鍵冨弦太郎/沼沢淑音

Discography

時代と国境、そして民族や宗教を超越した、普遍的な共通感覚を第一に音楽をすることは、私たちにとって最も大切にするべきことの原点です。作曲家の内的宇宙を通してのみ立ち現れる音、未知の彼方から舞い降りて生命を授かった音こそ、音楽として普遍性を伴い、全ての人々を繁ぐ共通感覚に働きかけます。無常な時の刻みへの儚い抗い、精神の危機的状況と背中合わせに件むロマンティシズムヘの没入もまた、私たちの志向する世界であり、音楽的な彼岸です。音楽は「生」の源泉であると同時に「死」との間に横たわる不条理をも抱えています。「死」は音楽の意表の一部かもしれません。このプログラムの四つの作品、冒頭のショーソンはあたかも真夜中の太陽の匂いのような感覚があり、血の滴るようなプーランクのソナタ、異界の気配を漂わせる鈴木作品、そしてフランクのソナタには祈りと懺悔、その先に僅かに射し込む光があります。闇の中から臨めば一層強く感じられるであろう光を、救いを見出せればと願いつつ、二人でこのプログラムを組みました。シューマンの言葉にみるように「音楽とは人間の心の深奥へ光をおくること」に違いありませんが、この四つの作品は、演奏者である私たちにも大いなる希望と光を注いでくれます。もし定義できないものへの憧れと愛が生きる原動力であるならば、私たちにとってそれはまさしく音楽なのかもしれません。このアルバムをお聴き下さる方々と共に、音楽を分かち合うことができましたら、これ以上ない喜びです。(鍵冨弦太郎・沼沢淑音)

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