8年ぶりの帰還となる「永遠に降りやまない雨のような音」ーー小野島大が迫る、Musu Boreの新作『Rain Dome』

Musu Bore(ムスボレ)という奇妙な名前を持つ3人組の奏でる音楽は、そのバンド名と同じく、あれこれ想像力をかき立てるディープでスピリチュアルな魅力を放っている。テクノ、アンビエント、トリップホップ、ダウンテンポ・エレクトロニカ、シンセ・ポップ、ニュー・ウエイヴ、グランジ〜オルタナティヴ、ブレイクビーツと、さまざまな音楽性を内包しながらも、どこかアンニュイで静的な、物憂げなムードで統一された今作には、クールでありながら人間的な温かみも感じさせるという、一見矛盾するような表現を使いたくなるのだ。

Musu BoreはREN(vo、g、kbd)を中心として2001年に活動を開始、幾度かのメンバーチェンジを経て、TELL(ds)、MASUHARA(b)というラインナップとなり、新作『Rain Dome』をリリースした。「永遠に降りやまない雨のような音」と評された彼らの音楽とはいったい何なのか。『Rain Dome』の辿った数奇な運命とともに、RENに話を訊いた。

インタヴュー & 文 : 小野島大

まずは全曲フル試聴でそのサウンドを体感あれ

レーベル bOOster DISCS / Brain Pudding  発売日 2014/11/26

※ 曲名をクリックすると試聴できます。

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Musu Bore / Rain Dome

ALAC、FLAC、WAV、mp3 単曲 270円 / まとめ購入 2,160円

【収録曲】
1. Camera Obscura
2. The Days Go By
3. A Wire Around The Neck
4. Cell
5. Ladder To Heaven, Stairway To Hell
6. A Letter Without Words
7. Void
8. Come Down
9. If Anymore
10. Rain Dome
11. Ancient Prayers
12. 亡国之音


Rain Dome - Trailer


機械がどこまで人間に迫っていけるか

ーー今作『Rain Dome』は7年前にリリースを予定していたものの、制作が中断してしまった作品を改めて作り直して発表したアルバムとお聞きしています。

REN : 前作『Nursery Rhyme』を2006年12月にリリースしたんですが、間髪入れずに続き物として出すつもりだったんですよ。ところが2007年2月に私の実家が全焼するという事件がありまして。それで廃墟になった家に帰って手伝いをしているうち、曲が書けなくなってしまったんです。あまりに感情が揺れ動きすぎて、それまでやってきたサウンドとまったく異質なものが出来上がってくるみたいな感覚になって。実際に曲を書いても、その世界に入り込んでいけない。ライヴをやってても心ここにあらずな状態でやってるのが違和感があって。事件以前には入り込めてた世界に急に入り込めなくなったし、それに近いような曲を書こうとしても、なんか違う気がしたんですね。それでしばらく曲が書けなくなり、さらに実家の方の始末とかいろいろあって、直後にメンバーが脱退したり、さまざまなことが一気におそってきて、アルバムを出すような状況ではなくなってしまったんですね。

ーー災難でしたね。

REN : ですから続き物として出したかったものが放置されてたという状態だったんです。

ーーご実家の火事の前までは、制作はどれぐらい進行してたんですか。

REN : 曲自体はかなり作ってて、あとはレコーディングするだけって段階のものがほとんどだったんです。ただ今作にはそのなかの2曲ぐらいしか入ってない。つまり、本当は7年前に出すはずだった『Rain Dome』に入れる予定だったけど、今度出た『Rain Dome』には入ってない曲がいくつかあるんです。

REN

ーーつまりその2曲以外は新たに作った曲ということですね。『Nursery Rhyme』と続きものということなんですが、そのテーマあるいはコンセプトはどういうものなんですか。

