2012/08/24 00:00

Cojok INTERVIEW

筆者は東京から関西に移り住んで早4年が過ぎた。移住当初に感じていた「コッテリとした空気感」は次第に薄れていき、東京との差もあまり感じなくなってしまった。その「空気感」とは、東京で暮らしているうちに造られているものだということもわかってきた。たとえば「関西人は面白い」「関西人は納豆が嫌い」というもの。実際には(失礼だけど)面白くない人、というよりお笑いに興味ない人もいるし、スーパーで納豆を買っている人もよく見かける。

関西にもポスト・ロック・バンドはいるし、エレクトロニカ・アーティストが多くいるのだ、そして音楽的な人たちが豊富である。ということを言いたくて、前置きを書いている。今回、取材したのは「Aco-tronica アコトロニカ」を掲げる"Cojok(コジョ)"。現実世界ではない、空想の地に描かれた音楽は、畏怖するようなものだけど、同時に神秘的な美しさを合わせ持つ。映画化も決定したアニメ『魔法少女まどかマギカ』を見たことがあるなら、ぜひ聞いて欲しいと筆者は思う(Cojokのメンバーはまどマギを見たことがないと言っていたのも面白い)。リンクする部分が少なからずあると感じたし、まどマギでCojokの曲が流れていたら絶対にハマるだろうなと考える。

Cojokはサウンド&レコーディング・マガジン主催による企画「Premium Studio Live vol.6」に参加し、DSDライブ音源をOTOTOYで配信中だが、この度、2ndアルバム『OLIVEA』もDSDでのリリースが決定した。一見、近寄り難い音楽に聞こえるかもしれないが、実は人を選ばず、そして聞き手によってCojokの音楽が持つ意味は自在に変化する。Kco(Voice & Acoustic guitar)と阿瀬さとし(Guitars & Electronics)の、作品とDSDやレコーディングについての話を通して、Cojokの世界観に触れて欲しい。

インタビュー&文 : 山田 慎(sweet music
取材写真 : 松本 亮太

Cojok / OLIVEA(DSD+mp3 Ver.)

1. Baroqua / 2. Chilling Sun / 3. Purelie / 4. The Piper / 5. Desana / 6. Lemon Drops / 7. Lagoon / 8. Ewlias

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「命」が「愛」に守られて育っていく

――2ndアルバム『OLIVEA』についての話からお伺いします。まず、タイトルについて教えてください。

Kco : 作品には「生きもの達」という言葉の「LIVE」と「愛」という単語の「LOVE」を合わせて『OLIVEA』というタイトルを付けました。何でかというと、1stアルバム『CRYSTAFIR』は「産声」という意味の「A First Cry」を入れ替えて作った造語なんですね。その産声を上げた生命が地に産まれ落ちて、呼吸を自分で始めて、初めて生きるということに直面するということをテーマにしたのが1stアルバムです。その生まれ落ちた生命が、次にすることは大地で立ち上がって一歩踏み出すことです。そして生命を育む中で必要なモノって言うのが、やはり「愛」。そして「命」が「愛」に守られて、そこで育っていくということ思ったので、『OLIVEA』と付けました。

――Cojokの音楽を聞いていると壮大な世界観が浮かびます。どのようなものを音にしたいと考えてるのでしょうか?

阿瀬さとし(以下、阿瀬) : 情景とか現実にあるモノを音にしたいということは実はないんです。よくあるじゃないですか、景色が見える音楽とか、映像的な音楽とか。もちろん、そういった音楽も好んで聞きますし、影響も受けています。でもCojokではまた違う表現をしたいと考えてます。あと、印象派の絵がとても好きで、その中でもクロード・モネの絵画からは多くのインスピレーションを得ていて、音作りに大きく反映されています。景色を真正面から描くのではなく、光の動き、質感の変化をいかに色彩で表現するか。それを音楽に置き換えると面白い発想が浮かんできます。
Kco : 手に取れないものを音にしたいんですね。実際に眼に見えない物をテーマにすることが多いです。例えば"欲望"とか、"絶望"とか、"苛立ち"とか。美しい物を見たときに「ハッ」とする感じとか。そういうものを音にしたいんですよね。
阿瀬 : 風景にしても、現実では体感できないような。例えばですけど、地球が滅びたあとに酸素もないんだけど、もしかしたらこんな風の音がするんじゃないかと想像します。ノイズとか割とそんな事を考えながら作ることが多いです。

――ボーカルが強く出ていますが、歌と曲の配置で気を付けていることはありますか?

