2015/05/13 20:35

VJ有するハイブリット・ダブ・バンド、negoが描いた新たな世界――3年ぶり新作『THE WORLD』をハイレゾ配信&インタヴュー

テクノ、ディープミニマル、トライバル・ハウス、サイケ・トランス、EDM、ロックなど、生バンドでボーダレスなダンス・ミュージックへアプローチするnegoの約3年ぶり、3枚目のアルバムがリリース。すでにライヴでは定番化している「Ants」「World」「Edge of…」をはじめ、打ち込みで構成された新境地となる楽曲が収録。さらに「Ants」にmisato(kasica, AYNIW TEPO)が参加したほかにも、4ho(ANYO)、toto(suika)と、3人の女性ヴォーカリストが作品に彩りを添えている。OTOTOYでは24bit/48kHzのハイレゾ音源で圧巻のサウンドを配信するとともに、向山聡孝(ヴァイオリン、ギター、ダブエフェクツ)とmitchel(VJ)のインタヴューを公開。

nego / THE WORLD(24bit/48kHz)
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC : 単曲 300円 アルバム 2,300円
>>ハイレゾとは?
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【Track List】
01. Ants / 02. Edge of… / 03. Shadows / 04. Lopez Summer / 05. Hello World / 06. Birth / 07. Hermit Crab No.5 / 08. Stratos / 09. Diggin' Dub / 10. World
nego「Ants」
nego「Ants」

INTERVIEW : 向山聡孝&mitchel

国内ポストロック史に名を連ねる"旅団"を前身とするインストゥルメント・4ピース、negoが約3年ぶりとなるサード・アルバムを完成させた。ヘヴィなダブへと傾倒したファースト『Dub Phalanx』、ダンス・ミュージックを基調にずぶずぶとはめていくセカンド『Sansara』と、過去2作ではタイトルごとにモードをしっかりと定めていた彼らだが、今作はむしろ枠に留まらない多岐なサウンドを展開。ダブステップ以降の前のめりに跳ねるビート、力強く邁進する四つ打ち、細かくチョップされたエレクトロニカ的なプログラミングなど、リズム感覚豊かに10曲を収録している。各曲の方向性は様々ながら、トランシーな浮遊感、メランコリックな叙情を緩急自在に操るアンサンブルは、さすがnego。ファンタジックな世界観が一つ芯を貫いている。『THE WORLD』と名付けられたアルバムで、彼らはいかなる世界を創りだそうとしたのか。ヴァイオリン、ギターの向山聡孝とVJのmitchelに話してもらった。

インタヴュー&文 : 田中亮太

いろんなシーンがある作品を目指しました

――今作の録音自体は去年の今ごろにはスタートしていたようですね。となるとなかなか時間をかけてたのではと思ったのですが、メンバーの実感としてはいかがでしょう?

向山聡孝(以下、向山) : かかりましたね。

mitchel : 曲作ってライヴで演ってブラッシュアップしてっていう作り方なので必然的に時間はかかるんですけど、レコーディング自体も一気には録ってないんですよね。ちょっとずつちょっとずつやってて。

向山 : 去年の4月に無料配信でまず3曲を発表したんです。「Ants」と「Stratos」と「World」を。それ以外の曲は1曲もできてなくて。その3曲でちょっと感触を見て、周りの反応を消化したうえでアルバムを進めようかって感じだったんです。

mitchel : 「Ants」は生楽器のリズムがあってヴォーカルも入ってるって曲、「Stratos」のはいわゆるループ・ミュージック、四つ打ちで、で「World」は爽やかな感じ。それぞれをフリー・ダウンロードであげてみて、negoとしてどれがウケるんだろうなってのを知ってみたかったんです。アルバムの方向性への参考にしようって

向山 : みんなの意見を聞いてみようと思ったんです(笑)。でも、結果そんなにバラけなかった。だから自分たちで作ろうってなった。

向山聡孝

――でも、バラけなかったことこそが発見だったんじゃないでしょうか?

