2014/06/13 19:47

ぶっきらぼうな飄々ブルース——三輪二郎、渾身の3rdアルバムには沢田穣治や大森靖子が参加

「『ジョンの魂』レヴェルのアルバムができた」。アーティスト本人がそう自信を覗かせる、三輪二郎の3rdアルバム『III』が届けられた。多くのシンガーたちを唸らせた1st、豊田道倫が惚れ込んでプロデュースを買って出た2ndに続く、渾身の3作目だ。今作は沢田穣治をプロデューサーに迎え、自身の新たなバンド、三輪二郎 & マザー・コンプレックス(三輪二郎、沢田穣治、マルコス・フェルナンデス)を従えた作品。さらには録音、ミックス、マスタリングを中村宗一郎が手掛け、大森靖子とのデュエット曲も収録されるなど、豪華メンツの参加が目を引くアルバムとなった。どこか投げやりでぶっきらぼうながら、人の心を掴んで離さないその飄々としたブルースは、じっくりと何度も味わいながら楽しみたい。これまでほとんど語られることのなかった三輪のバックボーンを中心に、1stアルバム発表までを追ったインタヴュー、そして新作のレヴューとともにお届けしよう。


三輪二郎 / III
【配信形式 / 価格】
alac / flac / wav / mp3 : 2,313円 (税込、単曲は各257円)

【収録曲】
01. デンス・ミュージック
02. サマーツアー夏バテ
03. 宿直明けのララバイ
04. 君とチャイ
05. すけろくさん
06. ソルティドッグブルース
07. ダブルファンタジー
08. シーサイドライン
09. ビターモーニングブルー

三輪二郎 duet with 大森靖子 / ダブル・ファンタジー
三輪二郎 duet with 大森靖子 / ダブル・ファンタジー

INTERVIEW : 三輪二郎

インタヴュー : DIW金野

三輪二郎を育てた音楽の原体験とは?

——三輪さんの音楽の原体験から教えてください。

三輪二郎(以下、三輪) : 次男なんで、兄貴の部屋からさ、いろんな音楽が聞こえてきてね。親父もギター持ってたしね、70年代フォーク・ソング・ブームの上の世代、歌声喫茶とかの。クラシックばかり聴いてて、家族みんな音楽好きで。フォークはあの頃は流行りの音楽だからね、大嫌いで、あんな暗いの。でも五つの赤い風船だけは好きで。

五つの赤い風船 / 遠い空の彼方に
五つの赤い風船 / 遠い空の彼方に

——あれは変だからね。

三輪 : そう、親父はそれをギターで弾いてたり。兄貴の部屋からはビートルズやサザン(オールスターズ)とか。

——80年代のころ?

三輪 : 小学校6年生ですね。兄貴はおにゃんこクラブも聴いてた。安全地帯も。で、音楽っていいなって。ギター弾き出したのは家にあったからですね。

——お父さんに教えてもらったの?

三輪 : そう、もう夢中になっちゃって。1日でね、「禁じられた遊び」ができたの、不器用なおれが。成績も悪いし絵も下手だし。でもギターは無茶苦茶ハマって。1日でできるようになったのが我ながらすごいなと思った。

——そのころ世間はBOOWYとか?

三輪 : まわりはみんな聴いてたけど、おれはダメだった。その頃だと長渕(剛)かな。生ギターを弾いて、チャートに入ってたのはそれくらいだし。長渕の全曲集とか買ってきてね。コード譜、歌本ですね。(中学生の頃は)陸上やっててキャプテンだったから、ギターやってるなんて言えないじゃない。だから家帰って一生懸命ひとりで歌ってたんですよ。

——もうCDの時代だっけ?

