというか、そこはなんかあって。3人組やとパソコンなくてもできるんですよ。最悪電気使わんくてもできる。そういうところの強味はある。だから生感ですかね。制御されずにいるっていう。ライヴでやる前提があるから、どうしても3人でできるものを作ろうって頭が働く。3人組であることが、僕のなかでは当たり前になってるというか。今はサポートの人をいれて3人ですけど。その人数でやるのが僕のなかでは普通になってるんですね。

——今回のアルバムはグルーヴに対する意識であったり、リズムへの感覚とかって、細野さんもそうですけど、Manu ChaoとかDavid Byrneとかあのあたりから受け継いでるものがあると思ったんですね。その影響がもっとも開けてる。だから、彼らがライヴで演ってるようなちょっとした大人数編成でこの曲を演奏してるkidori Kidoriも見てみたいなって願望がわいたんですよね。

はははは! そうですね(笑)。極端であるべきだなと思います。4人で演るとかじゃなくて、もう11人とかで演るのは楽しそうですよね。それはすごい思います。Manu Chaoの編成も日本くるときはだいたい3人なんですけど、向こうだとRadio Bemba Sound Systemっていうめっちゃ大人数の編成もあるんですよ。そのライヴ盤を聴いて度肝抜かれたんで。ドカンと増やした編成は1回やってみたいですね。

——それは楽しみにしてます! 音楽的にいろいろな解釈でアプローチできるようになってきてると思うんですよね。

さっき言ったことと矛盾してるように思われるかもなんですけど、シンセサイザー入れるのとかに別に抵抗はなくて。3人で生感っていうところがテーマとしてあればいい。いろいろ次のことも考えつつなんですけど、ギターをまったく弾かない曲も作りたいなって思ったりもしてるんですよね。ベードラ、ヴォーカル入ってコーラスみたいな。そういうものをやってみたいなって気持ちはある。音楽が構造的にも見えつつあるし感覚的な捉え方ってのもThe Sundays聴いて死んでないんだなって思ったし。そういうところでまだ自分たちは伸びしろあるなって思いました。

世界旅行をしている感覚も持ったアルバムになった

——じゃあ、ここで今のマッシュさんの選ぶManu Chaoを1曲紹介してもらいましょうか。

すごく悩むんですけど、Manu Chaoのよくやる手法で同じような曲がそのまま続いてって展開がよくあるんですけど、なので2nd『Próxima Estación: Esperanza』の5〜6曲の流れで。

左 : M5「La Primavera」、右 : M6「Me Gustas Tu」

これはスペイン語で「僕の心は今何時かい?」って歌ってるんですけど、綺麗なんですよね。

——でも、Kidori KidoriとManu Chaoがこんなにすんなり繋がるなんてという驚きはありますね。

今回、シンプルにシンプルにって思ったんで、根本的に持ってるものというか必然性を求めるにあたっていろんなところから引っ張ってきた結果、結果的に世界旅行をしているような感覚にもおちいるようなアルバムになって。東京・大阪以外の周りの世界もちゃんと存在している、そういう空間になったなってのはあります。

——たとえば「Watch Out!!!」と「テキーラと熱帯夜」だとお客さんの盛り上がり方も違うと思います。マッシュさん的には、後者もちゃんとオーディエンスに楽しんでもらえたって反応が、今の方向性を後押しした面はありますか?

「テキーラと熱帯夜」は普遍的な良い曲を作れたと思ってるんですけど、それが受け入れられたことは有り難かったですね。なにが不安だったかって言うと、当時は高速四つ打ちブームだったんですよね。そのなかであの曲を出してちゃんと聴いてもらえるのかって思ったときに、受け入れられたってのは音楽が単なるフィジカルな体育の授業ではなくて、ちゃんと音楽なんだって、すごく希望が湧いたんですよ。それがやっぱりあったから、ちゃんと良いものを作り続けることこそ正解だなって自分ですごく思えた。

! [雨だれ]がうちの便所にあったんです

——今の高速四つ打ちブームだったって話を受けてなんですけど、昨今はディスコ・リヴァイバルのなかで、もうちょっとファンキーで黒いグルーヴを志向する流れがります。マッシュさん的にこうした潮流はどう見られていますか?