向山 : そうですね。だからいろいろな曲を入れたアルバムにしたんです。

mitchel : 最初の3テイストだけじゃなく、よりヴァリエーションを増やせたね。

向山 : 例えば1曲目の「Ants」はいわゆるnegoっぽい曲って認識なんですけど、他の曲でちょっと違ったエッジを効かせて、最終的に1つのパッケージにするってのが今回のテーマになりました。ファースト・アルバムを作ったときはゲスト参加ありきの化学反応というか、自分たちがその人たちと出した音の渦みたいなのを収録したのがテーマで。セカンドはもっとコアに、民族音楽と人力トランスを自分たちのなかで消化したもの。再生してから最後までがひとつの作品だったんですけど、今回は単純に”今のnegoを切り取ったアルバム”みたいな、そのなかにいろんなシーンがあって、そこから1曲だけで再生しても成り立つようなものを目指しました。

Ants (LIVE at ROCKETS / Osaka)
Ants (LIVE at ROCKETS / Osaka)

――簡単にバリエーションを増やすって言っても、すぐさまできるものではないように思います。どのように試行錯誤したのでしょう?

mitchel : 今回は、としくん(向山)のアイデアだったんですけど、メンバーそれぞれに作曲をしてもらうってスタンスをとったんです。だから必然的にそれぞれのテイストは生まれて、それをnegoでまとめていくって作業だった。

向山 : これまでは僕がアイデアを持っていって、意見出し合いながらも最終的に編曲も僕がやってって流れだったんですけど、そうするとだいたい今までの感じ、いわゆるこれまでのnegoみたいなことになるので。そうじゃなくするには、とりあえず1回口を出さずにそれぞれで作ってみようと。で、ミッチェ(mitchel)は初めてだよね? バンドに曲を提供するのは。

mitchel : そりゃそうだよ。VJだもん。

向山 : (笑)。そしたら、すごい不思議な曲ができてきて、あ、こりゃいじるとこないなと思って、それが「Birth」ですね。で、ベースの中島(一城)にもはじめてnegoに曲を持ってきてもらったり。ギターのGanちゃんはこれまでもネタを出してくれてるんですけど、今回は1から全部作ってもらって。それが「Diggin Dub」なんですけど、それはわりとガッツリ変えましたね。原型とどめてないくらい。

――ちょっとブリストルな雰囲気もあるムーディなダウンテンポといった印象の曲ですけど、どのあたりを変化させたんですか?

向山 : まずはBPMを30くらい落として。展開も変えました。主メロとベースラインは残してるんですけど。ほんとリミックスしてる感じでしたね。自分としては、新しい視点からのネタがあると、むしろ自分はそれらをリミックスしてる感じで楽しいなって発見もありました。

――前2作ではリミックスを1曲収録されていますが、今回は入っていませんよね。今の話を聴くと、今回は必要なかったのかなと。

向山 : そうだと思います、まさに。満足したというか、一旦自分でひっくり返したので、作品のなかにリミックスを加える必要はないかなって。あと、自分たちの作品を一度自分たちだけで出してみたかったってのも最初の目標にはありました。

――曲のヴァリエーションは増しつつも、今作も紛れもなくnegoの作品になってると思うんですね。このバンドならではの色みたいなものって、メンバー間で擦り合わせをしてるのでしょうか?

向山 : あんましてないよね。

mitchel : 結局なっちゃう。

向山 : 今回もこれまでと世界観は変わってない気がする。アルバムに一本芯を通してるとしたら、僕は今回「Ants」をひとつ基準においてて、この曲と同じアルバムに入ってて大丈夫かってのは意識してたかもしれないですね。できるだけ外れたいって気持ちと、でもひとつだけすごい外れてるのがあっても嫌だなって気持ちと。その中心にいたのが「Ants」かなと。

気持ちが解放されたときに生じる渦のような、うねりのような、そういうところはすごく意識してます

――negoのアイデンティティのひとつとして、バイオグラフィーにも記されてる「独自の"ループミュージック"を追求」ってスタンスがあります。この追求をより説明していただけますか?

