2010年発表の3rdアルバム。「処方箋/ Sound Like a Lovesong」がJ-WAVE TOKIO HOT100 チャート47 位ランクインするなど、幅広いリスナーを獲得するきっかけとなった。CDアルバムが廃盤となっていたが、待望のデジタル配信スタート。 本作もディレクションはライター/放送作家の古川耕、ミックスはタカツキ(SUIKA/サムライトループス)。レーベルは渋谷の古本カフェFlying Booksが運営するFLY N’ SPIN RECORDS。“ヒップホップ以降の吟遊詩人”小林大吾。前作「詩人の刻印」から約2年半ぶりの3rdアルバムは「立ちすくむ背中をちょんと押す」コンセプト・アルバム風。音・アートワーク・詩、すべてがホームメイドの芸術品!「オーディオビジュアル」によせて スキルフルなラップのような、饒舌ながら抑制の効いたポエトリーリーディングのような、上品なソウル・ミュージックのような、その実、そのどれでもあってどれとも違う独特な音楽を奏でる吟遊詩人・小林大吾。評判もセールスも上々な前作「詩人の刻印」から約2年半。多くの人に待たれながらようやくお届けする3枚目のアルバムは、気付けばまるでコンセプトアルバムのような佇まいに。その全体を貫くテーマは、「どうにもならない困りごとに抗う、ひと匙のポジティヴィティ」。日常のふとした場面で私たちの足をすくうかなしみ、いわれのないせつなさ、よるべなさに──つまり、いわゆるブルーズに──小林大吾がちょんと背中を押す音楽を奏でます。もちろん、無責任なことばは使わずに。 「『元気を出せ』とでも言うべきだろうか? そんな追いはぎみたいなせりふは言えないな」(“ジャグリング”) 彼の優しい声と語り口は、こうしたことを伝えるとき、最大限に効果を発揮します。丁寧に磨き上げたメロウなトラックも、上品な自作のアートワークも同様。そしてなにより、既にあれほど完成されていた詩が、さらに純度を増し、ちょっと他に比べようのないほどの高みにまで達しています。詩人という者は、これほどまでに自在に比喩やレトリックを操れるのか! ため息をつくばかりです。 このアルバムで正真正銘、小林大吾はひとりのアーティストとしてのアイデンティティを確立しました。ひょっとすると、いまの基準から見れば、ポップ・ミュージックと呼ぶにはあまりに大衆的でないのかもしれない。しかし優れた文学や詩や映画がそうであるように、時代や国籍を超え、ある種の人々にとっては何物にも代え難い、ある種の救いとなるような、そんな作品が生まれたと確信します。言い換えれば……「歴史的名盤の誕生」ってやつかも! 疑うならぜひ、あなたの耳と目で確かめてみて下さい。 (ライター/「オーディオビジュアル」ディレクター 古川 耕)