2014/10/24 22:44

oono yuuki、平賀さち枝を輩出したレーベル"kiti"が送る新世代ドリーム・ポップの大本命、Nohtenkigengo登場

シンガー・ソングライター花枝明によるソロ・ユニット"Nohtenkigengo(ノーテンキゲンゴ)"。全てをひとりで手掛ける新世代の宅録ポップスとして自主制作盤から早くも話題を呼んでいた彼が、インディ・レーベル"kiti"からファースト・アルバム『Never』をリリース。ceroやザ・なつやすみバンド、Alfred Beach Sandalも手掛けたエンジニア・得能直也がミックスとマスタリングを担当、みずみずしさと鮮烈なフレッシュさを持ったまばゆくきらめく9曲が届きました。2014年も終わりに近づいてきましたが、今年最後に知っておいてほしい! と声を大にして言いたい、インディ・シーンから生まれた注目作です。

Nohtenkigengo / Never
【配信価格】
ALAC / FLAC / WAV / mp3 : 単曲 200円 / アルバム 1,500円(各税込)

【Track List】
01. LONG / 02. FEVER / 03. CLUB / 04. VILLA / 05. OLD CAR / 6. TENNIS / 7. VIDEO / 8. TYPHOON / 9. BEACH SONG
「FEVER」MV
「FEVER」MV

INTERVIEW : Nohtenkigengo

さらりと聴き流せる軽やかムードのベッドルーム・インディ・ポップでありつつ、先の見えない時代のムードを反映したアクチュアルな傑作。Nohtenkigengoのファースト・アルバム『Never』はそんな作品になりました。通奏低音としては、来てしまった現在地への不安や諦観がある。けれど、柔らかに跳ねるリズムには前へ進んでいく意志、艶やかなギターの絡みには世界を熱くする色彩の豊かさ、繊細な歌心には日々の機敏を丁寧にすくいとるためのまっすぐな視線、それらが全9曲を貫いています。

花枝明なる20代半ばの男性シンガー・ソングライターによるソロ・ユニットが活動をスタートしたのは2011年頃のこと。現在のディスコグラフィーには掲載されていないタイトル含め、Bandcampや自主制作CDRでコンスタントに作品を発表していました。活動初期はトクマルシューゴ以降のチェンバー・ポップといった趣の作風で評価を高めていましたが、2013年の『Ooo』(現在は『Toi』に改名)と今年初頭に発表した『Video』以降、バンド・アンサンブルへとフォーカスしたサウンドへなだらかに移行。現在のライヴでは、森は生きているの岡田拓郎がギターで、Taiko Super Kicksの大堀晃生と小林希がそれぞれベースとドラムで、サポート・メンバーとして脇を固めています。初の流通作品となる今アルバムも、これまで同様、全楽器が花枝の演奏による宅録。しかしながら、左右にくっきり(時に真ん中にも)振り分けられた複数のギター、ゆっくりと力強いリズム隊の醸すグルーヴは、ひとりの人間が奏でたもので全てできているとにわかには信じられないほど。線の細さが醸す青いメロディと、心地よいバックビートには、東京インディのとあるバンドを想起するリスナーも多いかもしれません。このインタヴューでは、そこからぶっちゃけて尋ねてみました。

インタヴュー&文 : 田中亮太
写真 : 木内春花

そこからビーサンや王舟を聴き始めたんです

――いきなり不服に思われるかもしれませんが、今作、ミツメに似てるって言われませんか?

