オリジナルな音楽を表現する上で最も有効な手段のひとつである「バンド・サウンド」という形体に拘らず歴史を変えたミュージシャンの功績は、その作品群を辿ることで追体験することができる。また、その中の多くはもうすぐ2010年代に突入しようとしている今も輝きを失っていない。80年代にはYMOがいた。90年代にはスチャダラパーや電気グルーヴ、小沢健二やコーネリアスがいた。00年代は誰が?と聞いた時に、あなたは空白の時代だと答えるだろうか?もしそう感じる人がいたとしたら、その人にこそ聴いてほしい。イルリメの今作は、00年代最後の2009年にリリースされながら、00年代を代表する作品に並ぶであろう、イルリメ・キャリア史上最高の作品だ。

インタビュー & 文 : 南日久志

INTERVIEW

100%自分の音になるということ

—今作は『イルリメ・ア・ゴーゴー』の時よりもエモーショナルな部分や泣きのイルリメという面が強調されているように感じるのですが、作っているときからそういう作品にしようと考えていたのですか? M-5「時間ですよ!」などは例えは難しいのですが、THE HIGH-LOWSの「日曜日よりの使者」みたいな、曲調は明るいけど切ない感じというのがすごくでていて聴かせる作品だと思いました。

イルリメ(以下I) : ありがとうございますー。でも『イルリメ・ア・ゴーゴー』以前の曲にもそういった傾向はあったと思うんです。もともとヒップホップにくくられるけど、自分の音楽なんて日本語ラップ好きな人達の1割くらいしか聴いてくれていなかったはずです。『イルリメ・ア・ゴーゴー』をだしてから、アングラな印象だったのがそれ以外の音楽を聴く人や明るい音楽が好きな人にも聴かれるようになったと思います。今作がパーティー・アルバムじゃないのはそれより前のテイストと、コラボで作ったり、プロデュースしたりと人と作ってきた音楽を自分の中で整理して、今までの総まとめをした、という感じです。

—去年ヨーロッパ・ツアーをやられたので、現地での影響が今作『メイド イン ジャパニーズ』になったのかと思いました。

I : いや、特に現地での影響はなかったです。ヨーロッパ行く前に曲はできてたんですよ、ミックスはまだだったけど。ずっと外国でライブをしたいと思ってはいたんですが、段々「無理なんじゃないか」と気づいてきて。それならもっと伝わる様な歌詞を今のうちにしっかり書いて、ちゃんと受けたいという気持ちになったんです。そういう気持ちで作っていたら、海外でラップをやる機会ができたという、順番としては逆ですね。

—ツアーが決まったいきさつは?

I :ベルギーのサンオーケイパピコさん(BALEINE 3000 CREW : SUN OK PAPI K.O )のアルバムに参加してて、その流れでです。

—今回のアルバムの曲は、ゲストなしで全部自分で作られたんですか?

I :1人、柿沼君(tiala : 柿沼実)にドラムを叩いてもらった以外は全部自分です。前作はゲストが多く見えるけどそんなに多いつもりもなくて、YOUR SONG IS GOODやMOTHの既に発売されているCDから曲を使用してラップを入れたり、ゲストのラップも2組でそんなに大勢を招いてワイワイ製作した感じでもないです。ゲストをたくさんいれてもライブに来れなかったらその曲の部分に穴があくし、自分の頭にある音を自分一人でやったほうが作業が早くて流れがシンプルになるのでいいかと思いまして。

—では、ひとりのミュージシャンとして個性を押し出していくという方向で、よりシンプルに作品を作っていきたいという気持ちになってきているということですか?

I :そうですね。人に頼らず、自分で責任をとるという感じで基本のベースはやりたいです。これまでもずっとそれはしたいことだったし。

—前作よりもインデペンデントな作品になったと?