三輪 : レコードからCDになる頃ですね。でもラジカセしかなくて、カセットを買ってました。BOOWYじゃなくてストリート・スライダーズね。

——いきなり。

三輪 : あと、ジッタリンジンとか。高校が横須賀のミッション・スクールだったけど、とにかくまわりはニルヴァーナでしたね。ネルシャツで髪の長い感じの。あれがダメで、おれ。その頃の友達の影響で一気に古いサイケデリック・ロックとかにいっちゃったんです、ジミヘンとかね。

——一気にCD化されて買いやすくなった頃だね。

三輪 : 流行の音楽と古いのが、ニルヴァーナとクリームとヴァニラ・ファッジが同じように並ぶわけです。かえって焦点が絞りにくかった。でもいま思うと、スライダーズ好きだったのはブルースっぽいからだったと思う。それがストーンズの影響だとか知らないけど、予備知識がないのに意識しないで何か嗅ぎ分けてた。

——身体で感じてたわけだ。

三輪 : たぶん。高校生なのに戦前ブルースも買ってた。そうそう、大事なの忘れてた。小学校のときに憂歌団が好きになった。TVKによく出てたから。原体験のひとつです。(内田)勘太郎のギターがとにかくカッコよかった。何だこれは? って。

——自分の歌を作るようになったのは?

三輪 : それはもうまだまだ先の話で。高校のときはバンド組みたかったんですよ、ロック・バンド。でも楽器できるやつはみんなアイアン・メイデンやディープ・パープルで、髪の毛が長くてサラサラなワケ。モテる連中ね。おれは天然パーマだったからギター上手かったけど入れてもらえなかったんですよ。

——見た目で。

三輪 : だからバンドはやらなかったです。生ギター1本で、デパートで弾き語りやったりはしました。

——デパート?

三輪 : 横須賀のショッパーズ・プラザ。

——あ、ダイエーね。

三輪 : そこにステージがあって歌えるんですよ。デモテープ送って、そこでビートルズやエリック・クラプトンとかコピーして英語で歌ってたんですよ。それが初ステージで、高校2年のとき。ボブ・ディランもやったけど有名な曲じゃなくて、ディランがカヴァーしたブルース。『セルフ・ポートレイート』に入っているやつ。マセた高校生だったと思います。

——ずっとひとりで?

三輪 : いや、ギター部に入ってて、そこには3人いて彼らの影響も大きかった。そのひとりが高橋伸幸ってジャズ・ギター弾いてる。urbってバンドで有名になった。彼がすごくギター上手くてずいぶん教えてもらいました。で、20歳で大学入ってから、そこで髪の毛伸ばしてベルボトムはいて。その頃はちょうどサニーデイ(・サービス)とかゆらゆら(帝国)とか。

——95、6年。はっぴえんど再評価の頃か。

三輪 : でも、ジャックスや村八分は高校の頃から買って聴いてた。はちみつぱいも。URCものもほとんどガツガツ買ってた。で、大学の頃はそれを体現しようとしてたかな。でもなぜかカントリー・ジョー & フィッシュのコピー・バンド始めたんだけど。

バンド結成、そしてデビューまでの道のり

——それはすごいね。カントリー・ジョーは誰も再評価しなかったよね。田舎五郎と魚(中川五郎)か、ちょっとURC繋がり。

三輪 : まったくウケなかったけどね。このバンドで学園祭とか出たんだけど、まわりがジュディ & マリーやイエロー・モンキー演ってる中で、オレンジ色ヒッピーズってバンドで村八分の「水たまり」をカヴァーしたり。まだオリジナルを作るって感じじゃなかったな。好き勝手にやってましたよ。何の反応もなかったけど。

——へえ

三輪 : 曽我部(恵一)さんが語るバックボーンがおれとまったく同じなのが口惜しくてね。もちろんサニーデイ大好きになったけど。この頃からライヴ・ハウス出たくなったんです。オリジナル作って世に出たいと思って。そしたら、卒業間近にボロっと1曲できた。

——24歳の頃?。

三輪 : うん。24、5かな。下北沢の「アーチスト」って店と、高田馬場の「ジェリージェフ」に歌わせてください、ってカセット持っていきました。いま思えば「アーチスト」には前野(健太)くんやアナログフィッシュの佐々木くんも出てたらしい。数年後、無力無善寺で会ったときそれがわかったんだけど。

——2002年か2003年くらい?