REN : 機械がどこまで人間に迫っていけるか、ですね。(自分は)元々バンドやってたのが、こういった打ち込みに向かってきて。ただ、良く打ち込みは人間味とか情感とか質感を映さないってよく言われるんですが、そうじゃないんじゃないかと思って。たとえばニュー・オーダーやペット・ショップ・ボーイズには情感は確かにあったんじゃないか。キュアーなんかも時々打ち込みものがありますけど、それらのものは機械を使っていても、ちゃんと人間の感情を映してたんじゃないか。そういったものを作りたいな、というのがMusu Boreを結成した当初からあったんですね。で、『Nursery Rhyme』ってアルバムは打ち込みをきちんと前に出して、そこに人間の色を重ねていくという、普通のバンドとは真逆ののことをやってみたんです。人間のやっていることに機械を足すのではなくて、機械に対して人間を足すという。そういうコンセプトで、もう一作作ろうと思ったんです。

ーーバンドをやりながら打ち込みをやるようになったきっかけは何だったんですか。

REN : 2001年ぐらいでしたか。やってたバンドのドラマーが辞めて、メンバ-探さなきゃと思ってる時に、それとは別に自分がやりたいことを素直に映せるものを作りたいと思って個人的に作ってたものが、いつのまにか”これおもしろいね”って周りの人間が言い出すようになって。そこから作り上げていったんです。普通だったら、”こういう音を出したいからメンバーを集める”んでしょうけど、こんな音楽を作りましたってところに人が入ってきて、だんだん今の形(Musu Bore)になってきたという。

ーーつまり最初RENさんが構想したものに、メンバーが加わっていくことで、人間味みたいなものが加味されて、今のMusu Boreが出来上がっていったと。

REN : そうですね。打ち込みでやってるものって二次元なところがあると思うんです。情念情感を込めてやっても二次元的なものなんですけど、そこに第三者としての人間が入り込むことで三次元的になってくる。機械は同じことを繰り返してるかもしれないけど、そのうえで人間が何か違うことをやると、同じ曲でも違う色彩を帯びてきて、曲ががらっと変わるというのがすごくおもしろくてエキサイティングだなと。同じ人でも違うプレイをすることでまた変わっていく。これは(普通のバンドの)セッションなみにおもしろいな、と。

ーーその感覚が現在まで連なるMuru Boreの原点であると。サウンドはゆったりとしたループが静かに繰り返し鳴っているダウンビート・エレクトロニカが多いですけど、よく耳を傾けると、微妙な起伏やアクセントがあって、日常から飛躍したドラマが感じられます。

REN : そうなんです。私たちのループ・サウンドはある種の日常性がメタファーされてるんです。たとえばライヴとかそういう場所で聴く音楽は非日常、すなわち“ハレ”だと思うんですよ。でも気がついたら日常、つまり“ケ”の場から自分たちを異世界に引っ張ってくれるような音楽が、我々の音楽だと思います。街を歩いていて、見慣れた光景のはずなのによく見たら、見たことのないような異様な景色が広がっている、というような音楽。ループしてるんだけどごくごく微弱に変化していくような。

ーー漫然と聞き流すと心地よいBGMのようだけど、注意深く聴くとそこに裂け目や捩れがあって、そこから非日常的なものが見えてくる、というような。

REN : はい。最初はごくごくパーソナルなところから始まったんで、そこから徐々に広がってきた感じです。特に今のベースとドラムが入って、音に奥行きが出て立体的になりましたね。今の3人はパンクやニュー・ウエイヴの時代を過ごしてきた、ある種のニュー・ウエイヴ的な感覚が共通項としてある。

ーーニュー・ウエイヴ的感覚とは?

REN : 普通の人が行きそうな所に行かせない、というか。ある種のセオリーとかお約束とか、そういうのは破ってナンボなんだけど、その破り方が洗練されているというか。やり過ぎない程度にうまくひねってる。そういう見せ方ができる。ベクトルが極端すぎないで、<ちょっとだけ変>というところでうまくまとめられる。

ーーそれは実験的なことをやっていても、ギリギリのところでポップに収める、という感覚に近いですか。

REN : 近いですね。完全にぶっ壊してしまうのは簡単だけど、ちょっとの歪みで止めておいて、その歪みのバランスをとるという。

ーーピサの斜塔的な。傾いてるんだけどバランスを保ってるみたいな。

そうなんです。破壊的なことをやるにしても、文字単位まで分解するんじゃなくて、単語とか文節レベルに留める。ある種の心地よい壊れ方というか。ニュー・ウエイヴにあった感覚って、そういうバランス感覚に支えられていたんじゃないかって思うんです。我々の中にある共通感覚も、それに近いですね。

