2014/10/23 11:05

僕は“音の触媒"なんだよ
――灰野敬二、驚愕の“DJ"ミックス“experimental mixture"第2弾

衝撃的過ぎる内容となった灰野敬二、初のDJミックス音源『In The World』から約1年、灰野敬二によるDJミックス“experimental mixture"第2弾が約1年の時を経てこのたびリリースされる。その名も『The Greatest Hits of The MUSIC』。そのタイトルとともに、そこから生み出されるサウンドは、またもや衝撃を与えることは間違いない。

OTOTOYでは前作に続き、この作品について、灰野敬二にインタヴューを敢行。今回は、先日開催された『オトトイの学校×ミューズ音楽院 presents 灰野敬二の黒の音楽サロン』にも司会として登壇、灰野と長年に渡って深い親交のあるライター、松山晋也を訊き手にお届けする。ふたりの間を流れる、音楽を通した濃密なコミュニケーションの空気感とともに、これまた灰野の希望で、作品同様、前代未聞の原稿と相成った、刮目して読まれたし。


灰野敬二-experimental mixture- / The Greatest Hits of The MUSIC
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV : 単曲 216円(税込) / まとめ購入 1,944円(税込)
mp3 : 単曲 162円(税込) / まとめ購入 1,620円(税込)

【Track List】
01. track1 / 02. track2 / 03. track3 / 04. track4 / 05. track5 / 06. track6 / 07. track7 / 08. track8 / 09. track9 / 10. track10 / 11. track11 / 12. track12 / 13. track13 / 14. track14 / 15. track15 / 16. track16 / 17. track17 / 18. track18 / 19. track19 / 20. track20 / 21. track21

INTERVIEW : 灰野敬二

CDJを用いてのミックス・ワークス3枚組『In The World』がリリースされたのが、昨年暮れ。1年弱を経て、早くも第2弾が登場した。それだけ、『In The World』に対する内外の反応が凄かったわけで、また、灰野敬二自身も確かな手応えを得たのだろう。

今回のアルバム・タイトルは『The Greatest Hits Of The Music』。いきなり、グッとくる題名である。ありとあらゆる音楽を聴いてきた灰野敬二が考える「グレイテスト・ヒッツ」とは、どのようなものなのか。その挑発的文言に、聴く前から胸が高鳴るファンは少なくないはずだ。

取材したのは、10月上旬、灰野の自宅近くのカフェ。オーケストラとの共演ライヴのため、明日はポーランドに飛ばねばならないという忙しい中を縫って、この新作についてじっくりと語ってくれた。

ただし、本文中でも語っているように、登場する固有名詞や音楽用語は、一部伏字になっている。それは、ググッただけでわかったつもりになってほしくないという、若いリスナーに対する灰野の期待と愛情の証である。伏字だらけで読みにくいのは申し訳ないが、各自、努力して調べていただきたい。

では、一緒に、この玉手箱というかビックリ箱のような作品を聴いていこう。

インタヴュー&文 : 松山晋也

俺の作品のタイトルの多くは“捧げる"でしょ。常に自分を捧げているんだよ

――まずは、今回のアルバムのタイトル『The Greatest Hits Of The Music』について。作品のコンセプトにも関わってくると思うけど、このタイトルに込められた意図はどういうものだったんでしょうか。

灰野 : 世の中の親は子供に“みんなと仲良くしましょう"と言っていると思う。でも、誰でも、特定の宗教や国などを意識しなくても、きっと嫌いな部分はあると思う。突然、自分たちとまったく容姿の違う見知らぬ人が横に立ったら、驚いたり拒否反応を示したりするのが普通だとは思う。だからこそ、この世界にはいろんなものがあるんだよと、ランダムに混ぜながら、みんなに知らせたいな、というのが、この作品に込めた僕の基本的な気持ち。特に、小さな子供に聴いてもらいたいんだ。

――これを子供に… (笑)

灰野 : だって、そうでしょう。たとえば、シュルレアリスムとも関係のあったフランスの作家●イモン・●ノーも絵本のような作品を作ったりしたわけでしょう。それに似たような気持ちが、自分の中にもはっきりと出てきたんだと思う。もちろん、大人に対しても、そういう気持ちを諦めたわけではなく、相変わらず持ち続けているけど、その次の世代にも伝えたいという気持ちが強まってきた。音楽はラップやJ-ポップだけじゃないんだよと、