向山 : ドイツのミニマル・ミュージックが好きで、それを生バンドでやるってのがあるんですけど、ちょっと独自の視点でやりたいなって願望も込めて、このバイオグラフィーなんですね。まだはっきり言葉には出来ないんですが、これが僕ら独自のループ・ミュージックのルールだね、って物をつねに模索しています。

――「Stratos」は、Stephan BodzinによるFlorian Meindl「Beginning」のリミックスをバンドで再現したものですが、どのあたりに意識してリメイクされたのでしょうか?

向山 : とりあえず同じ尺でやってみようってのが、まず僕のなかであって。それはマシーンが基本であろう作り手のパッションというか、バンドのセッションでは産まれないような空気感を生バンドで出していくっていう。

――確かに原曲に忠実なんですが、それでもやっぱりnegoなんですよね。

向山 : 後半、演奏にダイナミクスが出てきたところ、みんながちょっとずつプレイや気持ちが解放されたときに生じる渦のような、そういうズレというかうねりはすごく意識してますね。それが生バンドでやる意義というか。ただ出し過ぎるとサイケデリックな、ずっと眩しい感じになってしまうので、できるだけお作法に沿いつつメリハリをつけて、制御してるつもりではいます。

――ミニマルを追求すると、極端にストイックに進むって方向性もありますよね? でも、negoはそのうえで、メランコリックであったり解放感であったり、エモーショナルな面をつねに落としこんでいます。だから、難しいラインを追求しているなって思います。

mitchel : たぶん、なっちゃってるんですよね。僕らがファーストから今作までの変化って、まあダンス・ミュージックに近づける、ミニマルにしようって意識は高くなってて。実際そうしてるんですけど、結局世界観だったりメランコリックって言われる部分が出てきちゃうんだよね。別にトシくんがヴァイオリンもギターも弾かないかもしれない、それでも良いのかなと思ってるし。そういう話もバンドでしてるんですけど、やっぱりメロディだったり、ライヴでの展開だったりで、メランコリックが出てる。それはいい意味でも悪い意味だけど、狙ってやってるんじゃないんですよね。入りはストイックにやろうとしてるんですけど。

向山 : 僕らエモくなっちゃうんですよ。

今行ったところない場所にいるみたいな。そういう現実逃避をさせたい

――今作の『THE WORLD』ってタイトルですが、いろんな曲が入ってるという意味でそういう名前となったのかと感じました。では、このワールドにはどんな住人が暮らしてるのでしょう?

mitchel : 性格が悪そうな人が住んでる気がする(笑)。

向山 : 平和ではないかもしれない。

――それはちょっと意外ですね。

mitchel : 「Birth」って曲は最初「Eden」って名前で、それこそ天国にいる人が遊んでるってイメージで作ったんですよ。

――平和じゃないですか!

mitchel : でも、その子たちは超いたずらっ子で性格クソ悪いんです。ていう曲にしたくて。だから、いきなり四つ打ち入ったりとか、変な感じにリズムが展開したりってのは、いたずら感ってので意識してたんですけど、

向山 : イタズラな四つ打ちね。

mitchel : そうそう(笑)。なので住人って意味ではいたずらな子がひとりはいる。

向山 : 海も荒れ狂っているような。だから、優しいだけの世界ではないですね。

mitchel

――それは現実世界を反映してもいますか?

mitchel : 俺は個人的にnegoで関わるときはリアルじゃない方がいいんですよ。だから、今、現実で起こってることに対して、negoはこう解釈してこう言いたいっていうのはなるだけ避けたくて。妄想の世界、ファンタジックであり非現実的なものであってほしいなって思っていて。それこそ映画を見ているような、自分を今の現実じゃないところに置き換えれるような感覚になってもらいたい。だから例えば東京の忙しない感じとかを表現したり、それを出すってのは、しないようにはしてますね、意識的に。サウンド的にも日本の音楽ってよりは、どこか特定できないような音楽になってるとは思ってて。今の人間社会に置き換えれないような音楽性にしたいなってのは出てるんじゃないかな。