機械の上で機械よりも機械の動きをしている人間みたいな

ーーなるほど。しかしいろいろなトラブルはあったにせよ、ファーストから8年という歳月は長かったですね。

REN : そうですね。その間、CD-Rという形で出すアイデアもあったんですけど、ファーストからずっと待ってくれてる人たちにそんな中途半端な形で出していいんだろうかという迷いと、でもあまり待たせすぎるのもどうかというせめぎ合いで、こんなに時間がたってしまったんです。

ーーしかし8年もたっていたら、以前のコンセプトにこだわるより、別のコンセプトで出してもいいんじゃないかと思うんですが、気分を新たに一から作っていくというお考えはなかったんですか?

REN : その当時から、数は少ないとはいえ、ずっと支えてくださったコアなファンの方もいらっしゃるんですよ。たとえば当時17歳の高校生だった方が、この続きはどうなるんでしょうと言い続けてくれたり。そういう人たちとの約束は絶対果たしておきたかったんですよ。もちろん自分の中で変わってしまった部分もあるんでしょうけど、その<変わってしまった自分>が捉え直したものと、昔のものをブレンドして新しい形で出していけばいい。そういう意味で言えば、最初に作ろうとした作品とまるっきり同じかと言えば、もちろん違う部分もある。でもあの時表現しようとしたものをちゃんと形にして残さないと、次に行きにくいというのもあったんですよ。

ーーなるほど。真面目なうえに義理固いですねえ(笑)。

REN : いやあ、宿題は片付けておきたい、ぐらいのものですよ(笑)。前に進むための宿題は片付けておきたい。

ーー8年かかっても(笑)。

REN : かかりましたねえ(笑)。

ーーその間、機械と人間の関係性というテーマはずっと継続している。

REN : そうです。

ーーでもそれはある意味、いつの時代であっても追求する価値のある重要なテーマですよね。

REN : 確かにそれはありますね。特に今みたいに、機械に束縛されてるみたいな社会構造になってくると、Musu Boreが音楽やってる形態自体が、シーケンスの上で何かやってる人間の姿とダブってくるみたいなところがあると思うんです。機械の上で機械よりも機械の動きをしている人間みたいな。それ自体が社会的な縮図にも見えてきたり。


Musu Bore「Void」

ーーエレクトロニックな音楽をやる場合、Musu Boreのように機械に人間味を加味していくのもひとつのやり方だし、反対に徹底的に機械に委ねてしまうのも、ひとつのやり方だと思うんですよ。機械なんだからとことん機械らしさを追求したほうがいい、という。

REN : むしろみなさんそちら(後者)のほうに行ってるんじゃないですかね。機械だから機械にしかできないことを徹底的にやる、という人が圧倒的に多いと思うんです。

ーーオウテカとか、その路線の極北ですね。

REN : でも実はそういう部分はMusu Boreにもあって。人間が再現しようとしても絶対できないフレーズなんかもあったりするんです。でも聴いた感じの手触りが、自分が懐かしく聴いてた音の感覚のあたりに、ついつい行ってしまうんですよね。

これを作ったおかげで、前に進める

ーーニュー・ウエイヴから始まってテクノ、エレクトロニカ、アンビエントなど、今まで聴いてきたいろんな音楽の風景がフラッシュバックするような感じで、懐かしさと心地よさがありました。

REN : そうですね。自分自身、そういう心地よい感覚に戻っていった感がありますね。今までいろんな音楽を聴いてきた中で、いちばん自分にとって正直な感覚というか。

ーーわかります。

REN : ただ前作と今作では少し狙いが違うところもあるんですよ。前作はキュアーで言うと『ディスインテグレーション』的なものを作りたかった。あれはわりときちんと最初から最後までコンセプトが決まってて、サウンド的にもそれほど大きな振れ幅がない。でも今作はキュアーでいえば『キスミー、キスミー、キスミー』に近い。いろんな音、いろんな音楽が入っていて、明るいのも暗いのも重い曲も軽い曲もさまざまに取りそろえていて、全体でひとつのバンド、アルバムになっているような。''