阿瀬 : 強く出そうとは全く意識はしていません。いわゆる歌とバックトラック、という関係ではなく、どちらかというと歌を音が取り巻いて、歌に向かって突き刺さったり、包み込んだりするような感じに配置しています。歌が強く出て感じるのは、ただ単に彼女の声が強いのだと思います(笑)。

――アルバムを聞いていると声量に驚かされますが、レコーディング前に体調管理はされていましたか?

Kco : 体調管理については、実はあまり意識してないんですね。普段はあんまり歌わないんですよ。
阿瀬 : なので、レコーディングでもライブでも声が出るか、いつも不安なんだけど。でも全然歌えてるから文句言えない(笑)。
Kco : 強いて言えば、よく寝ることでしょうか。声って喉を使うものではなくて、呼吸を含めた全身運動なんですよね。やっぱりレコーディング前日とかに眠れなかったりすると体力的に響きますね。
阿瀬 : 今回はレコーディング・スケジュールがタイトだったんですよ。そのためにだんだん声が枯れてきてしまったんですね。アルバム1曲目「Baroqua」を録ったときが、特に枯れていた。他の曲だったらもう切り上げるんだけど、その質感が曲に合っていると感じたので、そのまま歌ってもらったら、とても良いテイクが収まりました。
Kco : その日は3曲を録音して、3曲目に「Baroqua」を録りました。声もきつくなっていて、「録れたらいいね」くらいで望みましたが、かすれた具合や、いっぱいいっぱいの感じが曲に合いました。「欲望」に飲まれながらもそれにあらがえず、苦しむ感じのボイスが出ましたね。
阿瀬 : 「Baroqua」はアルバム1曲目ということもあって、今のCojokをダイレクトに表している1曲と言えるかもしれないです。今聞いてもインパクトありますね。こんな曲はもう作れません(笑)。1年くらい前にデモができてきて、ああいうコーラスが入るのは決まっていたんですけど、あの世界観を表現することがなかなか難しくて。
Kco : 鬼気迫る感じをピアノの旋律で出すのと、人の声で出すのとは印象が変わるんですよね。狂気じみている感じや、危機感を出すのは人の声の方がいいなって、作ったときから決めていたんです。あの旋律を声だけで表現できたことにより、雰囲気を作れたと思います。

――各曲に入っているノイズについてですが、心地良さも持ち合わせていますね。

阿瀬 : 実はノイズ・ミュージックって、僕はほとんど聴いたことがなくて(笑)。Cojokの曲を書いてたら、自然とそのような音が必要になって作ってるだけなんですよ。先程もお話した風の音、殺気、苦しみなどを表現しようと、Ableton LiveやLogicを使って構築していくのですが、結果的にそのような音の種類が「ノイズ」になってるんです。意図的に痛い音や刺さるような音も入れていますが、リスナーが不快に感じないよう、そこはかなり気を使っています。あと、今回マスタリングをSAIDERA PARADISOの森崎さんにお願いしたのですが、ノイズのスピード感ときめ細かさがかなり際立って、それも心地よさの要因だとも思います。

