ボサノヴァ、ジャズ、日本的美意識が交差する——ブラジリアン・ギターの新鋭、露木達也が初ソロ作を高音質で一挙配信

露木達也

マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンでジャズに目覚め、パット・メセニーによってブラジル音楽の世界にいざなわれたギター青年。現在は数々のユニットでボサノヴァやフラメンコを演奏、ソロ・ライヴも多くこなす新進気鋭のギタリスト。そんな露木達也が、初のソロ作『agora』をリリースした。しかも、ハイレゾ(DSD含む)で。

ジョビン、ジルベルト、ヴェローゾといった南米音楽の古典たちに敬意を払いながらも、日本人ゆえの間や美意識を大切にしているという露木。スタンダードからオリジナルまで、これまでの音楽的バックグラウンドを濃厚に反映する13曲は、単なるボサノヴァの枠には収まらない独創性を秘めている。ギター、ヴォーカル、パーカッションというミニマルな編成から紡ぎ出される、そのハートフルかつ繊細なギターと柔らかい歌声は、高音質で楽しむのにもってこいだ。詳細なレヴューとともにお楽しみください。


ブラジリアン・ギターの新鋭、露木達也が初ソロ作を高音質で一挙配信!!

露木達也 / agora



【配信形態】
[左] 5.6MHz dsd + mp3
[中左] 2.8MHz dsd + mp3
[中右] ALAC / FLAC / WAV (24bit/192kHz)
[右] ALAC / FLAC / WAV (24bit/96kHz)

【価格】
2,469円(税込)(まとめ購入のみ)

【収録曲】
01. Tucano
02. Este Seu Olhar
03. Triste
04. Luz Solar
05. Corcovado
06. Samambaia
07. Quando Te Vi
08. Seras Verdad
09. Nefertiti
10. Saudade fez um Samba - Voce e Eu
11. Lua no Mar 〜海の月〜
12. Estate
13. Se Todos Fossem Iguais a Voce


露木達也 / Lua no Mar 〜海の月〜


「完成度の高いブラジリアン・サウンド」の上に加味される"非ブラジル的"な要素

ガット・ギターを抱えた青年が写る涼しげなジャケット。ポルトガル語で"今"を表す「agora」というタイトル。そこから想像されるのは、"爽やかなボサノヴァ・アルバム"だろうか。それは必ずしも間違いではない。しかし、この露木達也のデビュー作は、「良質なブラジリアン・アルバム」にとどまらず、さまざまなバックグラウンドが反映された、極めて個性的な作品に仕上がっている。

『agora』のジャケット

多くのギター少年と同じように、ロックに憧れエレキ・ギターを手にした露木は、ほどなくジャズ・フュージョンの洗礼を受け、パット・メセニーが彼のアイドルとなる。すなわち当初はもっぱら、エレキ・ギターのテクニックとサウンドを追求していた。それを裏付けるように、アルバム1曲目、キャッチーなメロディのオリジナル曲「Tucano」では、軽やかなスキャットとユニゾンで奏でられるエレキ・ギターの透明感溢れる音色、流れるようなアドリブ・ソロが印象的だ。もちろん、バッキングの軽快なボサノヴァ・ギターも露木によるもの。メセニーの影響でブラジリアン・ジャズへと興味を拡げた露木は、トニーニョ・オルタやホメロ・ルバンボ、さらにコアなブラジル音楽にも傾倒し、アコースティック・ギターによるショーロやサンバの演奏にどっぷりハマった時期もあったという。こうして獲得された、エレキ・ギターとアコースティック・ギター、あるいはフラット・ピッキングとフィンガー・ピッキングの双方を自在に操る能力は、ギタリストとしての露木の際立った特長だ。


露木達也 / Tucano

加えて、「声」も大きな魅力だろう。楽曲に彩りを添えるスキャットのみならず、ボサノヴァの弾き語りにおいても、露木は非凡な才能を発揮している。もちろんブラジル人のように流暢なポルトガル語で歌えるわけではない。しかしたとえば、カエターノ・ヴェローゾが英語で歌った「A Foreign Sound」のように、ある種の"たどたどしさ"から生じる違和感を、エキゾチックな味わいとして肯定的に捉えているのだという。必ずしも"巧さ"を感じさせるわけではないのだが、どこか惹きつけられるところがあるヴォーカルだ。

