2014/06/07 15:00

インダストリアルと高いラップ・スキルが生み出すハイブリッド––LAヒップホップ期待の新人、clipping.の意欲作!

メタル・パーカッション、フィードバック、ドローンなどのインダストリアル要素をごちゃまぜたトラックと、畳み掛けるように高速でスキルの高いラップを吐き出すLAのヒップホップ・トリオ、clipping.のセカンド・アルバム『CLPPNG』がこのたびリリース。まだ日本では名が知られていない彼らであるが、自身のウェブサイトで限定販売された1stアルバム『Midcity』が大きく評価され、5ヶ月もたたないうちに老舗SUB POPとの契約にこぎつけ、Rolling Stone誌にて「2014年最も注目すべき新人10組」にも選ばれるなど、注目せずにはいられないグループなのだ。カニエ・ウェストの『Yeezus』やデス・グリップスが記憶に新しいなか彼らの吐き出す音像を聴かずにはいられない! いち早く体感していただきたい。

clipping. / CLPPNG
【配信フォーマット / 価格】
alac / flac / wav : 1,800円(単曲は各200円)
mp3 : 1,599円(単曲は各150円)
【Track List】
01. Intro
02. Body & Blood
03. Work Work (Feat. Cocc Pistol Cree)
04. Summertime (Feat. King T)
05. Taking Off
06. Tonight (Feat. Gangsta Boo) 
07. Dream
08. Get Up (Feat. Mariel Jacoda)
09. Or Die (Feat. Guce)
10. Inside Out
11. Story 2
12. Dominoes
13. Ends
14. Williams Mix (Feat. Tom Erbe) 
15. Brian (featuring Brian Chippendale)
16. God Given Tongue (featuring Bryan Lewis Saunders)

“生温いインダストリアル・サウンド”ではまったくない

彼らから生み出される音にはハッとさせてくれる要素が数多く存在する。粒立ちが良過ぎるが、技術の高さだけが表に出ない適度な熱量がこもったフロウ、フィジカル感が押し付けがましくなく伝わってくるノイズ・サウンド、レンジの広い音色の数々など様々だが、なによりも魅力的なのは、当たり前ではあるが3人が合わさって生まれる総合力と楽曲を構成するアイデアの面白さであろう。

clipping.はラッパーのDaveed DiggsとプロデューサーのJonathan Snipes、William Hutsonという3人で編成されており、元々はSnipesとHutsonがギャングスタ・ラップのアカペラに独自のビートを足していくリミックス・プロジェクトとしてスタート。後にHutsonと小学校時代からの幼馴染であったDiggsが加入し今に至る。またメンバーのソロ活動も、Snipesは映画音楽、Hutsonはノイズ・ミュージシャンと今作の音の面白さを納得させるような色の強い活動である。

今作はまず、サイン波に極めて近いフィードバック音の上をひたすらに高速のラップが駆け抜ける「Intro」からスタートする。構成としてこれでもかというほどのプリミティブさに聴く人はのっけからドキドキせずにいられないであろう。リズムをコラージュしたかのようなトラックとリズムを自在に操るフロウが混ざり合う「Taking Off」、淡々としたビートの反復からリズム・チェンジとともに爆発的なダイナミクスを放つ「Story 2 」など生演奏さながらなフィジカル感を放つ楽曲群は聴く人に退屈をまったく感じさせない。下のライブ映像からもそれがびしびし伝わってくるであろう。

ここまで今作の内容にさらっと触れてきたが、やはり最後に記しておきたいのは、彼らの音は“生温いインダストリアル・サウンド”ではまったくないということだ。本人たちの「Bomb SquadやDr.Dreといったヒップホップのパイオニアたちがミュージック・コンクレートの手法やインダストリアルなサウンド・スケープをメインストリームの音楽にひっそりと取り入れたのと同じ道をリスペクトしつつ辿っている」という発言からもそれが察せられる。カニエ・ウェストの『Yeezus』やブリアル『Rival Dealer』などインダストリアル要素を全編に盛り込んだ素晴らしいクラブ・ミュージックが去年から数多くリリースされているが、それらの傑作とまったく引け劣らない内容と芯のしっかり通ったプロダクションが詰まっている。なおかつ新人という“フレッシュさ”があるなんて、もう聴かずにはいられない存在であろう。(text by 浜公氣)

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PROFILE

clipping.
ラッパーのDaveed Diggs、プロデューサーのJonathan SnipesとWilliam HutsonのLAを拠点とするヒップホップ・トリオ。2009年結成。2013年デビュー・アルバム『Midcity』を自身のウェブサイト限定で発売。たちまち大きな評判を呼び、発売から5ヶ月も経たないうちにSUB POPと契約。

clipping. OFFICIAL HP

この記事の筆者

[レヴュー] clipping.

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