2014/11/21 17:44

「隣の騒音」 第5回 MECCA RADAR――ceroや(((さらうんど)))のエンジニアが惚れこんだ新世代ジャム・バンド

いちライターとして、いちリスナーとして、関西シーンの渦中にいる田中亮太が、すぐ隣で鳴っている騒音――今この瞬間、どうしても耳に入ってきて、耳を奪われてしまうサウンドを月1で紹介する連載「隣の騒音 ~2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド」。第5回は4人組のジャム・バンド、MECCA RADER。元はカセットテープで販売していたミニ・アルバムを、エンジニア・得能直也がリマスタリングし今年夏にリリース。OTOTOYでも配信が開始です! 東京でもfulaが台頭し、盛り上がりつつある新世代ジャム・シーン。まずあなたの耳で確かめてください。

MECCA RADAR / MECCA RADAR
【配信価格】(各税込)
WAV / ALAC / FLAC : 単曲 250円 アルバム 1000円
mp3 : 単曲 200円 アルバム 800円

【Track List】
01. 2000 mile
02. Don't take away
03. Picalismo
04. Kalimba
05. Lumbini

第5回 : MECCA RADER

このバンドのことを知ったのは、ceroザ・なつやすみバンド(((さらうんど)))などのエンジニアとして知られる、得能直也さんからの推薦でした。恥ずかしながら、名前すら知らなかったのですが、メンバーの紹介とともに「自分がマスタリングしたから」と渡されたCDを聴いてびっくり。柔らかに盛り上げるジャム・アンサンブルの完成度に驚いたのでした。

MECCA RADARは京都在住の林大郎、森三力矢、遠田正幸、高知在住の菊池啓介による(基本インストの)4人組とのこと。soft以降に綿々と続いている京都のジャム・シーンにおける最新世代と位置づけることもできるかもしれません。実際ヒプノティックな音色と心地良いグルーヴは野外のフェスなどでも相性抜群でしょう。キメてひたすらに陶酔していくというはまり方もできそうですが、このバンドのなによりのチャームは、つねに醸しだされるチアフルな愉しさ。そして、つねに平熱の視点があるからでしょうか、等身大のシティ感もそれとなく漂っています。どこから出てきたのか、どういう人たちなのか、自分もまったくバンドの文脈を知らないなかで惹かれたバンドではありますが、"耳を奪っては離れない"という『隣の騒音』の連載コンセプトとしては、ズンバまりのバンドでしょう。メンバー全員揃ってのインタヴューをさせてもらいました。

インタヴュー&文 : 田中亮太

シーンが変わっていくみたいにセッションしてみよう

――得能さんがマスタリングをされるようになったいきさつは?

遠田正幸(以下、遠田) : きっかけは僕ですね。働いてるMOLEってお店にお客さんで来はって。「バンドやってて、最近テープ出したんです」って伝えたら、「その音源聴いてみたい」って言ってくださって。その場で店内でかけて聴いてもらいました。一緒に来た人が知ってる人だったんですけど、ほんと初対面で。流したら「マスタリングしてあげるよ」って言ってくれたんですよね。で、データを送ったら、もう2日くらいでマスタリングした音源が届きました。
林大郎(以下、大郎) : マスタリングしてくれた音源は、最初リスニング用でCDにするつもりはなかったんですよ。でも、せっかくいい音だし、これCDにしようってなって。

――マスタリングされた音源を聴いた感想は?

大郎 : レンジは広がったよね。音がクリアになって。
菊池啓介(以下、菊池) : 良い意味でハイファイになったよね。
大郎 : テープはミドルが出るんですよね。みんな中音域が好きだから、カセットの音質もすごい好きなんです。
菊池 : 暖かい音なんですよね。

――MECCA RADARはいつ結成されたんですか?

大郎 : バンド自体は2年前から始まってて、最初のスタートは僕と三力矢(森)ともう一人メンバーがいたんですよ。
半年して菊池くんが入って4人になった。そのときは結構歌ものとかもやってて。僕もドラムじゃなかったし、電子ドラムとかサンプラーを担当してました。
菊池 : いわゆるバンドではなくて、宅録中心の活動でしたね。
大郎 : で、そのメンバーで1枚CDを作ったんですよ。それをマーくん(遠田)が聴いてくれて、「入りたい!」って言ってくれて。僕らも「一緒にやろうよ!」って。最初はそれでジャムしたんですよね。で、そのときから僕もドラムに専念して、今のインストの形ができた。

photo by 渡邊賢太郎

――最初のCDってどこかお店で販売されたりはしてたんですか?

大郎 : 民族楽器コイズミで売ってもらってましたね。CD出して以降は生音志向になってきて、一発録りとかライヴがメインになるみたいな。

――今までまったく存じ上げなかったんですが、京都のどのあたりで活動されてきたんですか?

