2013/05/02 00:00

LIVE REPORT SEBASTIAN X presents『TOKYO春告ジャンボリー2013』

photo by 釘野孝宏

びっくりした。SEBASTIAN X主催のイベント〈TOKYO春告ジャンボリー〉は、主催2年目にして、はやくも上野の春の風物詩になったんじゃないだろうか。都会のど真ん中にいることを忘れ、音楽をかこいながら笑って、飲んで、踊って、楽しめる。そんな親密な雰囲気にあふれるイベントだった。しかもそれを、イベンターではない、一つのバンドがきっかけとなって作ってしまったのだ。これは来年以降も絶対に続けてほしい。そんな希望も込めながら、2013年の〈TOKYO春告ジャンボリー〉を振り返ってみよう。

少し汗ばむくらいの暖かさの4月29日午後、上野駅の改札を通り抜けると、街はたくさんの人で活気づいていた。GWもはじまるということもあり、どこか浮ついている。人ごみをかき分けて、会場を目指していると、お好み焼きなどの出店、ゲートボールをするお年寄り、ジャグリングをする大道芸者、など景色が次々と移り変わっていく。それを楽しみながら、少し長めの道のりを進んでいくと、大きな池の先に上野水上野外音楽堂が見えてきた。

photo by 釘野孝宏

会場に近づくと、長蛇の列ができており、この日を楽しみにしている人たちの多さに圧倒された。入場しようとすると、SEBASTIAN Xのベーシスト、飯田裕に出会う。「おつかれさまでーす!」と笑顔を見せたと思ったら、忙しそうにすぐに別の場所に移動してしまった。〈TOKYO春告ジャンボリー〉は、SEBASTIAN X自らがスタッフをつとめている。慌ただしくも、活発に動き回っている姿からは、イベントによせる熱や想いを感じることができ、これから始まるお祭りが楽しみになってきた。

会場を見渡すと、1年前に比べて、明らかにお客さんが入っており、開演前からビール缶で祝杯をあげている人たちの姿もちらほら見える。昨年も来場し、この日の楽しみ方を知っている人たちも多いのだろう。毎年、お客さんが帰ってこれる場所があることは、とても素敵なことだ。僕も去年と同じ場所に立っているだけで、なぜだかとても感慨深い気持ちになった。

photo by 木村泰之

取材ということもあり、今年はお酒を我慢しながら席について、いまかいまかと開演を待っていると、「間もなく開演いたします」というアナウンスが。そして、どこからともなくSEBASTIAN Xのボーカル・永原真夏の声が響いた。ふと後ろを見て見ると、白い着物に身を包んだ永原の姿が。そして、ちあきなおみの「喝采」とともに、2013年の春告ジャンボリーは幕をあけた。同じくSEBASTIAN Xのキーボード、工藤歩里との2人ユニット、音沙汰がトップ・バッターをつとめていく。植木等の「スーダラ節」で、お客さんと一緒に〈すーすーすーだらだっだすらすらすいすいすい~♪〉と歌ったり、会場の雰囲気をやわらかくする演出に、のっけから大合唱。見事なオープニングを披露した。

photo by 釘野孝宏

続いて、登場したのは、BLACK BOTTOM BRASS BAND(以下、BBBB)。ニューオーリンズ・スタイルのブラス・バンドだ。彼らもまた、客席後方から登場し、客席の間を練り歩き、お客さんを盛り上げていく。お客さんのなかには、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、音楽にあわせて踊っている人も。すでにお祭り感全開だ。ゆっくり時間をかけてステージに辿り着いたBBBB。ステージ上でもお客さんを楽しませようというサービス精神は尽きない。「わっしょい」という言葉で、コール&レスポンスをし、会場一体で楽しみながら演奏を終了した。

photo by 釘野孝宏

それとは対照的に「おはよう」「おはよう」と手を振って登場したのが、女性シンガー・ソングライターの平賀さち枝だった。それが彼女のコミュニケーションの取り方なのだろう。大きな舞台だからといっても自分のスタイルを崩さない。BBBBのビッグバンドのあとの弾き語りというギャップがまた、彼女の演奏をピリっと引き立てていく。「こんな春だけど、失恋した人のうたをうたいます」「ハイキングにくるような感じできました」というMCからは、大勢いる目の前の一人一人に対して歌うような親密さを感じることができた。歌い終わると、ささっと去っていく姿もまた、彼女らしかった。

