澄み切った激情、染み入る唄

Discharming manの音楽は、彼らの出身地である札幌を思わせるようなピンと張り詰めた空気感があり、澄み切っている。bloodthirsty butchersの吉村秀樹がギター、プロデュースで全面的に参加したという今作『dis is the oar of me』。重厚で轟音なサウンドと、全身全霊で叫ばれるエモーショナルなヴォーカルは、聴く者の心に染み入り、強く揺さぶる。蛯名氏の考える”唄”とは一体何なのだろうか。話を伺った。

INTERVIEW

インタビュー&文:井上沙織


大衆性のある音楽をやりたいと思った

—前バンドのキウイロールを解散して、Discharming manを始めたいきさつは?

蛯名啓太(以下蛯名):もともとキウイロールのときから唄ものの曲はあって。自分の中で、もっとわかりやすい、大衆性のある音楽をやりたいなあと思っていたんです。そういう話をメンバーにしたら、メンバー間で意見が分かれて。それだったらキウイロールと平行して、一人でやりたいことやろうかなと思ったんです。でも案の定そんなこと全然出来なくて。それでキウイロール辞めて、自分のための人生を生きたいなと思って始めました。

—今のメンバーになったのは自然な流れだったんですか?

蛯名:最初はラップ・トップのパソコンとかサンプラーを使って、1DJ・1MCみたいな感じでやってました。THA BLUE HERBとかECD、サイプレス上野とロベルト吉野とか、ああいう表現を自分なりに出来ないかなと思って。でもやっていくうちに、作品だと成り立つけど、いざライブってなると曲が表現したいことに勝ってしまうことがわかった。これは良くないと思って、一緒にやったら面白いかなっていう友達を誘い始めました。途中いろいろ模索しながらも、5人に落ち着きましたね。それでやっていったらのびのびと歌えて、肩の荷が下りた感じです。そのあと吉村秀樹さん(bloodthirsty butchers)が入ってきて今のメンバーになりました。

—吉村さんが入って、何か影響はありましたか?

蛯名:よくないこだわりが消えていって、自分の持っている部分以上のものを引き出してくれましたね。気合いを注入してくれたというか。でも気合いだけじゃなくて、ちゃんと曲に歩み寄って深く入ってきてくれるし、俺の曲の世界を増幅して出してくれる。Discharming manは俺のものであって俺のものじゃない。俺のものって始めたはずが、皆のものでありたくなってきたんですよね。

—bloodthirsty butchersをはじめ、札幌の音楽シーンには個性的なバンドが多いと思うんですが、その辺って意識したりします?

蛯名:今も昔もいっぱいバンドいるんですけど、本当に凄い人っていうのは北海道っぽい部分を意識していない。そういう人達がやっぱり凄いんですよね。そこを踏襲しているというか、意識している人達に凄い人はいないですね。音楽をやっているのは自分であって、別に土地で音楽やっているわけじゃない。だから変に意識している人がいたら、早くやめたほうがいいですね。自分と向き合ったほうがいい。

—作品から受けるイメージとはまた違って、ライブはエモーショナルというか、グッとくる熱さがありますよね。

蛯名:Discharming manをやる上で、当初はそういうライブを避けていたんです。もっとちゃんと歌を届けたいって思いが強くて。激情的にやると、ちゃんと歌えなくなったり、演奏できなくなったり、曲の良さをライブで伝えられない。それはキウイロールの時から良くも悪くもあって、自分達が楽しくなきゃいけないのに、暴れなきゃいけないみたいな雰囲気が出ていて、そういうのがちょっと嫌だったんです。でもここへきてキウイロールの時と変わらなくなってきました。一回ちゃんと「歌を届けよう」っていうのを踏んでいるから、同じことやっているんだけど、やりたいことは出来てるんですよね。でもまだまだ通過点です、もっと良くなる予定なので。


俺がまずやりたいことをやっていかないと意味が無い

『dis is the oar of me』は、唄が前面に出ていますね。意識して録ったものなのでしょうか?