僕はディスコものっていうより今回ニューオリンズがすごいブームだったんですけど、「なんだかもう」とかはリズム遊びから入った曲で。3拍子って日本人がノリづらいとされてるものと、四つ打ちって誰でもノレるものを合わさると、どうなるんでしょう? ってところからはじまったんです。その遊びをしてるうちに「なんだかもう」ってメロディを思いついて、それのリフレインのコーラスがあって、AメロとBメロの必然性、今回のアルバムのコンセプトとの寄り添い具合を考えて、ちょっとブラックなことをやってみようって意欲的なものでもあって。そのうえでちゃんとサヴダージに帰ってこれるようなアレンジもしたいなと。その意味では自分たちと世の中をうまくつなげることもできたのかなって今思いました。

——ニューオリンズ・ファンクだと、どのあたりを熱心に聴かれてるんですか?

MetersやDr. John、そこからThe Wild Tchoupitoulasを知って。

今回のタイトルも『 ! (雨だれ)』で、ニューオリンズ、ルイジアナも湿地ですよね。だから、そこでもただマイブームってよりちゃんと必然ができた。で、すごく土臭いじゃないですか。勝手ながら田舎の音楽って雰囲気もある。それがこのアルバムの都会じゃない田舎サイドにもばっちりはまって。今回だと「 ! 」が1番ニューオリンズのセカンド・ラインのリズム、で僕が雨っぽいと思ってるギター・イントロが入って。1番雨が降ってる感じの曲になったなって。なによりおもしろいってのもあったし、だからアルバム・タイトルにもなってるんです。ちなみに ! =雨だれやん! って思ったのうちの便所にあるんですよ。前のオーナーが残した傷跡みたいなのが" ! "マークになってて。これおもしろいなーと思いながら、考えていったんです。今回、湿度のアルバムになったのはこの家の環境、雨降るともう湿気がすごいんですよ。で、制作中はすごい雨が多くて、それで湿度とか匂いを感じさせれるアルバムになった。だから。このアルバムを知ってもらううえで、この家の環境を知ってもらうのはすごく良いことだなって。

過去作

LIVE INFORMATION

Kidori Kidori『 ! 』インストア・イベント〉
2015年6月11日(木)@タワーレコード新宿店
2015年6月14日(日)@タワーレコード横浜ビブレ店
2015年7月10日(金)@タワーレコードなんば店

Kidori Kidoriと雨やどりワンマンツアー
2015年6月20日(土)@大阪Shangri-La
2015年6月21日(日)@池下CLUB UPSET
2015年6月28日(日)@代官山UNIT

PROFILE

Kidori Kidori

大阪・堺で結成され、2008年より本格的に活動を開始。バンド名は村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」に由来する。UKロック、パンク、ハードコア、ジャズ、ファンク、プログレ、テクノ、J-POP、ワールドミュージックなど、幅広いジャンルの音楽を帰国子女のマッシュ(Vo, G)の感性で昇華したサウンドが特長。2011年7月に初の全国流通盤『El Primero』を、2012年8月に『La Primera』を自主レーベル・Polka Dot recordsよりリリースした。2014年3月にンヌゥ(B, Cho)が脱退し、バンドはマッシュ、川元直樹(Dr, Cho)の2人にサポート・メンバーを加えて活動することを表明。同時期に拠点を大阪から東京に移し、8月13日に新体制第1弾となるミニ・アルバム『El Blanco 2』をリリースした。同月「SUMMER SONIC 2015」などに出演し、その後も多数のフェスやイベントに参加。2015年2月に日本語詞3曲、洋楽カバー3曲のCD『El Urbano』を発表し、東京・新代田FEVERで自主企画「1989」を開催した。6月にバンド初の全曲日本語詞のアルバム『! [雨だれ]』をリリース。同月に東名阪ツアー「Kidori Kidoriと雨やどりワンマンツアー」を行う。

>>Kidori Kidori Official HP

[インタヴュー] Kidori Kidori

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