I :前作もトラックは作ってますけど。もともとトラックものが好きなんです。打ち込みの人はミックスもマスタリングも自分でやる人がいて、そこまでやると100%自分の音になるということ。それはかねてからの憧れだったので、出来る範囲で勉強して一人でやっていきたいと思っています。

先入観をもっている人がいて、それを避けているなら、その人たちにちょっと考え直してもらって挑戦してほしい

—ジャケットが前作に続き伊瀬聖子さんが担当しておられますが、がらっと変わった印象を受けました。伊瀬さんとの出会いはどのようなものだったのでしょうか? また、伊瀬さんに対しては、例えばイルリメさんの作品のカラフルな感じだとか、共感する部分があったのでしょうか?

I :スピードメーターさんというトラック・メーカーのアルバムのジャケットを伊瀬さんがやってて、そのスピードメーターさんと仲良くさせてもらえる機会があって、その繋がりからです。伊瀬さんの作品は軽さと重さが両方出ている感じがして好きなんです。デザインも視覚的なイメージなのでプロデュースの側面があるじゃないですか。前作はこうして、ああして下さいというお願いをしたんですが、その時、結構試行錯誤したので今回は自分の意図していないところも面白がって受け入れてみたいという思いがあって。後、ジャケットの製作を伊瀬さんにお願いするの機会が増えてたんで伊瀬さんの作家性がちょっとだけ掴めたのでお任せしたほうが格好良いのできるかも、と思ったので、アルバムの内容を聴いてもらった上で、作ってもらいました。

—今までもイルリメさんのお好きなアーティストさんとコラボされていますが、今後もそういった形で出していくんですか?

I :あるかも知れないけど、特に水面下で動いているものは今のところないです。ヨーロッパ・ツアーで録音したものとかはあるけど。

—イルリメさんがリスナーとして音楽を聞かれるときはCDよりアナログ盤が多いですか? というのも、作品の流れでM1〜6までA面、M7〜13はB面みたいな印象を受けたので、細部にわたって作られているのかなと思いまして。

I :普段聴くのはCDとiPodですね。アナログも好きなんですが、現実的に贅沢な選択肢ですよね。アナログ盤って作るのにすごいお金かかるんですよ。7inchで出したのも、本当はmp3で出したかったんですけど、いろいろ状況が揃わなくて。

—M-7「カレーパーティー」は実体験ですか?

I :カレーパーティー自体やったことないです。

—学生時代の経験かと思いました。

I :学生生活自体がめんどくさいですけどね。

—こういったリスナーに聴いてほしいというのはありますか?

I :音楽が好きで、少しでもイルリメの名前を知っている人がいたらその人に聴いてほしい。知らない人にも聴いてほしいけど。名前は知ってるけど聴いたことないとか、うるさそう、ふざけてるとか、そういう先入観をもっている人がいて、それを避けているなら、その人たちにちょっと考え直してもらって挑戦してほしいです。

—最近も多彩な活動をされていますよね。季刊「真夜中」での短編小説を読んだんですが、小説や本などから歌詞などへの影響も大きいんですかね? また、イルリメ名義ではなく本名での活動も続けていかれるんですか?

I :そうですね、チャンスがあれば続けていきます。大阪にいたときに古本屋で働いていたんですよ。だから、本は読んでました。司馬遼太郎、山口瞳、中島らも。

「音楽が好きな人」に聴いてほしいです。そういう人に聴いてもらえる事を目指してやってきました。

—今作は、テレビの中だけで流れて消費されるような歌謡曲ではなく、音楽のよさというものを再確認させてくれるアルバムだと思います。

I :ただ、歌謡曲は消費されてないですけどね。テレビに出てる音楽のほうが大勢に知ってもらえて忘れられないですけど。そういう意味では、俺とか消費される、されないのレベルにもなってないですよ。

—そうですか? 若いリスナーの中には例えば10代の人で「着うたDLしか使わない」とか、「1曲買って、飽きたら捨てる」みたいな人が多いのかなという印象をもっていたので、そうじゃないだろ、というところを言っているのかと思いました。もっと音楽自体を好きになってほしいし、作品として好きになってほしいということ、音楽自体の良さに気付かせてくれるアルバムと思ったんですが。