けっこう言われます(笑)。ミツメはインディ・ポップを聴くきっかけでしたね。「Cider Cider」のオルグのライヴをYouTubeで見たときに、最近も良い音楽があるんだなと思いました。そこからビーサン(Alfred Beach Sandal)や王舟辺りを聴き始めたんですよ。

ミツメ「Cider Cider」at 池袋 ミュージック・オルグ
ミツメ「Cider Cider」at 池袋 ミュージック・オルグ

――メロディや歌声以上にバックビートに比重を置いたリズム感覚にミツメと近いものを感じました。

単純に趣味は近いのかなと思います。70年代のアメリカンロック、ポップのリズムのような、レイドバックじゃないですけど、レゲエとかダブほど重たくないリズムが好きですね。最初にリズムを作るんですけど、キックとかをバラで録音して、DAWで並べてから少しズラしたりして。そういうグルーヴが好きというのはたぶんありますね。

――ミツメはアルバム毎にダブやファンクの要素を強めたりとドープな志向もありますが、花枝さんにもそういう方向性はありますか?

それはないんですよね。『eye』がとにかく好きだったんです。『eye』は聴いたことによって、出口が見つかったって意味ですごい大きいですね。

――それは具体的にどういうポイントでヒントとなったのでしょう?

こういう翻訳の仕方をすればいいんだなって。それまではわからなくて。とりあえず着地したかったんです。そのときにミツメを聴いて、これはとても優れた翻訳の仕方だなと思いました。僕の中にはなかったけど、これはひとつの答えなんだなって。

――チェンバー・ポップ的だった自主盤の『Kinen』や『Carnival』を現在ディスコグラフィーから外してるもの、そのモード・チェンジによるものですか?

それは、あまりアートワークが好きじゃなかったというのもありますけど、でもトイ・ポップの印象がないほうが、新しく聴いてもらう上では良いのかなという気がして。僕の中ではトイ・ポップとかアバン・ポップとかはすんなり聴けるジャンルだったんですけど、一般的にはそうじゃないんだなってことにうすうす気づきだした。室内楽とかけっこう好きなんですけどね。でも、伝わりにくいというか、自分で解釈しきれていない部分がおそらくあったので、聴きやすくするにはどうしたらいいかを考えようと思いました。

――そもそも、トイ・ポップやチェンバー・ポップといった箱庭感のある音楽をソロでやりはじめたきっかけは?

大学の時はバンドをやっていたですけど、単純に人気が出なくて。それこそ下北とかで、全然勝手がわからず毛色の違うライヴハウスでやったり、集客もなくノルマを払ったり。これは頭打ちだなと思って絶望して。そのときにトクマルシューゴさんがトップランナーに出たときの回をYouTubeで見て。ホームセンター行ってモノをバンバン叩いててリズムをとるみたいなのをやってて、これは新しいなと思った。ちゃんと広く認識されているし、こういうのなら自分にもできそうだしやってみたいなって。

位置づけるなら『キャラバン』と『LIFE』の間くらいじゃないかな

―― 一方、今回のアルバムはこれまでのCDR作品より破格にフィジカルなグルーヴ感のあるバンドらしい演奏となっています。それは花枝さんのどんな変化によるものなのでしょう?

ミツメや森は生きているを聴いたとき、それまでずっとトクマルさんを正解だと思ってたんですけど、それ以上に自分と地続きの答えが見つけられた気がしたんですよね。個性がないとダメって気持ちがどうしても強くて、誰も作ってないような音楽を作ろうとしてたんです。でも、あとあと振り返ると、それに無理があったなと思って。なんて暗いんだろうと反省したというか。聴いても満足してるのは自分だけじゃないかと思えて。自分で聴くぶんには平気だけど、でもこれはラジオとかで流せない、車の中とかでみんなで聴けないなって思った時に寂しいと思ったんですよね。だったら、そういう態度を変えればいいじゃないかと思って。最近、小沢健二がすごい好きなんですけど、あれぐらいわかりやすく引用すると清々しいだろうなと思う。でも彼を知る前から、できないことを無理にはやらないと考えるようになったのも大きいですね。それで変な力が抜けたっていうか。たぶん自分のなかには明るいグルーヴ感もあったんですよ。単純に出してなかっただけで。でも、そこをちょっと出そう。出してもいいんだって。