――そういう若い世代というか子供たちをも自分の音楽のリスナーとして意識し始めたのはいつ頃からですか。

灰野 : 僕に限らず、何かを作る人は、できるだけ多くの人を対象にしたいと思っているわけで、年齢も性別も何もかも境界をとっぱらってフラットな状態にしたいと思っている。そういう思いの上で、それをちゃんと実行できるかどうかだよね。僕は自他共に認める音楽好きであり、長年いろんなものを聴いてきて、今でも日々新しい発見ができている。だから、子供たちに向かって、誰々と仲良くしなくちゃいけないよと言うよりも、まず、こんなにも様々な音楽が世界にはあるんだよ、世界は広いんだよと、具体的に聴かせてあげたい。そういう作品は、実は、ありそうでない。実際の音楽の世界はほとんど、誰彼が結託して金をもうける、みたいな話ばかりだけど、これだけ音楽好きな僕――それは誰も否定できないと思うけど、そんな僕が、こういう音楽があるよと言えば、それはある程度の信憑性はあると思うの。金もうけなんかじゃなくて。

今回、若い世代をことさら意識したわけじゃない。自然なこととして、こうなったんだよ。やっていれば、溢れてくる。人には、自然に訪れる時期というものがある。僕が60歳になった時にドキュメンタリー映画『ドキュメント 灰野敬二』を作ったのだって、一つの時期だったわけで。子供たちにとっては、世代的にはお爺さんである僕も、いろんなことを意識せざるをえない時期になった。人は、何か役に立ちたいと思う生き物だしね。これまでは、自分の周りにいる同世代やちょっと下の30~40代を相手にしてきたけど、今それが更に広がったわけ。CDという65分の器の中に様々な音楽を入れて、それがどんどんランダムに飛び出してくる。違う文化、違う思想が飛び出してきて、こんがらかるかもしれない。でもそれは、社会が、ここまではいいよ、ここからはだめだよと線引きしちゃっているからに他ならない。レコード会社やメディア、ライターなど、音楽に関わる者たちの責任だと思うよ。

――人の役に立ちたいという気持ちは、これまでもずっとあったわけですか。

灰野 : 今頃何言ってるんだよ。俺の作品のタイトルの多くは“捧げる"でしょ。常に自分を捧げているんだよ。

俺がミックスやったら、他とは違うものになるだろうなと、証明したい気持ちもあったし

――そもそも、前回ミックス・アルバム第一弾『In The World』は、どういう経緯で作ることになったんですか。

灰野 : 単純な話。違う遊びをしたかったから。遊びというと語弊があるかもしれないけど。本気で遊べば、何かになる。俺がミックスやったら、他とは違うものになるだろうなと、証明したい気持ちもあったし。

――前作を聴いた時、これは灰野さんの演奏と同じだと思ったんです。演奏しているのと同じように、灰野敬二の語法に基づいた灰野敬二だけの世界だと。

灰野 : ありがとう。何やっても、俺は俺だしね。

――肉体を使う演奏とは違うことをやって、灰野さん自身、何か新しい発見はありましたか。

灰野 : これだって、そうとう肉体を使ってるよ。違いは、実際に飛び跳ねてないことだけだよ(笑)。まあ、発見といえば、ミキサーのつまみ次第で、音はどうにでもなるんだということかな。

――それは単に、機械の操作や仕組みを知ったというだけの話じゃないんですか。

灰野 : いや、それがわかると、どうにでもできるというか、それまで聴いたこともなかったような音も作り出せるからね。

――そういう体験、発見が、普段やっている演奏になんらかフィードバックすることはありましたか。

灰野 : うーん、今すぐには思いつかないけど、きっとあるんだと思う。何事かやったら、それは次の栄養にしたいという気持ちはいつも持っているし。

――音を聴くと、今回は、作り方が前回とは違っているように感じるんですが。

灰野 : 数曲、新しい方法でやったからね。でも、それは詳しくは言わない。企業秘密だから(笑)。誰も考えつかなかったようなことをやってるんだから。ヒントとしては…映画『ドキュメント 灰野敬二』を観れば、わかる。照明のシーンにあった乱数表みたいなもの、あれを今回はCDJミックスに生かした。前回は、わりと普通の作 り方だったけど、今回は、その乱数表的なやり方をして、結果、1週間もかかった。でも、今回は完全にはやりきれてない。だから、できれば次も作りたいと思っている。今回、入り口はできた感じかな。

――どの曲で、その方法を使ったのかだけでも教えてくださいよ。

灰野 : ダメ。しっかり聴けばわかるはずだよ。あと、今日は、何の曲を使っているのか、これから説明してゆくけど、文章にする際には、人名や楽器名などの固有名詞は、一部伏せてほしいの。たとえば、頭の一字だけ伏せるとか。今は固有名詞をネットでそのまま検索して、簡単にわかったつもりになっちゃうでしょう。それじゃいけないんだよ。僕たちの時代は、1枚のレコードを本当に苦労しながら探したんだよ。外に置いてある300円コーナーの箱を雨に濡れながらチェックしたりしてさ。

