2011/10/07 00:00

見汐麻衣インタビュー

私たちは日常の中で色んな情報に触れ、何らかの感情を抱く。テレビで流れてきた悲しいニュースに涙したり、友人と他愛のない話をして笑ったり、はたまた散歩に出かけ道端で見つけた小さな花に感傷を抱いたりと様々だ。埋火(うずみび)の音楽から伝わるのはそんな日常の1場面である。フォーキーなサウンドに絡み合うファズ・ギター、メロディアスに奏でられるベース、情熱的に鳴り響くドラム、そして1つ1つの言葉を楽しむように紡がれるリリカルな詞。これらが組み合わさり、水彩画のような風景が淡く映し出される。前作から3年ぶりとなるアルバム『ジオラマ』は、日常から何を感じとり生まれた作品なのだろうか。全ての楽曲の作詞作曲、そしてギター・ボーカルを務める見汐麻衣に話を聞いた。

インタビュー&文 : 碇 真李江

埋火 / ジオラマ
独自の空気感~歌世界を築き上げる埋火の約3年振りとなるセカンド・アルバム。見汐麻衣の純真無垢な歌に絡みつくアグレッシヴなSG(ギター)、太くて心地良く歌う須原敬三のベース、志賀加奈子の重いドラム。冒頭トラック「溺れる魚」に代表される淡い水彩画の世界は爽やかで小気味良い浮遊感を誘う。

【トラック・リスト】
01. 溺れる魚 / 02. ブリッジ / 03. 菊坂ホテル / 04. ディスタンス / 05. 夏至 / 06. オカリナ / 07. 森閑 / 08. テレパシー / 09. タイムレスメロディ


あやふやだったイメージが明確になってきて、そこから始まる

――今作は「溺れる魚」という詩的で影のあるタイトルの曲から始まります。そのことに何か意味はあるのですか?

見汐麻衣(以下、M) : 深い意味はないです。全体を見てどこに配置すればいいかを考えた時に1曲目はこれだなと思って。

――7曲目の「森閑」に驚きました。森閑は「物音一つせず、静まりかえっているさま」という意味なのに、曲はファジーなギターをかき鳴らすロック・サウンドです。どういう経緯で作られたのですか。

M : もともとはneco眠るの森雄大君と大阪にいた時に少しやってた、「毎日寿司」というユニットで生まれた曲です。初めは曲調が全然違うものだったのですが、毎日寿司をやらなくなって、埋火で何度も演奏しているうちに現在の「森閑」になりました。歌詞は当時のままです。

左から見汐麻衣、志賀加奈子

――曲名はどのように決めているんですか?

M : 作った段階ですぐ「このタイトルだ! 」と決まるわけではないです。なんとなくしっくりくるものとか。「極力短いもので」などは考えます。「溺れる魚」、「タイムレスメロディ」、そして「ディスタンス」と映画のタイトルになっているものがいくつかあるのですが、これも意識しているわけではなく、友人に言われて気付きました。

――ちなみに、3曲目のタイトルになっている「菊坂ホテル」とはどこにあるんですか?

M : どこにあるんでしょうね(笑)。上村一夫さんの漫画のタイトルなんです。漫画では文京区本郷にあった菊富士ホテルがモデルになっているらしいです。竹久夢二が「黒船屋」を描いたのがこのホテルだったみたいですね。

――この曲をアルバムに入れるか入れないか、最後まで悩んだとのことですが、それはなぜでしょう?

M : 全体、通して聴いた時にアルバムの他の曲とトーンが違うなぁと思っていたからです。

須原敬三

――見汐さんは東京、志賀加奈子さん(Dr,Cho)は福岡、須原敬三さん(Ba)は大阪と、遠距離のバンドですがアルバム制作について不都合な点はありましたか?

M : 4、5年くらい拠点がバラバラなまま活動しているので、それが今は当たり前というか。特に不都合だとは感じないです。

――4曲目の「ディスタンス」はバンドのスタイルのことを言っているのかと思ったのですが。

M : 全然関係ないですね。メンバーのことを常日頃そこまで考えることはないです(笑)。

――今作が3年ぶりの新作となりましたが、製作期間にメンバー同士の距離の問題はありましたか?