――ノイズ・ミュージックや畏怖するような楽曲がある中で、極めて印象的なのが3曲目「Purelie」ですね。アルバムの中で非常にポップな曲に仕上がっています。

Kco : アルバム自体は7曲ができていましたが、作品全体を考えたときにこのような曲が必要だなって考えて「Purelie」を加えたんです。
阿瀬 : 「Purelie」は一番最後にできた曲です。アルバムの中で全体のバランスを考えて、こういった感じの曲が欲しいなと考えたんですね。難しかったのが、一歩間違えると単なるポップスになってしまうような曲なんだけど「いかにCojokの世界観で表現するか」ということを考えて作りました。アコギのストロークにU2みたいなキラキラした付点8分のエレキが常時鳴ってて、そこに通常だったら生っぽいドラムを入れるんだけど、あえてチーブなリズムボックスでビートを鳴らして、独自な感じに。シンプルなんだけど楽器の距離感を含め、一番バランスを取るのが難しかったです。アコギはとても高価なビンテージ・マイクで録ったリッチなサウンド。対照的にあの、おちょくったようなチープなビートなので(笑)、共存させるのが大変でした。でも、アルバムの中でいいポジションにあって、質感も含めてかなり気に入ってますよ。
Kco : ポップな中にもひねりを効かせたいという気持ちはあって。聴きやすくさらっとした歌声にして、耳に残るメロディーに仕上げました。だから、歌詞はあえてつけなかった。そのため、「歌えない」という、意地悪さがあります。みんなが「口ずさみたいんだけどできない! 」という。タイトルは「Purelie(ピュアリエ)」と読むんですけど、これは「子供だまし」という意味の「Puerile」を並べ替えています。「Pure」と「Lie」で「純真な嘘」ということで、意地悪なひねりを効かせたポップスを意識しました。

――「Puerile」もそうですけど、1stアルバム『CRYSTAFIR』そして新作『OLIVEA』も造語です。単語遊びはCojokの作風の一つですね。

Kco : そうですね、Cojokはどこにもない、眼に見えない、形のないものを音楽で表現しています。たとえば、曲のタイトルに「海」と付けると、聞き手は「海の曲」にしか聞こえないと思うんです。「この単語は世の中にないものだけど、何を表しているのかな? 」という想像力を働かせてもらえれば、と思います。それが芸術の楽しみ方のひとつであるし、広がりの部分だと思うんです。
阿瀬 : 音作りもそうですけど、聴き手の受け取り方を限定しないように心がけています。
Kco : それでも「正解はなんだろう」って気になると思います。受け取り方は自由、思い描くのも自由、でも作者は何を思ってこの曲を作って、何を伝えたいんだろう、って。私も、良いなと思う絵に出会ったら、作者がどのような心境を重ねて描いたのか気になるし、知りたいので図録を買います。それで、自分の想像とは違った真実を知るし、そこでまた作品に対する見方が広がる。だからCojokの音楽にも、正解を用意しています。わたしたちが何を意図して曲を作ったのか、そのテーマがわかるよう、CDの歌詞カードには日本語の訳詞を掲載しているんです。

――アルバムラストを飾る8曲目「Ewlias」は8分と、作品の中では長尺で壮大な1曲です。

阿瀬 : この曲もやりようによってはポップスになっちゃうんですよね。曲調自体はCojokの世界観を意識し、ノイズ、ストリングスとブレイクビーツを組み合わせて構築したのですが、頭で鳴っている音と、実際に出ている音のギャップがずっとあって、その差を埋めていく過程が難しかったです。音が徐々に塊になっていって、最後に全部散ってしまうというのが、自分の中で明確にあったのですが、それを作るのに苦労しました。曲の長さもありますし、先ほど話したような情景が見える音楽にはしたくなくて。この曲のテーマは『WATARIDORI(2001,フランス/監督:ジャック・ペラン)』というドキュメンタリー映画に感銘を受け、生きるために葛藤しながら力強く前進する者たちを称える、というものですが、それを音で表現するのが難しかったですね。やりがいはありましたけどね。サビでのビートは、もがきながらも必死で前へ進んでいく感じを表現したかったので、あのようなものにしました。
Kco : 曲にテーマや表したいことは常にあって、それによって必要な音を決めていくんですよ。
阿瀬 : うん。そうだね。やはり音遊びで終わってしまうのは避けたくて。どの音にも意味があって、その音のセレクトにこだわります。エディットのやり方は、今の機材であれば何でもできてしまいますよね。しかもとても簡単に。だからこそ、ひとつの音に対して向かい合わなければと考えています。
Kco : 厳選しないとね。サウンド的には「この音は入っていても間違いではない」というのはあると思うんですけど、表現したいものを芯にして、要るものと要らないものを吟味します。
阿瀬 : あくまでも音楽的に仕上げないと、と思っています。気をてらったアプローチを満載しただけの非音楽的な作品を作って「それが芸術だ」的なものにはしたくない。もちろん、そういったアングラな世界も好きだけど、僕らはやっぱり音楽的に成立させたい。そのためにはたくさんの音楽的知識が必要だけど、それは妥協はしたくないんです。