三輪 : だったかな。「ジェリージェフ」に出れたのは大きかった。

——ベテランの人が出るところだよね。

三輪 : そこで南正人さんや渡辺勝さんが歌ってるのを目の当たりにして、それがショックだったんですよ。あとは野沢享司さんとかね。すごいカッコよくて。で、前座やらせてください、って店の人にお願いしました。

——渋いデビューだね。

三輪 : そこでオリジナルとブルースのカヴァーやってたときに、あだち(麗三郎)くんが早稲田の学生でよく見にきてくれたんです。それと並行して無善寺でやってましたね。この頃、おれや前野くんの弾き語りのイヴェントを企画してくれたのが亀尾くんっていう、ウクレレで詩の朗読とかやってる人でね。この人がこの頃の重要なキーマンだった。前野くんはそのとき初めて知り合ったけど、モヒカンでテレキャスでディレイ使って。あとは内海感涙(ウチウミカンナ)っていう、年上だったけどすごくいい歌書く人がいたな。どうしてるんだろう。

——「歌もの」ブームもあったかな。

三輪 : 『SO FAR SONGS』?(※) あれは正直すごく影響された。

※ラブクライ、渚にて、フリーボ、山本精一 with RASHINBANなどが参加したコンピレーション・アルバム。

——2000年だね。おれはこのときディストリビューターで働いてて、オズ・ディスクの田口さん(現・円盤)っていう人と、そのキャンペーンをやったんだよ。

三輪 : 町田の普通のレコード店で買いましたよ。大学が町田だから。そんな町のレコード屋にいいものが普通にいっぱいありましたよ。ずいぶん買った。

——レーベルとディストリビューター、そして売場の店員、それぞれに目利きがいて、ふるいに掛けるわけだから、いいものが店に並んでたね。今じゃそういうのないけど。

三輪 : 羅針盤、フリーボ、ラブクライでしょ。どれも不思議な歌だった。気持ちのいい日本語で浮遊感があって。自分のブルースのスタイルにコンプレックス持ちましたもん。フリーボはコピーしたな。それがおしゃれに見えたんですよ。それでおれもやらなきゃって。くるりは同い年だけど盛んに宣伝されてたから、前野くんとどうしたらCD出せるんだろう、って悶々としてました。

——その頃に佐藤正訓くん(「都会の迷子さん」などのイヴェントを企画した)と知り合ったの?

三輪 : その前に、TOKYOHELLOZっておしゃれな連中が僕らのこと好きになってくれて、六本木の安いDJとかいるようなクラブに前野やおれを呼んでくれて。今まで見たこともない女がさ、キャーとかピーとかいてさ、そこでフォーク然としたおれたちが弾き語りやるんだけど、それが意外とウケたんだよね。彼らのイヴェントに呼ばれるようになって、ちょっと陽のあたるところに行けたのはうれしかった。

——その頃、自分のバンド(三輪二郎といまから山のぼり)を組んだの?

三輪 : うん。あだちくんと吉田(悠樹)くん、轟渚とかと。吉田くんは前野くんとバンドやってた。

——もう自分の歌はできてたの?

三輪 : そうですね。ライヴ1回できるくらいは。その頃は二子玉川に住み込みで働いていて、多摩川の河原で歌って曲ができはじめました。

——それでようやく1stアルバム『おはようおやすみ』がリリースされることになると。レコ発で初めてこのバンド(三輪二郎といまから山のぼり)を見たんだけど、あだちさんのドラム、歌ってるようなドラムにまず感動したな。

三輪 : 歌を包み込んでくれる。マッサージされてるようなね。本当に歌いやすいから。

——最後に、『おはようおやすみ』は、ミックス以降を新作にも参加した中村宗一郎さんにお願いしたんだよね。

三輪 : そう。あれはよかったです。1stは本当にいいアルバムですよ。


DIW金野による新作『III』のレヴュー

「三輪二郎といまから山のぼり」(あだち麗三郎、吉田悠樹、轟渚)名義の1stアルバム『おはようおやすみ』(2008年)、弾き語りの2ndアルバム『レモンサワー』(2010年)から4年、待望の3rdアルバムは、2012年に結成された三輪二郎 & マザーコンプレックス(沢田穣治、マルコス・フェルナンデス)で作られた。ゲスト・プレーヤー(向島ゆり子、大熊ワタル、mmm、大森靖子) の配置や各曲のアレンジなど、まずはプロデューサー沢田穣治(ショーロクラブほか)の力が目を引く。さらには、こんなに優れたものはないだろうと思われる等身大の歌詞が、彼の歌に乗って南米の幻想譚のような大きな物語を感じさせてくれる。また大森靖子や前野健太との共演で好評だった三輪のギターのひとつひとつの音色が本作のハイライトでもある。(text by DIW金野)