蛯名:俺は特に何も考えていなくて、今回プロデュースを任せた吉村さんの意向ですね。吉村さんは歌詞とかもちゃんと聴いてくれていて、埋もれちゃうと意味ないからって。もっと迫力のあるサウンドでワーっとすることも出来ると思うんですけど、俺が中心にいるDischarming manの発端の部分も理解してくれてるんですよね。単純に楽曲のバランスで言うと、唄を歌うための演奏だと思う。インストじゃないから、唄があって成り立つというか。かといって演奏も結構凄いんですけどね。バランスの良いものができたかなと思います。

—トータルで70分近くありますけど、空気が張り詰めていて、曲の流れにも緩急があって全く飽きないですよね。

蛯名:昔から自分が飽きないように、1曲1曲丁寧に作ってます。トータルでだれない、集中力があるアルバムになったかな。演奏だけの部分も歌の余韻が残るようにしてるし、そういうところはすごく大事にしました。わかりやすくやろうと思った部分と、キウイロールの時の良い要素、全部が合わさって出来たアルバムですね。

—蛯名さんの曲って2面性があると思うんです。全体的に突き放しつつもつかんで欲しいみたいな。

蛯名:そうなっちゃうんですよね。諦めと寛容が一緒になってる。やっぱり人に興味があるんですよね。悲しいだけの曲とか、嫌な気分にさせて終わるとか、演奏したあとに嫌だと思うことがあって。もっと曲に責任を持ちたいなって思います。かといって決め付けたりはしたくないし、聴き手に選択肢があって欲しい。歌詞も色んな風に取れるようにはしてますね。

—唄ものってより多くの人に届きやすい音楽だと思うんですが、ポピュラーなものにしたい、という思いはありますか?

蛯名:あります。そのために音楽やっているし。好きなことを好きなようにやっていくというのは、結構簡単だと思うんです。多くの人に届けることとか、何かを犠牲にしていくこととか、聴き手にとって聴きやすい状況を整えて聴かせることのほうが大変だと思う。今はインストとか激しい音楽とか、若いバンドでも凄い上手な演奏でバキバキに決めてたりしてますよね。そういうバンド聴くのは好きだし、好きなバンドもたくさんいるんですけど、俺がやることじゃないなって。曲を作って言葉を並べて唄を歌うことがしたいし、それを広めていきたいなって思います。俺にそういうの求めない、物理的に激しいものを求める人がいるのも知ってるけど、俺がまずやりたいことをやっていかないと意味が無い。混沌とした曲を好む人が好きになる楽曲じゃないと思うんですけど、そういう人も引き込めるような、納得してもらえるような力強い唄を歌いたいですね。

LIVE SCHEDULE

Drawing dis campus tour

2月20日(FRI)@岡山 PEPPER LAND
2月22日(SUN)@福岡 ROOMS
2月27日(FRI)@札幌 KLUB COUNTER ACTION
2月28日(SAT)@旭川 CASINO DRIVE
3月13日(FRI)@名古屋 CLUB UP SET
3月14日(SAT)@大阪 sunsui
4月3日(FRI)@仙台 PARK SQUARE
4月4日(SAT)@宇都宮 HELLO DOLLY

LINK

Discharming man web http://trafficjpn.com/discharmingman

Discharming man Myspace http://www.myspace.com/discharmingman

Discharming man所属レーベル traffic http://trafficjpn.com/

蛯名氏が運営するレーベル 5B Records http://www.5brecords.com/

Discharming man

2004年12月に解散した"kiwiroll"のVo.蛯名啓太が、2005年初頭から札幌にて、納得いく伴奏で、しっかりと歌を届けたいという目的で始めたもの。当初は機械的なサウンドを標榜していたが、その後アコースティック・セットに移行。その流れでドンドン演奏する人間が増えていき、今は6人でのバンド編成が活動の主になる。"bloodthirsty butchers" の吉村秀樹もギターで参加。普遍的かつ未知のサウンドへ突入している。今までDemo CD-R1枚、アルバム1枚、シングル3枚、V.A1枚(inherited allianceとの共同リリース)を蛯名が運営する5B recordsからリリースしている。蛯名啓太は現在も札幌在住である。

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筆者について
井上 沙織 (さ)

ototoy編集部で日々山盛りの仕事に囲まれながら、素敵な音楽や人との出会いを探しています。

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