photo by 釘野孝宏

さて、今年のMVPをあげるなら、僕は迷うことなく、oono yuuki(acoustic ensemble)をあげる。取材ということを忘れ(覚えていたけど)、僕はちゃっかりお酒の缶をあけた。こんなに気持ちのいい気候のなかで、音楽への愛であふれる7人ののびのびとした演奏をきいて、誰が我慢していられよう。僕なりのささやかな祝福の気持ちだ。アンダートーンズの「teenage kicks」のカヴァーや、カントリーやブルースが垣間見える曲を、フルートやピアニカ、ユーフォニウムなどの楽器とともに、緩急をつけて奏でる。ステージ脇には、スタンディングで体を揺らして踊っている人たちが30人以上みうけられる。その姿を見ながら、見えないように足でリズムを刻み、酔っていることがわからないように、心のなかで陽気に踊らせてもらった。いやあ、本当に気持ちいい。

photo by 釘野孝宏

そして、続いて登場したのは、活動休止状態から復活をとげた、踊ってばかりの国。谷山竜志を新ベーシストに迎え、東京では初めてとなるライヴに、会場は息をのんで復活の第一声を待つ。そんななか、リハーサルの流れで、いつのまにか演奏をはじめた踊ってばかりの国。しれっと活動休止を発表し、半年で戻ってきた彼ららしい。なによりも、その演奏は鬼気迫るものだった。とくに新曲として披露された「踊ってはいけない国」は、〈君だって僕だってひとを救える音楽さ〉といったフレーズで、風営法問題に対してステートメントをうたう。そして「セシウム・ブルース」では、震災以降の問題にブルース調で力強く自身のメッセージをさけぶ。表現者とはこういう人のことなのだ、と思わされる見事なステージだった。

photo by 釘野孝宏

続いて、毎年恒例の出演者、笹口騒音をフロントマンにしたバンド、うみのてが登場した。多くのお客さんたちがステージ前方に集まり、曲にのせて、はねたり手をあげたりして盛り上がる。昨年はベロベロに酔っぱらっていたこともあり、今年は禁酒していたようだが、相変わらずヒリヒリとしたうたをうたう笹口。それを増長させるかのように、激しく演奏するバンド・メンバー。「僕たちうみのてが来たからには、上野はもう平和ではない!」と叫び、「もはや平和ではない」を始めたときの盛り上がりはこの日一番だったのではないだろうか。最後に日本酒を口に含みは、ステージ前の池(?)に吐き出し、なんとも笹口らしいというか、お祭りだから許されるようなアホらしさに、こらえきれず笑わせてもらった。

photo by 釘野孝宏

イベントも終盤。アコースティック・ステージのトリをつとめるのは、男性シンガー・ソングライター、曽我部恵一。「お客さんとして来ようと思っていたので、すごく嬉しいです。娘が好きでずっとセバスチャンを聴いているんです」と語り、演奏する曽我部の姿は、暮れかけている夕日のなかでキラキラ輝いていた。「きみの愛だけがぼくの♥をこわす」をうたいながら、客席に降りてお客さんとともにうたう姿は、ジャンボリーならではの特別なラヴ&ピースな雰囲気があった。「テレフォン・ラブ」や「魔法のバスに乗って」など代表曲を惜しげもなく披露し、「春の嵐」で、ハッピーな雰囲気の中で演奏を終えた。

photo by 木村泰之

最後は本日の主宰者、SEBASTIAN Xが登場。他の出演者が演奏しているとき、誰よりも率先して、つねにメンバーの誰かがステージを盛り上げていた。春告ジャンボリーへを行動で盛り上げようとしていた4人が演奏するのだ。このステージが盛り上がらないわけがない。「サディスティック・カシオペア」から始まった彼女たちのライヴは、ほとんどのお客さんが自然と立ち上がり、彼女たちの演奏に身体を使ってこたえる。「このステージで歌うために作った曲です」というセリフとともに演奏された「ヒバリオペラ」では、「東風(とんぷぅ)」「ウォー・アイ・ニー」「火の車」「ストロベリー」のコール&レスポンスが。会場が大きな輪でつながり、キレイな花が咲いたような瞬間だった。