それぐらい嫌いな蚊よりももっと嫌いなものがある。それがファシスト

――では、具体的にいきましょう。一つの曲の中でたくさんの素材が細かくミックスされたりしているので、メインで使っているものだけ説明してください。まず、1曲目ですが、これはプログレなのかな。

灰野 : ベルギーの●ェンバー・ロック。

――●ニヴェル・●ロ、●ス、●クサク・●ブール…

灰野 : 違う、もっと室内楽ぽい連中。ロックぽさはほとんどない。

――●ュルヴェルヌ?

灰野 : そう。彼らの初期の作品3枚を同時にかけながらミックスした音源に、更に●ォーレのたくさんの曲をミックスしている。

――2曲目は強烈ですね。個人的には、特に気に入りました。浪花節も入っている。

灰野 : そう、モロッコの伝統音楽と浪花節だね。

――3曲目はノイズもの?

灰野 : 蚊という存在に関して、なぜこんな生き物が世の中にいるのか、全然わからない。あいつだけは絶対に好きになれない。殺生は嫌いだから、できるだけフッフッと息で吹き飛ばしているんだけど、刺されたら叩く。悪いけど。

――いや、悪くないですよ。で、蚊がどうしたんですか。

灰野 : それぐらい嫌いな蚊よりももっと嫌いなものがある。それがファシスト。この曲は、蚊のブーンと飛ぶ音とイタリアのファシズムの軍楽隊のレコードのミックスなの。ブーンという音はサックスのように聴こえると思うけど、蚊の羽音のCD。

――4曲目。アフリカものでまとめましたね。

灰野 : コンゴ(ザイール)の80年代の●ンガラをベースにして、他にもアフリカの音楽をいろいろ混ぜている。人工的な●ンガラの音と、●ラフォン(木琴)の自然の音を対比させたかった。

――5曲目。近代のクラシックですよね。

灰野 : 近代クラシックの作曲家4人のロールピアノのCDを混ぜたんだけど、コンピューターを使ってランダムに入れ替えているから、誰の何の曲なのか、まったくわからなくなっている。

音楽と聴く人の間に僕が入ることによって、僕のフィルターを通して違う音楽、あらゆるジャンルを包括した新しい音楽が生み出される

――でも、ちゃんとした曲に聴こえたりもするんだけど…

灰野 : それが音楽のマジックなんだよ。結局、なんで僕が自分でDJをやり始めたかと言えば、僕は“音の触媒"なんだよ。音楽と聴く人の間に僕が入ることによって、僕のフィルターを通して違う音楽、あらゆるジャンルを包括した新しい音楽が生み出される。僕が聴き、受け入れた時点で、全部ミックスできてしまう。

――6曲目はファンク・ジャズですね。ちょっと●ェイムズ・●ラッド・●ルマーぽい。

灰野 : なんだけど、使ったのは、白人のファンクばかりなの。ドイツの●ギズマグマとか●ランツ・Kとか。て、最後に中南米の有名な女性ヴォーカルが入っている。

――●ルセデス・●ーサとか●オレータ・●ラとか?

灰野 : いやメキシコの歌手…●ャベーラ・●ルガスか。●リーダ・●ーロの映画『●リーダ』にも出てた人だね。

――7曲目は南洋系ですね。

灰野 : ハワイものが中心になって、バックには別のものもミックスされている。

――台湾のアミ族とかじゃないかと思ったけど。

灰野 : そう、台湾。

――8曲目はジャズのビッグバンド系だけど、ミックスの深度が深すぎてまったくわからなかった。

灰野 : ●タン・●ントンや●ューク・●リントンと一緒にムード・ミュージックとかも入っているしね。

――エレクトロ・ノイズみたいなのも聴こえるし。

灰野 : それは、CDJで回転を変化させながら作った音で、電子音は入ってない。

――9曲目はサイケ・ロック? ●ニエル・●ョンストンみたいな感じですね。

灰野 : オーストラリアの●ド・●レットと呼ばれていたシンガー・ソングライター、●ップ・●ラウドを中心に、クラシックのオケなどを混ぜてある。

――10曲目は現代音楽みたいだけど、スペース・サイケぽい感じもあるし、映画音楽の雰囲気もある。音響のスケール感がすごいですね。

灰野 : これはきっと、ほとんど誰もわからないんじゃないかな。フランスの●ペクトル楽派の作品を中心に、現代音楽のオケ作品を6枚同時に使っている。イタリアの●ャチント・●ェルシとかフィンランドの●グヌス・●ンドベルイとか。

――11曲目はかなりおどろおどろしいというか、モンドですね。頭の部分はどこかの伝統音楽だけど、さっぱりわからない。

灰野 : ●リランカの悪魔払いの音楽と、70年代イタリアの悪魔崇拝主義バンドのミックス。●ラック・●バスなんかよりずっと筋金入りの悪魔崇拝主義だよ。

――●クラ?