RECOMMEND

大森靖子 / 魔法が使えないなら死にたい

ポップでキュートなのにヒリヒリする。カラフルなのにどこかくすんで見える。喜怒哀楽をぶつけるライヴ・パフォーマンスも話題の大森靖子、待望の1stアルバム。ときに優しく包み込み、ときに冷たく引き離す。そんな彼女の魔法にかかってしまうこと間違いなしの1枚だ。

前野健太 / ハッピーランチ

歌謡エッセンス満載の名曲たちと、流行り歌の最前線へいざ勝負。遡ること1965年、時代を代表する名作『Bringing It All Back Home』、『Highway 61 Revisited』を矢継ぎ早にリリースしたボブ・ディラン。それから半世紀、時代が、街が、前野健太に歌を作らせたのか。濃密な時間を共にしたバンド、ソープランダーズ(ジム・オルーク、石橋英子、須藤俊明、山本達久)が全面参加した1枚。

豊田道倫 / FUCKIN' GREAT VIEW (24bit/96kHz)

大きな話題となった前作『m t v』から1年足らず、豊田道倫がリリースした最新作。アルバムに名づけられた「FUCKIN' GREAT VIEW」を訳せば、「マジでいい眺め」といったところか。数々のシンガーに影響を与えながら、フォーク・ソングの最前線を切り拓いてきた彼にだからこそ見える景色があるのだ。このアルバムを通して、その景色の一片だけでも共有していただきたい。

>>特集ページはこちら

曽我部恵一 / まぶしい

前作『超越的漫画』から4ヶ月でリリースされた曽我部恵一の2014年作。バンド、弾き語り、アカペラ、ラップ、そしてポエトリー…。かつてないほど幅広いアプローチにより、「歌うこととは何か」、「表現することととは何か」に向き合った意欲作。これまでになくダークな楽曲が並ぶが、その中にも滲み出る優しさや寂しさは、曽我部恵一にしか表現できない感情に違いない。全23曲、計67分という超大作。

LIVE INFORMATION

〈三輪二郎と柴田聡子のWレコ発!! 横浜つーまん弾き語りコンサート!!〉
2014年6月14日(土) @横浜 黄金町試聴室
開場 / 開演 : 18:30 / 19:00
料金 : 前売 1,500円 / 当日 2,000円 (ドリンク代別)
出演 : 三輪二郎 / 柴田聡子

〈佐野隆企画「オンザドーロ第7回」〉
2014年6月15日(日) @初台 WALL
料金 : 1,500円 (ドリンク代別)
出演 : 佐野隆 / 秘密ロッカー / 三輪二郎 / 人工楽園 / NIGERUNA

〈NEWアルバム「?」発売記念インストアLIVE まず豊橋、京都、難波に行くさ〉
2014年6月21日(土) @愛知 グロスレコード イオン豊橋南店
料金 : 無料
出演 : 三輪二郎

PROFILE

三輪二郎

1976年、横浜で生まれる。素朴でユーモア溢れる歌声と、ブルージーかつ浮遊感漂うギターは、多くの人々を魅了。2008年、ドラムにあだち麗三郎、ベースに轟渚、二胡の吉田悠樹らと漂泊のフォーク・ロック・バンド「三輪二郎といまから山のぼり」を結成し、アルバム『おはようおやすみ』でデビュー。同年、寿町フリー・コンサートで解散。その後も地を這うようにソロ活動を続行する。


新作『III』に続き7インチが発売決定!!
【収録曲】
01. すけろくさん
02. おかたづけブギー

『III』の制作最終日、ひとりだけのスタジオで不意にできてしまったダンス・フロア仕様の「すけろくさん」German Suplex Mix!!! B面には、アルバム収録を見送られた「おかたづけブルース」を再録したナンバーを収録。最強のカップリング。

>>三輪二郎 OFFICIAL HP

[インタヴュー] 三輪二郎

TOP