大郎 : 最初はblue eyesが多くて、最近はUrbanguidが多いかな。でも結構バラバラですね。地元でも、去年も今年も高知のフェスに出させてもらったり。最近はいろんな感じのイベントに誘ってもらってます。

――近しいバンドをあげるとすれば?

菊池 : TRIPMENとか?
大郎 : 地元が一緒なんですよ。もともとギターのSHOGOSTARTERと一緒にバンドやったりもしてて。あとは、うーん、softの人とはよく会うけど、親しいというか大先輩って感じやし。

――soft、Nabowaなどいわゆる京都のジャム・バンド・シーンからの影響はあるのでしょうか?

全員 : う~ん。
菊池 : インストしようぜって感じではなかったので。
大郎 : 歌おうかって話もあったけど、結局自分の楽器をしたいからって。インスト・バンドをやりたいってのはなかったですね。
遠田 : 最初、大郎と会ったとき、いろいろ音楽の話したんですけど、そのときに映画のサントラとか良いよねって話をして。サントラって、劇中の伴奏があったりエンドロールで流れる歌ものがあったりするけどひとつの作品として成り立ってる。そういう統一感のあるものが良いよねって話になった。シーンが変わってくみたいにセッションしてみようって。

――サントラって言ったときに具体的に頭に浮かんでいた作品はありますか?

遠田 : そうですね、自分たちのやってる音楽とは少し違うかもしれないけど、デヴィッド・リンチの映画とか。あと『バグダッド・カフェ』とか。
大郎 : 『2001年宇宙の旅』の音楽も好きやね。すごく嬉しかったのがAUXと対バンしたときに(AUXの)森島さんがヴィム・ヴェンダース作品のワン・シーンみたいやって言ってくれて。そのあと、VIVA LA MUSICA! でツーマンやらせてもらったり。

「プール」って感想はうまいこと言わはるなって

――今サントラみたいなっておっしゃってましたけど、音楽性を形作るにあたってなにか参照したような音楽はありますか?

大郎 : なかったような。
遠田 : あんまりね、みんな枠がないんですよ。AORっぽいのとかニュー・ウェーヴっぽいのが混じってたり、民族っぽいのがあったりとかは、みんなが幅広く聴いてて、これは絶対ダメってのがないからやと思う。
全員 : ないない。
大郎 : なんでもいけるっていったら、最近みんながそう言うからあんまり好きじゃないけど(笑)。

――じゃあ、プレイヤーあるいはリスナーとしてそれぞれ好きなミュージシャンを教えてください。

大郎 : 好きなドラマーはチャーリー・ワッツですね。自分と叩いてる感じはちょっと違うけど。あ、ルーツで言えば、僕はジョン・スペンサーですね。一番好きです。マーくんは? やっぱりドクター・フィールグッド?
遠田 : いやいやいや(笑)。なにかなー、プラスティックマンが好き。リッチー・ホーティン、あとルーク・ヴァイバート。
大郎 : バンドでもギタリストでもない(笑)。
遠田 : あ、そっか。あとはディス・ヒートとか。
大郎 : マーくんはニュー・ウェーヴっぽい感じのテイストあるしね。
遠田 : あとカンがすごい好き。ミヒャエル・カローリのソロがむっちゃ良いんですよね。
大郎 : マーくんはすごくいろいろ聴いてて。はじめてマーくんと話したときに4時間くらい音楽の話したんですけど、ほとんどがお互い知らない音楽の話やったもんね。

――菊池さんと森さんは?

大郎 : 菊池くんはアメリカンな感じがするな。
菊池 : うん。モータウンとかスライ&ザ・ファミリー・ストーンとか好きですね。あとブラジル系。カエターノの息子たちの、モレーノ、ドメニコ、カシンあたりは曲作る人間としても、プレイヤーとしても、すごくおもしろいことしてるなって影響されてます。
森三力矢(以下、三力矢) : 僕はプログレというか。
全員 : 言うと思った!
三力矢 : ゴングとか。スティーヴ・ヒレッジが好きで。でも、もともとはアイリッシュがすごく好き。最近は南米ものに影響されることが多いです。
大郎 : みんな南米ものは好きですね。あとはAORとか、僕だけかもしれんけど。
全員 : いや聴くよ。
大郎 : あんま周りにはおらんけどね。おっさんか! って言われるもん(笑)。ロバート・バーンって奴がやばいよ。
遠田 : ほんとみんないろいろ聴くよね。民族音楽とかも聴くし。

――それぞれ今はまってる音楽をメンバーとも共有するんですか?