――レコーディングはタイトだったようですが、順調でしたか?

阿瀬 : レコーディング期間は10日くらいです。曲自体は揃っていましたが、レコーディングが決まってから「人に聞いてもらう」という意識が芽生えて、意気込みも加速しましたね。
Kco : レコーディングは楽しかったですね。ゲストミュージシャンが来てくれたこともあって、場の空気が日々入れ替わって新鮮でした。
阿瀬 : 今回、ゲストミュージシャンが多かったのですが、単に巧い人ではなく、Cojokの音楽を理解してくれている方だけに頼みました。
Kco : 馴れ合いは嫌なんですけど、Cojokの曲はコンセプトありきなので、そこへの理解がないと音に温度差が出てしまう。曲を単にサウンド的に解釈するのではなく、気持ちを揃えてレコーディングすることで、作品が良いものになると考えていました。

――制作で配慮した点について教えてください。

阿瀬 : 制作で気を使ったことは、今回に限らずですが、電子音と生の音を同じ温度にすることでした。「温もり」というより「生命感」でしょうか。実は、素材自体は全体に結構チープな音を使っているんですよ。それに細かい作業を入れることで、生命感を与えていきます。ですので、各トラックのオートメーションはかなり細かく書いています。

――Cojokの曲はどの様にして誕生するのでしょうか?

阿瀬 : 最初に僕がサウンドトラックのような形で製作します。そのときは僕がやってみたいと思った曲調で、特にコンセプトもなく作ります。仮想映画のサウンドトラックを作ってるような感じ。それでも十分完成されたものなんだけど、それをKcoに渡し、Kcoがメロディーを作って仮歌を録音する。曲のコンセプトや歌詞も同時につけます。それをまたデータで投げ返してもらいます。想像もしないようなコンセプトを返してもらうこともあるんですよ。
Kco : メロディーに関しては、ある程度の雰囲気や全体的なイメージだけ、予め確認し合っておきます。たとえば、Aメロはささやくように、Bメロでわかりやすいメロディーがついて、Cメロではファルセットで壮大に、という指定があればそれを踏まえて、そのイメージだけは忠実に守ってメロディーをつけていくんです。それを阿瀬さんに渡し、自分がどんなことを思いながらこのメロディーをつけたか、というテーマについての部分を解説します。
阿瀬 : 僕の本当の楽曲制作はそこから始まるんですよ。本当に想像もしないようなコンセプトを提示される時もあるので、それを音にしないといけませんから。

――この作品のライブはどの様な編成で行いますか?

阿瀬 : 普段はゲストを入れつつ、基本2人でライブを行ってきましたが、レコ発はバンド編成で考えています。2人でも気持ちは、ずっとバンドなんですが(笑)、よりバンドっぽく。
Kco : ベースにはサウンド&レコーディング・マガジン主催による企画「Premium Studio Live vol.6」に参加していただいた根岸孝旨さんをお迎えします。

――2ndアルバム『OLIVEA』はどのように楽しんでもらいたいですか?

