2014/02/18 00:00

『ポラロイド』で映し出された7枚の”被写体X”。未知の可能性を秘める期待のピアノ・ポップ・トリオ

フレンチポップを思わせる美しいウィスパー・ヴォイス。軽やかなピアノに、ベース、ドラムのアグレッシヴな演奏が光るピアノ・ポップ・トリオ、被写体Xのファースト・ミニ・アルバム『ポラロイド』がリリースされた。

ベースの坪田至史が、《ジブリ好き→「時計塔の上から」、惡の花好き→「≠」、星新一好き→「ショート・ショート」》と自身のTwitterで行った曲紹介に思わず納得。曲によっては大きく印象を変えるのだ。それはまさしく”被写体X”の名にふさわしい。まだまだ未知の一面を秘めているだろう彼女たちが最初に届けてくれた7曲を、まずは楽しんでほしい。

被写体X / ポラロイド

【配信価格】
mp3 単曲 150円 / アルバム購入 1,000円

【Track List】
01. 時計塔の上から / 02. ブルーライン / 03. ≠ / 04. 非暴力コミュニケーション / 05. ナースコール / 06. メリーさん / 07. ショート・ショート

想像を超えるほど表現力を叩き込んだアルバム『ポラロイド』

ピアノは厳か。ピアノのパブリック•イメージを端的に表せば、こうなるだろう。しかしロックというジャンルにおいて、ピアノは様々なアプローチをもって扱われてきた。例えばプログレッシヴ・ロックではめまぐるしい運指で埋め尽くすことで、よりテクニカルなイメージを増幅させ、ポップス寄りの楽曲であれば、感傷的でナチュラルな印象を与える際に一役買っている。ピアノを織り込むことで楽曲の表現はグンと広がるが、意外にも、インディ・シーンにおいて、ピアノを大々的にプッシュするバンドは少ない。同じ鍵盤系でも、音色を自在に変えることの出来るシンセ、キーボードはバンド・サウンドに馴染みやすいが、ピアノとなるとそうはいかない。またピアノ奏者がメンバーに編成されていても、バンド・サウンドとの織り込みに苦労している様子がうかがえる。技巧的になり、結果スケールが肥大して敷居も高めてしまうケースがよく見られるからだ。ピアノは手法としてはポピュラーになりつつあるが、今なお試行錯誤が続けられている状況なのだろう。

そんななか、とんでもない新人が登場した。ピアノ・ポップを公言する「被写体X」のことである。ドラム、ベース、そしてピアノ&ヴォーカルのスリー・ピース。ギターはいないが、それだけにピアノの重要度の高さがうかがえる編成だ。その予測に答える、いや、その想像を超えるほど表現力を叩き込んだアルバムが今作『ポラロイド』である。ここで挙げる表現力とは、楽曲アプローチの幅広さを指す。収録曲はこれが同じアーティストとは思えないほどの彩りであり、彼らの高いアレンジ力が垣間見える。変拍子でたたみ込みまくる曲もあれば、矢野顕子を思わせるような柔らかいポップスも飛び出す。そしてどの曲にも共通して、手触りの残る緊張感が漂っている。緊張感は心地よさを増幅するスパイスとして、効果的に作用していく。コシのあるリズム隊のドライヴと絡み、中毒性は抜群だ。

ハイスキルな側面を多く感じさせるものの、まろやかなヴォーカル・スタイルやポップス感覚も相まって、敷居の高さは皆無。テクニカルとポピュラー、相反する2つを繊細なバランスで保ちつつ、どちらを求めても、十分に楽しめるだけのポテンシャルを秘めている。シーンやジャンルを特定できない、年代性を飛び越した構築。それは新しい世代が踏み込むべき道筋を、端的に象徴しているようだ。高品質なポップ・ソングでありつつ、ロック・スタイルに新たな間口をこじ開けた注目作が『ポラロイド』である。(text by 高橋拓也)

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LIVE INFO

シャッターチャンス~被写体Xワンマンショー~

2014年3月8日(土) @下北沢GARAGE
OPEN / START : 18:30 / 19:00
料金 : 前売り 2,000円 当日券 2,500円 (ドリンク別)
入場者限定特典有り
~第一部~「NO PHOTO」
~第二部~「ポラロイド」
~第三部~ シャッターチャンス

PROFILE

被写体X

2010年に佐藤菓子(Vo、Pf)、坪田至史(Ba、Cho)を中心に都内で結成。いくつかのメンバー・チェンジを経てドラムにドバ(Dr、Cho)が加入、現在の編成となる。

その美しいメロディーやヴォーカル佐藤のウィスパー・ヴォイスもさることながら、バック隊のアグレッシヴな演奏、その緻密なまでに練り上げられた世界観にライヴハウス界隈や多くの業界関係者に絶賛される。

>>被写体X Official HP

この記事の筆者
高橋 拓也 (もり)

泡沫大学生。ナゴム好きをこじらせ、現在80's NEW WAVE(おもにドイツ周辺)を掘削視聴中。

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