大郎 : するね。CD焼いたり。レコードみんなで聴いたり。あ! あと細野(晴臣)も全員好きですね。特にトロピカル・ダンディのころが。混ざり具合がめっちゃ良いんですよね。どことも言えない、いろいろな要素が1曲に入ってる。そこらへん尊敬してます。マーくんも言ってたけど、自分らも、なんでもないインスト・バンド、ジャム・バンドって括りじゃなくて、いろんな要素を無理なく、わざとらしくなく入れたいと思ってるんで。
遠田 : ジャンルまんまみたいなのでなくね。
菊池 : その要素が自然に身体に入った上で自分たちのフィルターを通すというか。

――音楽におけるエキゾチシズムに惹かれてるようですね。

大郎 : エキゾ感はやっぱ好き。
菊池 : 南国ものに弱いしね。
大郎 : 海っぽい音は好きやね。
遠田 : でも、女の子を両脇に置いてみたいなイメージの海ではないんですよね。こないだ、うまいこと言わはるなって思ったのは「プール」って感想。海でも河でもないし確かにプールっぽいなって。
全員 : あ~。
遠田 : 僕の勝手なイメージですけど、プールって人工物の中に自然の物が入ってる。僕らの音楽のなかも自然ぽい音と人工的な感じが混ざってる気がするんですよね。
大郎 : シティな感じでもヒッピーな感じでもないちょうど真ん中。どっちも好きなんですけどね。

photo by 渡邊賢太郎

――自分たちに近しいと思える空気感を持ってるバンドはいますか?

全員 : うーん。
菊池 : CINEMA dub MONKSは世界観的なところでは近い気も。これは第三者からも言われましたね。
大郎 : ほんとに?
菊池 : うちの母親ですけど(笑)。
全員 : (爆笑)。
菊池 : 嫁とうちの母親がライヴを観に行ったらしく、その後に「あなたたちのバンドと雰囲気が似てる感じがする」って言われた。
大郎 : すごい対バンしたいんですよね。

溶けてるお客さんがいると嬉しい

――菊池さんは高知、他のお三方は京都に在住と遠距離バンドですが、どれくらいの頻度で会われてるんですか?

菊池 : 京都ならライヴの2日前くらいに僕が来て、一日中スタジオに入ります。で、ライヴ前も一度音合わせてって感じですね。それが今は月に2回くらい。それ以上増えるとなれば、もう京都に引っ越してくると思います(笑)。
三力矢 : ふだんは3人で練習して、その音源をデータで彼に送ってます。
菊池 : で、聴きながら練習するんですけど、会うころにはもうアレンジ変わってて、あ、そうかって(笑)。2コードのはずが、三力矢が10個くらい使ってたり。

――野外のイベントからクラブまで、いろいろなところでライヴされてるようですが、今のバンドとしてしっくりくるのはどんな場所ですか?

菊池 : 狭めで、音がすごく跳ね返るような作りで、お客さんと距離が近いとやりやすいですね。
大郎 : お客さんが揺れてるのを見るとすごく嬉しくなります。めちゃくちゃに踊る感じではないから、溶けてる人がいるといいですね。あ、この人溶けてる! って。
菊池 : 音楽で溶かしたいですね。

「隣の騒音 ~2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド」Archives

第1回 : 生き埋めレコーズ

第1弾は京都で暮らす若干20歳過ぎの男の子たち3人が始めたインディ・レーベル"生き埋めレコーズ"。彼らにとって初のリリースとなるコンピレーション『生き埋めVA』(左)と、主宰の1人が率いるTHE FULL TEENZのファースト・アルバム『魔法はとけた』(右)を配信中。


第2回 : 本日休演

第2弾は現役京大生の4人バンド"本日休演"。"猥雑なパワーと前衛的な音作り、歴史をふまえての豊穣さをもったポップ・ソング。そこにボ・ガンボスからくるりにいたるまでの、京都ならではの濃ゆいブルースが息づいている"――そのサウンドを収めたセルフ・タイトル・アルバムとなる『本日休演』を配信中。


第3回 : その他の短編ズ

第3弾は森脇ひとみと板村瞳によるデュオ"その他の短編ズ"。音色もアンサンブルも定形から解き放たれ、奔放な創作マインドがさらなる爆発を遂げた最新作『3』をはじめ、ゆっくりとした演奏が穏やかなアンビエンスを醸し出しているファースト『その他の短編ズ』、よりソリッドに削ぎ落とされ、どこかポストパンク期のアコースティック作品との趣もあるセカンド『B』を3作同時配信。


第4回 : Seuss

第4弾は4人組のサイケでリア・ポップ・バンド、Suess。気だるいサイケデリアを醸し出すソングライティングの魅力。アンサンブルにはまだまだ発展途上な面がありますが、それを差し置いての、キャラも身丈もそれぞれ違ったタイプの男前なメンバー4人。彼らの初音源となる2曲入りシングル『Melancholia/Little Boy』をハイレゾ音源にて配信。


[連載] MECCA RADAR

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