2015/03/26 17:14

どこまでも実直な愛に包まれた“SONGS”を聴け! ——踊ってばかりの国、セルフ・プロデュースで作り上げた4枚目のフル・アルバム

東京インディー・シーンの先頭を行くロック・バンド、踊ってばかりの国による、最新アルバム『SONGS』。最高傑作と呼ばれた前作『踊ってばかりの国』から1年2ヶ月ぶりとなる今作のアルバムは、勢いを衰えること無く更に自信に満ちた1枚になっている。2013年に新メンバーを迎え、活動再開からしばらく経った彼らだが、着実にライヴを重ねその世界観を確立してきた。メンバー主導によるセルフ・プロデュースで制作されたという今作では、その進化が存分に感じ取れるだろう。OTOTOYでは、音楽評論家、岡村詩野の〈岡村詩野音楽ライター講座〉受講生、廣野佑典によるレヴューでその作品性を紹介! 彼らの世界観に浸るべし!

踊ってばかりの国 / SONGS
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV / AAC / mp3 : 単曲 257円(税込) まとめ購入 2,160円(税込)

【Track List】
01. ocean(intro) / 02.君を思う / 03. ガールフレンド / 04. OK / 05. 口づけを交わそう / 06. 時を越えて / 07. Hero / 08. 太陽 / 09. あなたはサイコパス / 10. 赤い目 / 11. 唄の命 / 12. ほんとごめんね

シング・ダンス・パーティー

このアルバムのイントロダクションは「ocean(intro)」であるが、海とはつまり生の起源である。「踊ってばかりの国」の曲はこれまで社会的なことを歌ったものがとても多かった。それは人間の生や尊厳を脅かすものに対する反発であり、下津光史(Vo/Gt)はこれまでずっと生と死について歌ってきたのである。前作ではまさしく、この国の負の側面が押し出されるような形になったが、本作では自然の美しさや人間愛など、正の側面を見つめる視点が感じられる。これらの事象を、太古から語り継いできたのが歌であり、本作の11篇も同様の役割が込められているだろう。

本作には、生と死を最も意識し歌と密接に関係する場所--教会や祭典--のモチーフが散見する。「ocean(intro)」におけるパイプオルガンの音、「Hero」におけるチェンバロのようなギターの響きと、弦楽セレナードを思わせるサビの厳粛さ、「君を思う」における民族楽器のような音色、「口づけを交わそう」にて凝らされたカントリーの意匠などだ。これらはアルバムの空気を改めたり、砕けさせたりする。そして、その膳立てされた舞台において下津の歌声は、より恭しく響くのだ。下津のハイトーン・ヴォイスは少年とも、老婆とも取れる非常に中性的な歌声であるが、その神秘性が本作の祭祀感に凄みを与えている。

踊ってばかりの国『SONGS』teaser
踊ってばかりの国『SONGS』teaser

歌は本来土着的であり、市井の中で伝承されてきたものであるが、本作におけるメロディの親しみやすさにはその原点への果断な傾倒が感じられる。そのヒントとして七、八〇年代の日本歌謡を選んだのであろう。下津は史上最も多くの歌声を使い分けているが、彼の声が時には美空ひばりに、大滝詠一に、沢田研二に聴こえてくるのは、その時代の日本歌謡に、聴き手を限定させないポップな作りの秘訣を見たからだ。

『SONGS』は伝承をキーワードに、多くの人の耳に届かんことを切望するアルバムだ。下津は「唄の命」で、〈僕が歌ってるという事 今を生きているという事 それを君が聴くという事 唄の命が生まれるのよ〉と歌うが、唄は誰かに聴かれなければ生まれないのである。そして続く〈それが起こす全ての事象 唄の命が育つのよ〉とは、唄への信頼であり、生の讃歌だ。 彼は今まで、これほどに前向きで直接的なメッセージを発することはなかった。だからこそ、これらの楽曲群が新たな門出として、力強く聴き手の背中を押してくれるのである。(text by 廣野佑典)

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PROFILE

踊ってばかりの国

林宏敏(Guitar)、谷山竜志(Bass)、下津光史(Vocal、Guitar)、佐藤謙介(Drums)

2008年神戸で結成。翌年より2枚のミニ・アルバムを発表、各地の大型フェスに注目の新人として出演。2011年初のフル・アルバム「SEBULBA」を発表。全国ツアーを行うなど活動の幅をさらに拡大させる。同年11月には2ndアルバム『世界が見たい』をリリース。2012年末、ベースの脱退と共に活動休止。2013年春、COMIN'KOBE 13のステージで活動を再開。2014年1月に新メンバーで録音した、セルフ・タイトルを冠するサード・アルバム『踊ってばかりの国』を発売。同年に限定アナログ盤シングルを2枚発売。2015年春、メンバー主導による最新フル・アルバム『SONGS』を発売。

踊ってばかりの国 Official HP

[レヴュー] 踊ってばかりの国

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