2013/06/12 00:00

大根仁さん


あなたは世を見渡しています。

2ヶ月ほど前、深夜上映の『恋の渦』を観たのですが、なんというか、あんな変な空気の漂うシアターは初めてでした。

観客の「ひいいい」とか「がははは」とか、そういう客席全体の反応がぴたりと合っていて、観客全員の共通の友人の生活を覗き見て、笑っているような。そういうユニゾン感でした。

長いホームパーティーのシーンがこちらに写されていた。

予告編を観たときは、「ああ、ドキュメンタリーらしく仕立てたフィクションだけど、どっちつかずになってそうな」と鷹をくくっていました。

ただ、ピンクのそっけないタイトルと、その間ずっと鳴っていた単調なキックとタンバリンの、「ドン、ドドン、タン! 」という音が他人行儀だったのが気にかかって、観ました。

感想は… 悲惨。

リアルすぎるキャラクターの描きわけに、唸り声や悲鳴があがる。
『モテキ』なんてマイルドなものだ。
でもそもそも、『モテキ』とは観客と登場人物の取り合わせが違う。

『モテキ』を観る人々と登場人物は似た人種だったので、自分を見ている痛々しさが増して「カップルで観に行かない方が良い」映画だという感想をよく聞いた。

一方で『恋の渦』は、シネマ☆インパクトの企画を観に来るはずがない層の人種をモデルにしている。終電の山手線で至近距離になった、伸びた金髪や、つけまつげの剥がれかけたメイク、彼らの声高に話される恋愛や友だちや仕事の話。

盗み聞きした相談話の向こうの情景を見せられたときの、「ああ… そっか」という苦い気持ち。
苦いのに、アドレナリンが出るのを感じた。

複数の男女の物語はいろんな思いが交錯する。
心情を描こうとする映画や特にドラマはすごく多い。
『狂った果実』のジリジリ・セクシー路線とか、『白線流し』の切ない青春路線とか。

でも『恋の渦』は極端に他人行儀で、舞台の転換のたびに「ドン、ドドン、タン! 」と入るので、もうその音が最後は狂って聞こえて怖かった。

大根さんは観客のことをこんな風に思っている。
パンツとゴシップが大好き。「元カノがさぁ…」と苦い過去を話すのはもっと好き。

きーーーっ! 『恋の渦』は苦い幸福を楽しむ下世話な心を暴いてしまった。
そう、私たちはこの小さな列島で、祖先代々ゴシップを愛してきた。
ニュースは大きいものよりも、身近で痛々しいもののほうがおいしく感じる。
お洒落で悟ったフリしていたって、所詮それくらいの可愛い生き物なんだ。

と考えたところで、大根さんはその頂点に立っていることになる。
この国にはいろんな人種がいることを、テレビの世界には出入りしない人種のことを、どうしてこんなに知っているのか。

終電の山手線で接する彼らの欠片から、どうしてここまでの詳細な動きをあぶり出せるのだろう。

「そんな観察眼で見られるのはご免だ! 」と思うので、大根さんと一生面と向かって話すことはないかもしれない…。

そうそう、だけど上映後に大根さんがいらっしゃったので、迷った挙げ句、緊張しながらデモCDを渡しました。覚えてくれてないと思うけど。
やっぱり怖い目だったので、萎縮してほとんどなにも話せませんでした…。

… ラヴレターじゃなくなってしまった。
人間が見えすぎている大根さんがとにかく怖くて仕方ないです。

コムアイ
Twitter : @KOM_I

TOP