2014/02/08 00:00

過去の音楽という、恐ろしく魅力的な大蛇に飲み込まれてしまわないこと

目にも鮮やかなピンクを大胆に配した本作のアートワークで、いまにも人間を飲み込もうとする大蛇。それは、偉大過ぎる先達が残した音楽遺産が時おり後輩たちに見せる獰猛な姿のメタファーなのではないだろうか。ゆらゆら帝国、あるいはその影から楽しげに顔をのぞかせるロック・レジェンドたち――特にUS東海岸のクールでニヒルなロックンローラー… ジェームス・チャンス、アラン・ベガ、あるいは人によってはデヴィッド・バーンやトム・ヴァーレインの面影をも彼らの中に見出すかも知れない――への敬意と共感をバンド一体で抱えているだろうと思わせる、乾き切ったロック・サウンドに、しかし、決して安直になってたまるか、という意地とユーモアが通った声と言葉でライドする。現在の東京のインディ・シーンで見ても、あるいはロック史的に見ても、絶妙に“浮いた”バンドとして、トリプルファイアーはそこにいる。あるいは、本作に収録された「ちゃんとしないと死ぬ」の“ドラッグをやるやつはクズ”という歌詞に象徴されるように、彼らの音楽には、過去の音楽への憧憬とはうらはらの、古典的なロックンロール観への批判があり、そのねじれこそが新世代らしいテイストを生んでいる、と言えるだろう。そこはかとなく空気の通った友情を感じさせる、適度に密なバンド・アンサンブルも良い。

過去の音楽という、恐ろしく魅力的な大蛇。それに目もくれずに逃げ出してしまっては、いまの時代、おそらくは何者にもなれないだろう。しかし、もっと重要なことは、つかず離れずの距離を保ちながらも、それに決して飲み込まれてしまわないことの方なのだ。間違いなく。この時代に意味ある“音楽”を続けて行こうと思うのなら。そんな筋金入りのメッセージを、なんだか脱力したイラストで示している。いわく「ちゃんとしないと死ぬ」ぞ、と。クレバーだ。そしてそれ以上に、大マジだ。それなのに彼らときたら、決して笑いも忘れないのだから… サイコーとしか言えない。(Text by 佐藤優太)

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[レヴュー] トリプルファイヤー

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