photo by 木村泰之

アンコールでは、アコースティック・ステージに永原が登場。8月にニュー・アルバムをリリースすること、そして吉祥寺WARPでのワンマンから、リキッドルームでのワンマンを含むツアーを発表、お客さんが大きく湧いた。そして新曲を披露、「GO BACK TO THE MONSTER」を演奏し、アンコールは幕を閉じた。もちろん、これだけじゃ終わらない。ダブル・アンコール。最後の最後に演奏されたのは、「ツアー・スターピープル」。本日最後の楽曲に大きな声援と手をふってこたえるなか、最後は、メンバーとお客さん全員がジャンプをして幕を閉じた。飯田は、ステージ前の水のなかに飛び込み、メンバーもお客さんもすべてをやり尽くしたといった、妥協のないステージだった。

photo by 木村泰之

駆け足ではあったけれど、2回目となる〈TOKYO春告ジャンボリー〉を振り返ってみた。ショーケースとも自主企画とも違う、新しい息吹を感じることのできる一日だった。各々にお酒を飲んだり、ひなたぼっこをしたり、風の音を聞いたり、とにかく自由な空間が素晴らしかった。音楽を消費物としてでなく、表現として素直に感じとれることができる場。そこがこのジャンボリーが何より優れているところだと思う。それは、セバスチャンXの活動の積み重ねと、協力してくれる友人や仲間がいてこその結果に違いない。このイベントを、3年、4年、10年と続けていけばいくほど、もっとよい場になっていくことだろう。毎年戻ってこれる場として、アーティストもお客さんも大切な空間がここにはある。セバスチャンXが蒔いた種が、来年はどんな花を咲かせるのか。今年行った人も行けなかった人も、来年の〈TOKYO春告ジャンボリー〉を楽しみに待とう。同時代の東京に、このような場ができたことに心より嬉しく思う。(text by 西澤裕郎)

SEBASTIAN X presents『TOKYO春告ジャンボリー2013』

2013年4月29日(月・祝)@上野水上野外音楽堂

出演 : SEBASTIAN X / 踊ってばかりの国 / うみのて / 曽我部恵一 / BLACK BOTTOM BRASS BAND / oono yuuki(acousic ensemble) / 平賀さち枝 / 音沙汰(from SEBASTIAN X)

PROFILE

SEBASTIAN X

永原真夏 VOCAL
飯田裕 BASS
沖山良太 DRUMS
工藤歩里 KEYBOARD

2008年2月結成の男女4人組。2009年11月6日に初の全国流通盤となる『ワンダフル・ワールド』をリリース。その後も2010年8月に2nd Mini Album『僕らのファンタジー』、2011年10月、1st Full Album『FUTURES』、2012年7月、 3rd Mini Album『ひなぎくと怪獣』とコンスタントにリリースを続ける。2010年からは年に一度、春の野外イベントや 完全生音ライブを開催。新世代的な独特の切り口と文学性が魅力のVo.永原真夏の歌詞と、ギターレスとは思えないどこか懐かしいけど新しい楽曲の世界観が話題に。インパクト大のパフォーマンスとキャッチーなキャラクターも相俟って、シーンでも一際目立ちまくっている存在になっている。そして、2013年4月に初のシングル『ヒバリオペラ』をリリースする。

>>SEBASTIAN X Official HP

LIVE SCHEDULE

SEBASTIAN X ワンマン・ライヴ
2013年8月24日(土)@吉祥寺 Warp
17:30開場 / 18:30開演

ワンマン・ツアー
2013年10月26日(土)@福岡 Graf
2013年11月9日(土)@仙台 PARK SQUARE
2013年11月16日(土)@名古屋 APOLLO THEATER
2013年11月17日(日)@大阪 梅田Shangri-La
2013年11月22日(金)@東京 恵比寿LIQUIDROOM(ツアー・ファイナル)

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