灰野 : それ。更に、チェコの●ラスティック・●ープル・オブ・ザ・●ニヴァースの最初期メンバーが結成した無政府主義的なヘヴィ・ロック・バンドの●●307とか、スウェーデンの●ッツ・●スタフソンのバリトン・サックスなども入っている。

――12曲目は中東/アラブのいろんな民族音楽が入り混じってる感じです。

灰野 : うん。イスラム教にはいろんな派があって、お互いに反目しあったりしてるけど、それらの様々なグループの音を一緒に仲良くさせている。

――スンニ派とシーア派とか。

灰野 : そうだね、そういう色々な宗派。

――13曲目は、なんか遊園地の雑踏の音みたいな賑やかさというか。クラシカルな弦の音にラテン音楽も混ざってる。

灰野 : イージー・リスニングのオケものをベースに使ってるの。●ントヴァーニ楽団。●ントヴァーニは膨大な数のヴァイオリンを使って分厚い音を作っていた。カスケイド・サウンドという、まさに滝が流れ落ちるような流麗なサウンド。生楽器でああいうサウンドを作り出すなんて、今では考えられない。ノイズ・ミュージックなんて、全然かなわないような凄さなんだ。僕にはナイフのように聴こえる。

――その迫力は、●ィル・●ペクターのウォール・オブ・サンウドのぶ厚さとは違うわけですね。

灰野 : 全然。あっちはリヴァーブを使って作った音だけど、こっちは生のヴァイオリンだから。

どこで出会って、どうつながってゆくのか、本当にきりがないよね。うれしい悲鳴

――イージー・リスニングものは、昔から聴いてたわけじゃないんでしょう?

灰野 : うん、自分で買ったのはわりと最近。昔は、たまたま入った喫茶店で耳に入ってくるとか、ツアー先のホテルのロビーで小さな音で流れていたりとか、そんなもの。でも、ちゃんと聴くと、新しい発見がある。この歳になっても、新しい出会い、発見はいくらでもある。どこで出会って、どうつながってゆくのか、本当にきりがないよね。うれしい悲鳴。

――14曲目は、6曲目に近いファンキー・ジャズ系ですね。ちょっと黒っぽいけど。

灰野 : 元々は6曲めと一緒に作ったもので、こっちが前半部分だった。

――15曲目は、パンクとプログレとどこかの民謡のミックスかな。

灰野 : 1曲ぐらいはパンクも使おうと思って。70年代アメリカの、電子音も使ったパンク。アコーディオンの曲はチェコの伝統音楽。

――16曲めは、フリー・ジャズと現代音楽と電子音楽。

灰野 : 主に使ったのは、●エール・●ェフェールの弟子の●ランソワ・●イルと●ルバン・●ルクの弦楽四重奏だけど、フリー・ジャズぽいドラムは、僕のリズム・マシーン。僕のドラム・マシーンは、1曲目と3曲目にもちょっと混ぜているし、前作『In The World』ではもっとたくさん使っているよ。

――17曲目は、古い黒人コーラスの雰囲気があるけど、かなりグニャグニャで、仏教のお経のようにも聴こえます。そこにラップも乗っかって。

灰野 : コーラスは、20年代のゴスペル。ラップは、●●●-One。彼のビートは昔から好きなんだ。

――18曲目は、インドネシアを中心にした東南アジアものかな。途中、ちょっと「アレ」も入るけど。

灰野 : 僕としては、これは今回一番うまくいったと思っているひとつ。ラオスの●ーンに、ガムランぽいけどガムランではないジャワの伝統音楽とタイの民謡の女性ヴォーカルをミックスした。

――19曲目は古いビッグバンド・ジャズ。

灰野 : そうだね、主に1920年代のものを使っている。

――20曲目はいろんなジャズ・ヴォーカルが混ざっているけど、古い電球が点いたり消えたりしているような、不気味な明滅感がありますね。つまみでヴォリュームを調節しているのではなく、なんというか…