M : 距離というより、自分は締切がないとテキパキ動けない性格なので、今回「そろそろアルバム出しましょうよ」と言われ、そこからどういうものを作りたいのか詰めていく作業に入りました。もちろん曲は作っていたんですが、リリースの話があってから具体的に形にしていきました。「次に自分がどういうものを創りたいのか? 」というのは前作のリリースの後からずっと考えていましたけど。

――曲作りには積極的に取り組む方ですか?

M : 作ろう! と思うと大体曲は出来ないです。私の中でインプットとアウトプットの周期がありまして。映画ばかり見てしまう時期、CDレコードを買い漁る時期、そういったインプットをする時期が定期的に来て、その後に曲が出来たりします。物に限らず、何かをインプットしないとアウトプットはできない。閃いたように曲ができることはそんなにないですね。そういったものよりあやふやだったイメージが明確になってきて、そこから始まる感じです。

――では、歌詞はどのように書いているのですか?

M : 自分の「考えていること」で書いたりはしないようにしています。自分が日頃思っていることをストレートに歌詞にすることはないように思います。そういうのは(自分にとって)歌詞にすべきことではないと思っているので。

――埋火の歌詞はとてもリリカルで、おとぎ話を読んでいるような気持ちになります。今回のアルバム制作にあたり影響を受けたものはありますか? 例えば小説や詩など。

M : 本は好きですが、作られたものそれ自体にというより、そこに含まれる「気配」みたいなものに影響を受けていると思います。今回のアルバムでは、去年の夏に実家に帰省した時壁に小さな穴が開いていて、その穴を覗いた時に「中に何か別の世界があり、色んなものが見えてくるのではないか? 」という感覚が湧いたことから曲を作っていきました。こういった一日の中のちょっとした出来事が自分の中で膨らんでいくんです。具体的すぎるもの、余白の少ないものは息苦しくなってしまうのであまり好きではないです。

――日々の生活でも「余白を大事にしたい」という気持ちは同じですか?

M : それが出来るといいんですけど、生活をしているとやはり時間の中で動きますからね。休日に何もしない時間をとることが大事だと思います。お茶を飲みながらとか、テレビを見ながらとか、そういう時って何も考えてないでしょ? 日頃音楽のことを具体的に考えたりもしないです。次はこういう風にしようかなという漠然としたものはあるけど、それはきっかけでしかない。真っ白い紙に最初に線を引く、点を打つ、それさえ決まればあとはスムーズに絵が描けるように曲を作る時もそのきっかけが大切なんです。それは日常で点在しているものだったりふとしたことで浮かぶものだったりと様々ですが、自分の中でそれが勝手に繋がっていくんです。

――点在しているものが何かを生み出すきっかけとなる、ということでしょうか。でも、そのきっかけを見つけるためには何かしらの視点があると思うのですが。

M : それは人によって異なるんじゃないでしょうか。私の中でグッとくるツボみたいなものがあって、そこを誰かと共有したいとはそれほど思わなかったり。例えば映画を観終わった後どの部分が良かったみたいな話をした時、「それ分かる! 」と共感できる人とそうでない人がいる。どんなに話していても通じ合わない人はいるし、何も喋らなくてもわかるような気がする人もいる。でもそれが何によってなのかは説明できなっかたりするじゃないですか。そういう、言葉で具体的に言えないけど、わかるよね。みたいなとこが、いいですよ。

五感を目一杯使って何かをすることを大事にしたい

――今作も見汐さん独自の感覚、感性が丁寧に描かれている作品だと思います。特にアルバムを通しても、また曲単位でも「静と動」が良く伝わってきました。

M : ありがとうございます。

――先ほど「壁の穴」というキーワードが出てきましたが、このジャケットの絵も穴から何かを覗いている感じがしますね。この影は… 猿でしょうか?

M : そうそう、猿です。多分。チンパンジーだったかな?

――どんな意味を込めてこのジャケットにしたのですか?

M : それ自体に意味があるというより、アルバムの中にこの曲たちがあって、紙ジャケで、この写真があって、全部で一個のものという感覚です。そういえば、今の若い人達はそういう感覚がそれほどないみたいですね。

――今の若い子はどういう感覚なんですか?