―― 一方でアウトサイダー・アートじゃないですけど、自分だけの志向をとことん突き詰めていくような表現者もいますよね。

いますね。でも、僕は単純に友達がほしかった(笑)。普通の感覚になりたかったんです。自分の世界を追求していたら誰もいなくなっちゃった。最初は笑えたんですけど、どんどん寂しくなってきて。いま、森は生きているの岡田君やTaikoのメンバーと一緒にやってると、楽しいなって気持ちが自然と起こるので。そういう気持ちを目指してたんだろうなって思います。売れたいとかよりも友達がほしいって感じですね。

――さっき小沢健二の名前が出て驚いたんですけど、僕もこのアルバムが小沢健二のファースト(『犬は吠えるがキャラバンは進む』)っぽいなとすごく思ってたので。世界との向き合い方の真摯さとか、その繊細さや青臭さだったりが。

あー、あれはもう少し勇ましい気がしますけどね。むしろ、あのアルバムと『LIFE』の間くらいじゃないかな。『キャラバン』と『LIFE』を聴き比べると、小沢健二はファーストを出したときにギャップを感じたんだって気がすごくします。『CITY COUNTRY CITY』ではファーストの曲もやってるんですけど、演奏してるときの気持ちに差があるように感じる。ファーストはルーツを大事にしてると思うんですけど『LIFE』はもっと真似したよ、引用したよみたいなのをあっけらかんと出してますよね。逆に言うとあんまり引用元への愛情を感じないというか。"間"って言ったのは、僕はルーツも好きだけど、ルーツだけ追ってると自分の技量不足もあって誰も聴かないって気づきもなんとなくあったので、様子を見ながら自分ができることと折衷しました。でも、ふりきれてないのが"間"ってことかな。それがファースト・アルバムっぽくて良い気もします。僕の好きなバンドはファーストが良くなかったりするんで。レディオヘッドとかまさにそうで。好きですけど。

――では、花枝さん自身にとって、この『Never』も好きなファースト・アルバムと並べられる作品となっていますか?

そもそも音楽に関しては人間性が大事だと思ってて、特にソロなんで人間性を感じてほしいなというのはあります。俺はこれだけもがいたんだぞっていうのが伝わってほしいという気持ち。音楽的に捉え過ぎられないものというか。でも歴史を辿ればそういう答えもあるし、別に変じゃないかなというのもあって。振り返ったときに愛せそうだなというか、「がんばったね」って言える感じがしたので。

退路を絶たれたって気持ちはあります

――僕は花枝さんが思っているかもしれないよりずっと、今作を相当良いアルバムだと思ってるんですけど。

ほんとですか!? 僕さっきからこれがいかにダメなアルバムかって言われてる気がしてましたよ。

――えー! 今年の3枚に入りますよ。

今日は落ち込んで帰るなって思ってましたよ…。僕ほんとネガティヴなんで…。

――それは不本意ですね(笑)。原稿で挽回できればと思います。今作の良さは花枝さんのパーソナルな部分がしっかり託されてるからだと思います。たとえば『Never』の歌詞には、いつの間にか意図せぬ場所に来ていた、けれどもすでに帰り道なしといったモチーフが多いように思います。それは花枝さんの現状を反映していますか?

うーん。でも退路を絶たれたって気持ちはあります。自分なりのアンビエント・フォークとかをやっても、誰も聴かないってことがわかったとき、これは外から力を加えて変化させないと人には受け入れられない、ありのままの自分ではダメで違う人間にならないと認められないんだという気持ちになって。でも、その諦め感がでるのも暗いし、なるべく前向きに解釈しようっていうギリギリのラインが今作ですね。けっこう必死です(笑)。

――時代に対する漠然とした不安、世界への違和感が一つ通奏低音となっているような印象もあります。

意識してというより反射的に出てるんだと思います。僕が好きだった時代は終わったんだなというか… 自分の生い立ちがわりと不安定な感じもあるので、うーん、もともとすごく明るい朗らかな性格でもないし、なんでも悲観的に捉えがちってのは、ある気がしますけど。ほんとは明るくないのに明るい曲を作ったので、どうしてもそういう矛盾というか、無理矢理だした明るさゆえの不安というか。