すなわち自身による「声とギター」だけで1つの強固な世界を確立している。これが露木のミュージシャンとしての最大の強みだ。そこに加わるゲスト・ミュージシャンも、必要最小限ながら、これ以上ないほど強力で、理想的な布陣と言える。まず、前述の「Tucano」を含む4曲に参加しているのが、言わずと知れたブラジリアン・パーカッションの第一人者、石川智。長らく日本のブラジル音楽シーンの第一線で活躍している石川だが、露木の実力を高く買い、自身をリーダーとするライヴにも抜擢している。ギターと一体となったグルーヴは実に爽快だ。そしてもう1人は、名ギタリスト小畑和彦。親子ほども年齢差のある小畑とデュオで演奏されたのが、「Samambaia」と「Estate」。ギター・ファンにとって、たまらない演奏だろう。前者は作曲者セザール・カマルゴ・マリアーノとホメロ・ルバンボによる名演が知られており、小畑も自身のライヴやアルバムで取り上げているが、今回のヴァージョンも聴き応えたっぷり。後者はゆったりとしたリズムの中で、互いに触発されつつ展開していく様が心地良い。高度なテクニックを持つ2人のギターがガッチリ噛み合い、嬉々として演奏する姿が目に浮かぶようだ。

2曲目の「Este Seu Olhar」では唯一、ピアニストとして橋本一子が参加しているのだが、これがまた、その音が聴こえた瞬間にゾクっとするような、"静かな鋭さ"のある名演。"ブラジリアン・ピアニスト"ではないが故の異質感も効果的だ。露木とは録音時のスタジオが初対面で、ファースト・テイクでOKだったという。いきなりこんな演奏をしてしまう橋本にも驚かされるが、初共演の緊張感が良い方向に作用した好例だろう。ラストの余韻までが美しい。

橋本の参加が象徴するように、このアルバムをとりわけ魅力的なものにしているのは、「完成度の高いブラジリアン・サウンド」の上に加味される"非ブラジル的"な要素だ。ナイロン弦を弾く際のタッチのしなやかさも一聴して印象的だったけれど、クラシック・ギターに熱中しレッスンを受けていた時期もあったとのこと。そのクラシック・ギターの師として、アリエル・アッセルボーンの名前が挙がっていたのは嬉しい驚きだった。ブエノスアイレス出身の優れたシンガー & ギタリストであり作曲家でもあるアッセルボーンは、かつて東京に在住し、日本国内でライヴ活動を繰り広げると共に、2枚の傑作アルバムをリリースした。その作品や演奏から感じられるアルゼンチン音楽の豊饒なエッセンスが、露木にもしっかり受け継がれていると考えれば腑に落ちる。キケ・シネシの「Seras Verdad」を取り上げたのも彼の影響だという。シネシ本人の演奏が素晴らしいだけに安易に手を出しづらい曲だが、後半に挿入された、E-BOWを用いた幻想的なエレキ・ギター(本作のプロデューサーでもある加藤みちあきによる)が、とてつもなく美しい旋律を、さらに引き立たせている。

一方、ジャズからの影響は、ウェイン・ショーターの「ネフェルティティ」を選曲したことからも明らかだが、これをボサノヴァ風にアレンジしたのが面白いところ。オリジナルのテイストを尊重しつつ、「重たくしたくなかった」という。その狙いは見事に的中したと言っていいだろう。異彩を放ちつつ、アルバムの中に自然に溶け込んでいる。またインストのオリジナル曲「Luz Solar」はヨーロピアン・ジャズを思わせる3拍子の作品。露木によれば、「古いヨーロッパの香りがする、ピアノトリオのイメージ」なのだという。ECMに代表されるヨーロッパ系ジャズにも深い愛着を示す露木の感性がよく表れた作品だ。

アルバムを締め括る「Se Todos Fossem Iguais a Voce」のソロ演奏についても、言及しておかずにはいられない。アコースティック・ギター・ソロはギタリストを丸裸にする。ブラジリアン・バラードの名曲だが、情緒に流され過ぎず、グルーヴはキープしながら、しっかりと歌う。限りなくシンプルでありながら、何ら足りないものは感じさせない。そして訪れる静寂。

すべての音が美しく研ぎ澄まされたこの作品は、誰しもハイレゾの高音質で、繰り返し聴いてみたくなるはずだ。

(text by 徳永伸一郎)

DSDってなんだろう?