Kco : 絵画的な感じで楽しんでもらいたいですね。たとえば展覧会で、キャンパスにリンゴ1個が中央に描かれていて、「愛」というタイトルが付いている抽象画があるとします。そのとき、受け手側は「何でこの絵の題名は愛なんだろう」と思います。そこからキャンパスの、リンゴ以外の他の要素が見えてくる。そして観る人は様々な想像を巡らせることができるんです。そういう風に聞いてもらえたらと思います。タイトルがあって、曲があって、言葉は直接入ってこないけれども、「この曲はどんなことを表現しているのかな」と想像をふくらませて、自分の中でストーリーを作ってみたり。そうやって楽しんでほしいですね。
阿瀬 : 5年後でも10年後でも、ずっと聞けるアルバムでありたいですね。なので流行の音を入れたりはしてなくて、先程も話したとおりに、曲が必要としている音のみを入れます。
Kco : 誰が聞いても、とっつきやすかったりするんだけれど、聞けば聞くほど色んな発見がある。奥行きのある音楽というのは意識しています。何回でも繰り返して聞いてもらえる作品になると嬉しいですね。

MONOの表現力と「伝える」ということに命をかけて演奏している姿に胸を打たれた

――影響を受けたミュージシャンを教えてください。

阿瀬 : MONOの後藤さんからかなりの影響を受けています。音の面だけじゃなく、音楽に向かい合う姿勢なんかも。MONOを初めて見たのは2001年の京都磔磔ですね。その時はただただ音の渦に飲まれてしまって、自分の居場所を見つけることもできなくて。その後、Cojok結成前の2006年に、京都メトロでKcoと再びMONOを見たんだけど、僕らのタイミング的にとても大きな衝撃だったんですね。
Kco : そのときに表現力と「伝える」ということに命をかけて演奏している姿に胸を打たれましたね。Cojok結成の切っ掛けになったといっても過言ではありません。

――CojokがOTOTOYで『OLIVEA』をDSD配信する8月22日にMONOは6枚目のアルバム『For My Parents』をリリースします。この作品もOTOTOYで配信されるんですよ。

Kco : ファンとして、とても楽しみに待っていた作品です。たくさん触発されたり圧倒されたりするのが予測できるという意味で、聴くのがとても怖いですね(笑)。わたしたちにとって彼らの作品は、じっくり手に取って向きあいたい音楽であり続けていますから。
阿瀬 : うん。僕も怖いです(笑)。彼らの音楽を聴いた後って、とても疲れるんですよ。もちろん悪い意味じゃなく。凄まじい芸術に触れた後って、いつもどっと疲れるんだけど、それと似ています。

――その他に影響を受けたミュージシャンはいますか?

阿瀬 : 京都メトロでMONOの対バンだったworld's end girlfriendからも衝撃を受けて、今の僕のライブのスタイルに反映されてると思います。それと、僕はピンク・フロイド、キング・クリムゾンなどからも大きな影響を受けています。Cojokはよく"プログレッシヴ"という表現をされる事も少なくないのですが、そこからきているのでしょうか? ギターに関してもエイドリアン・ブリューやロバート・フリップの影響が強く出ていると言われてます。もちろん北欧エレクトロニカなどの影響も強いのですが、どちらかというとサウンド的、音創りのアイデアなど、テクニカル的な面での影響の方が強いと思います。
Kco : あとはジョニ・ミッチェルとジョーン・バエズからの影響がありますね。ジョニ・ミッチェルが四つ打ちで歌っていたら面白いかもと思っていて、だったら自分でやってしまおうと考えていたんですよ。アコトロニカを始めようと思った動機はそこだったりします。

音楽を提供する立場だからこそ、最初から音質を限ってしまうのはもったいない

――サウンド&レコーディング・マガジン主催による企画「Premium Studio Live vol.6」についてお尋ねします。

阿瀬 : 企画自体は普通のファンとして以前から知っていました。今年の始めにサウンド&レコーディング・マガジン編集長の國崎晋さんから「この企画に参加しませんか?」とお声がけいただき、とても嬉しかったですね。それと「Cojokは音源よりライブの方が圧倒的に良い」って多方面でよく言われてて、それって嬉しいことでもあるんですが、逆に言うと音源はあまり良くないって意味でもあるので(笑)、この企画ではそういったライブの空気感も音源に収められるかなって思いました。

――実際に聞いてみていかがでしたか?