――そこは僕はむしろ逆に捉えてますけどね。ベーシックにあるものは不安ですけど、メロディとかグルーヴで暗くなってない。あくまで明るさの説得力として暗さがあるように感じます。

それは好意的に解釈してくれてますね。嬉しいです。

――今日のお話を伺ってるかぎりでは、次の作品はより振りきったものになるのではと感じました。それこそ『犬は吠えるがキャラバンは進む』から『LIFE』への飛躍みたいに。すでになにがしかのアイデアはあるのでしょうか?

うーん。アイデアはないんですが、ないほうが今は安心してます。ずっとインディへのシンパシーみたいなところから入って作ったんですけど、それがもう終わった。今は小沢健二とSea & Cakeが好きで、両者ともすごい職人というか仕事してる感じがある。たぶん、次作るとすれば仕事って意識が芽生えたものになると思います。インタヴューしてもらったりするなかで自分が外に出たときにどういう人間なのか少しずつわかりつつあるので、それをちゃんと汲み取ってる状態の作品を作れると思います。でも絶対に宅録にはしないと思う。宅録はもう答えが見えちゃったから、それだと今作みたいなのが延々とできるだけ。今まで判断してきた完成って基準も使わない。いいものができるかはわからないですけど、楽しいとは思います。名義も変わってるかもしれない(笑)。今作りたいものがないので、だから逆に、この気分から作りたくなるって相当だと思う。違う自分がなにかを創造してるんだろうなと思います。

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LIVE SCHEDULE

Taiko Super Kicks presents "o m a t s u r i"
2014年10月31日(金)@渋谷TSUTAYA O-NEST
・5Fステージライヴ : Taiko Super Kicks、moools、Lantern Parade(3人編成)、LUCKY TAPES
・6Fバーフロアライヴ : Nohtenkigengo、may.e、punpun(New House)
・ nakayaan(ミツメ)、Matt Lyne(Greeen Linez)
・出店 ココナッツディスク、オマツリフリーマーケット(7A 理科 出演者の皆様)

Booked!
2014年11月1日(土)@TSUTAYA O-Group
w/ moools、PAELLAS、skillkills、Wanna-Gonna、ハリネコ、44°+、my letter、never young beach、NEW HOUSE、NINGEN OK、SuiseiNoboAz、BOYS AGE、lucky old sun、WOZNIAK、YOUR ROMANCE、ぱいぱいぱいチーム(ぱいぱいでか美+来来来チーム+畠山健嗣)

春菊vol.2
2014年11月8日(土)@神戸space eauuu
w/ 白丸たくト、Shin Rizumu、ポニーのヒサミツ

『Never』発売記念ライヴ in 京都
2014年11月28日(金)@京都Live House nano
w/ Taiko Super Kicks and more…

『Never』Release Party
2014年12月4日(木)@渋谷 TSUTAYA O-Nest
w/ Special Guests

PROFILE

Nohtenkigengo

新世代の宅録ポップスの新生、花枝明によるソロ・プロジェクト。これまでに『TOI』『VIDEO』の計2枚のEP作品をリリース。今作『Never』では作詞 / 作曲から、演奏 / 録音までをすべてひとりでこなす。人気インディ・ミュージック・ブログ「Hi-Hi-Whoopee」から派生した、日本のインディ・ミュージックを取り上げるブログ「10,000 TRACK PROFESSIONAL」でインタヴューが掲載されるなど、早くから注目と期待を集めており、トクマルシューゴや森は生きているも賛辞を寄せる。ライヴ時には現在、森は生きているの岡田拓郎(Gt)のほか、Taiko Super Kicksの大堀晃生(Ba)と小林希(Dr)がメンバーとして参加している。

>>Nohtenkigengo Official HP

[レヴュー] Nohtenkigengo

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