M : 中、高校生くらいの子は物で持つという感覚がないんですって。みんながみんなじゃもちろんないんでしょうけど。CD1枚を友達同士で買ってパソコンに取り込んだ後処分したり、とあるファースト・フード店で実際観たんですけど、携帯で流れている音を携帯で録音したりしてました。自分は「物」に育てられたと思っているところがあるので、そういった今の子の所有欲の希薄さに驚きました。私の世代がそうなのかもしれないけど、やっぱり1つの物に対する愛情は大切にしたい。本当はレコードで出したいんですよ。大きいほうが見開きとか格好良いでしょ。

――レコードを持っていると「所有している」という気持ちが強まりますよね。

M : 所有に重きを置いているというわけではないんですが。例えば紙で読む本とデジタルで読む本は違いますよね。手触りとか。中学生の頃輸入盤のレコード・ジャケットの匂いをかいで「これがアメリカの匂いなんや! 」って感動したりしませんでした? 田舎育ちだったから余計にそう思うのかもしれませんが。そういうふうに視覚や触覚、嗅覚など五感を目一杯使って何かをすることを大事にしたい。でも、それを大事にしたいと言っていること自体どうかと思います。当たり前のことがそうじゃなくなっている。若い子と座談会とかしてみたいですね。「何聴いてるの? 」とか「どんなことが好きなの? 」 とか聞いてみたい。

――座談会、面白そうですね! では最後に、音楽活動の面で見汐さんがこれからやってみたいことはありますか?

M : 色んな楽器を演奏できるようになりたいです。楽器を弾くことは単純に楽しいし、色んな楽器を弾けるようになると体感的な部分で分かることがある。例えばギターとドラムが同じ拍子をとるのでも違いがあって、それはドラムを叩いてみて初めて気付くことだったりがあって。他の楽器を演奏する時にそれが分かっているととても大きな変化があります。「知っていくこと」が楽しいですね。あと、これから寒くなる季節なんで、スケートしたいです。

ショート・フィルムのように日常を静かに燃やす音楽

空気公団 / 春愁秋思

本作の録音は、構築したデモを再び積み上げる録り方ではなく、弾き語りのシンプルな楽曲だけがそこにあり、録音メンバーがその場の雰囲気を重ね見えない気持ちを感じながら完成させたアルバムである。

芳垣安洋×おおはた雄一 / LIVE at 新宿PIT INN 2011.06.21 (DSD+mp3 ver.)

ROVOや渋さ知らズなどで活躍するドラマー芳垣安洋。彼の手による6月21日~24日の4日間にわたる企画が、ジャズの老舗ライヴ・ハウス新宿PIT INNで行われた。1日目のゲストはシンガー・ソング・ライターおおはた雄一を迎えてのセッション。何を演奏するかは本番まで全く決めず、おおはた雄一がその時のフィーリングによってギターを弾き始め、芳垣が即興で合わせていくというスペシャル・セッションをDSDで録音。

ハンバート ハンバート / 合奏

映画「プール」主題歌原曲「妙なる調べ」、小田急電鉄CM曲「待ち合わせ」を収録。スコットランドのフィドラーズ・ビドを迎えてレコーディングされたこれらの曲はすでにコンサートでは人気曲でファン待望のリリース。SHIBUYA-AXでのワンマンライヴも目前、注目の男女デュオ。

LIVE SCHEDULE

2011年10月7日(金) @大阪 難波BEARS
LIVE : 巨人ゆえにデカイ、Octavio、埋火
2011年10月10日(月・祝) @東京 青山月見ル君想フ
LIVE : キツネの嫁入り、たゆたう、ひょうたん、埋火、Ryo Hamamoto

『ジオラマ』 Release Tour
2011年12月16日(金) @大阪 難波BEARS
2011年12月17日(土) @名古屋 K.D.ハポン
2011年12月20日(火) @東京 渋谷O-NEST

詳細は後日発表!!

埋火 PROFILE

見汐麻衣(guitar、vocal、songwriting)
志賀加奈子(drums、chorus、etc)
須原敬三(support bass)

2001年福岡にて見汐麻衣を中心に結成。幾度かのメンバー・チェンジがあり、2005年見汐が大阪に拠点を移すにあたり、見汐麻衣、志賀加奈子のみが残る。2006年頃からサポート・メンバーとして須原敬三(gyuune cassette/ex. 羅針盤)を迎え現在の形態となる。2009年FUJIROCK FESTIVAL、京都みやこ音楽祭等に出演。現在、見汐麻衣東京在住、志賀加奈子福岡在住、須原敬三大阪在住と、メンバーそれぞれがバラバラに拠点を置きながら活動中。

埋火 Official website

この記事の筆者

[インタヴュー] 埋火(うずみび)

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