I : 10代って10歳から19歳までですからね。全員にそこまで求めるのが難しいかもしれないですね。もちろん、12歳の人にも聴いてほしいですよ!10代の頃はそんなにいっぱい買えないし、その時、その良さも分からないかも知れないし、後々分かるようになるかもしれない。携帯で音楽聴いたら悪いとかいう話ではないと思うので。僕自身もCD屋さんでいっぱいレンタルしたりとか、そういう感じだったし。

—確かにそうですね。ただ、1曲買って捨てて、という話を聞くと、学生時代に昼ごはん食べないでCDやレコード代にしてたのが、良いわけではないんですが、なんとなく寂しいなと。

I :そういうライト・ユーザーの所まで自分の音楽が届いたこと無いので、そういう人が買ってくれるとうれしいですけど…。けっこうどっちでもいいかな。聴いてもらえてるだけでありがたいです。

—じゃあ、形としてはどうあれ作品を聴いてもらえて、まずはライブに来てもらえたら一番いいかなという感じですかね?

I :そうですね。それで欲しくなったら買うだろうし。

—3月のレコ発ライブも各地それぞれイルリメさんの尊敬するアーティストとのことですが。

I :名古屋は愛知の人は出てないですけどね。出てもらう人は全部好きな人で、今までなかなか一緒にできなかった人です。ライブでは伊瀬さんにVJをしてもらったり、曲によってはバンドに演奏してもらったりします。

—ライブや今作に対する意気込みをお願いします!

I :先入観のある人は聴いてほしいし、「音楽が好きな人」に聴いてほしいです。そういう人に聴いてもらえる事を目指してやってきました。たとえば音楽が好きな人たちの、年間ベスト・ディスクに入りたいし、そしてできるなら、1位でありたいです。

LIVE SCHEDULE

MADE IN TOUR

  • 3月1日(日)@名古屋 K.D Japon
w/ Harp On Mouth Sextet / EVISBEATS
  • 3月8日(日)@大阪・鰻谷 燦粋
w/ キセル / neco眠る
  • 3月14日(土)@渋谷 O-nest
w/ SUIKA / KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'S

LINK

イルリメ website http://www.illreme.com/

イルリメ MySpace http://www.myspace.com/illreme

所属レーベル カクバリズム website http://www.kakubarhythm.com/

カレーパーティー ライブ映像 http://vids.myspace.com/index.cfm?fuseaction=vids.individual&VideoID=51829135

曽我部恵一氏との対談 http://vids.myspace.com/index.cfm?fuseaction=vids.individual&VideoID=52682040

イルリメ

ラッパー / トラック・メイカー / DJ / 作詞家 / プロデューサー。2000年、1stアルバム『イるreメ短編座』を発表。自主リリースにもかかわらず音楽ファンの間で急速に広まり、各誌で特集が組まれるほどに。唯一無二の声、独特のセンスで切り込まれる言葉とともに、先鋭的な音作りはひとつのジャンルではとらえきれない魅力をもち、その柔軟な音楽性から、精力的に行われる多彩なコラボレーションの中でも突出した才能を発揮する。またヘッド・セット・マイクとサンプラー、ドラム等によるライブ・パフォーマンスは鮮烈で、ヒップホップ・ファンのみならず様々なシーンで絶賛をさらっている。2004年までに、4枚のオリジナル・アルバムを立て続けに発表。その後も speedometer.やECDとの競作アルバムなど、多数のコラボレーションを行ない、シンガー・二階堂和美/『二階堂和美のアルバム』では、全曲の作詞とプロデュースを担当。作詞家、プロデューサーとしても各方面で高い評価を得る。07年、カクバリズム移籍後初となるフル・アルバム『イルリメ・ア・ゴーゴー』をリリースし、「FUJIROCK '07」にも出演、爆発的な盛り上がりを見せた。08年に入り、以前より親交があったベルギーのトラック・メイカー・SUN OK PAPI K.O.のアルバムへの客演をきっかけに、フランス、ドイツ、ベルギーなどを回る、初のヨーロッパ・ツアーを敢行。その他にもショート・フィルムのサントラ、 WEB TV番組のOP、他アーティストのREMIX制作などを手掛ける傍ら、10月には自身初となる短編小説を『真夜中』(リトルモア)にて本名で発表し、好評を博す。

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筆者について
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