阿瀬 : 当日はものすごい緊張していたんですね。今回はマルチトラックではなく、2ch同時録音なので、絶対に間違えられない。あとで各楽器のバランス変えたり、カットしたりができないので。しかもライブなのでお客さんも見ていますから。ご一緒させていただいた徳澤青弦さんや根岸孝旨さんも緊張されてたので、僕らが緊張しても当たり前ですよね(笑)。その緊張がそのままダイレクトにDSD音源に収まってましたね。今、思い出しても緊張します(笑)。ちゃんと落ち着いて聞けるようになるまで時間がかかりましたね。

――当日のDSD録音で気をつけたことはありますか?

阿瀬 : そこは、いつも通りの演奏をするだけでした。レコーディングでは、その「いつも通り」が一番難しいのですが、この企画ではただただ必死に演奏するだけで。間違えないようにね(笑)

――Cojokの公式Facebookページに『OLIVEA』レコーディング風景を投稿していますが、「DSDレコーダー MR2000Sで使っている電源ケーブルの太さに一同圧倒された」とありますね。

阿瀬 : 本当に太かったんですよ。しかも、ケーブルを変えるだけで音が全く違うんです。太い方は、高音のスピードというか、出方が明らかに違う。声の質感、ノイズのキメ細かさが素晴らしかったです。

――今回の録音で使用した機材についてお伺いします。レコーディングで特に効果が出たものとその理由について教えてください。

阿瀬 : 「Lemon Drops」で使用したリボンマイクColes 4038が印象的でした。エンディングのボーカルは「あえてレトロで古くさい感じにしたい」と、エンジニアの田中靖憲さんに伝えたところ、このマイクをセレクトしてくれました。見事に狙った質感になってくれましたね。Kcoのアコギのアルペジオは全編、NEUMANN KM88iというビンテージマイクで録っていただいて、これも温かみのある、良い音になりました。「Baroqua」のアルペジオもこのマイクなのですが、温かみの中に無機質で冷たさが欲しいと感じたんです。それで、僕が自宅でアコギをライン録音でダビングして、Kcoのアルペジオと重ねてみたら、これも狙った感じになりました。エレキ・ギターも全編ライン録音ですね。アンプで録ったリッチなサウンドより、電子音との馴染みがいいんです。田中さんのスタジオには高価なマイクがたくさんあって、いくらでも使わせてもらえるのに、わざわざ僕が自宅でライン録音してるのは可笑しな話しですが(笑)。でも、そこはやっぱり「良い音」より、自分たちの表現を優先したいんですね。「The Piper」のアコギに関しては全部ライン録音です。僕がデモで弾いたものが、そのまま残りました。クールな質感で曲にとても合っていると思います。

――DSDマスタリングではPrismSound MLA-2コンプを使用したとのことですが、どの様な効果を得ることが出来ましたか?

阿瀬 : ミックス・データをDSD 5.6MHzで持ち込んだので、それを配信用の2.8MHzに落とさないといけなくて、その際にこのコンプを通されてました。DSDのサウンドって広がりはあるんだけど、真ん中のパンチがないということで。実際に通したサウンドを聴かせていただいたら、曲の芯がしっかりと浮かび上がってくるのが分かりました。音が前へ来る感じ。ただ、いわゆるコンプレッサーとしての動作はさせてなくて、「ただ通してるだけ」と言われてました。

――DSDとCDの違いは明確にわかりますか?