灰野 : これが、非常に特殊なサウンドの作り方をした曲なの。このやり方で作ったのが、今回3曲ある。『ドキュメント 灰野敬二』終盤の照明の部分を参考にして、どうやって作ったのか考えてほしいよね。

映画『ドキュメント 灰野敬二』予告編
映画『ドキュメント 灰野敬二』予告編

――最後の21曲目は、ヨーロッパの伝統音楽がいろいろ混ざった感じですね。アルメニアの●ゥドゥックの音も聴こえる。

灰野 : 歌は、フィンランドの伝統音楽。最後に出てくる笛の音は、スロヴァキアの●ヤラ。人の身長ぐらいもあるすごくでっかい笛で、指穴が三つしかなくて、倍音が出せる。僕も持ってるんだ。

仲良くするってことの意味を問い直したいよね

――というわけで、全部で21曲。この曲数は、21世紀に合わせたんですか。

灰野 : いや、特にそういう意識はなかったんだけど、自然とそうなった(笑)。

――平均して3分程度の短い曲ばかりですが、それも自然と?

灰野 : そう、自然と。僕の場合はいつもそうだけど、やりたいようにやって、こうなっちゃいました、ということばかり。理由や理屈じゃない。好きなものは好き、嫌いなのは嫌い。それだけ。子供に、なんでニンジン嫌いなの? って問いただしても、最後は泣いて終わりでしょう。それと同じだよ。

――灰野さんも、子供ってことなんですか(笑)。

灰野 : 自分で子供って言うと、ちょっと誤解が生まれちゃうけど(笑)…ある意味、そういう面はあるだろうね。子供しか、こんなことやんないでしょう。子供というよりも、無邪気ってことかな。

――使った音源は、極めて珍しいもの、希少なものが多いけど、一方で、イージー・リスニングもある。灰野さんと●ントヴァーニなんて、想像もしませんでした。

灰野 : そう。リスナーにとってだけでなく僕にとっても温故知新的な作品になっていると思うけど、僕にとっては、イージー・リスニングがまさに温故知新なわけで。とにかく、もう一度言うけど、仲良くするってことの意味を問い直したいよね。なんだか怖い人でも、初めて見る時と2度目3度目の時では怖さが違うじゃない。紹介しないのは罪だと思う.

――世界の広さは無限だし。

灰野 : うん、きりがない。だからこそ僕は、世の中にはこんな音楽がまだまだたくさんあるんだよということを知らしめたい。それこそがDJの役割だと思う。踊って楽しませるためのDJも大事だけど。だから、僕の場合は、昔のラジオのディスクジョッキー的なDJだよね。

――実は、この作品を初めて聴いた時に、僕もそんなことを感じたんです。南スペインのタリファという街から放送される架空のラジオというコンセプトのラジオ・タリファというバンドがいたけど、これはまさに、宇宙の彼方から聴こえてくるラジオ灰野だなと。

灰野 : 僕がラジオをやったら、絶対にリスナーを飽きさせない自信があるよ。やってみたいよね。

灰野敬二-experimental mixture-による過去作はこちら

灰野敬二-experimental mixture- / in the world

40年以上(2013年時)に渡って日本の現代音楽、またはその前衛的傾向を主導してきた音楽家"灰野敬二"がDJとして活動するexperimental mixtureの初作品。あらゆる音楽ジャンルに民族音楽もミクスチャーされ、体感した事のない境地へと誘うサウンド・トリップ。全世界注目の最狂ミックス。

>>『in the world』特集&インタヴューはこちら

※上記作品は、「in the world -in your ears-」「in the world -in your minds-」「in the world -in your spirits-」3作をまとめたバージョンとなります。1作ずつのご購入は下記URLへ。
>>「in the world -in your ears-」
>>「 in the world -in your minds-」
>>「 in the world -in your spirits-」

PROFILE

灰野敬二

1970年代より活動を続け、常に新たなスタイルを探し続け、日本の現代音楽において前衛的傾向を主導してきた野心的な音楽家。

1971年に日本初のインプロヴィゼーションバンド「ロストアラーフ」を 結成し、本格的な音楽活動を開始。以降、現在に至るまで、ロックをベースに、ノイズ、サイケデリック、フリー / ジャズ、民族音楽など、ジャンルを自在に横断しながら、アンダーグラウンドミュージック界を牽引。挑戦的で実験的な作品群は、日本のみならず海外での評価も高く、現在もヨーロッパを中心に海外公演を頻繁に行っている。リリースしたレコードは優に100を超え、ソニックユースのサーストン・ムーアをはじめ、彼を信奉するミュージシャンは世界的にも数多い。

>>灰野敬二 Official HP

[レヴュー] 灰野敬二-experimental mixture-

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