DSDとは?
Direct Stream Digitalの頭文字を取ってDSD。CDや一般的な配信音源とはまったく異なる方式によって記録された、高音質フォーマットの通称です。デジタル音源における最高音質と言われることもあり、アナログ・レコードのように滑らかな質感と、デジタルならではの透明度をあわせ持っています。

どうやって聴くの?
DSDの音源データは、iTunesやWindows Media Playerでは再生できない特殊な形式です。そのため、再生には対応するプレイヤー・ソフトが必要になります。また、DSDの実力が最大限に発揮されると言われる「ネイティヴ再生」には、USB DACなどの専用機器が必要です。

ハイレゾってなんだろう?

ハイレゾとは?
High-Resolution(=高解像度)の略称が“ハイレゾ”。一般的なCDの規格である16bit/44.1kHzを超える情報量を持つ音源(例:24bit/48kHz、24bit/96kHz)をこう呼びます。文字通り、高い解像度を誇る音源であり、音の波形をより滑らかにデジタル化しています。

どうやって聴くの?
最近話題のハイレゾ、実はiTunesやWindows Media Playerでも再生できるんです。ただ、ちょっと設定が必要だったりするので、詳しくは以下の「再生ガイド」を参照してみてください。

>>簡単ハイレゾ再生ガイド

RECOMMEND

小野リサ / CATUPIRY

1989年にリリースされた小野リサの1stアルバム。1曲目の「CATUPIRY」を筆頭に、ブラジル特有の弾けるようなリズムが散りばめられており、それが小野リサの溌剌とした歌声と絶妙に絡み合う。一方、フルートをフィーチャーした4曲目の「SACI PERERÊ」など、ゆったりとしたテンポと気だるげな歌声が印象的なナンバーも多い。ボサノヴァやブラジル音楽の紹介者としてその功績を評価される彼女の、全編ポルトガル詞による記念碑的作品。

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小野リサ / NaNa

『CATUPIRY』の翌年にリリースされた小野リサの2ndアルバム。前作で見せたエネルギー溢れるリズムは影をひそめ、どちらかと言えば落ち着いた印象を与える1作。本人が「のんびりとリオの空の下で作りました」と語るように、リラックスした雰囲気が全編に漂っており、それがなんとも心地良い。また、小野リサの日本人離れした表現力にもさらに磨きがかかり、7曲目の「LITORAL DE SOL」といった哀愁漂うナンバーを見事に歌いこなしている点にも注目したい。

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Goro Ito / POSTLUDIUM

ジャズ〜クラシック〜ブラジル音楽など、ジャンルを越境したサウンドを奏でる伊藤ゴロー。類い稀なハーモニーへの犀利な感覚により、その透徹した世界を深化させた3rdソロ・アルバムが本作だ。丈青、秋田ゴールドマン(SOIL&"PIMP"SESSIONS)、鳥越啓介、千住宗臣などの卓越したミュージシャンとともに、インプロヴィゼーションの閃光と緻密なコンポジションを展開する。

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OTOTOYで買えるブラジリアン・ミュージック

LIVE INFORMATION

〈BOSSA AOYAMA〉
2014年10月24日(金)、25日(土)、26日(日) @外苑前 原宿教会 ほか複数会場

〈露木達也ソロ・ライヴ "Bossa Nova" Acoustic LIVE〉
2014年11月11日(火) @福岡 cafe galleria

〈露木達也 agoraリリース・ライヴ〉
2014年12月3日(水) @渋谷 サラヴァ東京
チケット : http://agora.peatix.com/

PROFILE

露木達也
湘南出身のギタリスト / シンガー。幼少期から父親の影響を受けてジャズに興味を持ち、学生時代にギターを始めてロックやジャズを演奏するが、海沿い育ちが故にブラジルの都市リオの音楽であるボサノヴァに自然とのめり込んでいく。現在はボサノヴァやブラジリアン・ミュージックをメインのフィールドとしながら、複数のユニットでジャズ、ポップス、フラメンコなどさまざまなジャンルのミュージシャンとセッション重ね、ソロ・ライヴでは弾き語りを中心に、ボサノヴァ・スタンダード・ナンバーやオリジナル曲をプレイ、繊細でハートフルなギターと柔らかいヴォイスで幅広いオーディエンスを魅了する。2014年7月、初のソロ・アルバム『agora』をリリース。

>>露木達也 Official WebSite
>>露木達也 Official Facebook

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レヴュー

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