2014/02/08 00:00

演奏、声、歌詞、そのいびつな関係が、心を酔わす

最初に聴いときは裏切られたものの、2度目にはすでにそれが癖になっている。よじれるようなギターリフ、音階を自由に動くベースライン、淡々としたリズムを刻むドラムサウンド。この3者が個々に独立しながらも、奇妙に絡み合い、ハーモニーとも呼べぬハーモニーを繰り広げていく。対照的に、ボーカルの間の抜けた歌い方は、とても「普通」で「自然」な若者の声である。この世の日常の一部を、奇妙でテクニカルな演奏に乗せ、思いのまま自由に語ってゆく。そしてそのなかにある、奇声と沈黙―。どこにでもいそうな若者のふりして、狂気もちらつかせてくる。何が皮肉で、何が本音なのかわからせてくれない。演奏、声、歌詞、そのいびつな関係が、心を酔わす作品である。

1970年代後半から80年代前半ニュー・ヨークで起きたノー・ウェーブを想起させるが、彼らはすべてを受け入れたかのような脱力感である。ゆらゆら帝国のような異彩を放っているが、彼らの世界は異次元ではない。確実にこちら側の、ある意味「俗」な内容だ。本アルバム『スキルアップ』は、前衛的でソリッドな、それでいて商業主義も上下関係も受け入れたかのような、現世の若者の「音楽」である。(Text by 田中清鈴)

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[レヴュー] トリプルファイヤー

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