2009/09/15 00:00

その音世界は、もっと温かく優しかった

2000年代前半、日本では、はっぴいえんど等が持っていた都会的なサウンドを現代に甦らせたクラムボン、ハナレグミやポラリス等が、日本の歌ものロック・シーンに新しい風を吹かせていた。海外からは、90年代後半から一世を風靡したトータスやジム・オルークを筆頭とするポスト・ロック・サウンドがなだれ込み、皆がその透明感溢れるサウンドに歓喜したものだ。

SHIBUYA O-nestで見たSOURは、前述した両方のエッセンスを体の中にグルーブとして持っている、間違いなく2000年代後半のバンドだった。つまりそのサウンドは、くるりやクラムボンでもみられたような成熟したバンドが要素として取り入れたものではなく、自身が固まる前にそのエッセンスを取り込もうと躍起にならなければ生み出せなかったものだ。試みたバンドは山ほどいるが、その中でも唯一と言っていい程彼らはそれに成功している。今回のアコースティック・ヴァージョンでも聴けるgut guitar&vocal、hoshijimaの歌は、原田郁子や永積タカシを連想させるし、オリジナル・ヴァージョンのハイ・レベルなポスト・ロック・アレンジは、その歌世界に新しい風景を描き出している。

実は、先日行われたNEUTRAL NATION 2009@studio coastで見たSOURの印象は、以前と少し違っていた。彼らとしても初めてだったであろう数千人の前での堂々とした演奏からは、上記の2つの流れとさよならし独自のサウンドを確立しようとする片鱗が垣間見えた。片鱗とは、SOUR特有の隙間。バックの演奏が止まった瞬間、数千人の息づかいとhoshijimaの歌がシンクロする。これをライブで体現するには、相当の経験と練習が必要だ。そこには、2010年代の日本歌ものロック・シーンを引率していく風格さえ感じられた。

133万回以上再生されている「日々の音色」のPVは、超名作だ。このPVが体現しているのも、SOURサウンドの隙間。国籍問わず66人もの人物が登場し、場面展開をしながら、画面の中で繋がったり離れたりする。これを見ていると、このインターネット時代にSOURを日本の歌ものロック・シーンとくくろうとしていた自分が恥ずかしい。既にYou-tubeを通じてSOURの音楽は世界中で鳴らされている。音楽は確実に世界単位で語られる方向に向かっているのだ。

最後になったが、彼らの音源を24bit 48kのファイル形式で聴いてみることをお薦めする。明確な違いは、CDで聴けるハイ上がりなマスタリングは一聴すると鋭く突き刺さってくるが、プロデューサーのミト、エンジニアの高橋健太郎とSOURが描こうとした音世界は、もっと温かく優しかったってこと。彼らが目指したのは、何度聴いても心地よく、新しい発見があるスルメのようなサウンドなのだ。(text by 飯田仁一郎)

WATER FLAVOR EP (HQD) / SOUR


2009年6月にリリースされたミニ・アルバム『WATER FLAVER EP』を、高音質(24bit/48KHz)のHQDファイルで配信開始しました。プロデューサーはミト(クラムボン)、エンジニアは高橋健太郎。発せられる声や音のひとつひとつが自然に、そして確実に耳に入ってくる、やわらかで繊細な作品です。
HQD版には「日々の音色」のアコースティック・ヴァージョンも収録。よりシンプルになった「日々の音色」が聴けるのはレコミュニだけです。


本作のプロデューサー・ミト参加作品


NOW!!! / クラムボン

およそ2年ぶりのリリースとなった新曲。「Re-clammbon tour」、スタジオ・コーストの「NEUTRAL NATION 2009」、そして「FUJI ROCK FESTIVEL '09」で唯一の新曲として披露されました。 プロデュースはクラムボン自身。ゲストにはバービー・ボーイズのKONTAがソプラノ・サックスで参加。セルフ・カバー・アルバム『Re-clammbon 2』を経て生み出された強靭なクラムボン・サウンドに、フレッシュな1ページを書き加える名曲の誕生です。


想像力の独立と自己の狂気に対する人権宣言II / dot i/o

ミトによるソロ・プロジェクト、dot i/o (ドット・アイオー)のファースト・アルバム。CAN(カン)のイルミン・シュミットとの共同プロデュース。ミトの構想による同タイトルのソロ・プロジェクト3部作の中では、ミトが持ち込んでいる何より魅力的な要素であるポップとエクスペリメンタルのせめぎ合いが最も色濃く表れた作品といえる。PARCO春のCMソングに起用された「We're living」も収録されています。

LIVE SCHEDULE

  • 9月26日(土)@京都・西院 CafeBar 大会

w / COMA* / Lainy J Groove

  • 9月27日(日)@大阪・梅田 シャングリラ

w / COMA* / スクイズメン and more!


PROFILE

SOUR
フランス生まれイギリス育ちのhoshijima(gut guitar/vocal)
銀座生まれ銀座育ちのSohey(upright bass/bass)
ドイツ生まれスペイン育ちのKENNNNN(drums/toys)により結成。
都会的且つオーガニック、タイト且つメロウ、研ぎ澄まされた心地よさを奏でる3ピース・バンド。

この記事の筆者

[レヴュー] SOUR

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