阿瀬 : 各トラックのサステインの消えていく感じが特に違うと感じました。ずっとずっと奥の方まで聞こえるようで。しかも立体的。あと歌の質感がとても滑らかです。ノイズなどの、PCMではちょっと痛く感じる音なんかも、上手く緩和されて心地よく感じます。

――ではDSDで聞いて欲しいですか?

阿瀬 : 理想はそうですね。でも、リスナーが音楽を聞く環境について、僕たちが指定するのは難しいところです。聞く環境というのはだんだん簡略化されてきていますよね。たとえばiPhoneで聞くことが普通な人もたくさんいますし。そういう時代なので、自分たちも決してその聞き方がだめだとは思わない。実際、僕もiPhoneでよく音楽を聞いていますし、この手軽なスタイルは好きです。でも、僕ら音楽を発信する側が、最初から音質を簡略化しないようにしたい。こういう音(DSD)があることを提示して、リスナーの選択肢を広げたいですね。サウンド&レコーディング・マガジンがDSDを普及させる企画をしていて、僕らもアーティスト・サイドとしてお手伝いをさせて頂きました。今作『OLIVEA』でも、DSD配信に力を入れることで、音楽の聞き方が色々とあることをリスナーに伝えていければと思います。いつもはiPhoneにイヤホンをさして聞くけど、たまには家で落ち着いてじっくり音楽を聞こうかなぁと思った時に、DSDを再生してもらえれば幸いです。
Kco : 音楽を提供する立場だからこそ、最初から音質をWAVやmp3だけに限ってしまうというのはとてももったいない。最高の音質を作ってリスナーに提供することが大事だと思います。そして聞く人が、自分の環境やライフスタイルによって自由に選べるようにすることが、発信する立場としてとても重要なことだと思いますね。Cojokの音楽は奥行きもあって、細部の質感までこだわって作っているので、DSDの良さが生きる音楽ではないかと思っています。自分たちの音楽を通してDSDの音質に驚いてもらえたらな、と思います。

――DSDを知っている人や、耳の肥えたリスナーへのアプローチを教えてください。

阿瀬 : 今作の『OLIVEA』はそのような方々に聞いて頂いても、面白い作品だと思います。オーディオマニアの方や、ピンク・フロイドやプログレが好きな、音楽リスナー歴の長い年配の方でも、Cojokを聞いてくださっている方は結構いるんですよ。タイムドメンのスピーカーで聞いても良いかもですね。僕らも一度そういう環境で聞いてみたい作品です。

――今回はDSD、パッケージ、通常の配信という流れでリリースされますね。

阿瀬 : ミックスでの質感もそのまま活かされてて。CDに関しては、音圧もある程度上げてもらって、場所を選ばず、どこでも聞ける感じに仕上がったと思います。ただDSDの質感をしっかりとキープしつつ。そこはサイデラ・マスタリングの技術の素晴らしさです。感謝しています。なので、マスターに関しては、あえて分けて作りました。エンジニアも含め、制作側としては聞き比べてもらいたいですね。オーディオマニアでなくとも、普通に分かるくらい違うと思うので、ぜひ感じてもらえれば嬉しいです。

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LIVE INFORMATION

Cojok × Tekna TOKYO Orchestra Double Release Special Live「Orchestronica」
2012年10月4日(木)@青山月見ル君想フ
Open 18:00 / Start 19:00
adv 2,500yen / door 3,000yen (+1D別途)
Cojok 【(b)根岸孝旨、(dr)c-sa-】 / Tekna TOKYO Orchestra
問い合わせ: 月見ル君想フ 03-5474-8137 (16:00-21:00)

PROFILE

Kco ( Voice & Acoustic guitar ) 阿瀬さとし ( Guitars & Electronics ) エレクトロニカ、フォーク、プログレ、クラシック等を消化し、「Aco-tronica」(アコトロニカ)という独自のジャンルを確立。2006年の結成以来、既存するどのシーンにもあてはまることなく唯一無二のスタイルを貫き続ける2ピース・バンド。

>>Cojok official HP

[インタヴュー] Cojok

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