ーー例の出し方がニュー・ウエイヴ世代ですね(笑)。

REN : (笑)。たぶんそれぐらいバラバラなものが玉手箱みたいに詰まっている。けれども俯瞰でみるとひとつの確固たる世界が表されている、みたいな。

ーーこれで初めてMusu Boreを聴く人も多いでしょうから、ショウケース的にMusu Boreのいろんな部分を見せておくのは悪くないアイデアですよね。

REN : 入り口がたくさんあるっていうのはすごくいいことだなと思いました。グランジ的なヘビーな部分から入ってくる人も、ポップなところから入ってくる人も、ディープなところ、テクノ的なところ、さまざまなところから見ていただけるんじゃないかと。

ーーとにかくこれで長年の宿題を済ませたわけで、肩の荷が下りて、創作のペースもあがってくるんじゃないですか。

REN : 3人態勢になったMusu Boreを最初から意識して作った曲もすでに作って、シングルで発表してるんですよ。もちろん今作も3人でやっているし、今の3人の姿を反映させてはいるけど、最初からそれを想定して書いた曲ではないから。

ーー8年前からの宿題を片付けるアルバムだから、ということですね。

REN : でもこれを作ったおかげで、前に進める。ほかの2人のことを想定して、彼らならこうするだろうなと想定しながらシーケンスも組める。

ーー本当の意味での3人のMusu Boreが、ここから始まるということですね。期待してます。

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インタヴューはこちら

LIVE SCHEDULE

Musu Bore presents - Rain Dome TOUR FINAL
2014年12月5日(金)@高円寺HIGH
時間 : open / start 18:30
チケット : 2,500円(+1 drink) / 3,000円(+1 drink)
出演 : dieS / alcana / AGE of PUNK / Musu Bore
Dj : Masahide Fujii(餓鬼道)

PROFILE

Musu Bore

読み方は「むすぼれ」。都内を中心に活動する、サンプリング主体のループ・サウンドを奏でるエレクトロニカ・ユニット。

2001年11月、活動開始。以来、機械演奏にもかかわらず独特の暖かで湿気を帯びた空気感と、ブレイクビーツやトリップ・ホップを取り込んだスロウでダウナーなビートやグルーブが融合するサウンドや、80年代のニュー・ウェイブにも通じるダークで重厚な世界観が、Club系、バンド・ミュージシャンのみならず、国内外、ジャンルを問わぬ多くのミュージシャン達に好評を得る。

2006年12月8日、1st Album『Nursery Rhyme』を発表。数度のメンバーチェンジを経て、現在、TELL(Drum : emmuree、紅ノ桜、telmintain)、 MASUHARA(Bass : koldcake、ソウチ、Der Eisenrost)が参加。その重厚な世界観をより完全なものとするための本格的なバンド体制を構築し、圧倒的な存在感のライヴを展開している。

2012年9月14日、3人体制の元で公式音源としては数年ぶりとなる『denial e.p.』を発表。横浜、京都、大阪、東京で発売記念ツアー敢行。それまでのステージで幽玄なサウンドを繰り広げていた楽曲から、今までに無い高速で性急なビートと攻撃的なギターを融合したナンバーや、New Orderを彷彿とさせる切ないエレクトロ・サウンドといった幅広い曲のバリエーションを持たせながら、一貫として流れる統一された空気感を保つサウンドは、シーンに激震を走らせている。

2013年4月にアルゼンチンのThe Cure全曲カバー・コンピレーション『Pink Pig Update』にAlt End.で参加。ロバート・スミスの誕生日である2013年4月21日に限定ながらも全世界発売された。この音源のシリアルNo.001はロバート・スミスにも直接手渡され、The Cureに影響され、カバーする直系のバンドとしてワールド・アトラスにも名を残す。第2弾シングルが11月に発売。

もはや東京のNWバンドの発信ベースとなっている自主イベントEmotional infectiousを中心にライヴ展開、いよいよ三人体制では初のアルバム『Rain Dome』が11月26日に発売される。

>>Musu Bore official HP

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インタヴュー

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筆者について
小野島 大 (小野島 大)

主に音楽関係の文筆業をやっています。オーディオ、映画方面も少し。https://www.facebook.com/dai.onojima

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