――なるほど。negoの音楽を非現実的にしたい理由は?

mitchel : 映画を見てる感じと近いんですけど、戦争映画や冒険映画を見てる時に、現実離れできる感覚、僕は音楽を聴いているときにもそれを求めてると思うんです。聴いてて、ああ今行ったところない場所にいるみたいな。そういう現実逃避への憧れはある。だから、そういうのをやりたい。

向山 : すごく同意見で、同じことを言っちゃいそうですけど、無国籍な音楽にしたいなってのは僕も同感。聴き手がファンタジックな気分なれるような。

mitchel : 僕ら2人は映画の趣味とか近いんですよ。だから感覚が似てるかも。

――では、映画の2本上映じゃないですけど、今作とあわせて見たい映画作品を教えてください。

mitchel : 映画じゃないんですけど、海外ドラマの『アンダー・ザ・ドーム』。いきなり非現実的な前提から話は始まるんですけど、その中でおこなわれてることはすごいリアルなんです。だから、negoのサード・アルバムが出ました! ドン! っていう前提がありつつ、その中でみんなが感じてくれたらなって意味で。

向山 : 僕はね、ちょうどあるんですよ。『クラウド:アトラス』って最近の映画。すごくおもしろくて。同じ役者がいくつもの時代で別人を演じてるんですけど、その転生していく、ループしていきながら長い世界を描いていく感じがすごく近い気がして、勝手にシンパシーを感じたんですよね。

過去作

nego / SANSARA

negoのセカンド・アルバム『SANSARA』。negoの真骨頂「Dog Sweeper」、タブラをフューチャーしノイジーなギターと爆発力のあるダブが絡んでいく「Raga Naja」、様々なサンプリング音源とズ太いベースラインが絡み合う「Human Shield」、ドイツ・ミニマル・テクノへのオマージュ「Arkas」を含む全9曲。サンサーラ(サンスクリット語で「輪廻」)と題された本作にはエンジニアとして“KASHIWA Daisuke”を迎え、アルバム全体を通して漂うダークな世界観にトライバルなリズムが絡むエモーショナルなクラブ・サウンド。“世界の循環”をテーマに描かれたazusa(nandii)のジャケットにも注目。

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nego / ReBirth

セカンド・アルバム『SANSARA』を、Ao Inoue、nectonnなどのゲストも含め7人のトラックメイカーが再構築、リミックス・アルバム『ReBirth』としてリリース。2013年にドラマーが変わり、新体制後初の作品。

LIVE INFORMATION

『THE WORLD』リリース・パーティー
2015年6月28日(日)@下北沢ERA
出演 : nego、Tomy Wealth、nenem、O4(from 大阪) / Kuni Lopez(DJ)

ワイルド・マーマレード ジャパン・ツアー 2015 -Flux-
2015年7月4日(土)@名古屋ボトム・ライン
スペシャル・ゲスト : Dachambo
オープニング・アクト : nego
ライト・ショー : Flower Head Land

『THE WORLD』リリース・ツアー
2015年7月20日(月)@名古屋lounge Vio
2015年9月5日(土)@大阪CONPASS
2015年9月6日(日)@広島CLUB QUATTRO
2015年10月12日(月)@横浜GALAXY

PROFILE

nego

2008年結成。現在は向山聡孝(ヴァイオリン、ギター、ダブエフェクツ)、mitchel(映像)、中島一城(ベース)、Gan(ギター、タブラ)の4人で活動。ライヴでは演奏と映像がリアルタイムに絡む、ハイブリッドなダンス・ミュージックを展開。様々なジャンルを取り入れながら、独自の"ループミュージック"を追求。2011年、2012年に「KAIKOO POPWAVE FESTIVAL」に出演。2014年4月、Bayon Productionに移籍。

>>nego Official HP

[インタヴュー] nego

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