2014/07/25 18:44

ダブステップとポップによるメルティング・ポットーー突如現れたエレクトロ・ユニット、The Acid待望のフル・アルバム

今年、突如として『The Acid EP』を発表し、コアなリスナー・シーンを騒がせたユニット、The Acid。謎に満ちた彼らがついにファースト・アルバム『Liminal』とその音楽性をあらわにした。それぞれのフィールドでDJ、プロデューサーなどとして活躍する3人が集まった理由は1つ、“多様性に溢れたジャンルレスな音をつくる”ということだ。しかも今作は、alt-JやThe Temper Trapなど、現行のロック・サウンドとエレクトロニクスによるハイブリッドな音を輩出してきたイギリスの先鋭レーベル〈Infectious〉からのリリース。今レビューでメンバーそれぞれの活動と、3人が紡ぎだしたある種の“ミクスチャー・サウンド”の魅力に触れるきっかけになれば幸いだ。

The Acid / Liminal
【配信形態】
まとめ購入 alac / flac / wav / mp3 : 1,543円
単曲購入 alac / flac / wav / mp3 : 205円

【Track List】
01. Animal / 02. Veda / 03. Creeper / 04. Fame / 05. Ra / 06. Tumbling Lights / 07. Ghosts / 08. Basic Instinct / 09. Red / 10. Clean / 11. Feed

モノクロームから浮かび上がる彩り溢れるサウンド・スケープ

ミニマルな色彩の上をたゆたういくつかの残像、“感知できるか否かの境目”を意味する、今タイトル『Liminal』。表面的な意味で、情報量が少ない(モノクロームな)抽象美に溢れているユニット、The Acidのファースト・アルバムは、驚くほどカラフルな内容である。むしろ音楽的に多様な面を持ち合わせるがゆえに一括り出来ない、“ある意味の”抽象美とでも言えようか。とにかく漠然とした魅力をまず最初に感じずにいられないであろう。

The Acidを構成する3人のメンバーは、活動拠点はもちろんシーンとしてもそれぞれのフィールドで活躍する、文字通り三者三様の活動を行うプロデューサー達である。まず1人はスティーヴ・ナレパ。アメリカ出身の彼は、主に音楽テクノロジーの教授であり、はたまた世界中のありとあらゆるミュージシャンが使用しているDAW〈Ableton Live〉の設計を手がけるなど、実にアカデミックな活動を行っている。2人目はイギリスを拠点として活動するプロデューサーである、アダム・フリーランド。彼の有名なプロデュース・ワークといえば、やはり希代のジャズ・シンガー、サラ・ヴォーンの「Fever」の大胆なリミックスであろう。

Sarah Vaughan - Fever (Adam Freeland remix)
Sarah Vaughan - Fever (Adam Freeland remix)

グラミー賞にノミネートされた本作は、妖艶なボサノヴァ・チューンを疾走感溢れるハンマー・ビートと原曲とがクロス・フェードを繰り返す大胆なアレンジ。これは彼の“いかなるプロジェクトにも最高のプロダクションを用い、周囲の偏見を打ち砕く音楽を作る”というポリシーをストレートに体現していると言えよう。最後は、今プロジェクトでもヴォーカルをつとめる、ライ・X。ボン・イヴォールを彷彿とさせる美しいファルセットが印象的な彼は、オーストラリアでSSWとして活動をスタートし、今はテクノやハウスのミュージシャンと積極的にコラボレーション。最近ではSONYのCM中歌のヴォーカルに抜擢されるなど、シーンを選ばない活動を行っている。説明が長くなってしまったが、The Acidは、頭1つ以上抜きん出まくった才人によるユニットであることをここに記しておきたい。

先にも記した通り、本作はイメージ以上に、ありとあらゆる音楽的要素に溢れている。しかし、ただ3者の感性が詰めこまれたという印象はまったくない。彼らの音楽は、厳粛な規律のもとに生み出されているような緊張感が隅々までに張りつめており、それは音のレイヤーからもひしひしと伝わってくる。「Animal」のチル・アウト感漂うヴォーカル・リヴァーブの合間から突如現れる地響きのようなウァブル・ベース。フォークトロニカに突如としてインダストリアル・サウンドが畳み込んでくる「Basic Instinct」など、3人の厳格な音へのトータル・プロデュースがなければ説得力の帯びない作品になっている。また他の曲群もダブ・ステップを基調に、テクノ、ポップスを自在に行き来しつつも洗練されたものばかりだ。

今作は悪い意味での高尚な部分はまったく無い。ここにあるのは彼らによる純粋なサウンド・プロダクションの“結果”だけだ。肩の力を抜いて、3者が生み出した、鮮度の高い音にただ身を委ねていただきたいと思うばかりだ。(text by 浜公氣)

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Matthewdavid / In My World

フライング・ロータス主宰のレーベル〈BRAINFEEDER〉に所属するMatthewdavidによる3年ぶりのニュー・アルバム。独自の多国籍サイケデリアでジュークなどの現行ダンス・ミュージックを包み込んだサウンドは、新たな進化の道を示唆しているようである。

>>Matthewdavidを掲載した連載、More Beats + Pieces Vol.2はこちら

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デジタルとアナログを融合させた無二のサウンドでシーンに衝撃を与え続けてきたクリスチャン・フェネスの、2008年『Black Sea』以来となる5年ぶりのオリジナル・アルバム! 前作のダーク・アンビエント、ドローン色は薄まり、自身の名作『Endless Summer』を彷彿とさせる、インダストリアルとエレクトロニカの狭間を絶妙に進む好盤が生まれた。

PROFILE

The Acid
グラミー賞ノミネート・プロデューサー / DJ、アダム・フリーランド、LAを拠点に活動するオーストラリア人アーティストのライ・X、カリフォルニアでプロデューサーやコンポーザーとしても活躍するスティーヴ・ナレパの3人によって結成したスーパー・ユニット。

>>The Acid Official HP

この記事の筆者

[レヴュー] The Acid

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